アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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まえがきショート劇場~魔王エンジェル~

「最近アタシたちの出番が無い。訴訟」
「予定では向こう一ヶ月近く私たちの出番が無いらしいわ」
「舞台が福井だし、多少はね?」


Lesson92 良太郎、襲来ス

 

 

 

「着いたぜ、福井!」

 

「正確にはまだ隣の石川県だけどな」

 

「いやぁ……福井県って空港なかったんだな」

 

「事前調査不足乙」

 

 羽田空港を出発して約一時間、俺と冬馬は石川県の小松空港に到着した。空港から外に出て大きく背伸びをしながら息を吸い込むと、僅かに潮の香りがしたような気がした。すぐそこが日本海だからかな?

 

「……ふわぁ」

 

「なんだ冬馬、眠そうだな」

 

「昨日別件の打ち合わせで帰りが遅かった上に、朝一の飛行機に乗るために早起きさせられりゃあ眠いに決まってんだろ」

 

 早入りして打ち合わせするにしたって態々九時着の飛行機に乗る必要ねぇだろ、とボヤキながら冬馬は大欠伸をする。

 

 冬馬の言葉通り、現在時刻は午前九時を少し回ったところである。

 

「早入り? いや、今回の打ち合わせは明日の午前中だぞ」

 

「……は?」

 

 んー、朝飯が早かったから小腹が空いたな。……お、蕎麦屋だ。福井名物のおろし蕎麦でも……って、だからここはまだ福井じゃなくて石川だったな。しかも、そもそも朝が早すぎてお店がやってない罠。

 

 仕方ない、途中でコンビニに寄って……などと食糧確保の方法を考えていると、何故か驚いた様子の冬馬に肩を掴まれた。

 

「ちょっと待て良太郎! 打ち合わせが明日だったらこんなに朝一でこっちに来る必要無かったんじゃねぇか!?」

 

「無いな」

 

「コイツ悪びれもせずに即答しやがって……!」

 

「でも考えてみろよ。折角移動日ってことにして一日オフをもぎ取ったんだから、一日遊ばないと損だろ」

 

「……お前アレだろ、休みの日だからこそ早起きするタイプだろ」

 

 そうした方が休みの日が長くなるじゃん。

 

「こんなに朝早くにこっちに来て一体何を……って、そうか765の合宿か」

 

Exactly(イグザクトリー)(そのとおりでございます)」

 

 冬馬がこれからの行き先を把握したところで、それぞれ地面に置いていた荷物を持ってバス乗り場に向かう。

 

「……って納得しかけたけど、こんなに朝早くに行くって連絡はちゃんと入れてるんだろーな?」

 

「え? 入れる訳ないじゃん」

 

「コイツ悪びれもせずに(ry」

 

 ただ一応最低限の礼儀として高木社長と民宿の人にだけは話を通してある。迷惑はかけられないからな(キリッ)。

 

 それでも現場にアポ無し突撃はサプライズの華だ。アニメや漫画でも、予期してなかったキャラが登場すると面白いだろ?

 

「そう、例えるならば闘技場で突然現れて主人公のフリをしてくれたキャラがまさか昔死んだと思ってた義兄だったみたいな。もしくは最後のトモダチの正体が意外すぎる人物だったみたいな」

 

「微妙に論点がズレてる上に、それ両方とも単行本買って読み返さないと絶対『誰?』ってなるやつじゃねーかよ」

 

 まぁ一応恵美ちゃんたち以外のバックダンサー組には俺の正体を隠しているわけだし、正体を明かすっていう点で言えばあってるんだけどな。

 

 結局ひと繋ぎの財宝はなんなのだろうかという話題で微妙に盛り上がりながら、俺と冬馬は765プロが合宿をしている民宿へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 合宿は二日目に突入し、昨日はまだいなかったあずささん、貴音さん、亜美真美の四人も合流して本格的な合同レッスンが始まった。とは言うものの、この四人はまだ振付を覚えるところから始める段階なので午前中は別メニューとなり、既に振付を覚えた私たちはバックダンサー組の子たちにアドバイスをしながらおさらいをしていた。

 

「えっと、こ、こうですか?」

 

「うーんと、もう少し……腕を、こんな感じ、かな?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「志保ちゃんはちょっと表情が硬いかなぁ。練習中だけど、もうちょっとにこやかに、ね?」

 

「っ、す、すみません」

 

 私と千早ちゃんの二人で練習を見ている可奈ちゃんと志保ちゃん。可奈ちゃんは元気がいいが手足の細かな動きが疎かになることが多く、逆に志保ちゃんは振付に集中しすぎて表情が険しくなってしまうことが多い。集中するのはいいことだが、流石に眉間に皺が寄り過ぎているような気がした。

