「いやぁ、さっきのラーメン(仮)は強敵だったね……」
「良太郎さん、目の前のラーメン(仮)はまだ手付かずで残ってるぞ」
おかしい。大抵こういう風に次話に続いた場合は話が進んでいたりするのだが、今回に限って全然場面が進んでいなかった。
今回の冒頭にようやく辿り着いたという意味では話が進んだと言えなくもないが、目の前のラーメン(仮)が今直俺の目の前に立ちはだかっている以上どっちでも変わらなかった。
「「良太郎さん……!」」
「リョータロー……」
女の子三人からの助けを求める目線がこんなにも辛いのは初めての経験である。
「……とりあえず無理しないで食べられるだけ食べようか。残すのは……なんか許される雰囲気じゃないから、後は俺か貴音ちゃんが食べるから」
貴音ちゃんの許可は取らなかったが、何も言わなくても彼女なら食べてくれるであろう。というか、先程から黙々と食い続けていて既に山が半分ほど切り開かれていた。
というわけで、俺も本当に覚悟を決めることにしよう。
「クククッ……逃すなよ……! 新たな伝説の瞬間……刹那のシャッターチャンス……!」
「新たな伝説の瞬間……!?」
「な、なんか良太郎さんの顔が角ばったような気がしたぞ……!?」
伝説というワードに反応して目を輝かせる相変わらず平常運航な蘭子ちゃんはともかくとして、覚悟を決めた俺は割り箸を割ると目の前の敵に切りかかるのだった。
決死のダイブ……! 麺の海っ……!
「………………」
「リョータロー、大丈夫ですか?」
「は、覇王の魔力が乱れ、魂の損傷が激しい……!」
「良太郎さんがこういう時に軽口を言わないなんて珍しいけど、それだけ本当にダウンしてるってことか」
ベンチに座りこんで動けない俺の顔を心配そうに覗き込んでくるアーニャちゃんと蘭子ちゃんは兎も角、響ちゃんはそんな無駄なことに感心していないでもう少し心配してくれてもいいんじゃないかな……。
あの後、なんとか自分の分を食べきったのだが、元々食が細いらしいアーニャちゃんと蘭子ちゃんが途中でギブアップ。その二人の残りも何とか死力を尽くして食べきったのだが、当然それで俺も限界を迎えてしまった。響ちゃんの肩を借りながらではあるが、こうして近くの公園のベンチまで歩いて来ることが奇跡である。
ちなみに響ちゃんも食べきれなかったが、そちらは貴音ちゃんが余裕で食べきっていた。本当にあの細身の体の何処にあのラーメン(仮)が入っているのだろうか……胸と尻だな、間違いない。
「……ゴメン、今はそっとしておいて。何かしらの衝撃で俺の口から爆流破が炸裂するから」
「
テレビと違って映像を加工してキラキラエフェクトで誤魔化してくれないのでここは耐える。
「あー……それじゃあ、蘭子ちゃん、改めて話を聞かせてもらおうか」
「……えっ!?」
「元々そういう話だったでしょ?」
本来ならば喫茶店などでお茶を飲みながらのんびりと話を聞く予定だったが、残念ながら胃は何も受け付けない。
一応夕方の公園ということで周りに人が少ないので、話を聞くには最適とまでは言わないものの悪い場所でもなかった。
「ん? 何の話だ?」
「俺が後輩のアイドルちゃんのお悩み相談をするって話」
「なら自分も相談に乗るぞ!」
「えぇ!?」
「これもアイドルの先輩としての役目さー!」
何故か響ちゃんがやたらと乗り気になった。
(事務所に新たな者たちが入ってきて以来、先輩と呼ばれることをいたく気に入ったようで……)
(なるほどね……)
コッソリと貴音ちゃんが教えてくれたことから察するに、要は今まで業界の中でも新人扱いされていたところを最近になって先輩扱いされる機会が増え、それに気を良くして先輩風を吹かせたがっているといったところか。相も変わらず犬みたいというか小動物チックな子である。
