webゲーム「燐光のレムリア」の二次創作です。
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第1話

「桐花!」

「管理官……さん」

 

巫女服をまとった少女が悔しげに唇を噛む。

目の前には卵に爪を付けたかのような腕。

腕だけが“飛んで”、ものすごい速さで襲いかかる。

彼女は下げた刀を握りしめる。

この距離では回避はおろか、刀で防御することすらできない。

 

「「――っ!」」

 

息を呑む声が重なる。

 

 

 

「あの、管理官さん。【ゴッズフィンガー】の噂って知ってますか?」

 

とある街中。

悠久なる大地に存在するレムリア大陸。

その中の“ぽてち”と呼ばれる街に巫女服を着た彼女ともう一人が話している。

 

「なにそれ? 知らないなあ。珍しいアイテムか何かかな。前に街中で配られてた“いちあり”ってお菓子はけっこう表現に困る味だったけど、似たようなものだったり?」

 

管理官と呼ばれた人物はとにかく、特徴のない人物だ。

見た目を言い表そうとしても”普通”としか言いようがない。

 

「もう! 意地汚いですよ。食べ物じゃありません。技能書の一つで、これを読めば体術が極められるとか、なんとか」

 

ぷっくりと頬を膨らませる。

そういえば、筋肉男(テイラー)と戦った遺跡に出てきたのがそのいちありだったっけ。

んで、桐花はシオンに嬉々として追い回された。

ほかほかと湯気の昇るそれを持って。

最期にはシオンの手の熱でベトベトになったそれを食べさせられてしまった。

桐花、泣いてたっけなぁ。

うん、あれは悲しい事件だった。

 

「うんうん。それについてはもう触れないよ」

「子供扱いしないでください!」

 

頭を撫でたら怒られた。

慰めてあげようとしたのに、なぜ?

 

「で、技能書がどうしたの?」

「取りに行くのを手伝ってください。今のままではあの邪神には敵いません。なんとかしてあいつを追っ払ってやります」

 

邪神てナギのことだよね。

……私の事けっこう噛むけど、いい子なのになぁ。

何で仲良くしてくれないんだろう。

 

「うーん。でも、二人で行くの? 私はサポートしかできないから、実質桐花が一人で攻略することになるんだよ?」

「かまいません。それくらいできなくては邪神に勝つなど夢のまた夢です。それに、技能書が出る遺跡の敵のレベルは低いと聞きます」

 

おおう、けっこう自信がありそう。

無い胸を張って燃えている。

うーん。

頼もしいというか……かわいい。

 

「そう。じゃ、大丈夫だね。危なくなったら撤退するんだよ?」

「当然です。私はちゃんと引き際を心得ています。姿形はこんなでも、私は大人ですから」

 

大人なら、自分を大人なんて言わないと思うんだけどなー。

まあ、いいや。

いざとなったら私が強制送還すればいい。

 

「じゃ、行こうか」

 

私がそう促してやると。

「やった! デートだ」

 

桐花は小さくつぶやいた。

声が小さくて聞き取れない。

 

「いま、なんて?」

「へ!? いや、いまのはちょっと……、あれです。そう、それ――」

 

なにかすごい赤面して顔をブンブン振っている。

ものすごい慌てぶりで舌まで噛んでる。

なにか悪いことでも言ったかな。

――と、そこに。

 

「ちょっと待てぇーーーーい!」

 

現れたのはこれまた小さい女の子。

白い服を着ていて、肩には蛇が乗っている。

ナギだ。

昔は邪神としてやんちゃしてたって話だけど。

 

「来ましたね、邪神。毎度毎度よくも邪魔を!」

「ふん。貴様がこすっからい手段で人のものを奪おうとするからだろうが」

 

二人とも、いい子なんだけどね――。

いい子だから、喧嘩はやめて――?

 

「あの人はものじゃありません。やはり、あなたは許しておけません。今ここで退治します!」

「ほう? 貴様ごときがこのナギを倒すと……。ちょうどいい。ぶんぶんうるさい虫を始末しようと思っていたところだ」

 

――って。

 

「ストップストップ! 二人とも、そこまで」

 

「むぅ。今日こそ邪神を退治しようと思いましたのに」

「――ち。貴様のそこまで言うのならば聞いてやらんでもない」

 

不満気に引き下がる。

二人の間で火花が散っている気がする。

蛇に睨まれた蛙の気分ってこんなかんじなのかな? いや、違うか。

 

「――あなた」

「なんだ? やるか?」

 

