アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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今回前半での『持ち歌』に関する考察はあくまでも作者の妄想の産物です。
この世界ではこうなんだなぁぐらいの認識でいていただけるとありがたいです。


Lesson126 Where are my glass slippers? 2

 

 

 

 変わらず123プロのレッスンルーム。相変わらず休憩が続いているが、まだ休憩時間として設定した十分は経っていないので問題は無い。

 

「城ヶ崎美嘉のバックダンサーとして華々しいと言っても過言ではない初ステージを終えた直後に、今度はCDデビューですか……」

 

「……トントン拍子ねぇ」

 

「だよねー」

 

 あり得ないとまでは言わないが、正直に「マジか」としか言いようがない。

 

 基本的にアイドルの曲、所謂『持ち歌』というのは自分では作らない。中には作詞作曲の才能も一緒に持ち合わせていて一から自分で作ってしまう別種の天才もいることにはいるが、普通は作詞家の先生、作曲家の先生に依頼して作ってもらう。

 

 作詞作曲の先生が自分から「是非曲を作らせてくれ」と頭を下げに来たらしいリョータローさんは当然ながら例外中の例外として、そういう背景からアイドルが自分の『持ち歌』を得るためには依頼するための『資金』及び『コネ』が必要になってくるのだ。

 

 資金自体は個人でも用意することは容易だが(アタシ今うまいこと言った)、『コネ』はどうにもならない。いきなり何の実績も無い人間がお金を持って「曲を作ってください」と言って押しかけて曲を作ってくれる人もいるだろうが、所謂『有名な先生』にはそれが通用しない。

 

 勿論、お金を出せば誰にでも曲を作ってくれる先生を否定するつもりはない。けれど『持ち歌』というのはアイドルにとって自らの『得物』。トップアイドルを超えたトップアイドル、リョータローさんレベルのオーバーランクのアイドルともなれば『なまくら』でも何とかなるだろうが、それでもこの厳しい世界を戦い抜くには『業物』の方が良いに決まっているのだ。

 

「……って、社長や和久井さんが言ってた」

 

「……まぁ、いくらなんでも恵美さんがそんなに詳しいわけがないですよね」

 

 何だとー志保ー。

 

「つまり未央ちゃんたちは『資金』と『コネ』を用意してくれる346プロダクションというバックがあるからこそ、こんなにも早くCDデビューが出来たってことねぇ」

 

 そこいらの小中プロダクションには出来ない芸当ねぇ、とまゆは感心する。

 

「でも恵美さんやまゆさんの曲もそうなんですよね?」

 

「そうよぉ。今まで良太郎さんが築き上げてきた実績に便乗するような形にはなっちゃったけど、私たちみたいな新人がこうして素敵な曲を作ってもらえるのは間違いなく良太郎さんのおかげよぉ」

 

「後、その辺の交渉を完璧にこなす社長の手腕だね」

 

 逆に言うと、そうした持ち歌を得ることが出来なかったアイドルはしばらく『下積み時代』というものを経験しなければならなくなってくる。そこら辺全部すっ飛ばしてしまったリョータローさんはやはり例外中の例外だが、基本的にはこれは誰しもが通る道である。

 

 アタシやまゆがこれまでやってきて今現在志保がやっているように、雑誌のモデルをやったりイベントのMCをやったりキャンペーンガールをやったり。

 

 きっと今回CDデビューからあぶれてしまった未央たち以外のプロジェクトメンバーも、そうした下積みのお仕事をしているのだろう。

 

 

 

 

 

 

「横断歩道は右見て左見て、もう一度右見て、それから渡ってくださーい!」

 

 ステージのアイドルからの呼びかけに、イベントの参加者たちはまるで子供のように「はーい!」と大きな声で返事をした。

 

 今週は交通安全強化週間ということで346プロダクションのアイドルを一日署長として招いてPRイベントを行うことになり、またしてもあたしが案内や補佐役として抜擢されてしまった。一昨年に765プロの貴音ちゃんの案内役を任されて以来、こういったアイドルを招いて行うイベント担当みたいな扱いをされるようになってしまっている。

 

 上層部に123プロ社長の嫁や周藤良太郎の義姉という立場を利用しようという目論見は無さそうなのだが、だからといって広報担当でも何でもない一交通安全課の婦警をいちいち駆り出さないでほしいというのが本音である。

 

「車に乗る時はシートベルト締めねぇと、アタシが直々にシメてやっかんな!」

 

「拓海ちゃんが言うと『お前が言うな』感が凄いですよね!」

 

