アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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・デレステ風 周藤良太郎のウワサ1
『大きい』方が好きなだけであって『小さい』のも否定しないらしい。


Lesson140 Panic in the muscle castle 3

 

 

 

『かな子ちゃんたちの初テレビを実際に生で見よう!』

 

 初めにそう言いだしたのは未央だった。そして実際に私たちのレッスンの調整とプロデューサーにお願いをして番組観覧の席を確保したのも未央だった。以前123プロの北沢さんのデビューイベントを見に行った時もそうだが、こういう時の未央の行動力は目を見張るものがあり、このバイタリティーは成程リーダー気質だと一人納得してしまった。

 

 そんなわけで収録日当日。かな子たちの楽屋へ向かう途中で『Jupiter』の天ヶ瀬冬馬さんと出会ったり、実は卯月が冬馬さんと知り合いだったり色々あったわけなのだが、ハプニングというか驚くべきことはこれだけではなかった。

 

「いやー……まさかこんなことになるとは……」

 

 観覧席の一番隅に陣取り、私たちはスタジオのセットを見ながら苦笑する。

 

 今日かな子たちが出演するはずだった番組である『頭脳でドン! Brains Castle!!』のタイトル看板の『頭脳』の部分にバツ印が打たれて『筋肉』というある意味で真逆の言葉に据え変わっていた。そうして新しくなった看板には『筋肉でドン! Muscle Castle!!』の文字。

 

 かな子たちが出演する番組が、クイズバラエティーからアクションバラエティーになってしまっていた。

 

「本当にどうしてこうなったんだろ……」

 

 思わず呟き、チラリと横目でセットの下手側を除くと、プロデューサーも首筋に手を当てながら困った様子でスタッフさんたちと話をしていた。恐らく、プロデューサーも今回の話を聞かされていなかったのだろう。

 

 しかし良太郎さん曰く「急遽仕事内容に変更があったとしても文句を言うのはプロデューサーの仕事。『はい任せてください』と頷くのが一流のアイドル」らしい。ちなみに「勿論限度はあるけどね」との注釈も忘れなかった。

 

 そんなわけで、番組の収録自体は予定通りに始まるのだった。

 

 

 

「みなさぁん! 退屈してますかぁ?」

 

 窮屈そうな胸元のディーラーのような衣装に、随分と短いタイトスカート。若干露出が激しい女性がそう呼びかけると、観覧客は一斉に「してるー!」と返事をした。

 

「そんな退屈は対決で解決!」

 

 同じくディーラーのような衣装で、しかしこちらはパンツルック。笑顔なのにキリッとした理知的な雰囲気の女性がそう続く。

 

「瑞樹と愛梨のキュンキュンパワーでみんなを刺激しちゃうわよ!」

 

 番組MCである十時愛梨さんと川島瑞樹さんの登場に、観覧客のテンションは一気に跳ね上がり歓声が上がる。隣の未央も先輩の登場に同じように歓声を上げており、その熱気に私と卯月は目を白黒させるのだった。

 

「それでは今夜も始まりまぁす!」

 

「はいはーい、頭脳が筋肉になって装いも新たにスタートしたわけですが……愛梨ちゃん、どうしてだか聞いてます?」

 

 早速番組を進行する十時さんに、川島さんは私たちも思っていた疑問を投げかける。

 

「えっとぉ、アイドルがあまりにもクイズが苦手すぎて、番組が成り立たない――」

 

「さて、それじゃあ早速アピールタイムをかけて対決するアイドル達の登場です!」

 

 あまりにもあんまりな理由をストレートに言おうとした十時さんの言葉を遮り、川島さんは強引に話を進めた。

 

 川島さんが上手(かみて)(観客側からみて右側)を手で示すと、そこに設置されていたゲートを遮るカーテンが開き、姿を現したのは体操服姿の輿水幸子ちゃん、小早川紗枝ちゃん、姫川友紀さんの三人だった。

 

「まずは最多出場の代り映えのしない面々でぇす」

 

「それではチーム名をどうぞ!」

 

「カワイイボクと!」

 

「野球!」

 

「どすえチーム、どすえ」

 

 彼女たちは(一応)前番組になるブレインズキャッスルの頃から何度も出演しているらしく、慣れた様子で自己紹介を済ませた。

 

