「くすん……」
「もー、いきなり泣き出してビックリしたよー」
「本当ですよ……」
まゆがよーやく泣き止んだので、美優さんが差し入れてくれたサンドイッチを三人で食べる。休憩時間は延長してしまったが、どのみちまゆがこんな調子では無理そうだし。まぁ、あくまでも自主練習だから少しぐらいいいだろう。
「これからは良太郎さんのメッセージを見逃さないように肌身離さず持ち歩きます……」
まぁ結局電源を落としていたら意味がないのだけど。
「その良太郎さんなんですけど、今度は意味不明なメッセージを送ってきてるみたいなんですが」
「え?」
志保に言われてメッセージを覗いてみると、そこにはリョータローさんからの『ストライキなう』の文字が。確かに意味が分からない。
「ストライキって……仕事を休んで抗議するやつだよね?」
「個人や集団で行うものはストライキではなくボイコットだったような気もしますが、多分それだと思います」
「詳しいねー」「丁度社会の授業で習ったばかりだったので」というやり取りを志保と交わし、さてこれはどーいう意味なのかと首を傾げる。
リョータローさんが要求することも気になるが、そもそも346でストライキする意味も分からない。仕事を休むって、他事務所でそれを言い出したところで何になるのだろうか。
「ねーねーまゆー、まゆならこれどーゆー意味か分かる?」
リョータローさんのことならばまゆに聞けばいいだろうと、とりあえずまゆに話を振ってみる。
「……ふぐぅ……」
「「だからー!」」
ダメだ、今のまゆは先ほどの一件で脆くなって使い物になりそうにない。とりあえずまゆにも分からないイレギュラーな行動だということは分かった。
何してるのか分かんないけど早くリョータローさん帰ってこないかなーと嘆息しつつ、サンドイッチを食べながら空いた反対側の手でまゆの頭を撫でるのだった。
「ななな、何で良太郎さんがこんなところにいるにゃ!?」
「わー! 良太郎さんだー!」
「うげ、周藤良太郎……」
驚愕するみくちゃん、喜色満面な莉嘉ちゃん、そして露骨に嫌そうな顔をする杏ちゃん。嫌そうな顔されるのは麗華やりっちゃんで慣れてるけど、まだそれほど親交が無い杏ちゃんにそれをされるのは地味に傷つくぞー。
「君たちが何やら面白そうなことしてたからね。ついでだから俺も参加させてもらおうかと思って」
「ついでって」
ニパーッと笑う莉嘉ちゃんの頭を撫でながら周りを見渡すと、当然の事ながら俺の登場にギャラリーたちがざわつき始めていた。芸能事務所だけあって、よくよく見ると見たことある顔や知り合いの顔が多数あった。例えば知り合いでいうと他のプロジェクトメンバーと一緒にいる呆れ顔の凛ちゃんとか、クスクスと楽しそうに笑っている楓さんとか、驚いた顔で頬を掻いている夏樹ちゃんとか。
「いや、そっちもそうだけどそもそも何で346の事務所に他事務所のアイドルがいるのかってことを聞いているにゃ……」
「拡声器借りるねー」
「聞くにゃ」
杏ちゃんから受け取った拡声器を聴衆に向ける。
『俺がここに立たせてもらった理由は、貴方たち346プロダクションに対して言いたいことがあるからだ』
俺のその発言に、聴衆のざわつきがより一層大きくなった。現在業界の頂点たる『周藤良太郎』がそんなことを言い出したのだから無理もないだろう。
『それは恐らく、簡単には受け入れられる要求ではないだろう。けれど、俺は世間の声を代弁するつもりでこうして拡声器を取らせてもらった』
そう、俺が要求することはただ一つ……!
