アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

155 / 556
暑中見舞い申し上げます。


番外編23 もし○○と恋仲だったら 9

 

 

 

「ふひひっ……!」

 

「美嘉、キモい」

 

「なっ!? き、キモいは流石に酷いんじゃないかなっ!」

 

 昼休み。教室で一緒にお昼を食べていたクラスメイトからあまりにもあんまりなことを言われた。

 

 確かにほんの少しトリップしていたが、仮にも巷ではカリスマJKモデルと呼ばれているアイドルのアタシを捕まえてキモいは流石に酷い気がする。いや、モデルやアイドル以前の乙女としてキモいは聞き流せない。

 

「一回二回ならいつものことだから見逃したけど、流石に一日中そんな調子だったらキモいって」

 

「というか危ない人?」

 

「というか不審人物?」

 

「うぐっ……」

 

 どうやら周りは敵だらけだったようだ。

 

「ま、まぁ、勘弁してあげて。美嘉、つい最近良いことがあったみたいだから浮かれてるんだよ」

 

 唯一の味方である恵美からそんなフォローの言葉が。恵美は一つ下の学年だが私のアイドルの同期で友達ということでたまにこうして一緒にご飯を食べている。

 

「何? 良いことって?」

 

「赤城みりあちゃんとデートでもしたの?」

 

「それかL.M.B.G.(リトルマーチングバンドガールズ)の誰か?」

 

 アタシに対するクラスメイトのみんなのイメージを垣間見た。

 

 ぐぬぬ、確かにこの間のバラエティ番組でL.M.B.G.のみんなのことを大絶賛しすぎた気はしたけど、ここまで後を引くことになるとは思わなかった。

 

(まぁ美嘉のそれは今更だけどなぁ)

 

「小さい女の子関係じゃないとなると――」

 

「その括られ方もちょっと不本意なんだけど」

 

「――男?」

 

『………………』

 

 瞬間、教室の音が消え去った。アタシたちと一緒にお弁当を囲んでいたメンバーだけでなく、教室に残っていた他のクラスメイト全員が一斉に沈黙した。

 

「………………」

 

 クラスメイトの一人が無言のまま立ち上がり、スタスタと教室の入り口まで歩いていく。そのままガラッとドアを開けると、スゥッと大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

「――美嘉に男が出来たあああぁぁぁ!!」

 

 

 

「ちょっとおおおぉぉぉ!?」

 

 唐突にとんでもないことを仕出かしてくれた。

 

『何いいいぃぃぃ!?』

 

 何をしてくれているのかと文句を言おうとしたがそんな暇は無かった。ダダダッと廊下を走る音がしたかと思うと、教室の前後の入り口から他のクラスの生徒たちが雪崩れ込んできた。

 

「マジ!? 美嘉に男!?」

 

「カリスマJKモデル兼アイドルの美嘉に!?」

 

「ロリコンでお馴染みの美嘉に!?」

 

「あの初心(うぶ)ヶ崎に!?」

 

「あの○女(しょじょ)ヶ崎に!?」

 

「今 ○女(しょじょ)ヶ崎って言ったの誰だぁ!?」

 

 なんか今日は不本意というか不名誉なことしか言われていないような気がする。

 

「というか、否定しないってことはやっぱり!?」

 

「っ!?」

 

 思わず言葉に詰まる。

 

 図星だった。アタシが受かれている理由は、みんなが騒いでいるように『恋人』が出来たから。

 

 

 

 しかも相手が周藤良太郎なのだから、浮かれない方がおかしいのだ。

 

 

 

「え、めぐみぃホントなの!?」

 

「あー……アタシからはノーコメントで」

 

「ちょっと恵美!?」

 

 同じアイドル仲間から酷い裏切りを見た。そこで否定してくれれば少しはマシになったかもしれないのに、この中で一番アタシと付き合いのある恵美がそれを匂わせてしまえばそれは肯定しているのと同じである。

 

(ふぉ、フォローしてくれてもいーんじゃない!?)

 

(アハハ、ゴメーン)

 

 小声で詰め寄ると、恵美はペロッと小さく舌を出しながら手を合わせた。

 

(でも、アタシたちの大好きなリョータローさんを持ってっちゃったんだから、これぐらいの遺恨返しはさせてほしーかな)

 

(うっ……!?)