「続いては、シンデレラプロジェクトが送り込んだ刺客! 今日は初テレビというフレッシュ三人さんです!」

 

 そうして今度は川島さんが下手(しもて)(観客側からみて左側)を手で示すと、反対側のゲートからかな子たちが姿を現した。しかし彼女たちは幸子ちゃんたちがポーズを取りながら登場したのに対し、ほぼ棒立ちの状態だったのが少々残念だった。

 

 そんな風に一番最初の登場は地味だったものの、とりあえず小走りに入場する。

 

「いらっしゃーい」

 

「ではチーム名をどうぞ」

 

 川島さんに促され、三人は一度目配せをすると――。

 

「きゃ、キャンディーアイランドです」

「キャンディーアイランドでーす」

「きゃ、キャンディーアイランド、で、です!」

 

 ――まぁ、何となくそんな気はしてた。

 

「初々しいですねぇ」

 

 そんな三人に、十時さんはクスクスと笑みを浮かべる。

 

「初々しさでは完全に負けてるKBYDチームさん、今日は勝てそうですか?」

 

 そう川島さんが話を振ると、幸子ちゃんはフフンといつも通りの自信満々な表情になった。

 

「大丈夫ですよ、なんていったってボクが――」

 

「待ってくださぁい! そういう意気込みはマイクパフォーマンスでどーぞ!」

 

「……と、ここまでは普段と同じ流れなのですが」

 

「今回から、特別ルールが追加されまぁす!」

 

「と、特別ルール?」

 

 MC二人の突然の発表に、聞かされていなかったらしい幸子ちゃんが目を白黒させる。他のみんなも知らなかった様子でキョトンとしていた。

 

「皆さんご存知の通り、元ブレインズキャッスルで現マッスルキャッスルのここは『お城』。当然、王様がいらっしゃいまぁす」

 

「王様にはこれから様々なミニゲームで対決する両チームの活躍を見ていただき、より『アイドルらしいアピール』をしたチームに王様からの褒美としてボーナスポイントが加算されます」

 

「早い話が、毎週審査員として様々な方をゲストとしてお呼びして、皆さんのアイドルらしさを採点してもらうということでぇす」

 

 最後の十時さんの説明が一番ざっくりしていて分かりやすかった。

 

(……王様)

 

 王様と呼ばれて真っ先に思い浮かんだのは良太郎さんだった。普段の態度や言動からは全く結びつかないはずなのだが、何故か仰々しい椅子に座って踏ん反り返っている姿が想像できた。

 

 まぁ、流石にないだろうけど。

 

「ちなみに今回は便宜上第一回の王様ということで、特別なゲストにお越しいただいております」

 

「実はあたしたちも知らないんですよねぇ」

 

「特別なゲスト……ふふん、このカワイイボクに霞まないといいんですけどねー」

 

 相変わらず幸子ちゃんのその自信は何処から来るんだろうと疑問に思いつつ、何やら嫌な予感がしてきた。「流石にないだろうけど」と言った舌の根も乾かぬ内にこれである。

 

「それでは、登場していただきましょう」

 

「王様の、おなーりー!」

 

 そう川島さんと十時さんが手を上げる。

 

『………………』

 

「……あれ?」

 

 その疑問の声は誰のものだったか。多分その場にいた全員の心の声だったかもしれない。

 

 スタジオの上手下手両方のゲートのカーテンが開いたのだが、そこには誰も立っていなかった。

 

 一体何処に……?

 

 

 

「……わーたーしーがー! 観覧席側から来た!!」

 

 

 

『きゃあああぁぁぁ!!?』

 

 それは一瞬でスタジオ内に響いた甲高い歓声だった。

 

 私たちが座る観覧席のすぐ横、具体的に言うと一番隅に陣取った私たちの脇から現れたのは、やはりというかなんというか良太郎さんだった。

 

 予期せぬトップアイドルの登場に、観覧客は老若男女問わず沸き立った。

 

「周藤良太郎!?」

「嘘マジ!?」

「流石本物は画風が違う気がする!」

 

 画風って何さ。

 

