アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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世間ではアイ転が始まって四回目の夏休みが始まったようで。……縁ないなぁ。


Lesson170 Be forced!! 2

 

 

 

「くうっ……! ど、どっち……!? どっちなんですか……!?」

 

「まゆっ!」

 

「まゆさんっ!」

 

「さぁ、選ぶといいよ、まゆちゃん……それがキミの運命の選択になるっ!」

 

「……ダメです、まゆには選べません……!」

 

「そんな、まゆさん! ここで諦めちゃうんですかっ!?」

 

「諦めないでまゆ! まゆは良太郎さんみたいなアイドルになるんでしょ!」

 

「っ! ……そうでした……ごめんなさい、そしてありがとう、恵美ちゃん」

 

「……まゆちゃんの目が変わった……?」

 

「……私は負けません……この左手のリボンに誓ったんです……良太郎さんみたいに、素晴らしいアイドルになるって!」

 

「いっけー! まゆ!」

 

「勝ってください! まゆさん!」

 

「まさか、本当に……!」

 

「引いてみせます! この『周藤良太郎』に誓った左手でえええぇぇぇ!」

 

「「っ!!」」

 

 

 

「いやあああぁぁぁ!? ババですうううぅぅぅ!?」

 

 

 

「そこで引いちゃうの!?」

 

「そこは揃えて上がるところですよ!?」

 

 

 

「………………」

 

 緊迫した空気で女の子四人が何かやっていたのでレッスン室の入り口から黙ってことの成り行きを見守っていたのだが、どうやらただのババ抜きだったらしい。

 

「そ、そんな……!」

 

「まゆ、諦めちゃダメ!」

 

「そうです! ここで志希さんにババを引かせることが出来れば……!」

 

「そ、そうでした! さぁ志希ちゃん! 選んで――」

 

「こっちー」

 

「――どうしてアッサリ揃えちゃうんですかあああぁぁぁ!?」

 

 どうやら決着がついたようだ。ガックリと項垂れるまゆちゃん、彼女を慰めるように背中を撫でる恵美ちゃんと志保ちゃん、そしてそんな様子を見ながら「にゃはは」と笑う志希の元に近付いていく。

 

 さて、どういうテンションで話しかけようかなぁ……よし、全力で乗っかる方向にしよう。

 

「……顔を上げるんだ、まゆちゃん」

 

「りょ、良太郎さん!?」

 

 顔を上げたまゆちゃんの傍に膝を付く。そして床に付いた彼女の手に自分の手をそっと重ねた。

 

「一度の敗北で、君は諦めるのか? 確かに敗北とは辛いものだ。俺も何度も敗北を味わった……」

 

「りょ、良太郎さんが、ですかっ!?」

 

「うそっ!?」

 

「……先日発売された『周藤良太郎の半生』には、それらしき出来事は書いてなかったと思うんですけど……」

 

 俺に関する本が発売される度に、志保ちゃんもまゆちゃんや美希ちゃんたちみたいにすぐ買ってくれるんだよなぁ……本当にこの子は俺のことを尊敬しているのか軽視しているのか分からない。

 

「一体何回恭也にボコボコされたか……」

 

「そっちですか……」

 

「アイドル関係ないじゃないですか……」

 

 高町ブートキャンプを始めたのは俺がアイドルになる前だったから、あの頃は本当に容赦なかったなぁ……いやマジで。次の日に響くレベルで(しご)かれる上に、今では時間的に無理な山籠もりとかあったからなぁ……。

 

「とにかく、敗北の度に立ち上がることで人は強くなる! 何度負けてもいい! 大事なのはそこで立ち上がることなんだ!」

 

「りょ、良太郎さん……!」

 

 ウルウルと瞳を潤ませるまゆちゃん。

 

「……ちなみに良太郎さん、立ち上がった後で恭也さんに勝ったことあるんですか?」

 

「……立ち上がることなんだ!」

 

 コラそこ、こそこそ「まぁ冷静に考えて恭也さんに勝てるわけないんだよねー」「立ち上がるだけならダルマだって出来ますけどね」とか言わない。相手は戦闘民族TAKAMACHIなんだぞ。いくらクリリンが強くても地球人以上の強さにはなれないのは明白なのだ。

 

「まゆちゃん! 俺は君なら出来ると信じている! さぁ!」

 

「りょ、良太郎さぁぁぁん!」

 

 バッと腕を広げると、そこに同じく腕を広げたまゆちゃんが飛び込んで――。

 

