ガンダムSEED 白き流星の軌跡   作:紅乃 晴@小説アカ

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第95話 それぞれの思惑

 

 

《第6作業班は、13番デッキより作業を開始して下さい。機関区、及び外装修理班は、第7ブースで待機》

 

翌日。

 

早朝からアークエンジェルが入港するドッグは、作業員と指示を出すアナウンスの喧騒に包まれていた。ノイマンやナタル達も、早朝から行われる整備や補給、修理作業に立ち会うためにブリッジに集まっている。

 

「驚きました。もう作業に掛かってくれるとは」

 

「ああ。それは本当にありがたいと思うが」

 

ノイマンの言葉に、ナタルはそこまで言って言葉を濁した。アラスカまでの単身の道のりの中で、補修や修理、補給を受けられるのはありがたいことではあるが、いかんせんその対価が大きすぎる。

 

昨日のうちに、招集がかかったキラとラリー、ハリーらの各員には「なるべく本気を出さずにある程度で技術協力をするように」と釘は刺してはいるが、どうにも不安は残っていた。

 

「おはよう」

 

そんな不安に苛まれていると、身支度を整えたマリューがブリッジに上がってきた。

 

「おはようございます」

 

「御苦労様、ナタル」

 

昨晩遅くまで事態の報告書などを作成していたマリューに代わって、ナタルが今回の補給整備の監督を受け持っている。ナタルはマリューへ敬礼すると、作業開始前にモルゲンレーテのスタッフが持ってきた書類をパラパラとめくりながら状況を報告する。

 

「既にモルゲンレーテからの技師達が到着し、修理作業に掛かっております」

 

マリューもナタルの横から彼女が目を通す資料を見るが、かなり手厚い修理と補給が行われてるようだ。ただ、その対価として支払ったものが気になる。

 

「ヤマト少尉とレイレナード大尉は?」

 

「先刻、迎えと共にヤマト少尉はストライクで、レイレナード大尉とグリンフィールド技師は迎えの車で工場の方へ向かいました」

 

「そう。何事もなく終わってくれればいいんだけどね…」

 

同感ですとナタルが答えると、ブリッジに何人かのモルゲンレーテのスタッフが訪ねてくる。挨拶を交わすと、ナタルは再びマリューへ敬礼を打った。

 

「ではこの際に、内部システムの点検修理を徹底して行いたいと思っておりますので」

 

「お願いね」

 

そう言って、ナタルはトーリャやAWACSのシステム技師達に混ざって内部システムの点検の立会いに向かう。

 

マリューは持ってきたボトルに入れたコーヒーを口にしながら、これからのことを考えていた。かなりの便宜を図ってもらっている。後日になれば制限付きでオーブへの一時的な入国も可能になるとの話だ。

 

キラ達には申し訳ないことをしたと心の中で悔やみながら、マリューはどうか、何事もなく事が終わることを祈るばかりであった。

 

 

 

////

 

 

 

「ここって…」

 

アークエンジェルが収容されているドックから、車で三十分ほど走った先にある大きな工廠に着いたキラ達は、見上げるほど高い機材や設備の数々に圧倒されていた。

 

見渡せば、アークエンジェルのハンガー内にある固定用のフレームや、ストライクを牽引するクレーン、そしてそれらを点検するのに必要な機器の全てが揃っている。

 

「すごーい!」

 

「あんまりはしゃぐなよ、ハリー」

 

後から合流したラリーとハリーもその大きさに目を見開いていた。特にハリーは、普段はお目にかかれないモルゲンレーテの内部に入っているというだけで、テンションが常時振り切れている始末だ。

 

「ここならストライクの完璧な修理が出来るわよ。いわば、お母さんの実家みたいなもんだから」

 

ここまで案内してくれたのはエリカ・シモンズ主任設計技師だ。彼女はストライクの技術にも精通しており、今回の技術協力に関しては彼女主導で執り行われるようだ。

 

「こっち!貴方たちに見て貰いたいのは」

 

エリカに手招きされるままに工廠の奥へと進んでいくと、先程のがらんどうだったハンガーとは打って変わって、そこにはいくつもの見慣れないモビルスーツが鎮座していた。

 

「あっ!これ…」

 

「モビルスーツ…?けど、見たことがない機種だわ」

 

「そう驚くこともないでしょ?貴方もヘリオポリスでストライクを見たんだから」

 