「え、えっと……」
「……汝を蝕む魔力の波長に対する対抗魔術の適合者、我ら三人の内の誰やもしれぬ。話してみるのもまた一興」
迷うようにこちらに視線を向けてくる蘭子ちゃんに、もしよければ二人にも話を聞いてもらうように促す。もしかしたら俺が彼女の悩みに対する答えを持ち合わせていない場合もあるしね。
「……うむ、ならば我が魂を蝕む淀んだ魔力、解放せし呪術は汝らに託すことにしよう」
話を聞いてもらう決心がついたらしく、蘭子ちゃんはベンチから立ち上がると夕暮れの陽射しが強い中で日傘を差しながら語り始めた。
「それは、まだ赤き陽が天上に座す時のことであった。瞳を持つ者から我が降誕の時を告げられ、我がチカラとなりし新たな魔術の詩編を――」
「ストップ」
まるで詩を語るように話していた蘭子ちゃんに、響ちゃんからストップがかかった。
「……えっと、その……ど、何処の言葉なんだ?」
「熊本弁だって」
「熊本弁!? 自分たちの
まぁ沖縄弁は琉球語っていう外国の言葉と考えればまだ納得できるけど、蘭子ちゃんのエクストリーム熊本弁は日本語なのに解釈が難しいという理不尽さがあるからなぁ。
「りょ、良太郎さんは今の分かるのか?」
「まぁなんとか」
「それじゃあ良太郎さん、翻訳して」
「えー……」
動くのも辛いってことは喋るのも割と辛いってことで、蘭子ちゃんの熊本弁翻訳のために頭を使うのは更に辛いんだけど……。
「あーなんか最近下着のサイズが合わなくなってきたって美希が言ってた気がするぞー」
「コマンドー並みの名翻訳をしてみせるからその話を詳しく」
「この手に限るぞ」
それは今日のお昼の頃のことでした。
CDデビュー第二段としてなんと私が抜擢され、その打ち合わせをプロデューサーさんと行うことになりました。
「まだ、ラフの状態ですが……神崎さんのイメージで、作曲家の方にお願いしました」
「おぉ! 魂の波動が! 流石は瞳を持つ者!(わぁ! 素敵な曲です! 流石プロデューサーさん!)」
「気に入っていただけたようで何よりです」
プロデューサーさんから私のデビュー曲のラフを聞かせてもらいましたが、とても素敵な曲でした。プロデューサーさんも私が良い反応を示したことで若干ながらホッとした様子でした。
「今、作詞家の方に歌詞をお願いすると同時にもう一つ、PVの企画を進めています」
プロデューサーさんが企画書を捲ったので、それに合わせて私も紙を一枚捲ります。
「……っ!?」
思わず手が止まってしまいました。
そこに書かれていたのは口から血のようなものを流す人形の画像と『夜を統べる闇の眷属』『この世に紅き血の惨劇を』という、分かりやすくホラーな内容だったのです。
「神崎さんのイメージに合わせて……出来れば、本格的なホラーを……ダークな内容でと考えて……神崎さん?」
「………………」
プロデューサーさんの説明の途中でしたが、そっと企画書を閉じます。
「……こ、この紙片に紡がれしは過去の姿。既に魔力は満ち、闇の眷属たる時は終わりを告げた。今こそ、封じられし翼を解き放ち、魂を解放させる時(えっと……こういう雰囲気の企画は私のイメージと違うというかなんというか……。せ、折角アイドルデビューするんですから、私の考えを聞いてもらえますか?)」
「………………」
少し考えながらプロデューサーさんは自身の手帳を捲ります。
その手帳には今まで私が発してきた言葉の意味が纏めてあり、その中から私の言葉に当てはまるものを探している様子でした。
「……企画の内容に、何か問題が?」
「うむ!」
とりあえず私が現段階の企画に不満を持っているということは理解してもらえました。
「……具体的に言うと?」
「っ!」
その言葉を待っていました!
