アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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「あれこれマスターのフルコンとか無理じゃね」と自らの腕を嘆きつつも作者は楽しんでおります(白目)


Lesson91 合宿スタート! 4

 

 

 

「うん。……それじゃ、合宿頑張ってね。うん、お休み。……ふぅ」

 

 ピッと通話終了ボタンを押し、恵美ちゃんの携帯電話との通話を終える。……通話時間、三十分越えか。随分まゆちゃんと長話しちゃったなぁ。……恵美ちゃんの携帯だったけど、通話料金大丈夫だったかな。

 

 それにしても。

 

「北沢志保ちゃん、かぁ」

 

 ベッドに腰掛けながら空港で出会った緩くウェーブがかかった黒髪の少女を思い出す。少々吊目ぎみだったが、あの鋭い視線は確実に俺を睨んでいた。

 

 恵美ちゃんの話から、彼女は『周藤良太郎』に何かしらの感情を抱いているらしい。それが好意か嫌悪かは分からないが。つまりあの時、彼女は変装していたにも関わらず俺が『高町恭也』ではなく『周藤良太郎』だと見抜いていたってことなのか……? その場合、俺の変装状態を見抜くことが出来るぐらいの知り合いってことになるんだけど……北沢志保って子に心当りは無いしなぁ……。

 

 うむむ、と悩んでいると部屋のドアがノックされた。

 

「はーい」

 

「リョウくーん、駆紋さんに貰ったマンゴーの皮剥いたから、リビングで一緒に食べよー?」

 

「ん、分かった」

 

 ドアから顔を覗かせた我が家のリトルマミーからのお誘いに立ち上がる。

 

 ……あ、もしかしたら。

 

「なぁ母さん。北沢志保って子に心当り無い?」

 

「ほえ? きたざわしほ? ……うーん、聞いたことないなー」

 

 写真とかなーい? と問われたが生憎そんなものは無い。

 

「……やっぱり、心当り無いなー。ごめんねー」

 

「いや、無いならいいんだ。ありがと」

 

 うーん、母さんも知らないということは家族関係の知り合いということでもないか……。

 

 ……まぁ、いいか。どうせ明日会えるわけだし、その時に聞けば。

 

 荷物を詰め込んだボストンバッグを部屋の片隅に追いやってから、俺は自分の部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、恵美ちゃん。おかげで良太郎さんとお話出来たわぁ」

 

「ど、どういたしましてー……」

 

 リョータローさんとの通話を終え、まゆと二人で並んで廊下を歩く。

 

(それにしても)

 

 リョータローさんと志保の面識は無かった。となると、志保が一方的にリョータローさんに対して良くない感情を抱いているということなのだろうか。

 

「うーん……アタシは分かんないけど、リョータローさんを一方的に嫌ってる人ってのもいるんだねー」

 

 そこまで熱狂的なファンじゃないアタシの視点から見ても完全無敵なトップアイドルであるリョータローさんを嫌っている人物。そういう人が一人もいないと考えていたわけではないが、それでも想像しづらかった。

 

「そんな人いるわけないわ」

 

 そんなアタシの呟きを、まゆが真っ向から否定した。いつものふんわりとした喋り方ではなく、マジトーン。ハイライトが入ったまゆの目が逆に怖かった。

 

「良太郎さんの姿を見て、歌を聞いて、ダンスを目の当たりにして、良太郎さんに魅了されない人間なんてこの地球上に存在するわけがないわ」

 

「言い切るねぇ……」

 

「恵美ちゃんも、あの伝説の夜に立ち会っていれば考えは変わっていたと思うわぁ……」

 

 あぁ今思い出すだけでも……とトリップし始めるまゆの姿に苦笑する。

 

「でも、そこまで言われると見てみたかったっていう気持ちはあるなー。どれだけ凄かったんだろ、その伝説の夜って――」

 

 

 

 ――ママー、あの人たち何やってるのー?

 

 

 

「――あれ?」

 

 

 

 ――誰かが歌ってるのが聞こえるー!

 

 

 

「……恵美ちゃん?」

 

「えっ? あ、ごめんまゆ。えっと、春季限定いちごタルトがなんだっけ?」

 

「そんな推理小説になりそうなものの話はしてなかったけどぉ。そもそも今は夏よぉ」

 

 何かあったのぉと顔を覗き込んでくるまゆに、何でもないと手を振る。

 

 ……今の、なんだったんだろ。

 

 

 

 

 

 

「ん……」

 

 ゆっくりと意識が浮上していく感覚に、私は目を開く。

 

 まだ部屋は薄暗いが、どうやらもう朝のようだ。昨日は事務所のみんなと夜遅くまで話していたので朝起きるのが辛いと考えていたのだが、まさか太陽が昇り切る前に目が覚めてしまうとは思っていなかった。他のみんなもまだ起きて――。

 

(――あれ?)

