「うわー……疲れた……」
「全然決まりませんね……」
「……難しいね……」
私たちのユニット名を決める話し合いを始めて既に一時間近く経過しようとしていた。
しかしなかなかしっくりと来る案は中々出てこなかった。
ホワイトボードに書かれたユニット名候補の一覧を軽く見てみると『マカロン』『カレーパン』『ラザニア』『もやし』『エスカルゴ』『豚汁』……冷静になってみると私たちは一体何の話し合いをしていたのだろうかと悩まざるを得ないぐらいよく分からない名前しか書かれていなかった。別の人が見たら夕飯の献立か何かを話し合っているようにしか見えないだろう。
「ここまで行き詰っちゃうと、もう私たちじゃ何も思い付かないかもね」
「うぅ……そうだ! ここは一つ、しぶりんのコネを利用して周藤良太郎さんに名付け親になってもらうっていうのは……!」
「ダメに決まってるでしょ馬鹿じゃないの」
「しぶりん疲れてるからって流石に物言いがストレートかつ辛辣過ぎないかな!?」
良太郎さんなら聞き入れてくれるかもしれないし私もいい案は無いかと話を持ち掛けたが、緊急時以外は頼らないと決めているのに「名付け親になってください」なんてお願いは出来ない。というか出来るだけしたくない。
そもそも、良太郎さんのネーミングセンスもおかしいらしいし。幸太郎さん曰く「ピーチフィズの名前は奇跡の産物」らしいから普段から割とあんな感じなのだろうと、以前デビューが決まったことを報告した時を思い出して……。
――凛ちゃんたち『新たな時代』を担うアイドルのユニット名だから、じっくりと考えてみなよ。
「………………」
ふと頭を過ったのは、良太郎さんのその一言。
(新たな世代を担う……)
その時は何となく気になっただけだった。
しかし今こうして思い返してみて、私の心の琴線に触れる何かがある気がした。
「うー、こうなったら名前の候補を書いた紙で紙飛行機を作って、一番最後まで飛んでた奴に書かれている名前を……」
「その方法だと『ひまわり』になりそうだからちょっと待ってもらっていいかな。……最後に一つだけ思い付いた名前があるんだけど」
「おっ! しぶりんに天啓が降りてきたかな!?」
「凛ちゃん、どんな名前ですか?」
「……えっと……し、『新世代』……とか?」
「「……お、おぉ?」」
感嘆の声に疑問符が付いていた。
「なんでしょう、今一瞬しっくり来た気がしたんですけど……」
「なーんか違うというか……」
「うっ……」
意を決して口にした自分の案が笑われるでもなく褒められるでもなく微妙な反応をされるのは結構クるものがあった。
しかしかくいう私も自分で口にしておいてコレジャナイ感ははっきりと感じている。私も良太郎さんのこと笑えなかった。
私のこの琴線に触れたものをどう言葉にしたものか……。
「……でしたら、『
突然聞こえてきた妙に耳に残るバリトンボイスに、ソファーに座っていた私たちは思わず立ち上がってしまった。
「「「プロデューサー!?」」」
「お話に割って入るような形になってしまい申し訳ありません。ですが、先ほどの渋谷さんが考えたユニット名は、こうして英訳するだけでも大分印象が変わると思います」
相変わらずの身体の大きさを少々縮こませるように背中を丸め、首筋に手を当てたいつものプロデューサーの姿がそこにあった。
普段は控えめというか私たちに対して踏み込んでこないプロデューサーだったが、今日は妙に前に出てきている気がした。
「……出しゃばってしまいすみません」
「そんなことないよプロデューサー! 今のすっごくいい!」
「はい! 『new generations』、凄くいいと思います!」
私も未央と卯月と同意見だ。プロデューサーの案は、私が感じていた何かを見事形にしてくれた。
「よーし! これで行こうよ! 私たちのユニット名! 発案しぶりん! 命名プロデューサー!」
ホワイトボードに書かれた全てのユニット名を消した未央は、その真ん中にデカデカと二つの英単語を書き示す。……関係ないけど、こうしてサラッと今の単語の綴りが分かる辺り未央って見かけによらず頭がいい気がした。
「私たちのユニット名は『new generations』だ!」
「あー、やっぱり久々のバケツ持ちは結構キツかったわ」
「そのまま居眠りしてた奴が何を言うか」
「いや、あれは始解に至るために八卦の封印式で封じられたもう一人の僕と対面していてだな」
「せめて作品を一つに絞れ」
次からはポリバケツでも持たせるか……という兄貴の不穏な呟きはさておき、バケツの水を片付けた俺は志保ちゃんと入れ替わる形で社長室の中にいた。