私は立ち上がると私がイメージする『私がなりたいアイドルの設定』を伝えます。
「かつて崇高なる使命を帯びて、無垢なる翼は黒く染まり、やがて真の魔王への覚醒が……!(以前は崇高な使命を持った天使だったんですけど、地上へ降りた際に闇の誘惑に抗えず堕天してしまい、そのまま真の魔王へと覚醒してしまうんです!)」
「使命……? 魔王……?」
再び手帳を捲りながら、プロデューサーさんは私の言葉の意味を理解しようとしてくれます。
「……イメージに相違があるのは分かりました。ですが、すみません……差が、よく分かりません」
「えっ」
「それが、重要なことなのでしょうか?」
「……っ!?」
――結局プロデューサーさんも、私の言葉を理解してはくれませんでした。
「――降誕の時を前にして、かの者は瞳の力を曇らせてしまった……。我が言の葉を操る術に長けていればその秘めたる真意を伝えることが出来るのだが……」
「『デビュー直前になってプロデューサーさんが私の言葉を理解してくれませんでした……。私がもう少し分かりやすく言えれば良かったんですけど……』ってところかな」
一通りの翻訳を終え、アーニャちゃんが自販機から買ってきてくれたペットボトルのお茶を飲んで喉と胃をスッキリとさせる。まだまだ満腹状態は継続中だが、割と普通に行動できるぐらいにまでは回復した。
「……なんというか、本当にコマンドー並みの意訳を含んでそうな翻訳というか、ご丁寧に声帯模写まで使って副音声みたいになってたけど……えっと、蘭子だよな? 良太郎さんが翻訳した内容はあってるのか?」
「うむ! 正しく我と瞳を持つ者の対話そのものであった!」
「……とりあえず良太郎さんの翻訳が異次元を超越して第四の壁の向こう側視点だったことはこの際置いておくぞ……」
我ながら素晴らしい出来だった俺の翻訳に若干不満がある様子だったが、そこに目を瞑り響ちゃんは蘭子ちゃんの悩みの内容を吟味する。
「んー……根本的な問題とは関係ないかもしれないけど、自分は蘭子の気持ちが分からないでもないぞ」
「えっ」
「ふむ、わたくしにも、ほんの少しではありますが身に覚えがあります」
「えっ!?」
響ちゃんと貴音ちゃんの反応に、思わず素になって驚いてしまった蘭子ちゃん。
「な、汝らも我と同じ淀んだ魔力に蝕まれていたと言うのか!?」
「響ちゃんたちも、蘭子ちゃんと同じ悩みを抱えていたの?」
すぐにキャラを復活させ、俺も彼女の翻訳というか通訳を再開する。
「んー、全く同じって言うと微妙なところなんだけど……」
ポリポリと頬を人差し指で掻きながら、響ちゃんは苦笑を浮かべる。
「自分も、実家の島を出たばかりの頃はあんまり言ってることを理解されなかったから」
「……え」
「自分、走れば三十分で一周出来ちゃうぐらいちっちゃな島の生まれでさ。
「わたくしは響とは違いますが……ごく稀に『言動や雰囲気が良くわからない』などと言われることがあります」
そう語る響ちゃんと貴音ちゃんに、思わず内心で成る程と一人納得する。
要するに、響ちゃんは沖縄弁という言葉そのものが、貴音ちゃんは独特な雰囲気から発せられる言葉の内容が、それぞれ蘭子ちゃんと同じように理解されないことがあったということか。
「な、汝らはその淀んだ魔力、その呪縛から如何にして解放された!?」
「うーん、と言ってもなぁ……」
流石にこれは俺が訳すまでも無く理解した様子の響ちゃんだったが、その蘭子ちゃんからの問いに再び言葉を濁らせる。
「その、自分の場合は普通に標準語を覚えてそっちを使うようになっちゃったから……」
「わたくしも、特に何かしらの行動をした訳ではありませんので」
「……そ、そうか……」
二人の解答にシュンとした蘭子ちゃんは、日傘を差したままベンチに腰を下ろした。
「……やはり我が言の葉は下界では通用せず、降誕をするには再転生の儀が必須か……」
「……いや、蘭子ちゃんに必要なのは『変えること』じゃなくて『変わること』だよ」
「え……」
「それ、同じじゃないのか?」
「違うよ」
よっこいせ、と精神的にも肉体的にも重くてベンチの背もたれに預けていた体を起こす。
「『変えること』と『変わること』は似て非なるものだよ」
・「クククッ……逃すなよ……! 新たな伝説の瞬間……刹那のシャッターチャンス……!」
・決死のダイブ……! 麺の海っ……!
『中間管理録トネガワ』とかいうカイジ読んだことある人ならば絶対に笑うスピンオフ。
・爆流破
個人的には金剛槍破よりこっちの方が好き。でも竜鱗の方がもっと好きです。
・「この手に限るぞ」
玄田版が有名だけど屋良版も割と名翻訳だと思う。
・響と貴音の昔の悩み
当然オリジナル設定だから、実際に悩んでたかどうかは別。
アニメとは別場所に着地しそうな雰囲気ですが、一応同じ場所に着地する予定です。
※追記
感想で「こういう時こそ声帯模写使って副音声付けるべきだろ」と真っ当なツッコミをいただきましたので、一部文章を差し替えました。
『どうでもいい小話』
デレステプレイヤーなら周知のことですが、先月末にシンデレラフェスが開催されて楓さんの限定SSRが登場しました。
えぇ、当然回しましたとも。それまで貯めた三万個のジュエルを全て溶かす覚悟で回しましたとも。
無償30連でお迎え出来たよおおおおおお!!うわ何この楓さんメッチャ美しい!
書けば出るって本当やったんやな……!
というわけで、みんなで書こうデレマス個別メイン小説!