「はーいそこまでだよ、まゆー」

 

 ――くる前に恵美ちゃんに腕を抑えられ、まゆちゃんの動きが止まった。

 

「恵美ちゃん! 後生ですから良太郎さんの胸に飛び込ませてください!」

 

「どーせ本当に抱きしめられたら顔を真っ赤に(オーバーヒート)して倒れるのが目に見えてるんだから、諦めなって」

 

 まぁ恵美ちゃんの言う通りなんだろうけど、それでも極自然に柔らかい女の子の身体を抱きしめるチャンスを逃したのは惜しかった。もっとスムーズにさっきの流れに入ればよかったと少し反省。

 

「それにしても、さっきのやり取りで志保ちゃんがノリノリだったのが意外なんだけど」

 

「まゆさんと恵美さんに『演技の練習』という名目でノッてくれと言われたので」

 

 ということは今のは演技だったわけだ。やっぱり志保ちゃんは演技(そっち)の適性が高そうだ。

 

「……それで? 何でお前はそんなに楽しそうなんだ?」

 

 ワーギャーと騒ぐまゆちゃんたちから視線を外し、一人ニコニコと笑いながらトランプをシャッフルしている志希に尋ねる。

 

「べっつにー? 何でもないよー?」

 

 しかしそんな言葉とは裏腹に、声も楽し気に弾んでいた。

 

「……ふーん」

 

 まぁどうせ『才能とか頭の良さ以外のことを初めて羨ましがられたのが嬉しかった』とかそういうのなんだろうけど、大人な俺は黙っておいてやろう。大人だから。いい大人だから! 誰がなんと言おうと、一歩引いたところで物事を客観的に見ることが出来るいい大人だから!

 

 ……しかしこうして仲良くしているところを見ると、早く123で恵美ちゃんたちと一緒のステージに立たせてあげたくなるが、今は美城さんとの約束がある。それにきっと向こうの事務所でも志希と仲良くなれる子たちがいるような気がするから、大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 良太郎さんが常務の所へ行ってしまい、みくと様々なゲームをしていた志希さんも居なくなったので、私たちプロジェクトメンバーはその場で一先ず解散ということになった。私と卯月と未央はその後自主練習の予定だったので、そのままレッスン室へと向かった。

 

 階段を昇ってロビーにやってくると、やはり誰もが皆慌ただしく動き回っていた。勿論、今まで暇そうにしていたという意味ではないが、それでもこんなにピリピリとした空気になっていたことは一度も無かった。

 

「じゃあ、茜ちゃんのところも……?」

 

「そうなんですよー! ……うぅ、この空気ムズムズします……! ちょっと、外走ってきます!」

 

「え、ちょっと、茜ちゃん!?」

 

 ロビーの一角に設置されたソファーに座っていた藍子さんと茜さんの会話が聞こえてきた。宣言通りに走っていってしまった茜さんも、どうやら今回の大掛かりな改変のあおりを受けたらしい。

 

 他にも、廊下ですれ違った他のアイドルたちも話す話題は改変のこと。みんな、今後のことが不安なのだ。

 

 それは、レッスン室の前のベンチに座っていた()()()()も同じだったようだ。

 

「加蓮、奈緒」

 

「あ……」

 

「凛……」

 

 俯いていた二人の顔が上がる。

 

 彼女たちは北条加蓮と神谷奈緒。私たちとは別の部署に所属しているアイドルで、事務所に入った時期で考えると私たちの後輩に当たる。何でも加蓮は私と同じ中学だったらしいのだが、彼女曰く「身体が弱くて休みがちだった」から覚えていなくても仕方がないとのこと。申し訳ないが、確かにあまり見覚えが無かった。

 

 彼女たちとはつい先日学校終わりに事務所に来る途中に声をかけられ、改めて知り合いになった。

 

「「おはようございます!」」

 

 二人は、卯月と未央の姿を見るなりベンチから立ち上がり、挨拶をしながら頭を下げた。

 

 そんな二人に、まだまだ先輩扱いされるような立場には慣れていない卯月と未央は(勿論私も慣れていないが)戸惑った様子で、それでも咄嗟に「「お、おはようございます」」と返していた。

 

「アイドルフェス、見てました! すごかったです!」

 

 加蓮のその言葉に、目をパチクリとさせる卯月と未央。何でも、つい先日行われたサマーフェスに観客側で参加していたらしい。

 