 

「……なんか可奈ちゃんを見てると、昔の私を思い出すなぁ」

 

「私は、北沢さんを見ていると昔の私を思い出すわ」

 

 二歩ほど後ろに下がり、こっそりと千早ちゃんと二人でそんなことを話す。

 

「んー、ミキ的にはもうちょっと、こうした方がいいと思うなー」

 

「えー? こんな感じの方がよくないですかー?」

 

 そんな会話が聞こえてきてチラリと視線を向けると、そこでは美希と恵美ちゃんがお互いの振付を指摘し合っていた。

 

 どうやら恵美ちゃんと美希はこうした方がいいああした方がいいということが感覚的に分かるタイプで気が合うらしい。流石良太郎さんと幸太郎さん二人のお眼鏡にかかった逸材、と言うべきだろうか。

 

「ふふふ」

 

 そしてその横で同じように振付の確認をしながら二人のやり取りを微笑ましそうに見ているまゆちゃん。

 

 美希と恵美ちゃんが天才タイプであるのに対し、まゆちゃんは秀才タイプだと私は思っている。

 

 早朝、四人でジョギングをしながら少し話をして知ったことなのだが、まゆちゃんは五年前の伝説の夜に居合わせていたらしい。そしてその日以来、彼女は欠かさずに朝のジョギングを続けていたというのだ。

 

 部活に入って体力づくりをすることも、何故かアイドルスクールに入ることもせずに、ただひたすら独学でアイドルになるべく特訓を続けていたと話していたまゆちゃん。彼女は既に他のバックダンサー組の子と比べると頭一つ抜きんでており、私たち現役と比べても遜色ないほど『出来上がっている』と、律子さんは言っていた。

 

(……あれ?)

 

 じゃあどうして良太郎さんと幸太郎さんはすぐにまゆちゃんをデビューさせようとしなかったのだろうか。確かに経験を積ませたいという良太郎さんの言葉には納得できるが……それでも、何かが引っかかるような……?

 

「はーい! 午前中のレッスン終了ー! 集まってー!」

 

 律子さんが手を叩く音に思考を中断する。

 

「二人とも、お疲れ様。午後からのレッスンも頑張りましょう」

 

「は、はい!」

 

「はい」

 

 千早ちゃんが締めくくるのを見届けてから、私たちも昼食を取るために民宿に戻るのだった。

 

 

 

 

 

 

「おっと着いたな」

 

 いつの間にか民宿に到着していた。いやぁ、現役のアイドル二人がアニメやゲームの話ばかりしていたのはいかがなものか。

 

「何とか昼前には到着したな」

 

「そういや俺たちの昼飯はどうなるんだよ」

 

「高木社長を通して民宿の人には話してあるから、俺たちの分の昼食も用意してもらう手はずになってるから心配するな」

 

「相変らず無駄に手の込んだ無駄の無い無駄な手回しだな」

 

 そんなことを話しながら木漏れ日が差し込む階段を昇る。

 

「それで、サプライズするにしてもどうするんだ?」

 

「んー、プランAで行こうと思う」

 

「じゃあプランBはなんだ」

 

「Bはシレッと昼食の席に紛れ込む」

 

「ネタ振ってやったんだから乗れよ」

 

 階段を昇り切ると、丁度そこにはたった今体育館から民宿へと移動する途中であろう人影があった。パーマがかかった茶髪のサイドテール。確か、横山奈緒ちゃん、だったかな。

 

「プランAは、ギリギリまで正体を隠す、だ」

 

「はぁ?」

 

 一体何を、と冬馬が問いかけてくる中、俺は奈緒ちゃんに声をかけた。

 

「おーい、奈緒ちゃん」

 

「へ? ……あれっ!? 恭也さんやないですか!」

 

「……は? 恭也?」

 

「一昨日ぶりだね、奈緒ちゃん」

 

 訝し気な目の冬馬を無視して奈緒ちゃんに近づく。現在の俺は彼女たちと初めて会った時と同じサングラスと帽子姿なので、奈緒ちゃんは変わらず俺を『高町恭也』だと認識してくれた。

 

 要するにプランAは、以前俺が765プロに初めて赴いた時のように自分の正体を隠したまま敵陣の奥深くにまで潜り込むトロイの木馬的な作戦である。

 

「どないしたんですか、こないなところに」

 

「いやぁ、実は恵美ちゃんたちの様子が気になってね。仕事でこっちに来る予定が出来ちゃったから、寄ってみたんだ。あ、こっちは仕事の同僚」

 

 そう言いながら後ろの冬馬を親指で示す。冬馬もサングラスをかけた変装状態なので、奈緒ちゃんも正体に気付いてないようで「どうもですー」と普通に挨拶をしていた。

 