「ああ、もう! 二人とも落ち着いて。ねえ、ナギ。今から遺跡に向かおうと思ってたんだけど、君もついてきてくれないかな?」

「ほう、こやつが一人で?」

 

ナギが胡散臭げな目で桐花を見る。

見られた桐花は一瞬狼狽えるも、咳払いして。

 

「管理官さんが一緒です。あなたは要りません」

 

にべもなく言い放った。

 

「桐花、あんまりわがまま言わないで。二人で攻略したほうが安全でしょ?」

「ふふん。そういうわけか。もちろんかまわんぞ」

 

鷹揚にうなづくナギ。

こっそりと「二人きりになどさせるか」とつぶやく。

もちろん、管理官には聞こえてない。

 

「キャハハ。面白そうな話してるじゃない。私も混ぜて?」

「シオン? ちょうど良かった。これで三人そろったね」

 

背の小さい二人に比べるとお姉さんみたいな人だ。

もっとも、世話をされるのは彼女の方だが。

頭上には剣が浮かんでいる。

それを街の人の誰もが疑問に思わない。

 

「うん? 三人って、もしかして遺跡に行くのかしら? 私、遺跡ってだぁい好き。魔物を一匹ずつぷちっ、ぷちっ、て潰すの。……きゃはは」

 

底冷えのする笑みも浮かべる。

頭の上に剣を浮かべるという奇抜なファッションをしている彼女だが、目は常に誰かを殺りそうで――まったくシャレになっていない。

だが、それも――

 

「うん。あまり危険な真似はしないでね。それじゃ、遺跡攻略に行こうか」

 

管理官には通じない。

 

 

 

――遺跡。

それは魔物の住まう土地。

女神フィリークの支配する世界においての異端。

その世界に住むものすべての敵。

 

「きゃははははは!」

 

しかし、高らかに笑い声を上げて敵を滅殺していくシオンには遊び場でしかないようだ。

頭上の剣をブンブンと振り回しながら踊るように踏破する。

まるで超能力だが、彼女は剣が本体だ。

 

「は! ――むやみに突っ込まないでください。服がぼろぼろじゃないですか、ハレンチです」

 

シオンの左から来る魔物を切り伏せて言う桐花。

彼女の言葉通り、シオンの服は破れ放題でとても妖しげだ。

敵の攻撃がほとんど通じないからって、全然防御せずに突っ込みまくった結果がこれだ。

対して桐花とナギはきれいなもの。

 

「そのとおりだ。貴様、あの裸女と同種の人間か? 私の下僕の教育に悪いのでな、魔物よりも先にお前を消すぞ?」

 

ナギもまた不満をぶつける。

……そんなことを言う割にはしっかりサポートしている。

 

「まあまあ、怪我もしてないみたいだし、いいんじゃないかな?」

 

そんなことを言うのはお気楽管理官。

三人の後ろのほうでぷかぷかと浮かんでいる。

景色が透けていて、まるで幽霊。

彼は戦いには直接参加できない。

指示を下すだけだ。

 

「「あなたは黙ってて」」

 

ナギと桐花の声が重なる。

意外と仲が良いのかも知れなかった。

 

「きゃはは。妬いてるの? 私のこの美しいボディーに管理官もメロメロよね」

 

薄い笑みを浮かべて頭上の剣をとって優しく撫でる。

あくまで彼女の本体は剣だ。

人間の体の方も実体化しているとはいえ、アイデンティティはそちらにあるのだろう。

――あるのだろうが、美少女が恍惚とした笑みを浮かべて剣を撫でているのは、“危ない人”以外に形容できない。

 

「ふふん。こやつがそんな趣味を持っているものか。こやつの趣味は私のような幼い、娘が――くぅぅ」

 

途中から自虐になっていた。

昔はそれはもうグラマラスなボディを持っていたのだろう。

管理官は想像すらしたくないようだが。

 

「何を言ってるんですか! そんなことを言い合っている場合ではないでしょう。遺跡攻略中ですよ」

 

それに、この人は見た目で選ぶような人じゃありません。と小さくつぶやく。

ちょっと顔を赤くしてふりむいて。

管理官はナギを見ていた。

ぷうっと頬をふくらませてそっぽを向く。

 

 

――ズズゥン――

 

 

いきなり大きな玉子が降ってきた。

いや、あれは『イクセス』。

最強クラスのオムニで、かぶった王冠が特徴。

この遺跡のボスだ。

アレを倒さなければ宝箱はゲットできない。

 

「桐花! あれは遠距離タイプだ。有利な軽装タイプの君が前に出て。シオンは後ろ」

 

「はい!」

「ちぇっ。仕方ないわね――」

 