 

 それを言われてしまったらアタシは何も言い返せない。

 

 良太郎クン(今ではそう呼んでいる)と恋人に至るまでの詳細は省くが、良太郎クンを慕う多くの女の子と色々なことがあった。ほんの少し後ろめたい気持ちはあるけど、それでも最後に良太郎クンが私を選んでくれたことは今思い返しても涙が出そうになるぐらい嬉しい。

 

 一応は丸く収まったものの、こーいった軽いイジワルというか嫌みというか、そーいうのは今後も覚悟しておいた方がいいのかもしれない。

 

 いや、それぐらいはあってもしかるべきなのだと受け入れられるぐらい――。

 

 

 

 ――今のアタシは凄い幸せなのだ。

 

 

 

「さー美嘉! キリキリ吐け!」

 

「どんな男!? 年下!? 年上!?」

 

「恵美も知ってるってことは……もしかして芸能人!?」

 

 だからと言って今の状況を甘んじて受け入れることが出来るかどうかは別である。というか私が収拾出来るレベルを超えていた。

 

「助けて恵美!」

 

「将来スキャンダルやゴシップで騒がれた時の予行演習ってことにしておけばいーんじゃないかなー(適当)」

 

「恵美ぃ!」

 

 恵美といいまゆといい、あの事務所に所属する子は良太郎クンに似ていく傾向にある気がする。

 

 その後、昼休みが終わり次の授業の担当教諭が来るまで騒動は続くのだった。

 

「観念しろ美嘉っ!」

 

「教えろ美嘉っ!」

 

「あわよくば紹介しろ美嘉っ!」

 

「ちょっ、まっ、髪弄るな胸触るなスカート捲るなー!?」

 

 

 

 

 

 

 何事も無かったとは言えないが放課後。

 

「ふひひっ……おっと……!」

 

 思わずトリップしそうになり慌てて口を押さえた。幸い周りのクラスメイトには聞こえていなかったようなので、ホッと胸を撫で下ろす。危うくまた揉みくちゃにされるところだった。

 

 どーして恋人にもまだ見せてもいないし触られてもいないところを好き放題されなければならないのかとため息を吐きつつ、帰り支度を進める。

 

 しかし次第に気分は浮かれていき、気付けば鼻歌を歌っていた。

 

(明日は良太郎クンとデートだっ!)

 

 今日は週末で明日は休み。仕事も今日の撮影を終えれば次の仕事は明後日なので、明日は完全にオフとなる。

 

 そのオフを利用して、良太郎クンとデートなのだ。

 

 それまでも二人きりで買い物に行ったり遊びに行ったりとデートをしたことはあったが、こうして明確に恋人同士になってからのデートは初めてだった。同じデートでも、気になる男の子と恋人では全くの別物。お互いに愛し合っていると明確に分かっている状態でのデートなのだ。

 

(キャー! キャー! 愛し合っているだってー!)

 

 ついこの間、恵美に「最近の美嘉の頭の中はお花畑」と言われてしまったばかりだが、全く否定出来なかった。

 

 とにかく、この後の撮影を全力で早く終わらせて帰宅、その後明日着ていく服を選んでから早くベッドに入る。明日の朝は早起きしてお弁当を作って、それから……!

 

「あー、城ヶ崎、ちょっといいか」

 

「……ふひひっ……!」

 

「……城ヶ崎」

 

「っ!? は、はい!? 何ですか先生!?」

 

「……まぁいい。ホイ、これ」

 

 いつの間にか目の前にいた先生から一枚の紙が手渡された。

 

 一体何の紙だろうかと視線を落し――。

 

「……え」

 

 

 

 ――その一番上に書かれた『再試験』という三文字に固まってしまった。

 

 

 

 

 

 

「えっ、中止?」

 

『ごめんなさいっ!』

 

 久しぶりの特撮の撮影の休憩中、恋人からメッセージではなく電話がかかってきた。少し場所を離れてから電話を受けると、謝罪の言葉と共に週末のデートを中止させて欲しいと懇願されてしまった。

 

 なんでもこの間の試験の結果が芳しくなく、休み明けの週頭に再試験を受けることになってしまったらしい。

 

「それで週末に勉強しないといけなくなった、と」

 

『ホンットーにごめんなさいっ! あ、あの、あ、アタシ……!』

 

「あー、大丈夫だから落ち着いて。そんなことで怒ったりしないから」

 

『……はい』

 

 電話の向こうでシュンとなっている姿を想像し、思わず可愛いなぁとか考えてしまった。

 

 しかし残念である。いや、さっき言った通り美嘉を責めるつもりは一切無いが、美嘉と恋人になって初めてのデートだったので純粋に楽しみだったのだ。

 

(……む?)