「今からお昼休憩?」

 

「はい。恵美もまゆも、今部屋で着替えてると思います」

 

「それじゃあ、先に765プロの人にご挨拶をしてくるよ」

 

 また後でねーと手を振りながら民宿の中に入っていく奈緒ちゃんを見送る。

 

「さて、侵入に成功した。あとは765プロのみんなに気付かれないように食堂でスタンバイするだけだな」

 

「それより、何故お前が恭也ってことになってるのかが疑問なんだが」

 

「ちょっと偽名を使っただけだって。よくある話だろ?」

 

「偽名使う機会が頻繁にあってたまるかよ」

 

 確かに俺も偽名を使うのは今回が初めて……いや、メイド服着て翠屋のバイトやった時も偽名だったな。

 

 とりあえず静かに民宿に入りこみ、食堂へ赴き旅館の旦那さんと女将さんにご挨拶を。

 

「初めまして、周藤良太郎です。後ろのは天ヶ瀬冬馬。この度は突然押しかけてしまいもうしわけありません」

 

「高木さんからお話はうかがってますけぇ。どうぞゆっくりしてってください」

 

「お兄ちゃん、なんや有名なアイドルなんやって? そんな人に来ていただけるとは、こっちが光栄ですわぁ」

 

「いえいえ、それほどでも」

 

 まぁ、ここに宿泊している人の半数以上も現役バリバリのアイドルなんだけどね。

 

 とりあえず挨拶を終えたので、あとはここで全員が集合するのを待つばかりである。

 

 いやぁ、楽しみだなぁ。

 

 

 

 

 

 

「恵美ー、まゆー、恭也さんが来とったでー」

 

「え?」

 

「恭也さん?」

 

 部屋で着替えていると、一足遅く戻って来た奈緒がそんなことを言い出したのでまゆと二人で首を傾げる。

 

 何故恭也さんがこんなところに……そもそも、確か恭也さんは月村さんと一緒にドイツへ旅行に行ったはずでは……。

 

(恵美ちゃん、良太郎さんが来てる気配がするから、もしかして良太郎さんのことじゃ……)

 

(あー)

 

 こっそりとまゆから耳打ちされた言葉の前半は聞き流しながら納得する。そういえばリョータローさん、空港で恭也さんの名前を使ってたっけ。

 

 ……って、えっ!? リョータローさん来てるの!?

 

「な、何で?」

 

「なんや仕事でこっちに来るついでに様子見に来たってゆーてたで」

 

 仕事……? 良太郎さんは確か東京で番組撮影って言ってたような気がしたんだけど……。

 

「それじゃあ恵美ちゃん、私は先に行くわねぇ」

 

「って早い!?」

 

 振り向いた時に見えたのは、いつの間にか着替え終わったまゆがそそくさと去っていく後姿だった。一緒に着替え始めてたのに、なんかもう異次元的な早さだなぁ……。

 

 っと、アタシもこうしてらんないや。リョータローさんが来てるなら、早く行って挨拶しないと。

 

 

 

 ……ん? 何かを忘れているような……具体的には誰かに何かを伝え忘れているような……?

 

 

 




・小松空港
感想欄で指摘されて初めて知った事実。べ、別にdisってる訳じゃないんすよ?
なお実際に磯の香りがするかどうかは知らない(妄想)

・「Exactly(そのとおりでございます)」
第四部アニメ化まだかなぁ……(チラッ

・昔死んだと思ってた義兄
ワンピースより。
こっちもそうだけどそれ以上にコアラの「コイツ誰」感はパなかった。

・最後のトモダチの正体
20世紀少年より。
ネタバレ回避のために名前は伏せるけど、子供時代お面をつけてた奴が三人ぐらいいたから色々とごちゃごちゃになる。え、作者だけ?
あとコンチの後付感もパない。

・ひと繋ぎの財宝はなんなのだろうか
作者は『古代兵器で月との戦争が始まる説』派。

・「じゃあプランBはなんだ」
あ? ねぇよそんなもん。

・(良太郎さんが来てる気配がするから)
お、ニュータイプかな?(白目)



 良太郎が来たよ! やったね、りっちゃん!

 知らぬは本人たちばかりで周りにはしっかりと配慮してから突撃するのが良太郎クオリティ。

 次回は良太郎の正体ばらし。……おや? 志保ちゃんの様子が……。



『デレマス二十三話を視聴して思った三つのこと』

・雑誌に写ってただけなのに二度も映る楓さんの存在感

・ちひろさんだ、蒸さなきゃ(使命感)

・常務のポエムにポエムで返答する武内P有能。ドルベ無能。

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