アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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第六回シンデレラガール総選挙結果発表!(あとがきで触れます)


Lesson162 Who are you? 3

 

 

 

「くんくん……ん~、こっちにいる気がする~」

 

 

 

 

 

 

「幽霊?」

 

「うん、だから丁度346プロに霊能力者の知り合いがいたから紹介しておいた」

 

「ふーん」

 

「ん、美希ちゃんは幽霊とかそーいう話は大丈夫なの?」

 

「うん、別に興味ない――キャー、ミキお化けの話怖いのー」

 

「おぉう、すごい手のひら返し」

 

 あからさまな棒読みではあったが、例えわざとだとしても怖がる女の子が腕に抱き付いてくるのは嫌いじゃないので黙っておく。やわっこいなぁ。

 

「「「………………」」」

 

「あれ?」

 

 大抵こういう状況になったらりっちゃん辺りからツッコミ(物理)が飛んでくるはずなのだが、右隣に座るりっちゃん及び左隣に座る美希ちゃんの向こう側に座る春香ちゃんと千早ちゃんの口数が先程から少ない、というか無い。

 

「どうしたのりっちゃん、リクエストの魚だけど」

 

「春香と千早さんも、これすっごく美味しいよ?」

 

「……えぇ、そうね。お昼に何を食べたいって聞かれたから、私は確かに魚って答えて、他のみんなもそれに賛成してくれたわ」

 

 でもねぇ、とりっちゃんは微妙にプルプルと震える指で自身のこめかみを抑える。怒っているというよりは、大声を出したいのを必死に我慢しているといった感じだった。

 

 

 

「……まさかこんな高級(たか)そうなお寿司屋さんに連れてこられるとは思ってなかったのよ……!?」

 

 

 

「あ、大将、次カンパチね」

 

「聞いてるの……!?」

 

「聞こえてないわけないって」

 

 俺たちが座るカウンター席の向こうに次のネタを頼むと、大将の手によりあっという間に出来上がった寿司が「へいお待ち!」と俺の目の前の皿に置かれた。相変わらず見事な職人技である。

 

「普通、海鮮丼のお店とかそういうところに連れてこられると思うじゃない……!」

 

「海鮮丼が良かったんなら、確か裏メニューにあったはずだけど」

 

「そういうことを言ってんじゃないわよ!」

 

 本調子になってきたというか抑えきれなくなったらしく、りっちゃんの声が徐々に大きくなってきていた。どうやら雰囲気に飲まれて大声を出さないようにしていたらしいのだが、別にここは個室で板前さんが握ってくれる店だから別に気にしなくてもいいのに。

 

「りょーたろーさん! おにぎりは? 裏メニューにおにぎりはないの?」

 

「多分ないと思うけど……」

 

 あります? と大将に尋ねてみたが苦笑いと共に首を横に振られた。そりゃそうか。

 

「大体、お寿司屋さんにしてもどうしてわざわざこんな高級そうなお店なのよ!」

 

「そこはホラ、たまには俺の大物アイドル感を出しておかないと忘れられそうだし」

 

 頭の中の冬馬に「仕事で見せろ」とか言われた。

 

 ちなみに以前までは月給という形で兄貴が給料を管理していたのだが、成人したということでその制限が若干解除された。今までの生活が生活なのでいきなり散財とかそういうのはないが、こうして何人か後輩を連れて食事をご馳走するぐらいは余裕で出来るようになった。

 

「……はぁ、もういいわよ、諦めるわよ、開き直るわよ。大将さん、私にもカンパチ」

 

 どうやらりっちゃんは考えるのを止めたらしい。大将が握ってくれたお寿司をやけっぱちに口に放り込むりっちゃんだが、その美味しさにあっという間にキツイ表情が軟化した。ちょろいなぁ。

 

「ほら、春香ちゃんと千早ちゃんも好きなもの頼みなよ? 俺がご馳走するから」

 

「……えっと、それじゃあヒラメを」

 

「……甘海老、お願いします」

 

 遠慮がちな春香ちゃんと千早ちゃんの注文を受けて「はいよ!」と大将がネタを握り始める。やはり若い女の子相手にしているからか、心なしかいつもより気合が入っている気がした。

 

「それにしても、幽霊ねぇ」

 

 話は先ほどの凛ちゃんからの電話の話に戻る。

 

「りっちゃんは平気なんだ」

 

「そういう非科学的なものは信じないの」

 

「……うん、そうだね」

 

 無いって信じてればそれで幸せだからそれでいいと思う。

 

「まぁ実際に幽霊かどうかは別として、普通に人っていう可能性もあるけどね」

 

「ストーカー……ってことですか?」

 

「幽霊よりは現実的だとは思うよ」

 