「行きます。――【紫焔】」

 

一息に敵の目の前まで踏み込み、神速の抜刀を浴びせる。

オムニは吹き飛ぶ。

 

「きゃはは。死を超えル苦痛ヲ与えてアゲル! 【神剣業火】」

 

もう走りこんできたシオンが炎をまとった剣で追撃を加える。

 

「……ピピ。ターゲット、ロックオン。【マグニミサイル】発射」

 

だが、今度は吹き飛ばない。

シオンでは相性が悪い。

卵のような腕の真ん中が割れ、空洞が生まれる。

次の瞬間、ミサイルが放たれた。

 

「うかつな真似するな、馬鹿! 【バブルスプラッシュ】」

 

ナギの蛇が放った水流がミサイルを飲み込む。

だが、シオンの距離が近すぎた。

空中で爆発した衝撃が彼女を叩く。

 

「シオン……! はっ!?」

 

桐花が一瞬敵から目を離して、戻した瞬間には遅かった。

 

「ターゲット、ロック。【マグニパンチ】」

 

もうかわせない位置にまで攻撃が迫っていた。

卵に爪を付けたかのような腕が飛んでくる。

 

「桐花!」

 

叫ぶ。

だが、彼は指示することしかできない。

それが「管理官」としての宿命だ。

どんなに叫んでも、結局傷を負うのはストライカーたちでしかない。

 

「管理官……さん」

 

下げた刀を握りしめる。

この距離では回避はおろか、刀で防御することすらできない。

 

「「――っ!」」

 

攻撃が桐花に当る。

 

「――」

 

一言だけつぶやいた彼女はあっけなく吹き飛ばされる。

ものすごい勢いで飛んで――

――飛び過ぎだ。

壁に激突する。

 

「ふっ」

 

息を漏らした彼女は空中で一回転し、壁に着地する。

 

「邪神! そいつの動きを止めてください」

「我に命令するな!」

 

言いながらも、水流を撃って敵を足止めする。

敵もミサイルやらロケットパンチやらで対抗するが、一発も当たらない。

 

「てやあああ!」

 

なんと、桐花は天井を走って敵に相対する。

ナギとオムニの撃ち合いは天井にまではその衝撃は届かない。

 

彼女は己に封印した力を一瞬だけ開放したのだ。

そして、攻撃に当たる瞬間に逆方向に“飛んで”、衝撃を逃した。

さらには天井を駆け抜けることさえもやってのけた。

だが、その力は一瞬しか保たない。

それ以上は彼女の体に重い負担をかける。

“この一撃でしとめる。”

その覚悟を持って刃を振り下ろす。

 

「【封刃・神鳴】。――斬!」

 

その必殺の一撃はオムニの鋼鉄の装甲を切り裂いた。

中には機械が覗き、砕けた部品がこぼれ落ちる。

 

「――ギギ。――ぴー……。ザザザ」

 

”まだ”。

まだ終わっていない。

 

壊れかけたオムニはその禍々しい腕を振り下ろそうとして――。

 

「私をワすれんナって――言ッてるデしょ。【天叢一閃】」

 

シオンがぱっくりと開けた傷を思い切り”抉る”。

 

「ギギギ。――ぷしー――」

 

オムニはその動きをようやく止める。

そして、明らかな異音が聞こえてきて――。

 

「あら?」

 

爆発した。

衝撃と爆音が遺跡を揺らす。

はっきり言って、今までの攻撃よりもよほど威力が高い。

いかにシオンといえど、この攻撃をまともに喰らっては――。

 

「もう、世話をかけますね。あなたは」

「あは、そう言わないで。別に怪我したわけじゃないからいいじゃない」

 

間一髪で危機に気づいた桐花がシオンの襟首をひっつかんで退避していた。

 

「ふふん。宝箱はどうかの……」

 

しれっとナギが二人を無視してボスに守られていた宝箱を開く。

中には一冊の書。

 

「書名は【ゴッズフィンガー】、と。うむ、この遺跡に来た目的は果たしたな」

 

ナギは大事そうに本を抱え込んで管理官の隣に行く。

 

「さて、あやつらのことは放っておいて帰るぞ」

「え? でも――」

 

まだ二人は言い合っている。

優等生の桐花はお気楽なシオンの態度が許せないのだろう。

 

「この我がそうするといったからするのだ!」

 

蛇が“シャー”と威嚇する。

 

「ふふん、怖くないよ。だって、今の僕にはナギでもかみつけないもんね」

「ほほう。――そうかそうか。帰ったら覚えてろ」

 

「あれ? しまったーー!」

 

