今回はちょっと趣向を変えた恋仲○○シリーズをお送りします。
それは、あり得るかもしれない可能性の話。
「……朝か……」
ゆっくりと開かれた視界に見知った自室の天井が広がり、思わず変換ボタンを押したらどこぞのサイトで二次創作書いてる奴の名字のような言葉を呟いてしまう。
「……あぁ……初日の出見に行くの忘れてた……」
ぼんやりと部屋が明るい理由を考え、それがカーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光であることに気付き、それが意味することをようやく理解した。
今日は一月一日、即ち元旦。
その日の朝日は通常の朝日ではなく、文字通り一年で一番最初の日の出である初日の出。昨晩寝る前までは早起きして見に行こうと考えていたのだが、どうやら失敗してしまったようである。まぁ別に絶対に行きたかったものではなくただの思い付きなので、悔しいとかそういうのはないのだが。
さて今は何時だと身を捩って壁に掛けられた時計を確認しようとしたが、俺の体が自由に動かせないことに気が付いた。
右腕はまるで誰かに抱きしめられているかのように動かせず、お腹の上にはまるで誰かの枕にされているかのような重みを感じた。足も誰かの足が絡んでいるかのように動かせず、まるで自分の両脇で誰かが寝ているようだった。
「……うぅん……」
「……あふぅ……」
……いやまぁ、間違いなく寝ているのだけど。それも少女が二人。
首を右に傾けてみる。目と鼻の先には紫髪の美少女――朝比奈りんの寝顔があり、クシクシと額を俺の右肩に擦り付けている。彼女が身じろぎする度に俺の右肘を包み込む柔らかな膨らみがグニグニと形を歪ませていた。
今度は首を少し持ち上げ、自由な左腕で布団を少し捲り上げる。俺をまるで枕にするかのように左側から覆い被さる金髪の美少女――星井美希の頭頂部が見え、彼女の吐息が僅かな俺の寝巻の隙間から入り込んできて少しこそばゆい。彼女の柔らかな膨らみは俺の足の付け根辺りに押し付けられており、正直色々とアウトなポジショニングである。
というか、この二人が醸し出す様々な事柄がアウトである。彼女たちの寝巻の隙間から覗く肌色が視覚を、身体中に押し付けられる肢体の柔らかさが触覚を、時折聞こえる彼女たちの「ん……」という悩まし気な吐息が聴覚を、ふんわりと仄かに香る女の子の匂いが嗅覚を、五感の味覚以外をこれでもかというほど刺激されていた。
さて、まるでこの夢のような状態に脳が追いつかずに「よし、夢だな」と現実逃避をするか、驚き仰け反り「うわぁ!?」と叫ぶのがラブコメ的には正解なのだろうが、生憎昨日の晩はこの二人と共にベッドに入ったことをしっかりと覚えており――。
――そもそも二人とも『俺の恋人』なのだから別に驚くような状況ではない。
(……すっかりこの世界観にも慣れちまったなぁ……)
いや、二十年以上この世界で生きているのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
ボンヤリとした脳で微睡みながら『自分が転生したこの世界』について思い浮かべる。
『一夫多妻制』
それは今から数十年前、当時総理大臣に就任した
前世では一夫多妻というのは日本においてはサブカルチャー内だけの話で、一部の男の夢のような制度であった。
しかし、この世界においては日本のオタク文化が生まれるよりもさらに前から一夫多妻制が存在しているため、この世界では「たくさんの女の人を侍らせたい!」というハーレム願望を抱いている人は殆どいない。いるにはいるが、それは前世において「結婚がしたい」「彼女が欲しい」レベルの願望と同等の扱いなのだ。