 心霊写真の件でも後ろに扉があったという話だから、単純に後ろから誰かが覗いていたと考えるのが自然である。尤も()()()の可能性を考えたから霊能力者を紹介してあげたわけなのだが。

 

 問題というか疑問点としては、何故アイドルではなくプロデューサーである武内さんをストーキングしているのかという点だ。そのとき彼と一緒にいたアイドルに対するストーカーという可能性もあるが、彼が一人のときも視線を感じたらしいので、その線は薄い気がする。

 

「武内さんが実は現役高校生な十七歳だっていうんなら、もしかしたらそれぐらいの人気者になってたかもしれないけど」

 

「一体アンタは何を言ってるのよ」

 

 もしそうなら「車販売店のディーラーみたい」とか「ベテランニュースキャスターみたい」とか言われてたんだろうなぁ。

 

「そもそも、視線を感じるっていうこと自体、脳の錯覚だという話を聞いたことがありますが」

 

 二品目に注文したアナゴに箸を伸ばしながら話す千早ちゃん。

 

「まぁ視線ってのはあくまで主観の話だから、他者が感じれるわけないわよね」

 

「え、じゃあ何故俺が胸を見ていることは簡単にバレるんだ」

 

「それは純粋に目線が下を向いているだけなのでは……」

 

「そもそもアンタの場合、首ごと傾けて胸見てるでしょ」

 

 個人的にはチラチラ盗み見ていない点に関しては評価してもらいたい。

 

「でも割とマジメな話、そういう雰囲気? 的なものは案外分かったりするものだよ? 士郎さんとか恭也とか、話しかけようとする前に振り返ることあるし」

 

「その二人は色々と例外な気もしますが……」

 

 

 

「現に俺も、ついさっき店に入るまで誰かに見られてたし」

 

 

 

「「「「……えっ!?」」」」

 

 四人とも、口に運ぼうとしていたお寿司が箸から落ちて皿に逆戻りした。

 

「そ、そうなんですか!?」

 

「で、でも良太郎さん、さっきまでちゃんと変装してましたよね!?」

 

 今でこそ個室の中なので帽子も眼鏡も外しているが、店に入るまでは確かに変装していた。

 

「だからどっちなんだろうなぁって。変装状態の俺の正体が分かるのか、それとも変装状態の俺そのものに用があるのか……はたまた、こっちの正体も幽霊か」

 

 正直アイドルとして活動してきた中で今までに無い展開なので、若干ワクワクしている自分がいたりする。

 

「鬼が出るか蛇出るか。個人的には可愛い女の子が出てきてくれるとありがたいんだけど」

 

 ズズッとアガリを飲みながら、超個人的な欲求を口にするのだった。

 

 

 

 

 

 

「ほ、本当にご馳走様です」

 

「ありがとうございます」

 

「すっごく美味しかったのー!」

 

「……まぁ、ありがと」

 

「いやいや、なんのなんの」

 

 昼食を終え、お店を出る俺たち。実はミーハーな大将と『アイドルや芸能人の女の子を連れてくる代わりに割引』という密約を交わしているため、金額的にはさほど高くはなかった。とは言っても、決して回転寿司などとは比べ物にならない値段であることには変わりないが。

 

 さてと、先ほどまで感じていた視線は……。

 

 

 

「にゃはは、やっぱりそうだ~!」

 

 

 

「ん?」

 

 物陰からバッと影が飛び出してきた。

 

 声の高さと影の小ささからして、多分女の子。

 

 熱狂的なファンとかそういう可能性もあるので、アイドル的には当然避けるのが正解なのだろうが。

 

「おっと」

 

 あまりにも悪意の無い無邪気なその声に、真正面から飛び込んできたその女の子を思わず抱き止めてしまった。

 

「なっ!? りょーたろーさん! 一体なにしてるの!?」

 

「あ、いや、女の子が真正面から抱き着いて来たら優しく抱きしめろっていうのが今は亡き親父の遺言で」

 

「アンタのお父様はご健在でしょうが!」

 

「ミキも! ミキも真正面から行くから抱き止めて欲しいの!」

 

「いや、この状態で来られたら衝突事故だけど」

 

 既に抱き止める腕の力は抜いているものの、何故か少女はお腹に顔を埋めてハスハスと匂いを嗅いでいる様子だった。

 

「あああぁぁぁ!? それ以上の狼藉、お天道様が許しても……このミキは見逃さないの!」

 

 よく分からないが少女の行動が気に食わなかったらしい星山のミキさん……じゃねぇや、美希ちゃんが少女を引き剥がしにかかると、思いの外少女はすんなりと離れてくれた。

 

「よしっ、それじゃあ今度は……りょーたろーさーん! ミキも抱き止め――ぐえっ!?」

 

