アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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タイトル? しまむーの例の画像見て思い付いたに決まってるでしょ!


Lesson151 Hot limit!

 

 

 

「へぇ、フェスに参加か」

 

「うん」

 

 今日も今日とて渋谷生花店である。今さらながらすっかり夏であり、半袖から覗く凛ちゃんの二の腕が大変眩しかった。

 

 さて、凛ちゃんの話によると、シンデレラプロジェクトの全員が無事にデビューを迎えたことで、今月の終わりに予定している346プロのサマーフェスに参加することが決定したらしい。346のフェスっていうとそこそこの規模のものだし、これは新人さんである凛ちゃんたちには絶好のチャンスってやつだな。

 

「ニュージェネレーションズとして初めて立つ大舞台だから……ちょっと楽しみ、かな」

 

「大舞台を楽しみって思えるようになるなんて、凛ちゃんもアイドルらしくなったね」

 

「そ、そう?」

 

 興味無さそうに髪の先を弄りながらも満更じゃなさそうな凛ちゃんは可愛いなぁ。おじさん、この子貰ってっちゃダメ?

 

「この間ちょうど十六になったけど、せめて高校卒業まで待ってくれないかな」

 

 ……いや、誕生日は俺も一緒にお祝いしたから知ってますけど、おじさんは一体何を言っているのでしょうか?

 

 閑話休題。

 

「それで、その前にプロジェクトメンバー全員で合宿することになったんだ」

 

「やっぱり決戦前の修行イベントは欠かせないよね。それで、誰が天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)を覚えるの?」

 

「九頭龍閃使える人がいないから無理かな」

 

 そもそも比古さんみたいな頑丈な体躯と筋肉量が無いと負担が大きいっていう話もあるけど、ともあれ合宿か。

 

「卵とはいえ、アイドルばかり十四人の合宿とは華やかでいいねぇ」

 

 ふと思い返すのは去年の765プロの合宿。あの時は春香ちゃんたちに加えて恵美ちゃんたちバックダンサー組がいたから総勢二十二人(赤羽根さんを除く)という大所帯だったっけ。

 

「ちなみに何処でやるの?」

 

「……来るの?」

 

「そこまで警戒しなくても」

 

 純粋に話題として合宿場所を尋ねたら真っ先にそれを確認されるのは若干納得がいかない。「えぇ……?」という目で見られるのも納得がいかない。

 

「えっと、確か福井県にある民宿って言ってた。運動場があって合宿するには最適な場所なんだって」

 

「うーん残念、近場だったら顔出そうかとも思ったんだけど」

 

「来なくてもいいのに」

 

「差し入れありでも?」

 

「………………」

 

 すっごい葛藤してる。俺からの差し入れイコール翠屋のシュークリームはほぼ確定だからね、仕方ないね。

 

「……ん? 福井? 運動場がある?」

 

 何やら既視感(デジャヴ)

 

「もしかして『わかさ』っていう名前の民宿だったりしない?」

 

「……え、どうして分かったの?」

 

 なんという偶然。

 

「実はその民宿、伝説のアイドルがライブ前の追い込み合宿に使用したという噂があったりなかったり、そこでレッスンを重ねたアイドルはさらなる高みに上ったり上らなかったり、少年が神話になったりならなかったり、運命とか知ったり知らなかったり、羽が生えているとかいないとか、熱い何かが裏切るかもしれないともっぱらの噂で……」

 

「何一つとして得られた情報がないんだけど」

 

「前に仕事の途中で寄ったことがあるから知ってるってだけだよ」

 

 あの運動場には765プロのみんなだけでなく俺や冬馬もサインを置いていったはずだから、ここで黙ってても多分気付くだろう。サプライズは基本。

 

「まぁ合宿である以上は気合を入れてレッスンをするのは当然だけど、折角の夏休みで仲間と一緒にお泊りを楽しんでくるといいよ。山と海に囲まれたいいところだから」

 

「何人かは海が近くにあるって聞いた途端に遊ぶ気満々だったよ」

 

 その時の光景が目に浮かぶなぁ。

 

「ちなみに莉嘉はカブトムシが捕れるって聞いて目を輝かせてた」

 

 ……目に浮かぶなぁ。

 

「っと、そうだ、忘れないうちに」

 

 そう言って凛ちゃんはお尻のポケットから一通の封筒を取り出した。

 