さらにそれが原因かどうかは定かではないが、世間全体が恋愛というものに若干寛容というか緩い印象がある。あくまで前世を知っている俺だから抱く印象なのかもしれないが、少なくとも『未成年の少女との同衾』や『アイドルの恋愛』が普通に許されるのだから間違ってはいないはずだ。
というわけで、日本屈指のトップアイドルたる俺がこうして同じくトップアイドルである女の子二人(二十歳と十六歳)を侍らせていても何もおかしくないのであった、まる。
さて、このまま二人の温もりを堪能しながら二度寝を敢行するのも悪くないが、折角の元旦のオフを寝て過ごすのは勿体無い。そろそろお腹も空いてきたし、起きることにしよう。
「りん、美希」
「んー……?」
「あふー……?」
体を揺すりながら(二人の大乳がムニムニと気持ちよかった)呼びかけると、どうやら二人とも目を覚ましたようだった。
「おはよう、二人とも」
「……おはよー、りょーくん……朝のちゅー……」
トロンとした瞳のまま、こちらに唇を突き出してくるりん。寝起きだというのにとても柔らかそうな桃色の唇がとても魅力的で思わず吸い寄せられそうになったが、左手の人差し指で彼女の唇に触れて制止する。
「こら。朝のキスはちゃんと歯を磨いてからって決めたろ?」
「むー……りょーくんのいけず……」
不満げに頬を膨らませるりんを宥めつつ、起き上がるために体に覆い被さったままの美希に退いてもらおうと首を下に向ける。
「ほら、美希も起きて――」
「ちゅー……」
ズキュゥゥゥン!!! と。
もぞもぞと下から這い上がって来ていた美希が、不意打ち気味に唇を奪ってきた。いや既にキスなんて数えきれないぐらいしているのだから、今更奪うも何もないのだが。
「……えっと、美希? 今俺が言ったこと聞いてた?」
「えへへ、りょーたろーと新年初ちゅーなの」
あらやだこの子可愛い。
照れ照れとはにかむ美希の金髪を撫でているとグイッとりんが胸倉を掴んできて、そのまま美希と同様に唇を奪われた。しかも美希が普通に唇を合わせるだけだったのに対し、りんはしっかりと舌を入れてきた。
「ぷはっ。……あの、りんさん?」
「……アタシが一番最初にりょーくんと初ちゅーしたかったのに……」
キスの余韻に浸って若干恍惚としつつもほんのりと涙目のりん。そんなに美希に新年初キスを奪われたのが悔しかったのか、単純にヤキモチなのか。
「りんもミキとの間接初ちゅーなの」
俺の胸に顔を乗せたまま、ニコニコと笑っている美希。
……いやまぁ、恋人二人の仲も比較的良好で何よりです。
さて、ベッドの上で一通りイチャコラした俺たちは朝の支度を済ませ、初詣をするために少々離れた大きい神社へと足を延ばすことにした。
「うわぁ、すげー人」
駐車場は混んでいるだろうと思って公共交通機関を利用してやって来たのだが、予想していた以上に初詣の参拝客でごった返していた。
「お義母さんとお義兄さんたちは来なくて正解だったかもね」
「おチビちゃんたち連れてここは無理なの……」
華やかな振り袖姿のりんと美希がそれぞれ俺の腕にしがみ付きながら、しみじみとそんな感想を漏らす。実際、着物を着て赤ん坊を連れている若い夫婦の姿も見られるが、赤ん坊は大泣きするわ着崩れするわで大変そうである。
「若干やる気が削がれないでもないが、折角ここまで来たんだ。気合を入れて並びますか」
疲れるだろうなーと思いつつ、覚悟を決めて賽銭箱への列に並び始める。
こういう場面では連れに対して「はぐれないようにしっかりと手を握っていろよ」などと声をかけるところだが、そんなことを言わなくても連れの二人は俺の両腕にこれでもかというほどギュッと抱き付いているのではぐれようがなかった。