「話が進まなくなるからよしなさい」

 

 今度は美希ちゃんが飛びついてきたが、りっちゃんに首根っこを掴まれたことにより女の子が出しちゃいけない声と共に沈黙した。

 

「さてと、これでようやく話が進む」

 

「にゃはは、相変わらずキミの周りは面白そうな匂いに満ちてるねー。……そしてキミ自身も……ハスハス。う~ん、魅惑のフレーバー! あはは、癖になっちゃう~」

 

 前世今世含めて長いこと生きてるけど、自分の匂いを褒めてくる人物の心当たりは()()しかいなかった。

 

「なんでお前がここにいるんだよ」

 

「あー、なんか扱い雑じゃなーい? 女の子が遥々海の向こうから会いに来てあげたっていうのにさー。対応の改善を要求するー!」

 

「はいはい、ありがと……ちょっと待て、お前本当にそのためだけにこっちまで来たのか?」

 

「え? ……何か別の用事があったような気がするけど、別にいいや!」

 

「いやいや、もし何も連絡なしにこっちに来たんなら、とりあえず向こうの皆本(みなもと)さんに連絡しとかないと……」

 

「あ、あのー……」

 

「ん?」

 

 完全に蚊帳の外になっていた春香ちゃんが控えめに挙手をしたので会話を中断する。

 

「結局その子は何処のどちら様なのか、出来れば私たちにもご説明いただけるとありがたいんですけど……」

 

 そう言いながら苦笑いを浮かべる春香ちゃん。他のメンバー……というか千早ちゃんとりっちゃんは若干興味無さそうで、美希ちゃんに至っては未だに沈黙したままだが、とりあえず問われた以上答えてもいいだろう。

 

「うーん、何と説明するべきか……」

 

 本当に色々とありすぎて説明に困るというか、正直残りの文章量では今話の中に納まりきらないので、とりあえず本当に簡潔に説明するとしよう。

 

「俺、春休みに色々な国を回って来たって言ったでしょ? そのとき、アメリカのとある大学で会った……というか遭遇した……」

 

 

 

一ノ瀬(いちのせ)志希(しき)~。まぁ、別によろしくしなくてもいいよー」

 

 

 




・高級そうなお寿司屋さん
地味に二十歳を過ぎたため、今までの給料体制に若干変化があり、これまで以上に金銭的余裕が生まれた良太郎。ただ主な使用方法は女の子たちへの奢り……何が問題ですか!

・「武内さんが実は現役高校生な十七歳だっていうんなら」
・「車販売店のディーラーみたい」
・「ベテランニュースキャスターみたい」
そんな武内君の最新出演作は遊戯王ヴレインズ! まさかの敵ライバル役だぞ!

・「それ以上の狼藉、お天道様が許しても……このミキは見逃さないの!」
遠山の金さんって現代で考えるなら『裁判長が現場に出向いて悪者を懲らしめて、最終的に判決を下す』ってことだから、割とぶっとんだ話だなぁとか思ったり思わなかったり。

・皆本さん
アメリカにいてもおかしくないキャラで真っ先に思いついたのが何故か彼だった。まぁ実際はアメリカじゃなくてコメリカだけど。
多分やさしいせかいなので恋人のキャリーとよろしくやってんじゃないかな。

・一ノ瀬志希
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
ケミカルサイエンティストな18歳のガチ天才。
二次創作においては主に薬品関係でのトラブルメーカー的立ち位置。惚れ薬系とか大体彼女に任せておけば問題ない。



 さて、ついに登場しました。文中ではまだ明かしていませんが、もうここまで来たらもう皆さんお気づきでしょう。というか前回のあとがきでも書いてますし。

 123プロの新人最後の一人、一ノ瀬志希のエントリーだ!

 長かったなぁ。Lesson112でそれっぽいヒント残しといてから一年以上経ってしまった。グレナデンシロップはザクロのシロップなので、赤というか深紅な彼女のイメージにピッタリだと思ったのです。(知性の実で林檎なのではというツッコミは無し)

 絶対アニメにいてもおかしくないキャラだったので、しきにゃん入りのクローネを妄想したPも大勢いることでしょう。作者もその一人なので、その妄想を実現してみました。

 ……え、123の新人なのにクローネとどう絡むかって? ご安心ください、ちゃんと考えてますから(内容がちゃんとしたものだとは言っていない)

 正直その辺は一話では収まりきらないので、某常務さんの初登場を待ってから色々する予定です。

 それでは次話でお会いしましょう。



『どうでもよくない小話』

 楓さん六代目シンデレラガールおめでとおおおぉぉぉおおおぉぉぉ!!!!

 お祝い短編ということで、次回の恋仲○○シリーズは楓さんシリーズの最新作をお届けする予定です!

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