『――セクギルことセクシーギルティの露出の多い仕事をもっと増やして欲しい!』
『……はぁ!?』
その場にいた全員の声が揃った。
「この人は一体何を言いだしているにゃ……」
『ここに、セクギルに関するつぶやきをまとめたサイトがある』
スマフォを取り出してまとめサイトを開く。
このサイトによれば、なんでもセクギルの三人は先ほどまで交通安全強化週間のイベントに参加しており、そこで何と拓海ちゃんと雫ちゃんの服のボタンが弾け飛ぶという素晴らしいハプニングが起こったらしいのだ。
しかし、そのハプニングを実際に見ることが出来たのは至極僅か。その場にいたにも関わらず見逃した人や、そもそもその会場に居合わすことが出来なかった人の嘆きのつぶやきがまとめサイトに溢れかえっていた。かく言う俺もその一人。
『その素晴らしい光景を目にすることが出来なかった大勢の人の無念を晴らすために、俺はそれと同等レベルで露出の多い仕事をセクギルに……主に拓海ちゃんと雫ちゃんに要求する!』
「なんてくだらない……そんな要求飲まれるわけ――」
「よし分かった! その要求飲もうっ!」
「何言ってんだてめえええぇぇぇっ!!?」
その叫び声は件の拓海ちゃんだった。見ると、何やらスーツ姿の男性の胸倉を掴み上げている。先ほど要求を飲むと応えたのは彼で、恐らくセクギルの担当プロデューサーだろう。
「くっ! すまない拓海! 俺だって本当はこんなことしたくないんだ! だがあの周藤良太郎に言われてしまえば俺は首を縦に振る以外の選択肢はない! だから諦めてこの夏は雫と一緒にアイドルだらけの水着相撲大会へ出場するんだ!」
「はぁっ!?」
「いやー残念だなー! 本当はこんなことしたくないんだけどなー! 周藤良太郎に言われちゃしょうがないよなー!」
「せめてその棒読み止めてもうちょっと申し訳なさそうな素振り見せろやあああぁぁぁ!」
「水着相撲大会ですか~? なんだか楽しそうですね~」
「……あの、何故同じメンバーなのに私の名前だけ呼ばれなかったんでしょうか……」
他意は無いよ、うん。
「あ、あの~、困るんですけど~……」
そんな風に戯れるセクギルとプロデューサーの姿を楽しんでいると、お盆を抱えた菜々ちゃんが困惑した表情を浮かべていた。どうやら注文を受けて飲み物を取りに来たらしいのだが、カウンター付近にバリケードを張ってしまったため注文が作れないようだ。
「注文は?」
「えっと、アイスティーとカプチーノなんですけど……」
「うにゃ……アイスティーならみくにも何とかなるけど……」
まぁ普通の女子高生がカプチーノなんて淹れたことないわな。
「いいよ、それは俺がやるから」
「「「え?」」」
俺がそう申し出るとみくちゃんや菜々ちゃんだけでなく杏ちゃんまで意外そうな声を出した。
「えっと……良太郎さん、コーヒー淹れられるの?」
「まぁね」
伊達に喫茶店経営の一家と家族ぐるみの付き合いしているわけじゃない。これでも一応士郎さんから一通りの淹れ方をレクチャーされており、人に出しても恥ずかしくないレベルにはなっていると士郎さんから太鼓判を押されたぐらいだ。
自宅や翠屋ではなく346プロのカフェテリアなので少々勝手が違うものの、とりあえず知っている道具ばかりで一安心。さっそく取り掛かることにしよう。
「んじゃ今から淹れるから、ちょっと待っててねー」
「は、はい!」
先にみくちゃんが淹れたアイスティーをお盆に乗せ、菜々ちゃんはお客さんの下へと向かった。
「さてと。少しばっかり時間が出来たから、みくちゃんたちがストライキなんか起こした理由でも聞こうかな」
「……あっ!? そう言えばまだみくたちの要望何も言ってなかったにゃ!?」
その前に俺が乱入しちゃったからなぁ。乱入ペナルティー2000ポイントダメージが無くて良かった。
「今からでも遅くないにゃ! みくたちの要望を伝えて……!」
「遅いと思うけどなぁ」
全自動ミルは便利だけど味気ないなぁと思いながら豆を挽きつつバリケードの外に視線を向ける。
先ほどのセクギルに対する要望が色んな所に飛び火したらしく、何故か知らないが
「あっちもしばらくかかりそうだよ。ほら、こっちに座って座って」
「……ふにゃぁ……みくたちのストライキが……」
がっくりと項垂れながらみくちゃんはカフェテリアのカウンターに突っ伏してしまった。