しかし振り袖ってのは結構厚手の生地だっていうのに、抱き付かれるとやっぱり二人とも柔らかいなーなどと考えていると、背後から聞き覚えのある男女の声が聞こえてきた。
「うわ、すげー人……やっぱり初詣とかめんどくせーな……」
「もう、ダメだよそんなこと言っちゃ」
「そうそう。一年の計は元旦にありって言うし、ちゃんとお参りしないと」
面倒くさそうな男に、それをたしなめる女性二人。声と合わさって、振り返らずに彼らが誰なのか特定余裕だった。
「おっす。あけましておめでとう」
「ん? あぁ、良太郎か。あけましておめでとう」
「え? 良太郎さん? あ、あけましておめでとうございます」
「良太郎さん! あけましておめでとうございます!」
俺たちの背後に並んでいたのは予想通り、事務所の後輩に当たる天ヶ瀬冬馬と、その恋人である天海春香と高町美由希であった。二人とも例に漏れず振り袖を着ており、美由希ちゃんが眼鏡を外した状態であるのに対し春香ちゃんのトレードマークであるリボンはそのままだった。
なおこの場にいる六人中美由希ちゃんを除いた五人がトップアイドルなので、全員が全員軽く変装をしている。まぁ見つかったところで騒ぎにはなるが熱愛報道やスキャンダルは殆ど無いんだが……この人混みで騒ぎが起こると酷いことになりそうだし。
「あ、春香! あけましておめでとうなの!」
「美希! あけましておめでとう!」
「あけましておめでとう、美由希ちゃん」
「りんさんもあけましておめでとうございます」
お互いの恋人同士の挨拶も終わり、折角なので六人で列に並ぶ。
「美由希ちゃん、恭也は?」
「恭ちゃんたちは人数が多いから近所の神社で済ませるって」
言われてみればあいつの場合は月村、フィアッセさん、
「そっちも良子さん(母)や幸太郎さんたちは?」
「そっちと同じで近所の神社で済ませるってさ」
兄貴の場合は早苗ねーちゃん、留美さん、小鳥さんの三人で嫁の人数自体は恭也より少ないが、それぞれ既に子供がいるので総勢七人なのである。流石に生まれたばかりの赤ん坊たちを寒空の下遠出させるのがはばかられたので、ついでに母さんも一緒に近所の神社で済ませる、ということだ。
「カナちゃんたち可愛いよねー」
「ミキも赤ちゃん欲しいの」
じっと両側から上目遣いでこちらを覗き込んでくるりんと美希に、思わず視線が上に泳ぐ。ソラガアオイナー。
「アタシはりょーくんと同じで二十歳なんだから余裕で結婚出来るよ!」
「ミキだってもう十六で結婚出来るの!」
「いやだから結婚は美希が高校を卒業してからだって……」
「でも結婚前にだって出産は出来るし!」
「なの!」
「そーいうことを大声で言わない!」
とりあえず美希が高校を卒業してからりんと一緒に結婚をするという約束をし、それまで待つということに二人とも了承してくれた。子育てしながら高校に通うことは難しいだろうし、かといって中退させるわけにもいかない。
「でもりょーたろーくん、結婚と子供は別物だよ?」
「そーなの」
まぁ確かにそう言われればそうである。別に今の状況で二人に加えて子供を養うだけの経済力は余裕である。結婚だけして子作り云々を美希が卒業するまで待てばいいだけとかの話ではあるのだが……。
「……多分、俺が我慢出来ない」
「「え?」」
恋人同士である今の状態ですら我慢するのに精一杯なのだ。今朝だって正直辛かった。俺だって間違いなく男なのだ。伊達に常日頃からおっぱいおっぱい言っているわけではない。……なんかこれは違うか。
それはさておき。それなのに、愛している女性二人が名実ともに『俺の嫁』になってしまった日には……。
避妊すればいいだけとかそういう話ではなく、俺のケジメの問題。
「俺の我儘に付き合ってもらう形にはなっちまうけど……それでも、りんと美希にはもう少し待って貰いた……い?」
ガシッと。