 何故かアメリカナイズに「HAHAHA!」と声だけで笑いながら観覧客たちに手を振りながらセットの中に入っていく良太郎さんは、当然物怖じすることなく緊張なんて欠片もしてそうになかった。

 

 ……チラッとこちらを一瞥して親指を立てたところを見ると、どうやら私たちのことには気付いているようだ。

 

「というわけで本日の特別ゲスト、もとい本日の王様は言わずと知れた『キングオブアイドル』周藤良太郎君にお越しいただいきました」

 

「わぁ! 良太郎さん、いらっしゃーい!」

 

「お邪魔しまーす」

 

 思わぬ人物の登場に若干戸惑いながらも元アナウンサーなだけあってキチンと進行をする川島さんと、驚きつつも全く動じていない十時さんが対称的だった。

 

 当然、今回対決する両チームも驚いており――。

 

「えぇ!? 良太郎さん!?」

 

「な、なんで良太郎さんが……!?」

 

「うわ、出たよこの人……」

 

「なななななっ……!?」

 

「ほわぁ……びっくりやわぁ」

 

「あれ、良太郎じゃーん」

 

 ――一部のアイドルは全く驚いていなかった。というか一人凄い親し気な人がいた。

 

「お、友紀、おっすおっす」

 

「あれぇ? 良太郎さんは友紀ちゃんとお知り合いなんですかぁ?」

 

「高校の同級生なんだ」

 

「ミス・フォーチュンの茄子も合わせて三人でクラスメイトだったんだー」

 

 なんというか、本当に良太郎さんって意外とアイドルにプライベートな知り合いが多い気がする。こうして仕事の現場だけでなく、普段の生活からアイドルによく出会うのか、それとも逆に彼と関わることでアイドルになるのか。

 

「それで、今日俺は何をすればいいんですか? 何にも聞いてないんですけど」

 

「……えっ!? どういうこと!?」

 

「仕事の話が来た時も『可愛い女の子たちが飛んだり跳ねたりする姿を生で見るだけの簡単なお仕事』としか説明受けてないですし、今日も『合図があったらとにかく勢いよくスタジオに入ってください』としか指示受けてないですし」

 

「スタッフ!?」

 

 逆にそれだけの説明しかないにも関わらず仕事を受けて、尚且つ物怖じせずにここまで堂々とスタジオ入り出来る良太郎さんは本当に何なのだろうか。

 

 ここで簡単に川島さんが先ほどもした説明をすると、黙って聞いていた良太郎さんはフムフムと頷いた。

 

「要する俺は王様役として、自分が気に入ったアイドルにボーナスポイントという名のお捻りをあげればいいんですね?」

 

「そういうことよ」

 

「成程成程」

 

 そう言って納得したように頷いた良太郎さんは突然右手を上げると――。

 

 

 

「王様権限により、愛梨ちゃんに十ポイントォォォッ!」

 

 

 

「流石にMCは対象外よ!?」

 

「せめてミニゲームをやってからにしてくれませんかね!?」

 

 笑いながら「わぁ! ありがとうございますぅ!」と十時さんが喜ぶ中、明らかに見た目というか体型の好みだけでアイドルを選んだ良太郎さんに対して川島さんと幸子ちゃん渾身の叫びが響き渡った。

 

 ……こんな濃い人が来ちゃったけど、三人はちゃんとカメラに映れるのだろうか……。

 

 

 




・「そんな退屈は対決で解決!」
25「その()の踏み方はい()()じゃな()()ですか」

・「アイドルがあまりにもクイズが苦手すぎて、番組が成り立たない――」
それで成り立っていた番組が以前にも……ヘキサ――うっ、頭が!?

・カワイイボクと野球どすえチーム
通称KBYD。アニメオリジナルのバラエティユニット。
果たして何がどうなったらこの三人でユニットを組むことになるのだろうか……。

・「……わーたーしーがー! 観覧席側から来た!!」
・「流石本物は画風が違う気がする!」
『無個性』なアイドル天海春香をオールマイトPが残り僅かな時間を使ってトップアイドルに育てる『ワンフォーオール編』とか誰か書いてくれませんかね。



 残り一話ですが、とことん暴走させたいと思います。

 ちゃんとCIとの絡みもある予定ですので、ご安心を。

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