アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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「お風呂回ありの合宿と聞いて気合を入れざるを得ない」

 ※合宿中に良太郎の出番はありません。

「!?」


Lesson152 Hot limit! 2

 

 

 

 さて、私たちシンデレラプロジェクトの合宿の日はあっという間にやって来た。

 

 福井県の民宿までは車で……ではなく、飛行機。一度石川県にある小松空港へ行き、そこから電車とバスらしい。なので集合は羽田空港。

 

 お父さんに車で送迎してもらい集合時間である九時より三十分早く到着した。恐らくこのぐらいの時間ならば誰かもう待っているだろうなぁと思いながら集合場所である第二旅客ターミナル展望デッキへと向かう。

 

「あ、凛ちゃん、おはよう」

 

「ドーブラエ・ウートラ、リン」

 

「煩わしい太陽ね!」

 

「おっはようにゃ、凛ちゃん」

 

「……おはようございます、渋谷さん」

 

「うん、おはよう、みんな」

 

 展望デッキにはやはり私の予想通り、既に待っている人がいた。美波とアーニャ、蘭子とみく、そしてプロデューサー。美波は性格的にも三十分前以上からいても全然不思議ではなく、確か寮の三人はプロデューサーが車を出すって話だったから既に到着していたのだろう。

 

 プロジェクトの到着順としては五番目だが、別格(美波)例外(寮の三人)を除けば実質的には一番乗りということで良い気がする。

 

「私、飛行機乗るの初めてだな」

 

「みくも初めてにゃ。こっちに来るときは新幹線だったし」

 

 展望デッキから離着陸する飛行機を眺めながらそう呟くと、みくが反応した。そういえばみくは大阪から来たんだっけ。

 

「私は東京に出てくるときは飛行機だったな」

 

「我も、火の国より鉄の翼を持つ荒鷲の力を借りてこの地へ舞い降りた! 」

 

 一方で美波と蘭子は飛行機に乗ったことがあるようだ。確か美波は広島で、蘭子は……熊本だっけ?

 

「アーニャちゃんは北海道だから、勿論あるわよね?」

 

「ダー。……ここの空港は、少し懐かしい、です」

 

「懐かしい?」

 

「ここは、私が初めてリョータローと会ったところなんです」

 

「「……えっ!?」」

 

「なんと、覇王との邂逅の地であったか!」

 

 アーニャの突然の告白に驚く美波とみくと蘭子。かく言う私も割と驚いている。

 

「そういえばアーニャ、アー写の撮影のときには既に知り合いだったんだっけ」

 

「ダー。北海道からドゥルーク……友達に会いに来て、待ち合わせの場所が分からなくて困っていた私を、リョータロー、助けてくれました」

 

 へぇ、そういう経緯だったんだ。

 

 ……しかし、いくら困っている様子だったからとはいえ、私だったらこんな見た目完全に外国人のアーニャに声をかける勇気は無い。英語が喋れるからという理由もあるだろうが、流石に肝が据わっているかなんというか。

 

「………………」

 

 そして相変わらず良太郎さんの話題が出ると若干表情が強張る美波。完全に表情には出てきてはいないが、それでも若干良太郎さんに嫌悪感を抱いていることは簡単に分かった。やっぱり撮影のときのあの一件が尾を引いているのだろう。

 

 逆にあの初対面にも関わらず美波以外のプロジェクトメンバーの好感度が低くないことが正直驚きである。かな子や智絵里も苦手みたいなことを言っていたはずなのに、マッスルキャッスルの一件以来それらしいところが影を潜めたみたいだし。

 

 別にこのことに関しては良太郎さんの自業自得としか言えないので擁護するつもりはない。しかし自身が……その、兄として慕っている人間が嫌われているという状況はあまり気持ちの良いものではない。

 

 良太郎さんのいいところを言って誤解を解く? いや、良太郎さんの性格そのものを美波が受け入れられないのであって誤解でも何でもないし、そもそもそういうのは私のキャラじゃないし。……別に改めて考えてみて良太郎さんのいいところが少なかったからとか、そういう理由ではない。

 

 誰かの間の仲を取り持つっていうのも、私にはなかなか難易度が高かった。

 

 

 

「おっはよー! いやぁみんな早いねー! 未央ちゃんの登場だよー!」

 

「はぁ……今はその友情番長を自称する未央の無駄な社交性が雀の涙ほど羨ましいよ」

 