 

 今いいことを思い付いた。

 

「ちなみに教科は?」

 

『英語……』

 

 よし、それならいける。

 

「それじゃあ明日は俺が勉強見てあげるよ」

 

『……えっ!?』

 

 理系科目だったら怪しかったが、英語ならば高校大学通じて得意科目だ。フィアッセさんに個人的に英語を教わったので若干英国訛り(クイーンズイングリッシュ)が入っているが、それ以外は完璧の太鼓判を受けている。TOEIC九百五十点オーバーの実力を見せてしんぜよう。

 

 ……英会話と英語の試験は別物じゃないのかという電波を受信したが、気にしない。

 

「それで、どうかな?」

 

『で、でも、良太郎クンのオフをアタシの勉強で潰させるなんて……』

 

「例え目的が勉強だろうと、少しでも美嘉と一緒にいたいんだよ」

 

 それに、アイドルの先輩としても学業が疎かになっているのは見逃せない。現役学生のアイドルは学業と両立出来てなんぼである。

 

『っ~! ……そーいうの、サラッと言うのズルい……』

 

「それで、どうかな?」

 

『……お願いしていいかな』

 

「お願いされた。それじゃ、何処でやろっか? 美嘉の家の近くに図書館とかある?」

 

 翠屋の一角を借りるという手もある。あそこなら比較的静かだし、休憩にシュークリームを食べることも出来る。

 

『あ、あの! それなんだけど……』

 

 

 

 ――ア、アタシの家とかどーかな……?

 

 

 

 

 

 

 というわけで翌日。

 

「おぉ、これが現役女子高生アイドルの私室か……」

 

「あ、あんまりジロジロ見られると恥ずかしいんだけど……」

 

「悪い」

 

 美嘉からの誘いを受け、俺は初めて恋人の家に上がった。

 

 他の家族は出掛けているらしく、まさか定番の「明日、ウチ誰もいないから」というセリフをリアルに聞くことになるとは思ってもいなかった。

 

 つまり、今この家には俺と美嘉しかいないのだ。

 

(落ち着け周藤良太郎)

 

 いくら恋人同士になったからとはいえ、節度は大切だ。そもそも美嘉はまだ未成年で高校生、しかもお互いにアイドルという立場もある。同意の上であったとしても関係各所に大目玉を喰らうどころか早苗ねーちゃんからもワッパをかけられてしまう。

 

 それ以前に、今日は美嘉の勉強を見るために来たのだからそんなことを言っている場合ではない。

 

 ……そんなことを、言っている場合ではないのだが……。

 

「じゃ、じゃあお茶淹れてくるからちょっと待ってて」

 

 そう言って美嘉は俺を部屋に残して出ていった。

 

 しかし扉が閉まる直前、ひょっこりと顔を覗かせると。

 

「え、えっと……タ、タンスの中の……し、下着とか見てもいいけど、ち、散らかしたりしちゃダメだからね」

 

 そんなことを言い残していってしまった。

 

「……ふー……」

 

 一人部屋に残され、思わず長いため息を吐く。

 

 

 

(アカン)

 

 

 

 なんというかもう色々なものを保ったまま今日一日を過ごせる気がしなかった。

 

 恐らく本人的には『カリスマギャル』っぽい余裕を見せているつもりなのだろうが、色々と間違ってるしそもそも顔が真っ赤だった。

 

 それに服装も無防備すぎる。いくら外が暑いからといってエアコンが効いた室内でキャミソールにミニスカートは肌を曝しすぎではないだろうか。

 

 しかもこの部屋に来るまでの階段を先導して昇るもんだから、タンスの中を見るまでもなく現在進行形の彼女の下着を見てしまった。普段なら階段を昇るときでも然り気無く手で押さえているのに……多分、彼女もテンパっているのだろう。

 

 髪も下ろしており、ギャルメイクがナチュラルメイクになっていてこれがまた可愛いもんだから堪ったものではない。

 

 しかし美嘉の天然誘惑はこれだけにとどまらなかった。

 

 

 

 コーヒーを淹れて美嘉が戻ってきたので、クッションに腰を下ろしてテーブルに筆記用具を広げて早速勉強を始めるのだが。

 

「こ、こっちの方が教えてもらいやすいから隣に座るね?」

 