「はい、これ」

 

「? 開けていい?」

 

 差し出されたので受け取り、許可が下りたので開封して中身を取り出す。中に入っていたのは、先ほど話題に上がった346プロサマーフェスのチケットだった。

 

「二枚貰ったから、良太郎さんにあげる」

 

「いいの? 二枚とも入ってるけど」

 

「……お父さんとお母さんに来てもらうのはちょっと恥ずかしいし……良太郎さんはその、アイドルの先輩だし、私たちシンデレラプロジェクトの行く末を見守ってくれるんでしょ? ……なら来なくちゃダメだよ」

 

 その理論はよく分かんないけど、とりあえず暗に「見に来てほしい」と言っている凛ちゃんはやっぱり可愛いなぁ。おじさん、やっぱりこの子貰ってっちゃダメ?

 

「せめて式のお金を折半出来るようになるまで待ってくれないかな」

 

 ……式とかお金とか、おじさんは本当に一体何を言っているのでしょうか?

 

「とにかく、そういうことならありがたく受け取っておくよ。フェス、楽しみにしてるよ」

 

「……う、うん。頑張る」

 

 そう言葉少なく頷きながらも、凛ちゃんのその目は熱く燃えているような気がした。

 

 

 

「あ、そうだ。福井のお土産って何があるのかな?」

 

「俺が行ったときは『東京バナナ』買って帰ったけど」

 

「……福井土産?」

 

「あ、俺のお土産はみんなで海に遊びに行った時の写真でいいからね!」

 

「分かった、幸太郎さん経由で渡すね」

 

「ヤメテ!」

 

 

 

 

 

 

「さてと」

 

 全体ミーティングがあるので事務所に戻る最中、エレベーターの中で一人思案する。

 

 凛ちゃんからフェスのチケットを二枚貰ったわけだけど……誰を誘ったものか。交友関係が広すぎるとこういう時にパッと思いつく相手がいないのが難点である。二枚とも恭也と月村に渡して俺は自分で入手するっていう手も考えたが、流石に貰ったものを渡すのは悪い気がするしなぁ……。

 

 恵美ちゃんたちの誰かを……いや、三人の中から一人だけっていうのもアレだしなぁ……こうなったら俺が彼女たちの分のチケットを確保するっていう手も……。

 

「ん。戻ったか、良太郎」

 

「もうこいつでいいか」

 

「何だよいきなり」

 

 事務所のラウンジに戻ると冬馬がいた。

 

「冬馬、今月末は可愛いアイドルたちを見に行くぞ」

 

「お前も俺も普段テレビ局でそんなもんいくらでも見てるだろ」

 

 ちゃんと説明しろと言われたのでちゃんと説明する。

 

「実は知り合いから346プロのサマーフェスのチケットを二枚貰ってな。暇そうにしてたお前に声かけてみた」

 

「今は仕事終わりなだけで、未来は暇って決まってねーよ。……大体、そーいうのなら朝比奈……は今日本にいねーから、佐久間か星井辺りを誘ってやれよ」

 

「何でその二人の名前が挙がったのかは知らんが、一人しか誘えないから流石にアレかなって思って」

 

「………………」

 

「何だよ」

 

「……いや、何でもない」

 

 とりあえず参考までに、チケットが入っていた封筒に同梱されていたフェスのパンフレットを渡す。出演者のリストも載っていたから、もしかして冬馬が興味を持つアイドルがいるかもしれない。

 

(高垣楓に城ヶ崎美嘉、川島瑞樹……と。346のアイドル部門の顔が勢揃いってところか。……ん、『new generations』ってことは島村の奴も出るのか)

 

 ふーん、と首に手を当てながら思案する冬馬。昨今流行りの『首が痛い系男子』の図だが、イケメン故に似合っているのが腹立たしい。……よくよく考えたら武内さんも結構このポーズしてたっけ。

 

「……しゃーねーな、行ってやるよ」

 

「お、マジで?」

 

「急に仕事が入んなかったらな」

 

 よし、これで同行者確保だ。別に一人でアイドルのライブに行くことに対して抵抗があるわけじゃないが、こういうのは知り合いと行くのが楽しいのだ。

 

「んじゃとりあえずチケットを……」

 

「あっ! それって346のサマーフェスですか!?」

 

 渡しておこうかと思ったら、ちょうど外から帰って来た恵美ちゃんが俺の手にあるチケットを指差しながら大声を上げた。

 