「あっれぇ!? なんか到着早々しぶりんから辛辣なこと言われたんだけど!?」

 

 

 

 

 

 

(……周藤良太郎……)

 

 自身の顔が強張ってしまったことを自覚して内心でため息を吐く。

 

 私は未だにあの人を好きになれない。

 

 しかし、何故好きになれないのか、自分でも分かっていなかった。

 

 あの不真面目さ? それとも女性の体形のことを軽々しく口にする軽率さ? ……いや、別にそれだけだったら周藤さん以上に酷い人だっている。それに比べたら周藤さんなんてまだマシで、寧ろそれを補って余りあるアイドルに対する真摯な態度を持っているとも思っている。

 

 じゃあどうして、私は周藤さんのことを好きになれないのだろうか……。

 

「……ミナミ?」

 

「あ、ごめんアーニャちゃん、なんだった?」

 

「ニェット、ミナミ、難しい顔してました」

 

 どうやらまた顔が強張ってしまっていたようだ。

 

 「そうかなー?」と少しおどけながらグニグニと自分の頬を揉みこむと、アーニャちゃんはクスクスと小さく笑ってくれた。

 

 

 

「もしかして『アノヒ』ですか?」

 

「アーニャちゃん!?」

 

「? 前にテレビ局でリョータローと会ったときに『体調が悪そうな女の子に尋ねると元気になるおまじない』だって教わりました。違いましたか?」

 

(な、何を変な嘘を教えてるのあの人は~!?)

 

 

 

 

 

 

 

「ハックレイム!」

 

 なんか幻想郷の素敵な巫女を省略したみたいなクシャミが出た。

 

「……風邪?」

 

「もしかして、誰かに噂されてるとかですかね?」

 

「かもね」

 

 そろそろ新田さん辺りにアーニャちゃんに仕込んでおいたネタがバレただろうから、多分それじゃなかろうか。こーいうことをするから嫌われるというのに、自重出来ないのは(さが)というか呪いに近い気がする。

 

 それはさておき、今日はたまたま通り道だったので、仕事の合間に765プロの事務所に寄ってみた。

 

 しかし誰かいるかなーと顔を出してみたものの、当然と言えば当然ながら春香ちゃんたちアイドル組は全員不在。高木さんもりっちゃんも不在で、いたのは小鳥さんとこの二人――。

 

 

 

「……あ、ゲージ溜まったからバースト入るよ……チェイン準備いい……?」

 

「いつでもオッケー」

 

「わわわ、ちょ、ちょっと待って!?」

 

 

 

 ――元バックダンサー組にして現765プロアイドル候補生の杏奈ちゃんと百合子ちゃんだった。

 

 何やら集中できる環境で課題を済ませたいという目的で事務所にやってきていたらしいのだが、俺が来たときには既に二人でスマホゲームに興じていた。

 

 そんな彼女たちを咎めるのは事務所の大人たちに任せるとして、折角なので俺もゲームに混ぜてもらった。

 

「……それにしても、良太郎さんもこのゲームやってるとは思わなかった……」

 

「んー、このシリーズを一作目からやってる古参プレイヤーとしてはスマホゲーで登場と聞けばスルー出来なかったからね」

 

「……それもあるけど……リセマラとか素材集めとかレベル上げの時間あったのかなって……」

 

「撮影の合間とか大学の講義中に教授の目を盗んでチマチマと」

 

 オフレコでお願いねーと杏奈ちゃんと話しながら、アワアワと微妙に操作が不慣れな百合子ちゃんの準備が終わるまで二人でコンボを繋ぎつつ時間稼ぎ。

 

「よ、よし! 準備出来たよ! さぁ魔物よ! 風の戦士の一撃を……!」

 

『Quest clear!!』

 

「「「あ」」」

 

 しまった、いつもの調子で殴ってたけどこれ百合子ちゃんに合わせて難易度下げたクエストだった。

 

「……じ、時間を稼ぐのはいいが――別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「倒してから言っちゃうんですかそのセリフ!?」

 

「ラストアタックボーナス無いゲームで良かったね……」

 

 肩透かしを食らってしまった百合子ちゃんには悪いが、当初の目的は達成できたので良しということにしてもらいたい。

 

 

 

「劇場、そろそろなんだって?」

 

 クエストが一段落ついたので一旦ゲームを中断し、二人に765プロの近況を尋ねる。

 