いつものように士郎さんの挽いた豆を美優さんに淹れてもらうという色んな意味で贅沢なコーヒーを味わいながら来客用のソファーに腰を下ろす。社長室で兄貴と話す際の俺の定位置だ。
「やっぱり恵美ちゃんたちと比べるとだいぶ早いデビューになったな」
「まぁ基礎はしっかりと出来ているし、二人と同じようにバックダンサーも経験したからな」
加えて、まゆちゃんのように少々内面が気になるという話もない。その辺は去年の秋に解決済み。
「それにしても、ニュージェネの三人のデビュー日と重ならんで良かったよ」
「ん? ニュージェネ?」
「『new generations』。今度346からデビューする凛ちゃんのユニットだよ」
先程『ようやくユニット名が決まったよ』という旨のメールが、デビューイベントの日程と共に送られてきたのだ。
その日程を見るに、どうやら凛ちゃんたちよりも後にデビューが決まった志保ちゃんが先にデビューを迎えるようだ。凛ちゃんたちと志保ちゃんの実力や経験の差か、プロデューサーの判断の差か、まぁその辺は気にするほどのことでもないだろう。
ついでにニュージェネの三人と同じ日にデビューするらしいアーニャちゃんと新田さんのユニット『
ただ、アーニャちゃんはともかく新田さんには見つからないようにした方がいいかもしれんな。
ちなみに志保ちゃんとニュージェネのそれぞれのデビュー日は仕事が入っているものの、合間を縫えば何とか顔を出せそうである。仕事現場が近くて良かった。
はてさて、彼女たちはどんな花の開き方をするのかな。
「しかし、凛ちゃんのメールに『素敵なユニット名をありがとうございます』って書いてあったけど、どーいうことだこれ……?」
「ピーチフィズに続きそんなミラクルが何度も起こるとも思えんが」
「おう表出ろや。ドイツで覚えてきた見様見真似トンファーキックの威力を見せてやる」
「――というわけで、私たちニュージェネレーションズのデビュー日が決まったのでお知らせいたします!」
『おー! やったね未央! これで未央もアイドルの仲間入りだ!』
「えっへへへ、ありがとーめぐちん!」
無事ユニット名とデビュー日が決まった日の夜、嬉しさの余り色んな友達に連絡していた私は、アイドルを目指すきっかけとなったアイドルであるめぐちんにも当然電話をかけていた。
デビューを伝えるとめぐちんは電話越しでも分かるぐらい自分のことのように喜んでくれて、私も嬉しくて思わずベッドに横になったまま足をパタパタと動かす。
「それでそれで! もしよかったら私たちのデビューを見に来て貰いたいな~って思ってさ」
アイドルの先輩であるめぐちんにそんなお願いをするのは少々アレかとも思ったが、やっぱりめぐちんにも見に来てもらいたかった。勿論、ままゆやしほりんにも。
しかし、電話の向こうのめぐちんは残念ながら難色を示した。
『……あ~ゴメン! その時間収録で行けそーにないや……』
「えー?」
『ホントゴメン!』
「あ、いやいやいや、謝らないでって! こっちのワガママなんだし、何よりめぐちんはアイドルの先輩なんだから!」
残念じゃないと言えば嘘になるが、やっぱりめぐちんも忙しいアイドルなんだなぁと実感する。
そしてそれと同時に「ゴメン収録があるから」という台詞がいかにもアイドルっぽくて、私もそんな台詞を言うようになるのだと思うと少しワクワクしてきた。
『リョータローさんだったら上手い具合に時間が合って見に行けるんだろうけど……はぁ、これが主人公補正かぁ……でもいつかは絶対に行くから!』
「あはは、ありがと」
途中の言葉の意味はよく分からなかったが、とりあえずめぐちんとままゆは来れそうにないらしい。
『……あー、それで未央のデビュー見に行けないって断っちゃったのに切り出しにくいんだけど……』
本当に言いづらそうな雰囲気が電話の向こうから伝わってきた。
『実はその前に志保もデビューするんだよね』
「え!? しほりんも!?」
それは寝耳に水だった。
でも確かに私たちよりも先に事務所に所属しているしほりんなのだから、いつデビューしてもおかしくはない。
「凄い凄い! 場所と時間教えて!」
『おお、凄い食いつくねぇ』
そりゃあなんて言ったって友達のアイドルデビューなのだ。見に来ないかと誘われなかったとしても絶対に行きたかった。
『詳しい内容はまた後でメッセージに送っておくよ』
「ありがとー!」
自分たちのアイドルデビューのワクワクと友達のアイドルデビューのワクワクで、ワクワクが二倍になった。なんかもう言葉に言い表せないぐらい楽しみだ。
(……そうだ! しぶりんとしまむーにも声かけてみよ!)