 余談だが、その際観客席に『超大物アイドル(加蓮談)』がいたらしく、興奮気味にそのときのことを話してくれたのだが、相手側への考慮なのか名前が一切出てこなかったので要領を得ていなかった。……こういうとき真っ先に思い浮かぶのは勿論あの人だが、ライブ中は天ヶ瀬さんや所さんたちと一緒に変装をしていたのでバレるようなことはなかっただろうし、そもそもバレたらとてつもない騒ぎになっていただろうから多分違うだろう。

 

 二人には加蓮と奈緒のことは話してあったので「この前話した子たち」と伝えると、二人とも「凛ちゃんが言ってた……」と合点がいった様子だった。

 

「美嘉姉も褒めてた子たちだ!」

 

「そうなんだ……嬉しいね?」

 

「べ、別に……仕事もそんなしてないし」

 

「いやいや、歌もダンスもセンスいいって言ってたよ!」

 

 未央の言葉に顔を綻ばせる加蓮がそう言って隣の奈緒に話を振るが、奈緒はそっけない。しかし口元がニヨニヨと満更でもなさそうなので、照れ隠しなのは一目瞭然だった。もし良太郎さんと知り合ったら、真っ先に弄られる&可愛がられるタイプである。

 

「あの、私たちまだ新人だけど……よろしくお願いします!」

 

 加蓮が再度頭を下げると、それに続いて奈緒も一緒に頭を下げた。

 

 そんな二人の態度に、やっぱり慣れていないらしい卯月と未央は照れくさそうだった。

 

「それで二人はレッスン待ち?」

 

「……えっと……」

 

 尋ねると、突然言葉を濁した二人。もしかして……。

 

 

 

「CDデビューが延期!?」

 

「そんな……」

 

 私の嫌な予感が当たってしまったらしい。どうやら彼女たちも今回の騒動の影響を受けてしまったアイドルのようだ。

 

「それって勝手すぎない!?」

 

 未央も憤り、声を荒げる。

 

「色々、準備してきたんだけどさ……」

 

「まだ未熟だし、しょうがないって思うところもあるんだけど……」

 

「……何していいのか、分かんないよ……」

 

 しょうがない。そう口にしつつも二人の表情は暗く、そして悲しげだった。

 

「……ちょっと行ってくる」

 

「行くって何処に?」

 

 意を決したように立ち上がって歩き出した未央を引き止める。尋ねておきながら、彼女が何処に行こうとしているのかは分かり切っていた。大方、常務のところだろう。

 

「今は待つように言われてるでしょ?」

 

「それは……そうだけど……でも! こんな酷いことってないじゃん!」

 

()()()、だよ。何のために『周藤良太郎』が常務のところに行ってくれたのかを忘れちゃダメ」

 

「あっ……」

 

 そう、そのために良太郎さんはわざわざ常務のところまで話をしに行ってくれたのだ。良太郎さんでも直接干渉することは出来ないと言いつつも、それでも私たちのために動いてくれたのだ。それなのに今、私たちが常務に直接話をしに行って、一体何の意味があるというのだろうか。

 

「今は大人しく待とう?」

 

「……分かった。ごめん、ありがとうしぶりん」

 

 バツが悪そうに笑う未央に、いいよと私は首を振った。

 

 

 

「……え、ちょっと待って」

 

「今、周藤良太郎って言った……?」

 

「「「……あっ」」」

 

 

 




・ババ抜き
本当はもうちょっとマカオとジョマー感を出したかった。

・『周藤良太郎の半生』
周藤良太郎が生まれてからトップアイドルとして活躍するまでの全てを綴る一冊。巻末特典は『周藤良太郎オフショットブロマイド』。定価2150円(税別)

・戦闘民族TAKAMACHI
・いくらクリリンが強くても地球人以上の強さにはなれない
しかしよく考えたら奥さんの方が強い(物理)のではと思った。

・『才能とか頭の良さ以外のことを初めて羨ましがられたのが嬉しかった』
原作の志希はともかく、この世界の志希はこういうキャラ。しかしエキセントリックさは増し増し。

・加蓮&奈緒の登場
アニメでの再登場シーンである凛との道でのシーンはカット(書き忘れてたとも言う)

・真っ先に弄られる&可愛がられるタイプ
フラグです(断言)



 奈緒加蓮が本格参戦となりますが、やはり話はまだまだ進みませんでした。

 しかし次回は楓さんのライブが……おや、美城常務の様子が……?

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