アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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・デレステ風 123プロの佐久間まゆのウワサ1
実は良太郎の部屋の住所を知っているが、迷惑をかけないために行かないと決めているらしい。


Lesson147 My favorite one

 

 

 

「へー、ついにシンデレラプロジェクト最後のメンバーのデビューが決まったんだ?」

 

「よかったわねぇ、未央ちゃん」

 

「……貴女に言うのも変かもしれないけど、おめでとう」

 

 とある平日の放課後。レッスンまで微妙な時間が空いてしまったため、アタシ・まゆ・志保の三人はファミレスで適当に時間を潰すことにしたのだが、その途中で偶然未央と遭遇。彼女も事務所に行くまで少し時間があるとのことなので、四人揃って駄弁りタイムとなった。

 

 そこで話題に上がったのが、彼女が所属しているシンデレラプロジェクトの話。未央たち『new generations』を皮切りに『LOVE LAIKA』『Rosenburg Engel』『CANDY ISLAND』『凸レーション』と順番にデビューしていき、ついに最後の二人のデビューが決まったとのことだった。

 

「うん……良かったんだけど……」

 

 しかし何故か未央は困ったような苦笑いを浮かべていた。

 

「……ねぇ、三人に聞いてみたいんだけどさ」

 

「何々ー? 答えられることなら何でも答えるよー?」

 

「ちなみに良太郎さんのプロフィールは、一部非公開だから答えられないわよぉ」

 

「その非公開のプロフィールをどうしてまゆさんが知っているんですか……?」

 

 

 

「えっと……『猫耳』と『ロック』ってどう思う?」

 

「「「……は?」」」

 

 

 

 そんなよく分からないアンケートみたいな質問に対し、思わず呆気に取られるアタシたち。未央も「ごめん突然すぎたね」と苦笑しつつ、補足説明を始める。

 

「私たちのプロジェクトで最後に残っちゃった前川みくっていう子と多田李衣菜っていう子がユニットを組むことになったんだけど……この二人の反りが全然合わなくてさぁ」

 

 曰く、前川みくちゃんは猫キャラを自称して猫耳を推していきたい。曰く、多田李衣菜ちゃんはロックなアイドルを目指していてロックを推していきたい。二人とも自分の推したいものを文字通り押し付けあっている状況で、ユニットとしての方向性どころかユニット名すら決まっていないらしい。

 

 しかも来月末に346プロダクションのアイドルフェスが開催することが決まり、このままでは参加することすら難しい状況になってしまったとのこと。ユニットとしてデビューしないという選択肢も一応あるとのことだが、その場合時期的にどちらか一人はフェスに参加することが出来なくなってしまうらしい。

 

 要するに、ユニット仲があまりよろしくない二人はこのままではフェスまでにデビューが間に合わなくなる、と、

 

「だから一応参考までに、アイドルとしての先輩のご意見をお伺いしてみよーかと思って」

 

「猫耳とロック……ねぇ」

 

 確かに、何となくイメージ的には相反しているような気がしないでもない。

 

「アイドルっぽい可愛らしさってゆーんなら、やっぱり猫じゃない?」

 

「でもそれは『キャラクター性』や『ビジュアル性』の話です。『アーティスト性』を出していきたいのであればロックというのも間違っていないと思います」

 

 アタシの意見に反論する志保の意見にも、確かに一理あった。

 

 一瞬頭の中に浮かんだのは、別に猫耳ではないけど今や『アイドルの理想像』として有名な春香さんと、別にロックではないけど今や『日本を代表する歌手』の一人である千早さん。方向性的にはそれに近しいものを持っている二人ではあるものの、どちらも今をときめくトップアイドルだ。ならば、どちらがアイドルらしいのかという話は無意味である。

 

「うーん……やっぱり、そんな二人がユニット組むのって難しいのかなぁ?」

 

「あら、そんなことないわよぉ?」

 

 頬杖を突きながらコーラをストローで吸い上げる未央の言葉を、まゆが優しく否定した。

 

「私たちで例えるなら……イメージ的に言えば、私は『猫耳』の方でしょ?」

 