「うん、そうだけど……あ、もしかして恵美ちゃん行きたかった?」

 

「あ、いや、そーじゃなくて」

 

 なら冬馬じゃなくて恵美ちゃんに、と思ったがどうやら違ったらしい。

 

「実は~……じゃーん!」

 

「おおっ! ……え、何でそこに入れてたの?」

 

「え? こっちの方が面白いかなって思って」

 

 自分で効果音を発しながら、恵美ちゃんは自分の胸の谷間から一通の封筒を取り出した。……こういうことを普通にやっちゃう辺り、この子も割りと天然というか、無自覚な小悪魔というか……。

 

「って、もしかして」

 

「はい! アタシとまゆも行くんです、サマーフェス!」

 

 なんでも恵美ちゃんも知り合いからチケットを二枚渡されたらしい。

 

「本当は志保も誘いたかったんですけど……」

 

「チケットなら、たった今冬馬に渡そうとしてた奴を融通するけど」

 

「執着するわけじゃねーけどオイ」

 

 いやだって出来ることなら俺も野郎じゃなくて女の子と行きたいし、そもそも恵美ちゃんまゆちゃんたちから志保ちゃんを仲間外れには出来ない。

 

「ケモノはいてもノケモノはいないんだよ!」

 

「うるせぇケダモノ」

 

「いや、その日はお仕事の他に私用もあるからって、志保が辞退したんです」

 

「あ、そうなの?」

 

 それならば致し方ない。

 

「なら志保ちゃんのために、写真と動画沢山撮って来ないとね!」

 

「フツーに早苗さん案件ですよね、それ」

 

「向こうの主人公(あさひ)もこの間やられたらしいし、そろそろこいつも一回ぐらいワッパかけとくべきじゃねーか?」

 

「ヤメテってば!」

 

 とにかく、今月末のサマーフェスは俺たち四人で観に行くことが決定した。

 

 さてさて、凛ちゃんたち初の大舞台はどうなるのかな?

 

 

 

 

 

 

おまけ『チケットの行方』

 

 

 

「へぇ、未央はピーチフィズの二人にチケットを渡したんだ」

 

「うん! やっぱり二人には見に来てもらいたくってさぁ。そういうしぶりんは誰に渡したの?」

 

「……二枚とも良太郎さんに渡した」

 

「……ほうほう」

 

「今すぐそのにやけた顔を戻さないと私の中の小宇宙(コスモ)が燃え上がるよ」

 

「ペガサスファンタジー!? ……って、さっきからしまむーは何を落ち込んでるの?」

 

「い、いえ……」

 

「「?」」

 

(うぅ、天ヶ瀬さんにチケットを渡したかったのに、よくよく考えたら連絡先知ってるわけないじゃないですか~!)

 

 

 




・「誰が天翔龍閃を覚えるの?」
シン撰組デレラガールズ的に言えばどちらかというとクローネ側の子が覚えそう。

・少年が神話になったりならなかったり
エヴァネタに見せかけたハヤテのごとくネタ。これの本誌掲載が十年近く前ってマジか……。

・『首が痛い系男子』
他にも『頭痛い系男子』や『肩が痛い系男子』などなど。

・「ケモノはいてもノケモノはいないんだよ!」
わ~! 君は歌って踊れるフレンズなんだね!

・向こうの主人公
ただ向こうは良太郎と比べ物にならないぐらいリア充。爆発しろ。

・おまけ『チケットの行方』
がんばれしまむー。

・「私の中の小宇宙が燃え上がるよ」
きっず「知ってる! 銀魂ネタでしょ!?」

・凛ちゃんはお尻のポケットから一通の封筒を取り出した。
・恵美ちゃんは自分の胸の谷間から一通の封筒を取り出した。
……別に列挙した意味はないよ? ホントダヨ?



 さて合宿編が始まるわけなのですが、実は更新三時間前まで合宿編を飛ばすつもりでした。

 しかし風呂上りに「あ、CPの入浴シーンが書きたい」と思いつき、ここを逃せば書く機会を失うと思い至り急遽変更。

 ツイッターを見てらっしゃった方はもうお判りでしょうが、実はこんな行き当たりばったりな小説だったりします。ごめんよ、ごめんだで……。

 てなわけでお風呂編……じゃなくて、合宿編という名のLL回スタートです。

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