 

 他のみんなが寝ている中、一つだけ畳まれて主のいなくなった布団があった。

 

「千早ちゃん?」

 

 何処に行ったのかと考える前に、彼女の声が外から聞こえてきた。

 

 

 

「あー! あっ、あっ、あー!」

 

 着替えて外に出てみると、民宿の裏で発声練習をする千早ちゃんの後姿があった。

 

「ちはーやちゃん!」

 

「え?」

 

 声をかけると千早ちゃんは驚いた様子で振り返った。

 

「おはよう千早ちゃん」

 

「おはよう、春香。早いのね」

 

「えへへ、何か目が覚めちゃって……。ねぇ、千早ちゃん。今からジョギングに行かない?」

 

「えぇ、勿論」

 

 二つ返事で快諾してくれる千早ちゃん。恐らく、元々発声練習の後に走りに行くつもりだったのだろう。

 

 それじゃあと意気込んだその時、ガラガラという民宿の引き戸が開かれる音がした。民宿の旦那さんか女将さんかと思ったが、聞こえてきた声は二人の女の子のものだった。

 

「……まゆー……眠いー……」

 

「もう。毎朝ちゃんと起きる習慣がないからよぉ、恵美ちゃん」

 

 この声はと入口に回ってみると、予想通り、そこにはジャージ姿の恵美ちゃんとまゆちゃんがいた。

 

「あら、天海さん、如月さん。おはようございますぅ」

 

「へ? あ、おはようございま~す……」

 

 折り目正しくきっちりとお辞儀をするまゆちゃんに対し、恵美ちゃんはまだ若干寝ぼけ眼といった様子だった。

 

「おはよう、まゆちゃん、恵美ちゃん」

 

「おはよう。二人も朝は早いのね」

 

 千早ちゃんの言葉に、まゆちゃんはいえいえ~と笑いながら頬に手を当てる。

 

「朝のジョギングが日課でして、折角なので今日は恵美ちゃんも誘ってみたんですぅ。恵美ちゃんってば、用事が無い日はいつも十時起きだって言うんですよぉ?」

 

「だって夏休みなんだよ~? 用事が無い日ぐらいゆっくりしたっていいじゃ~ん」

 

「ダァメ。社長や良太郎さんからしっかりと体力づくりに励めって言われてるんだから、これを機に恵美ちゃんも毎朝ちゃあんと早起きしてジョギングするのよぉ?」

 

「えぇ~……?」

 

「えぇ~じゃないの」

 

 まるでしっかり者のお姉さんと面倒くさがりの妹のようで、思わずクスリと笑ってしまった。

 

「あ、そうだ。二人もジョギングするなら、私たちと一緒に行こうよ。いいよね、千早ちゃん?」

 

「えぇ」

 

「ご一緒していいんですかぁ?」

 

「勿論だよ。昨日の夕飯の時はお話出来なかったし、少しお話しよう?」

 

 結局昨日の夕飯の時は私がバックダンサー組のテーブルに着いてしまったため、席を交替してくれた二人とはお話しできなかった。まだ合宿は始まったばかりだからこれから話す機会なんていくらでもあるだろうけど、何となく今話したかった。

 

「それじゃあ、ご一緒させていただきますねぇ」

 

「じゃあお話しできるぐらいのペースでゆっくり歩いて……」

 

「めーぐーみーちゃーん」

 

「分かってるって。冗談だよジョーダン」

 

 そんな二人のやり取りに千早ちゃんと二人で笑いながら、私たちは四人で外へと走りに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「カブトゲットォー!」

 

「バナナトラップ大成功ー!」

 

「……ん……」

 

 外から聞こえてきた底抜けに明るい声に、私は目を覚ました。

 

 どうやら今の声で目を覚ましたのは私だけではなかったようで、隣で寝ていた矢吹さんもごしごしと目を擦っていた。

 

「ゆうべ仕掛けておいたんだ~」

 

 示し合わせたわけではないが、起き上がった矢吹さんと二人で窓によってカーテンを開けるとそこには木に上る双海真美さんの姿があり、その手に大きなカブトムシが。どうやら昨日の晩に罠を仕掛けておいて捕まえたらしい。

 

「へぇ~! そんなのよく知ってるねぇ~!」

 

「虫なんて獲って嬉しいの?」

 

 今度弟たちに教えてあげよ~と笑う高槻さんに対し、水瀬さんは「全く、子供じゃあるまいし……」と呆れた様子だった。

 

 そんな水瀬さんの様子に、双海亜美さんと双海真美さんはニヤリと笑った。

 

「あれ? ひょっとしていおりん……」

 

「虫、苦手?」

 