 にゃおーんと手で猫耳を作るまゆ。かわいい。

 

「同じように恵美ちゃんはイメージ的に言えば『ロック』の方。でも私たちは仲良くユニットデビューしてる。一見真逆の方向性を持っている二人でも、意外に相性が良かったりするのよぉ?」

 

 ね? と同意を求めるまゆに「とーぜんっしょ!」と親指を立てる。

 

 アタシたちも出会った当初は険悪……というかまゆから一方的に嫌われていたが、今ではお互いが親友だと笑って胸を張ることが出来る仲になった。それと同じように、衝突ばかりを繰り返して相性が悪そうに見える二人でも、それはただ単に歯車が噛み合っていないだけであって、何かのきっかけがあれば最高の相性を見せることがあると思うのだ。

 

「あの二人の場合、ぶつかりすぎて噛み合う前に歯が欠けちゃいそうなんだよねぇ……」

 

「ならもっと穏便に歯車を噛み合わせればいいだけよぉ」

 

「と、言うと?」

 

 

 

「お互いがお互いに持っている絶対に譲れないそれを、ちゃんと理解すればいいの」

 

 

 

 

 

 

 さて、本日のお仕事とレッスンも終わり、既に夜である。いくら日が長くなってきたとはいえ八時を過ぎれば流石に辺りは暗く、ヘッドライトを付けて夜の道をひた走る。

 

 しかし向かう先は自宅ではなくスーパーマーケットである。

 

 というのも、先ほど早苗ねーちゃんから『明日の朝の牛乳が切れちゃったから帰りに買ってきなさい』という指令文が届いたのである。こちらの業界では最近制作側の人間が楽屋に挨拶に来るようになったぐらいには地位が高いトップアイドルの俺だが、残念ながら我が周藤家のヒエラルキーにおいて最下層。二つ返事で了承する以外の選択肢なんて存在しなかったのだ。

 

 そんなわけで近所のスーパー……ではなく、たまたま目に入った近場のスーパーへ。いつも利用しているスーパーは自宅の反対側になるのでここで買っていった方が早い上に、あそこはこの時間帯になると半額弁当や半額惣菜を求める奴らの戦場になるので基本的に近寄りたくない。それさえなけりゃ良いスーパーなのだが……。

 

 野菜売り場には用事が無いので順路を逆から周り早々に牛乳を確保し、ついでに晩酌の肴(今さらだが成人である)を何か買っていくかと総菜売り場を見に行く。

 

 するとここも閉店間際であるため、値引きシールが張られた惣菜が一塊になって陳列されていた。

 

「……ここは大丈夫だよな?」

 

 以前無警戒にシールが貼られた惣菜に手を出そうとして酷い目にあったので、若干手を伸ばすのを躊躇してしまった。

 

「この時間だと、お惣菜が五十円引きになってお得なの」

 

「そんなに食べるの……?」

 

「アイドルは体が資本だから、夕食はなるべく三十品目取るように心掛けてるにゃ」

 

 そんな俺の横では、後ろの連れと話しながら次々にお惣菜を買い物カゴに入れる少女の姿があった。服装と言動から察するに学生アイドルだろうか。うんうん、その向上心は素晴らしい――。

 

「――って、あれ? みくちゃん? それに李衣菜ちゃん?」

 

「はい? ……ふにゃあ!? りょ、良太郎さん!?」

 

「え、良太郎さん!?」

 

 何やら聞き覚えのある声だなぁとは思っていたが、なんとカーディガンにブラウスのみくちゃんとセーラー服の李衣菜ちゃんだった。彼女たちと顔を合わせる機会は微妙に少ないが、それでも二人の制服姿は新鮮だった。

 

「安定のアイドルエンカウント率だなぁ……」

 

 なんかもう『黄金律』ならぬ『アイドル律』みたいなスキルがあるのかもしれない。こう、アイドルが巡り巡って俺の元に訪れるみたいな。本当にアイドルとして活動している人全員と巡り合いそうで怖い。時間(ページ数)が足りねーよ。

 

「ど、どうして良太郎さんがここに……!?」

 