それまで抱き付くように俺の両腕にしがみ付いていた二人が、突然両側から俺の首根っこに抱き付いてきた。ギュムギュムと柔らかい体が惜しげもなく押し付けられ、視線を左右どちらに振っても美少女しかいないという天国のような状況に困惑する。いきなりどうした。
「もー! りょーくんってばアタシたちをキュンキュンさせてどうしたいのさー!」
「りょーたろー大好きなのー!」
「……良太郎の堪え性がないってだけの話じゃねーの?」
「もー、冬馬君無粋だよ?」
「全く、女心が分かってないなー」
「いや、
ややあって、俺たち六人はようやく賽銭箱の前まで辿り着いた。
在り来たりではあるが『ご縁がありますように』と五円玉を取り出し、同時に投げ込む。
二礼二拍手。手を合わせ、そのまま瞑目する。
別に何を願うなどという話はしていない。いや、する必要なんてない。
俺とりんと美希の願いなんて、最初から決まっているのだから。
――どうか、自分と自分の愛する人たちの人生に、幸多からんことを……。
「………………」
……という夢を見た。
「……もっかい寝るか」
あけましておめでとうございます。
・周藤良太郎(20)
転生した世界が恋愛観に緩かったアイドル青年。経緯云々はともかく、りんと美希の二人と恋人同士になっており、世間にも公表している。ちなみに一線は超えていない。
・朝比奈りん(20)
出会った当初からのアプローチが実った大勝利美少女その1。
一応1054プロで魔王エンジェルとして活動しているが、近々123プロへの移籍を検討している模様。
ちなみに今回の恋仲○○シリーズは特別編なので「一度恋仲○○でヒロインになったら本編のヒロイン資格剥奪」は対象外です。
・星井美希(16)
本編の恋愛感情の有無をぶっちぎって今回見事恋仲になった大勝利美少女その2。
こちらも同じく123プロへの移籍を検討している模様。
※りん共々、番外編内での設定なので悪しからず。
・どこぞのサイトで二次創作書いてる奴の名字
実際変換ボタン押したらそれが真っ先に出てきた。どうでもいい話。
・一夫多妻制
外国では実際に存在するが、日本ではオタクの脳内にしかない(断言)
実際に今の日本で施工されたとしても経済的に旦那さんの負担がヤバイヤバイ。
・杉崎健
『ハーレムのために法律を変えるキャラ』を考えたところ真っ先にコイツが思い浮かんだ。ぶっちゃけアフターストーリーがあったらマジでやってたと思う。
・朝のキス
最近だと割と有名な話っぽい。この話聞いてから寝起きに唾が呑み込めなくなった。
・ズキュゥゥゥン!!!
さ、流石美希! 俺たちに出来ないことを(以下略)
・赤ん坊は大泣きするわ着崩れするわ
作者と美味しいお酒が飲めるシリーズ。
このワードから『榎木夫妻』という単語にたどり着けたら、作者とお酒を飲みながら深谷さん派か槍溝さん派かで語らいましょう。
・冬馬&春香&美由希
別に本編で今後どうにかなるかとかそういう話ではないです。
そういえば、番外編ではあるけどこれが良太郎と美由希の初絡みになるのか。
・恭也ハーレム
とりあえず原作ヒロイン大集合の巻。
え? ノエル? なんだって?(難聴)
・幸太郎ハーレム
実はこの世界で一番救われているのはこの人でしたという話。
・夢オチ
王道を往く(アルテリオス並感)
というわけで新年一発目は恋仲○○シリーズでした。
本当は迎春ということで春香さん編を考えていたのですが、王道過ぎてつまらなかtやっぱりみんなハーレムもの好きかなって思いました!
次回からは本編に戻りまして、いよいよ第三章の山場に入ります。第三章に入ってからちりばめてきた『二人の少女』の伏線を回収しますよーするする。
最後に、どうか今年もよろしくお願いします。