「んだとゆっこゴラァ!?」

 

 あの(ほり)裕子(ゆうこ)という子に全面同意せざるをえない。

 

 今回346プロから招いたアイドルは堀裕子、及川(おいかわ)(しずく)、そして向井拓海の三人組ユニット『セクシーギルティ』で、PRイベントということで全員婦警の格好をしているのだが……拓海ちゃんの婦警姿に違和感というか何というか。

 

 ついこの間まで取り締まられる側だったというのに、それが今では格好だけとはいえ取り締まる側なのだ。「一体どの口が」と言いたいところだが、そういう元ヤンな拓海ちゃんが更正してこういったPRイベントに参加することで逆の説得力があるのかもしれない。運営やお偉いさんの考えることは難しくてあたしには全く分からないが、拓海ちゃんの経歴を知っていて尚上層部がゴーサインを出したということは、きっとそういうことなのだろう。

 

 本当にアイドルという人生は唐突に始まって何が起こるのか分からないものなのだと改めて思う。

 

(それはそれとして、凄いわねぇ……)

 

 何が凄いのかというと、ぶっちゃけ胸である。

 

 あたしもそれなりというかかなり大きいと自負しているが、流石に拓海ちゃんとあの雫という子には白旗を上げざるをえない。最近の若い子は随分と発育がいいのねぇと思いつつ、そんな二人に挟まれる立ち位置の裕子ちゃんが不憫でならなかった。

 

「何はともあれ、交通ルールを守らない悪い子は私たちが逮捕しちゃいますからね~?」

 

「サイキック逮捕ー!」

 

 そう叫びながらマイクを突き出す裕子ちゃん。

 

 その直後である。

 

「きゃっ!?」

 

「うわぁ!?」

 

 バツンという音と共に、雫ちゃんと拓海ちゃんの服のボタンが弾け飛んだ。すぐに反応して前を隠したものの、ほんの一瞬ではあるが大きな胸の谷間と下着が露わになってしまった。

 

 そんな嬉しいサプライズをたまたま見ることが出来たイベントの参加者(主に男)が「おぉっ!?」と歓声を上げ、目を離してしまっていた参加者は「見逃したあぁぁぁ!?」と慟哭する。どうでもいいが、男だったら良以外でもこーいう反応はするんだなぁと思ってしまった。

 

「……ゆ~っ~こ~!?」

 

「わわわっ!? こ、これはですね、私の溢れ出るサイキックが暴走してしまった結果であって、故意ではなく事故……!?」

 

「交通事故で『事故だから』が言い訳になると思ってんのかぁ!?」

 

「お後がよろしいようでー!?」

 

 いや、別によろしくはないんじゃ……。

 

 

 

「うわ、大きい……」

 

「め、女神に愛されし母なる祝福……!?」

 

「「………………」」

 

「ち、小さい方がカワウィーにぃ?」

 

 

 

 何やら三人のバーターとしてビラ配りをしていた五人の内二人が自分の胸を摩りながら酷く落ち込んでいた気がしたが、とりあえず今は混乱し始めたステージの上を何とかすることにしよう。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 今日のレッスンも終わり、私たちと美波さん、アーニャの五人は346プロ内にあるレッスンスタジオフロアのロビーの自販機でそれぞれ飲み物を買って一息ついていた。

 

 既にCDデビューする私たちと美波さんたちのレッスンは始まっており、それぞれトレーナーさんから歌とダンスのレッスンで扱かれている真っ最中である。

 

 バックダンサーをする前も美嘉さんやトレーナーさんからレッスンを受けたが、それはあくまでも『バックダンサー』としてのレッスン。今回からはついに『アイドル』としてのレッスンとなり、一回りも二回りも厳しさが増しているような気がした。

 

「レッスン、お互いに頑張ろうね」

 

「おう!」

 

 美波さんの言葉に元気よく返す未央の元気が若干羨ましく思いながら、私もたった今買ったばかりのスポーツドリンクの缶のプルタブを起こした。

 

「みんなー!」

 

 そんな声と共にかな子がこちらに向かって走ってきたのは、ちょうどその時だった。

 

 確か今日は蘭子、きらり、智絵理、李衣菜の五人で交通安全強化週間のPRイベントの手伝いに行っていたはずだが、もう帰って来ていたようだ。

 

「かな子ちゃん、どうしたんですか?」

 

 よほど急いで来たらしく、膝に手を突いて肩で息をするかな子に卯月が心配そうに声をかける。

 

「ぷ、プロデューサーさん、見なかった?」

 

「プロデューサー?」

 