「勿論買い物だよ。普段はここ使ってないんだけど、たまたま帰り道だったからね」

 

 李衣菜ちゃんの問いかけに牛乳が入ったカゴを見せて答えつつ、自分も値引き惣菜の中からから揚げやサラダをその中に入れる。

 

「二人はこんな時間までレッスンかな? 遅くまでご苦労様」

 

「あ、いえ! その、良太郎さんもお疲れ様です……って、みくちゃん何でさりげなく私の後ろに隠れるのさ」

 

「えっと、その……な、何でもないにゃ……」

 

「何でもないなら押さないでよっ」

 

 相変わらず微妙にみくちゃんから距離を取られている。本当に心当たりないんだけどなぁ……?

 

「それにしても、こんな時間にスーパーでお惣菜を買ってるってことはもしかして二人とも一人暮らし? そういえば346には寮があったっけ」

 

 前に蘭子ちゃんとアーニャちゃんが寮で暮らしてるって言っていたことを思い出した。

 

「あ、いえ、みくちゃんはそうですけど、私は実家暮らしです。今はみくちゃんの部屋に泊まってますけど」

 

「へー、お泊り? いいねぇ仲良しだねぇ青春だねぇ」

 

 俺はアイドルになってから忙しくてそういうのはなく、アイドル以前のそれはどちらかというと高町家で散々叩きのめされて帰宅困難になりそのまま泊めてもらうという若干血生臭いものだった。青春の証は汗と涙だけで充分である。

 

「「仲良しぃ……?」」

 

「え、何故そんな嫌そうな声が」

 

 二人揃ってカメラが回ってないところで「周藤良太郎さんと仲が良いんですね」と聞かれた時の麗華と同じ顔をしていた。

 

「いや、別に好き好んでみくちゃんの部屋に泊まってるわけじゃなくってですね……」

 

「……丁度いいにゃ、李衣菜ちゃん。ここは正真正銘のトップアイドルである周藤良太郎さんに白黒ハッキリつけてもらうにゃ」

 

「っ!? ……オッケー、後悔しても知らないよ?」

 

「ふんっ! それはこっちのセリフにゃ!」

 

 かと思いきや、今度は最後に決着をつける間際のライバル同士みたいな顔である。やっぱり仲良しなのでは……?

 

「「良太郎さん! 猫耳とロック、どっちがアイドルとして相応しいですか!?」」

 

「……はい?」

 

 アイドルに相応しい? いやまぁアイドルは千差万別だから、別にどちらが相応しくてどちらが相応しくないとかそういうのは無いと思うけど……。

 

 ん? 猫耳とロックって、これもしかしてみくちゃんと李衣菜ちゃんの話?

 

「「どっちですか!?」」

 

 ずずいと詰め寄ってくる二人。みくちゃんは先ほど俺から距離を取っていたことを忘れているぐらい鬼気迫る勢いだ。

 

「……とりあえず一つだけ言いたいことは」

 

「「なんですか!?」」

 

 

 

「……先にお会計済ませようか」

 

「「……あ」」

 

 

 

 いくら閉店間際とはいえお客さんはいるわけだから、なんかもう凄い目立っていた。

 

 今回はちゃんと変装による認識阻害が効いてて良かったと安堵しながら、自分たちの声の大きさを自覚して真っ赤になった二人と共にレジへと向かうのだった。

 

 

 




・にゃおーんと手で猫耳を作るまゆ。かわいい。
かわいい。

・半額弁当や半額惣菜を求める奴らの戦場
初見で「あれ何で楯無先輩出てるの?」とか思っちゃった人素直に手を挙げてー(ハーイ)

・晩酌の肴
良太郎の飲酒事情は完全に作者の趣味が入っております。ビールより日本酒やワインが好き。

・『アイドル律』
当然ランクはA。今後も(作者の事情により)良太郎の人生にはアイドルが付きまといます。



 今回からアスタリスク回となります。予告していた通り、オリ展開中心です。

 最近出番が無かったあの人たちから派生して、ようやく初登場のあの子たち等々。

 お楽しみにお待ちいただけたら幸いです。

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