「はい、秋頃にはオープン出来るとのことでした」

 

 765プロのみんなの「いつでも直接アイドルに出会うことが出来るステージを作りたい」という願いを叶えるために始まった『765シアタープロジェクト(仮)』は、いよいよ大詰めに入っていた。

 

 この劇場は勿論春香ちゃんたちも使用することがあるが、基本的には『夢を掴むために訪れた』アイドルの卵たちのためのステージにするらしく、杏奈ちゃんたちバックダンサー組はその第一期生としてステージに立っていくことになるらしい。

 

 しかしそうなると、もうそろそろ『バックダンサー組』っていう呼び方も不適切だし、何より卵とはいえアイドルの杏奈ちゃんたちにも失礼だ。

 

「そうだなぁ……春香ちゃんたちは今なお最前線に立って765プロを引っ張っているから『オールスター組』で……杏奈ちゃんたちはまずは劇場から夢を始める『シアター組』ってところかな」

 

「シアター組……」

 

「いいですね、それ! 765プロダクションシアター組第一期生! なんかいい響きです!」

 

 どうやら気に入ってくれたようだ。まぁこれが正式採用されるかどうかは別の話だが。

 

「はぁ、今から少し楽しみです。また杏奈ちゃんたち六人で同じステージの上に立てるのが」

 

「……志保ちゃんと恵美さんとまゆさんがいないのが、少し寂しいけど」

 

「恵美ちゃんとまゆちゃんはともかく、志保ちゃんはごめんね。なんか引き抜いちゃったみたいでさ」

 

 なんでも志保ちゃんにもシアター組としてのスカウトの話があったのだが、志保ちゃんはそれを断ってウチの事務所のオーディションにやって来たらしい。

 

「寂しいですけど、それが志保ちゃんの選んだ道で、他ならぬ良太郎さんが志保ちゃんを選んでくれたんですから。一足先にデビューした志保ちゃんに負けないように、私たちも頑張ります!」

 

「……頑張る」

 

 大きくガッツポーズを決める百合子ちゃんと、控えめながら同じようにガッツポーズを決める杏奈ちゃん。

 

「……二人とも合宿のときと比べるとだいぶ精神的に成長したね」

 

「……肉体的にはほとんど成長しませんでしたから」

 

 褒めたらそんなネガティブな返しが杏奈ちゃんから。もしかして気にしてた?

 

「合宿かぁ……まだ一年も経ってないのに、懐かしいです」

 

「あ、合宿で思い出したけど、実は俺の知り合いの新人アイドルがあの『わかさ』で今合宿中なんだ」

 

 やっぱりあそこはアイドルの合宿として最適なんだろうねぇ……と続けようとして、何故かキョトンとした表情の百合子ちゃんと杏奈ちゃんが気になった。

 

「どうかしたの?」

 

「あ、いえ……」

 

「……実は――」

 

 百合子ちゃんと杏奈ちゃんの口から語られた内容に、思わず俺は「……えっ」と素で驚いてしまうのだった。

 

 

 

 ……偶然って凄いなぁ……。

 

 

 




・「今はその友情番長を自称する未央の無駄な社交性が雀の涙ほど羨ましいよ」
良太郎の影響を受けた今作の凛ちゃんは若干毒舌です。主な被害者は未央。

・『アノヒ』
 デレマス編でやりたい事リスト(Lesson115あとがき参照)
『アーニャに余計なことを教える』達成!

・「ハックレイム!」
???「名前を呼んだわね? お賽銭を入れなさい」

・リセマラ
今のスマホゲーにはこれが出来る以上、今後トレード機能は実装されないんだろうなぁ。

・「……じ、時間を稼ぐのはいいが――別にアレを倒してしまっても構わんのだろう?」
義父母と義妹(×2)と彼女(仮)と近所の虎とボブが同じ職場にやって来たエミヤさんの明日はどっちだ。

・劇場
時系列的に考えて、春に未来が来ると考えるとそろそろ劇場立ち上げておかなければいけないはず。



 多くは語らず。

 次回、お風呂回!



『どうでもいい小話』

 復活! 星々のナイトタイムガシャ! 楓さん復刻!

 ついにこの時が来ましたよ……えぇ勿論回しましたとも。



 ……ついに楓さんのSSRが揃ったぞおおおぉぉぉ!! ※なお課金額


 

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