莉嘉ちゃんと杏ちゃんもカウンターに座り、ついでなので三人にもオレンジジュースを出してあげることにする。勿論後で俺の伝票に追加しておこう。
「それで、みくちゃんと莉嘉ちゃんはどうしてストライキなんてしようと思ったの?」
「あれ、杏には聞かないの?」
「さっき週休八日を要求してたじゃん」
間違いなくこちらの二人とは別の要求だと判断したのでスルーさせていただく
「あのねー、アタシたちもCDデビューしたかったの」
「CDデビュー?」
確か凛ちゃん・卯月ちゃん・未央ちゃんの三人と新田さん・アーニャちゃんの二人がそれぞれユニットとしてデビューするんだっけ。
「凛ちゃんたちばっかりズルかったから「アタシたちもCDデビューさせて!」って何度もプロデューサーにお願いしたんだけど、いつも「現在、企画検討中です」としか答えてくれないの」
チューッと不満そうな顔でオレンジジュースを飲む莉嘉ちゃん。
「みくちゃんも同じ理由ってことでいいの?」
「……うん」
項垂れたまま頷く猫耳が取り外された猫耳少女の頭頂部を見つつ、内心で首を傾げる。
(企画検討中ってことは「そのうちデビューさせます」って言ってるようなものだと思うんだけどなぁ)
ただ単に検討中ではなく『企画』検討中と返答したのであれば、それはデビューさせることを前提としているような気がするのは俺だけなのだろうか。
そもそも『シンデレラプロジェクト』として企画を立ち上げておいて、そのメンバーのデビューは無しなんて馬鹿な話があるのだろうか。
(これは武内さん、言葉と対応を間違えたな)
全く、あの人有能なのに変なところで抜けているというか、口下手というか……。
多分これだけ大きな騒ぎになっているから、武内さんがこちらに来るのも時間の問題だろう。寧ろこれで来なかったら逆に事務所にいないと判断していいレベルである。
それまでにみくちゃんたちの誤解を解いておいて――。
「……ねぇ、良太郎さん……みくと凛ちゃんたち、何が違うの……?」
ポツリ
――カウンターに落ちた一粒の涙に、口を噤んでしまった。
・ストライキではなくボイコット
本来ストライキは『労働組合が行う抗議活動』らしいので、みくにゃんたちがやっていたのは正しくはボイコットという揚足取り。
・ふぐぅ
この作品のまゆちゃんは123所属なので、ハイライトオフ仲間の泰葉や正気に戻すためにチョップしてくる智絵理はいません。
・良太郎の要求
だいたい皆さんの予想通りの要求。
・セクギルP
チャンピオン版のPも考えたのですが、やっぱり拓海のPはこうでないと()
そして早苗さんの代わりに拓海が入ったことで他のセクギルメンバーにも飛び火が。
ゆっこは……あぁ、うん。
・コーヒー
一応自分でも豆は挽けるけど、結局士郎さんの挽いた奴が一番だからあまり自分では挽かないという裏設定。
(今後活用する機会は)ないです。
・乱入ペナルティー2000ポイントダメージ
この設定、結局社長VS長官の時にしか上手く活用されてなかったような……。
・村上巴
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
何やら実家から堅気の匂いがしない広島弁な13歳。
多分コープファンで、今はユッキと仲悪そう(適当)
・結城晴
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
サッカー大好きオレっ娘な12歳。
黒バニーも白バニーもどちらも可愛いと思いましたウサミンのファン辞めます。
・『セクシーでかわいいどうぶつコスプレショー』
シンデレラ劇場内にてお馴染みのイベント。
元々雫と莉嘉が参加しており、結局巴と晴は未遂に終わったようだが、単行本の書きおろしにて拓海と美優さんが無事(?)参戦を果たした。
・企画検討中
少なくとも作者にはそう聞こえた。そうじゃなかったとしても、やっぱり武内Pは言葉が少なすぎる気がする。
久しぶりにエクストラステージな五話目に続きます。
良太郎も久々に先輩しますよーするする。
『サンシャイン第五話を視聴して思った三つのこと』
・また千歌ちゃんが女の子口説いてるよ……。
・あぁ^~ルビィちゃんと一緒にリトルデーモンになるんじゃ~
・今回で心の古傷が開いた人、手を挙げて~ ノ