 と言いながら肩が触れるぐらい近くに座ったり。

 

「う~、仮定法過去完了って何~?」

 

 肘を突いた時に胸がテーブルに乗って強調されたり。

 

「良太郎クンの説明分かりやす~い!」

 

 腕や肩へのボディータッチは数知れず。

 

(もしかして美嘉は俺を悶え(ころ)したいのではなかろうか)

 

 悩殺という意味ならば優に五回はやられている。

 

 いくら転生者で精神年齢的に四十の大台に乗るとはいえ、肉体はまだ二十歳。体が若ければ欲求もそれ相応に存在するのだ。

 

 いざとなればトイレを借りて『拳を叩き付ける』という強制的処置も辞さない覚悟を抱きつつ、未だ英文に頭を悩ませる可愛い恋人に説明を続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

「今日はありがとね、良太郎クン」

 

「なんのなんの」

 

 途中お昼休憩やおやつ休憩を挟みつつ勉強は順調に進み、更に晩に美嘉の両親や莉嘉ちゃんが帰って来て夕飯をいただいた後も続けられた。

 

 その際初めて美嘉の両親に挨拶をしたのだが「ウチの娘を末永くよろしく」と逆に頭を下げられてしまい美嘉が真っ赤になるという場面や、莉嘉ちゃんが「アタシも良太郎さんに勉強見てもらいたいー!」と突撃してきたこと以外は特に問題は無かった。

 

 というわけですっかり日も暮れたので、そろそろお暇することになった。

 

「もう再試験になるようなことが無いようにね」

 

「アハハ……が、頑張る」

 

 頭の悪い方ではないのだが、メールが来るたびに一時中断しようとする集中力の無さが欠点である。アイドルやモデルしてる時は凄い集中力なのになぁ。

 

 そして一番言っておかないといけないこと。

 

「あと、背伸びした誘惑しすぎ。無防備にするにもほどがある」

 

「っ!?」

 

 それを指摘した途端、今日一番の顔の赤さになった。やっぱり自分でも恥ずかしかったんだろうなぁ。

 

「全く……」

 

 

 

 チュッ

 

 

 

「……へ」

 

 美嘉の前髪を上げると、額に一つ唇を落した。

 

「そんなことしなくても、俺は美嘉にメロメロなんだから」

 

 これ以上俺を美嘉に夢中にさせてどうしようというのか。

 

「……きゅう」

 

「ちょ、美嘉!?」

 

 ついに許容オーバーした美嘉がぶっ倒れたところで、今日の家デートは幕引きとなったのだった。

 

 

 

(こりゃプロポーズはまだまだ先だな)

 

 

 

 まぁ、ゆっくりと進んでいこう。

 

 俺と美嘉の二人の人生は、まだ始まったばかりなのだから。

 

 

 




・周藤良太郎(20)
説明不y(以下略)
しいて言うなら彼を巡って水面下での争いがあった模様。

・城ヶ崎美嘉(17)
水面下で行われていた良太郎争奪戦に(何故か)勝った今回のメインヒロイン。
カリスマギャルなどと言われているが、超初心な純情乙女なのはもはや言うまでもない。
若干ロリコンなのが玉に瑕。

・「ふひひっ……!」
正確には「ふひひ★」ですが、本編ではあまり絵文字を使わないようにしているのでこうなりました。

・L.M.B.G
デレマス内における、総勢17人にも及ぶ大ユニット。
殆どのメンバーが小学生以下という超絶ロリユニットである。

 日下部若葉(20)

……ロリユニットである!

・初心ヶ崎
○女(しょじょ)ヶ崎
他にも乙女ヶ崎や純情ヶ崎など、汎用性は高い。

・TOEIC
ちなみに満点は990点らしいですね。レベルが高すぎて想像できんなぁ……。



 デレマス編に入って一人目の恋仲○○シリーズは美嘉でした。純情ギャルは至高、はっきりわかんだね。

 楓さんssと同時進行で書いていたため主人公やらヒロインやらシチュエーションやらがごっちゃになりかけましたが、何とか形になってよかったです。

 次回は本編に戻り、いよいよ山場の一つであるニュージェネ編に入ります。



『サンシャイン第七話を視聴して思った三つのこと』
・リトルデーモンというよりはデーモン○暮閣下……。

・曜ちゃんコスプレキャラとはいいぞ^~これ

・(無言のアクロバット)

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。