胴体部の黒、そして赤と白を基調にしたモビルスーツを見上げるキラたちに、エリカはあっけらかんと言う。たしかに、地球軍と共同開発といっても、G兵器の主要部品やフレームの設計は、ほとんどがモルゲンレーテ社が受け持っていたのだから、その企業が自社製のモビルスーツを用意しててもなんらおかしいことはない。

 

まぁ、この機体はG兵器の技術盗用で作られたものだがなと、ラリーは胸の内で皮肉めいた言葉を浮かべる。

 

「これが中立国オーブという国の本当の姿だ」

 

そうキラたちの後ろから声をかけたのは、オーブの制服に着替えたカガリだ。その彼女は、頬を少し腫らしている。

 

「M1アストレイ。モルゲンレーテ社製のオーブ軍の機体よ」

 

「で?」

 

自信満々そうに言うエリカに、パイロットであるラリーはわずかに顔をしかめたまま問いかけた。

 

「これをオーブはどうするつもりなんですか?」

 

意を汲み取ったキラも、ラリーが思っていることと同じ質問を投げかける。

 

「どうってーー」

 

「モビルスーツの新型を作っちまったんだ。この情勢で。それが何を意味するか、わかってるのか?と聞いてるんですよ」

 

ラリーの言葉にエリカは何も答えずにただ考えるように目を細める。しばらく沈黙が続いた後に、ラリーの問いに答えたのはカガリだった。

 

「ーーこれはオーブの守りだ。お前も知っているだろ?オーブは他国を侵略しない。他国の侵略を許さない。そして、他国の争いに介入しない。その意志を貫く為の力さ」

 

「なんとも甘っちょろい理想だな」

 

「厳しい言葉だな。だけど、オーブはそういう国だ。いや、そういう国のはずだった。父上が裏切るまではな」

 

そう言ってカガリの顔に影が差す。そもそも、オーブが地球軍にモビルスーツを作る手助けをしたのが間違いだったんだ。戦況は硬直化していたとは言え、そこに新たな局面を開く一石を投げ入れると言う事がいかに危険なことかを、カガリから見たらオーブの首脳陣は軽視しすぎているように思えた。

 

「あ~ら、まだ仰ってるんですか?そうではないと何度も申し上げたでしょ?ヘリオポリスが地球軍のモビルスーツ開発に手を貸してたなんてこと、ウズミ様は御存知…」

 

「黙れ!そんな言い訳通ると思うのか!国の最高責任者が、知らなかったと言ったところでそれも罪だ! 」

 

「だから、責任はお取りになったじゃありませんか」

 

事実、ウズミはオーブの首相を辞して、後任のホムラに全権を渡して、そのサポートへと回るようになってはいるが、それでもカガリは納得できなかった。

 

「職を叔父上に譲ったところで、常にああだこうだと口を出して、結局何も変わってないじゃないか!」

 

「仕方ありません。ウズミ様は、今のオーブには必要な方なんですから」

 

「あんな卑怯者のどこが!」

 

「ああ、言い合いをしてるところ悪いけどな」

 

カガリとエリカの言い合いを遮ったラリーの方を見ると、ヒートアップしていた言葉と感情が急速に冷めていく。鋭い目つきのまま、ラリーは二人を見つめていた。

 

「その迂闊な言葉でどれだけの人が危険な目にあったか、わかって言ってるのか?」

 

ヘリオポリスで培った技術。モビルスーツを自国で建造できるノウハウ。そして資金と潤沢な資材。

 

それでモビルスーツを作るなと言うのは難しい話だ。技術者というのは作れるなら作ってしまう。それが(〝さが〟)だ。現にハリーも、できる事があったからこそメビウスやスピアヘッドの改造を行なっている。

 

ただ、ラリーから見ればハリーと彼女たちは、技師としてのあり方に決定的な違いがあった。

 

ハリーは自分の作ったもので相手を殺し、相手を傷つける事を承知した上で、改造や技師としての職務を全うしている。

 

だが、モルゲンレーテはただ作って、その先にある戦いの責任を放棄しているように見えてならなかった。

 

ただ作り、責任を取らずに自国の軍備を拡張しているとはどれだけ能天気なのか。そして彼らは更なる技術を求めようとしている。それで生じる大いなる責任を、この国は背負う覚悟があるのか、ないのか。ラリーは自分の目でそれを見定めるつもりだった。

 

「俺は地球軍のパイロットでしかない。しかしだからこそ、俺にはこの二人を守る義務がある。それは分かっておけよ」

 

もし、キラやハリーに少しでも強硬な態度を見せた場合、ラリーは如何なる手段を使ってでも二人を守る腹づもりでいた。

 