 生憎私たちはつい先ほどまでレッスンをしていたのでプロデューサーの姿は見ていない。最初こそ私たちのレッスンの様子を覗きに来ていたが、既に一時間以上前のことなので目撃情報としては役に立たないだろう。

 

「ゴメンね。私さっきまでレッスンしてたから、ちょっと分からないわ」

 

「何か、ありましたか?」

 

「それが――」

 

 

 

『……え、ストライキ!?』

 

「……すとらいき……? ザバストーフカのことですか?」

 

 

 

 

 

 

 そこは事務所内の中庭に面する場所に存在するカフェテリアだった。

 

『我々はー! ……何だっけ?』

 

『週休八日を要求する!』

 

「勝手なこと言っちゃダメにゃ!」

 

 私たちがそこに到着すると、拡声器によって大きくなった莉嘉と杏のそんな声が響いてきた。見ると、カフェテリアのカウンターを含む一角にテーブルを倒してバリケードを作っており、その向こうにみくと莉嘉と杏の三人が立てこもっている様子だった。

 

 当然騒ぎにならないはずがなく、周りにいた人たちも何事かと集まってきている。その集まってきている人たちの中に何人かテレビで見たことがある人が混ざっている辺り、なんというか流石芸能事務所といったところか。

 

「杏ちゃーん! みくちゃん! 莉嘉ちゃーん!」

 

 そんな三人に向かって、きらりが大声で呼びかけていた。その後ろからは智絵理も心配そうに顔を覗かせている。

 

「きらり、智絵理!」

 

「みんな……ぷ、プロデューサーさんは……?」

 

「それが、別の場所で打ち合わせみたいで……」

 

 その別の場所が分からなかったため、とりあえず私たちだけでここまで来たということだ。

 

「それにしても、何でこんなことを……?」

 

「何でというか……」

 

 疑問符を浮かべる卯月に、いやいやと首を振る。

 

 というのも、私たち五人のCDデビューが決まってからずっと「みくたちもデビューさせるにゃ!」と言いながら絡んできていたのだからその理由の検討は付いていた。

 

 しかし、散々デビューしたがっていたみくと莉嘉は兎も角、あれだけ働きたがらなかった杏までこんなことをするとは……。何というか、行動力を向ける方向が間違っている気がしてならなかった。

 

『と、とにかくにゃ!』

 

 改めて拡声器を手にしたみくが、こちらに拡声器を向けた。

 

『我々はここにストライキを決行するにゃ!』

 

「ストライキだー!」

 

「我々の要求を飲めー!」

 

「そうだそうだー!」

 

 みくの言葉に賛同するように腕を振り上げる莉嘉と杏……って、あれ?

 

「今、声が一人分多かったような……」

 

 そんな違和感を覚えたのは私だけじゃなかったらしく、卯月や未央、そしてストライキを行っている張本人であるみくたちも首を傾げていた。

 

 一体誰がと疑問に思いつつ、しかしその声の張本人はすぐ見つかることとなる。

 

 

 

 彼はバリケードのすぐ向こう、みくたちの隣にシレッと混ざっていたのだ。

 

 

 

「我々は要求するー!」

 

 

 

 ――というか、良太郎さんだった。

 

 

 

『周藤良太郎っ!!??』

 

 

 

 その場にいた全員の驚愕の声が、窓ガラスを揺らさんばかりに響き渡った。

 

 

 

「……え、本当に何でいるの?」

 

 

 




・用意することは容易
これぐらいサラッと楓さんにも言わせれればいいのに……(他人事)

・アイ転版セクシーギルティ
正直婦警の格好を見てみたいという理由だけで拓海を参加させました。
次回もちょっとだけ出番はあるんじゃよ(亀仙人並感)

・堀裕子
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
自称サイキックで実はガチサイキックの可能性が微レ存な16歳。
基本的にアホの子扱いされるが、とりあえずアニデレ第五話はよくやったと褒めざるを得ない。

・及川雫
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
アイマスキャラでトップの胸囲を誇るB105な16歳。
初登場時、そのバストサイズと特訓後の衣装と趣味・搾乳に全国のPの度肝を抜いた。
なお抜いたの度肝だけではなく(以下削除)



 何やらストライキに他事務所のトップアイドルが混ざっておりますが、問題ありません(白目)

 こうなった経緯その他諸々は次回になります。



『サンシャイン第三話を視聴して思った三つのこと』
・……え、理事長っ!?

・B80で成長していない!? 泣いている72だっているんですよ!

・俺氏、ファーストライブで無事感涙

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