管理官の叫び声に二人が近寄ってくる。

 

「あ! 何を抜け駆けしようとしているんですか、邪神」

「あれ? 帰るの。まあ、動いてるものはもういないし、仕方ないねー」

 

「……ぐぐ。せっかく二人きりになれると思ったのに」

「え? 何の話」

 

相変わらず管理官は鈍い。

 

「知らん!」

 

ふいっとそっぽを向いてしまった。

 

「えっと……じゃ、帰ろっか」

 

「はい」

「きゃは」

「うむ」

 

行きの時とは違い、ハイキングのように穏やかに街への道を歩む。

 

 

 

 

「痛い痛い! ナギ噛まないでー」

 

テラスでまったりしている4人。

遺跡から帰ってきたということで管理人が奢らされた。

今はナギの蛇に噛まれているところである。

 

「ふん。……お前が悪い」

「何が?」

 

拗ねている。

けれど、やっぱり管理官には理由がまるでわからない。

 

「そういうところがだ!」

「ええ!?」

 

無茶苦茶だ、と思う。

けれど、怒ってるナギもかわいいな。とも思う。

……噛むのだけはやめて欲しいけど。

 

「そこまでにしなさい。それ以上管理官さんをいじめるのは私が許しません」

「ほう。やるか? 巫女娘」

 

龍と虎のオーラが見える。

かばってくれるのは嬉しいんだけど、喧嘩はしないでほしいなー。

で、シオンはというと。

 

「ん~。これおいしい~」

 

奢りなのを良いことにケーキに舌鼓をうっていた。

 

「この【ゴッズフィンガー】でボコボコにしてあげま――。あれ? どこに行きましたか」

「は。本ならそこにおいておいただろうが――。ふむ、ないな」

 

きょろきょろと辺りを探しだす。

持って帰ったのはナギで、適当なところに置いたのはナギだったと思うけど。

やっぱりそこに本はなくなっていた。

 

「まさか、あなたがこっそり使ったんじゃないでしょうね!?」

「このナギにあんなものは必要ない!」

 

いがみ合う。

本探しどころじゃなくなってきた。

 

「ふ、二人とも落ち着いて――」

 

「「黙ってろ」」

 

「――はい。……あ」

 

二人の視線が怖くて、あさっての方を見るとあることに気付く。

 

「何ですか? また変なものでも見つけたんじゃ――、あ」

「そんなおかしな顔をしてどうした――、あ」

 

ふたりとも同じ反応を示す。

 

「「「レミィ!」」」

 

そこには幸せそうにケーキを頬張りながら本を読んでいる子が一人。

その本にはゴッズフィンガーと書かれている。

 

「ええ? あぅぅ。これ、読んじゃダメだった? ……ごめんなさい」

 

あわあわと泡をくって謝りだす。

そうだ、この子は気が弱いんだった。

天使みたいな子で、実際に羽が生えている天使だ。

知り合いとはずいぶんと違う。

 

「いや、読んじゃったなら仕方ないよ」

 

涙目になっていたが、怒られないとわかると笑顔になる。

やっぱり可愛い子は笑顔じゃないとね!

 

「そう? 優しいんだね」

「レミィもやっぱりそう思う? だよね。私ってすっごく優しいよね」

 

そうそう、私のことをよくわかってくれてる。

みんな私のことをあほとか鈍感とか言うけど、それは私のことをわかってくれてないんだよ。

 

「あはは。それに、面白い」

「それ、どういう意味?」

 

私は睨むように尋ねる。

 

「はわわっ!? ご、ごめんなさい」

「いや、脅かすつもりじゃあなかったんだよ」

 

と、泣き出しそうになる。

そんな顔をされると私が困る。

 

「ほんと?」

「うんうん。ホントホント。レミィみたいな可愛い子を泣かす人は私が許さないよ」

 

「えへへ。ありがと」

 

二人が会話している後ろのほうでナギと桐花は――。

 

「……ああ、文字が消えています。これじゃもう使えません」

「ふふん、そんなものに頼るからだ。本物の神性であればこのようなものに頼らずとも最強でいられるものだ」

 

桐花は嘆き、ナギはそれを笑っていた。

 

「ミトスを見たら一目散に逃げる人が何を偉そうに……」

 

桐花がナギに聞こえるようにこっそりとつぶやく。

 

「なんだと!?」

「なんですか!」

 

こちらはこちらで喧嘩が絶えなかった。

 

「う~ん。あま~い」

 

シオンが食べている皿は2桁に達しようとしている。

 

 

 

そんなわけで、レムリア大陸は今日も平和だ。

 


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