そんな覚悟の目を見たのか、カガリはただ黙って頷くしかできなかった。

 

 

 

////

 

 

 

「起動電圧正常。システム…」

 

「アサギ、ジュリ、マユラ!」

 

モルゲンレーテ保有の屋内モビルスーツ試験場。ドーム状に広がる広大なモビルスーツの試験場では、今まさにテストパイロットによるM 1アストレイの稼働試験が行われようとしていた。

 

管制室に入ったエリカは手早く端末を立ち上げると、すでにモニターに映っていた3人の若いテストパイロットたちに呼びかけた。

 

「はーい!あ!カガリ様?」

 

「あら、ほんと」

 

「なーに、帰ってきたの?」

 

「悪かったなぁ」

 

モニター越しに遠慮なく呆れたように言う3人のテストパイロットたちの声に、カガリは居心地が悪そうに口元を尖らせて顔をそらした。

 

「じゃあ、始めて」

 

エリカの号令後、アストレイはハンガーロックが外されてゆっくりと歩き出す。いや、歩いていると言うか、ずりずりと前進してるような感じだ。しかも、どの動作もストライクと比べたら圧倒的に遅い。

 

「相変わらずだな」

 

「でも、倍近く速くなったんです」

 

「けどこれじゃ、あっという間にやられるぞ。何の役にも立ちゃしない、ただの的じゃないか」

 

カガリの言うことは尤もだった。ガワだけ立派でも中身が伴っていないのだ。これじゃあ旧世紀の二足歩行型のロボットの方がマシに見える。

 

「あ!ひっどーい!」

 

「ほんとのことだろうがー」

 

「人の苦労も知らないで」

 

無線越しにギャーギャーとカガリとテストパイロットたちが言い合いを始める。ラリーは呆れたように頭を抱えて、キラは困ったように苦笑いをこぼしている。ハリー?さっきからエリカとシステムのアラ出しをすでに始めてるが?

 

「敵だって知っちゃくれないさ、そんなもん!」

 

「乗れもしないくせに!」

 

「言ったな!じゃぁ替わってみろよ!」

 

女性3人寄れば姦しいと言うが、これでは会話のドッジボールだなとラリーは繰り広げられる口論ーーカガリが一方的に弄ばれているだけーーの様子を眺めていると。

 

「はいはいはい、止め止め止め!でも、カガリ様の言うことは事実よ。だから、私達はあれをもっと強くしたいの。貴方のストライクの様にね」

 

エリカが手を叩き、水を打ったように静かになった。今のアストレイは額縁だけ立派な真っ白なキャンパスといっても差し支えはない。要は、そこにキラの力で美しい絵を描いて欲しいと言うことだ。

 

「技術協力をお願いしたいのは、あれのサポートシステムのOS開発よ。パイロットはレイレナード大尉に。グリンフィールド技師には、アストレイのオプションパックでいくつか意見が欲しいの」

 

「え!?レイレナード大尉が?」

 

「俺か?」

 

キラが驚いたようにエリカとラリーを交互に眺める。ラリーにしても、モビルアーマーはなんとかなったが、さすがにモビルスーツをどうにかできるようには思えなかった。事実、この世界に来てからラリーはモビルスーツに一度も乗ったことがないのだ。

 

だが、エリカにとってはそれでも貴重なデータには変わりない。なにせーー。

 

「コーディネーターが調整したナチュラル用OS。それに乗る流星のパイロットのデータ。貴重じゃない?」

 

そうエリカが口にした途端、カガリと小声で言い合っていたテストパイロットたちの声がパタリと止む。なんだろうかと見ると、3人の視線はラリー1人に注がれていた。

 

「え、じゃあ貴方が…」

 

「流星のパイロット?!」

 

「あ、あとでサインください!!」

 

三者三様の反応に、ラリーはただ戸惑うばかりだった。

 

ナチュラルで、地球軍でも屈指の撃墜王。そんな彼がパイロットの中で有名じゃないわけないでしょう?とエリカが面白そうに言う隣で、ハリーはどこか面白くなさそうな顔で戸惑うラリーを睨みつけていた。

 

「どうした?キラ?」

 

「いや、なんかデジャヴが…」

 

そんな光景を見ていたキラが、少し疲れたように肩を落とす。どこかで見た事がある光景だなと思っていたら、思い出した。ラクスがクラックスに来た時の、ミーハーな乗組員に囲まれた光景とよく似ているということを。

 

 

 

 

 

キャラデザイン

  • 他キャラも見たい
  • キャラは脳内イメージするので不要

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