「好きなわけないでしょ、そんなの」

 

 フンッと腕を組みながらそっぽを向く水瀬さん。

 

 しかし、どうやらその反応が双海さんたちの悪戯心の琴線に触れてしまったようだ。

 

「……え? ちょ、ちょっと、近づけないでよ……!?」

 

 先ほどよりもニヤニヤと笑いながら、カブトムシを手に水瀬さんににじり寄る双美さんたち。

 

 近寄って来る二人に対してジリジリと後退する水瀬さんだったが、その均衡は二人が一気に近寄ったことであっさりと崩れ去った。

 

「えーい!」

 

「いっけー! ゴウラムー!」

 

「カブトムシなんだからゴウラムじゃなくてゼクターなんじゃ……って、うぎゃあぁぁぁ!?」

 

 流石にカブトムシを直接押し付けるということはされなかったものの、眼前数センチのところまで虫が接近してくる恐怖に水瀬さんはアイドルらしからぬ本気の悲鳴を上げるのだった。

 

「朝から凄いねー」

 

 朝っぱらから一体何をやっているのだろうと呆れる私に対し、何故か矢吹さんは感心した様子だった。いやまぁ、朝からあれだけ元気があるのは確かに凄いのかもしれないけど。

 

「? どうしたの? 何か伊織の悲鳴が聞こえてきたんだけど……」

 

 双海さんたちがひとしきり水瀬さんを弄って満足していると、民宿の前の階段を昇ってくる人影が見えた。それは天海さんと如月さんだった。多分、朝のジョギングに出ていたのだろう。

 

「あ! はるるん! 見て見てカブトムシ!」

 

「はるるん! カブトムシだよカブトムシ!」

 

「あ、うん、カブトムシは分かったから」

 

 何故かしきりにカブトムシを強調してくる双美さんたちに首を傾げる天海さん。そんな様子をカメラで写真に収めながら、如月さんが笑っていた。

 

(……着替えよう)

 

 この騒ぎですっかり目が覚めてしまったが、もとより二度寝をするつもりなど最初から無かったので丁度良かった。他のみんなはまだ寝ているようだが、そろそろ着替えて朝の支度を――。

 

(……二人いない?)

 

 その時初めて、私たちバックダンサー組の部屋の布団が二つ畳まれている状態だったことに気が付いた。確か、この位置で寝ていたのは……。

 

「……はぁ~、疲れた~お腹空いた~」

 

「こうして体を動かしてしっかりと目を覚ましてから食べる朝ご飯は美味しいわよぉ?」

 

「今はご飯より先にシャワーを浴びたいかなぁ……」

 

「……っ」

 

 そんな会話と共に視界に入って来たのは、階段を昇って来た所さんと佐久間さんの姿だった。どうやら天海さんたちと共にジョギングへ行っていたらしい。

 

 ……彼女たちは自分が目を覚ますよりも早く起きて、ああして走りに出て行っていたということか。

 

「………………」

 

「あ、恵美さんとまゆさん、いないと思ったら走りに行ってたんだ。私たちも頑張らないと……! ね! 志保ちゃん!」

 

「……えぇ、そうね」

 

「? 志保ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 こうしてアリーナライブのための合宿は二日目を迎える。

 

 

 

「……着いたぞ、福井! 行くぞ冬馬! 丸太は持ったな!」

 

「持たねぇし持てねぇし、そもそもそんなものを持って何処に行く気だお前は」

 

 

 

 ――彼らの到着を、まだ誰も知らない。

 

 

 




・駆紋さんに貰ったマンゴー
多分青果店を営んでいるのではないかと思われる。きっとバナナとか売ってる。

・「ほえ?」
あざとい、この四十代後半あざとい。

・春季限定いちごタルト
作者は氷菓で有名な米澤先生。氷菓の雰囲気が好きな人には楽しく読めると思う。

・ゴウラム ゼクター
ある意味最強の昆虫なんだし、そろそろ仮面ライダーのモチーフになってもいいんじゃないだろうか、ゴk(以下削除)

・「はるるん! カブトムシだよカブトムシ!」
他意は無い。他 意 は 無 い。

・「丸太は持ったな!」
元ネタは彼岸島というギャグ漫画。……え? ホラー漫画? 嘘ぉ(真顔)



 なんか壮大に煽ってるけど(良太郎が来て事件が起きる訳では)ないです。……多分。

 という訳でようやっと良太郎が合流です。やったね主人公()



『デレマス二十二話を視聴して思った三つのこと』

・髪を下ろした奈緒と加蓮が可愛い(TP感)

・女神たちを統べし者が会得した神々の言の葉は、我に悦を与えん。
(武内Pの熊本弁に笑ってしまった)

・ガンバリマス……ガンバリマス……。
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