アイドルのデビューステージというのがどういうものなのか、二人もきっと興味があると思う。私たちのデビューの予習ということで、折角だからニュージェネレーションズ全員で見に行ってみよう。
『んじゃちょっと明日朝早いから、もうそろそろ寝るねー』
「あ、うん。しほりんのこと教えてくれてありがと! おやすみめぐちん!」
『おやすみー。未央もデビュー頑張ってね』
通話を終了し、ベッドの上にゴロンと仰向けに寝転がる。
「アイドルかぁ……私、アイドルになるんだぁ……!」
アイドルの事務所に所属してレッスンを受け、さらにアイドルの先輩のバックダンサーとしてステージにも立った。しかし、それだけでは『アイドルになった』と胸を張って言いづらかった。それらを軽んじるつもりは毛頭無いが、私のイメージする『アイドル』とは少々違っていたから。
でも、これからは違う。
自分たちのための歌、自分たちのためのステージ、そして自分たちのための観客。
今回のデビューを以てついに私は『自分はアイドルだ』と声を大にして言うことが出来る。
「うわーヤバイヤバイ! テンション上がり過ぎてヤバイー!」
テンションが上がりアイドルになってからのことを考え更にテンションが上がるという無限ループに陥るが、その流れをぶった切ったのは唐突に開けられた私の部屋の扉だった。
「っ!?」
「ねーちゃん風呂空いたよー。……って、一人でジタバタ何やってんの」
「う、うっさい馬鹿! 勝手に開けるなこのエドモンド!」
「ねーちゃんだって同じ本田だろ!?」
テンションが上がっているところを弟に見られ、若干顔が熱くなるのを誤魔化すように入り口に向かって全力でクッションを投げつけるのだった。
おまけ『ピーチフィズ命名舞台裏』
「桃檸檬少女隊」
「却下」
「まゆ×めぐ」
「却下」
「123DEガールズ」
「却下」
「牧野○依と藤井○きよ」
「おいバカやめろ」
・名前の候補を書いた紙で紙飛行機
リアルタイムだったら既にひまわりも成人しているという事実に白目不可避。
・始解に至るために八卦の封印式で封じられたもう一人の僕と対面
無事三作品とも完結したので。作者的ジャンプ黄金期。
ちなみに卍解ではなく始解なのは精神世界に入るか呼ぶかの違いがあるからというどうでもいい注釈。
・『new generations』
凛・卯月・未央のユニット名。
アニメでは武内Pが仮案として名付けていたものを三人が気に入ったので正式採用という形になった。
・『LOVE LAIKA』
美波とアーニャのユニット名。
今では鉄板カップリングになっているが、よくよく考えたらアニメ以前の繋がりはほぼなかった組み合わせの一つ。
・ドイツで覚えてきた見様見真似トンファーキック
多分春休みにドイツへ行った際に偶然鉢合わせた恭也に付いて軍の訓練にお邪魔した際に眼帯を付けた女性が使ってたのを見てた。
・エドモンド本田
どすこい!
・おまけ『ピーチフィズ命名舞台裏』
既に三年目に突入しているものの、今更ながら良太郎の分かりやすい弱点が無かったので『ネーミングセンスの無さ』に決定。
そしてオチは定番の中の人ネタ。
着々とちゃんみおがフラグを構築しております。しかしこのフラグ、アニメの物とは少々違う可能性が……?
『サンシャイン第九話を視聴して思った三つのこと』
・ワイも善子ちゃんにコブラツイストされたいです(直球)
・マリーのギュッとワンピースを握った手がかわいい(かわいい)
・目を閉じながら頬を差し出すマリーも可愛かったぞ(大興奮)