アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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人間やれば出来るんやな……(SSA終わってから七割執筆)


番外編32 もし○○と恋仲だったら 12

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

 夏だ! 海だ! 海水浴だ!

 

 

 

 ……と言いつつ、本日はプールである。

 

 連日の灼熱の日差しに、そろそろ太陽へのヘイトが本気で溜まりつつある夏真っ盛り。

 

 しかし今日ばかりはその日差しに感謝してもしきれなかった。

 

「いやぁ、やっぱり夏はこうでないと」

 

 ロッカーからプールサイドへと出てくると、少しでもこの暑さを楽しもうとしている水着のお客さんで賑わっていた。

 

 家族連れもそれなりにいるが、こういうレジャープール施設のお客さんの大半は若い男女。何処を見ても健康的な肢体の少女や女性が水着姿でいるのである。なんというガーデンオブアヴァロン……!

 

 しかも俺の場合、サングラスをかけてしまえば目線が分かりづらくなる上、無表情がいい感じに『キリッ』としてるように見えるので、知らない人からは全く邪な思惑が悟られないのだ。

 

 

 

「……リョータロー」

 

 

 

 ただ、俺のことをよく分かっている人物は例外である。

 

「もー……いくら彼女が着替え中で暇だったからって、他の女の子に目移りするのは流石に見逃せないかなー?」

 

 背後から聞こえてきたそんな言葉に俺を責める棘は無かったが、若干拗ねているように感じた。

 

 折角のデートでいきなり彼女のヘソを曲げるわけにはいかないので、彼女のご機嫌を取ろうと振り返り――。

 

「……ゴメン」

 

「別に謝って欲しいわけじゃないんだけど……その、やっぱりリョータローはアタシなんかよりも可愛い子の方が……」

 

「いや本当にゴメン」

 

 ――俺は目の前の少女を抱き締めた。

 

「ふぇ!? リョ、リョータロー!?」

 

 何やらワタワタと慌てていたが、そんなことを気にする余裕なんてなかった。水着姿がとんでもなく魅力的で刺激的で蠱惑的で、身長差の関係上俺を見上げることで自然と上目使いにもなっている。しかも涙目とか我慢出来るはずがない。

 

 「自分なんか」と卑下するものの彼女自身そもそも超絶美少女。周りの女性よりも抜群のスタイルも相まって、周りからの視線を独り占めにしていた。

 

 そんな彼女を抱き締めたら当然俺も注目を浴びるが気にしない。嫉妬の視線を感じるが気にしない。舌打ちとか聞こえてくるけど気にしない。

 

 直接触れる地肌と体温が心地よく、やわっこい体も気持ちいいが、それ以上にこうして彼女を抱き締めることが出来る自分と彼女の関係性にとんでもなく優越感に溢れていた。いくらトップアイドルという称号を持っていたとしても、こんな素晴らしい恋人がいるという事実には到底敵いそうにない。

 

「……も、もう!」

 

 初めはワタワタとしていた彼女も、やがて俺の背中に腕を回してきた。お互いに正面から抱き締めあう形になり、周囲からはとんでもないバカップルに見られていることだろう。

 

 そう見られること自体は別に何とも思わないのだが、変装しているとはいえアイドル二人がここまで衆目にさらされ続けるのも不味いので、名残惜しいがそろそろ移動することにしよう。

 

「ホントごめん。もう他の女の子に目移りなんて絶対しないから」

 

「絶対?」

 

「………………絶対」

 

「……その間が怪しいなー」

 

 いや、その、ね? 男として健全な証拠というか、生まれもった(さが)というか、逃れられない(カルマ)というか……。

 

 言葉にできない概念(サイキック)をどう説明したものかと悩んでいると、彼女は頬を赤く染めながら、口を耳元に寄せてきた。

 

「……後でもうちょっとだけ……その、し、しっかり見せてあげるから……」

 

「………………よし、とりあえず遊ぼう! 時間は有限!」

 

 飛び上がらんばかりに嬉しいことには嬉しいのだが、年下の恋人に何を言わせているんだという良心の呵責に苛まれ、誤魔化すようにその場を離れることにした。

 

 

 

「それじゃあ今日は普段足りない分も余計に恋人しようぜ、恵美」

 

「……うんっ! リョータロー!」

 

 

 

 

 

 

 俺が恵美を好きになったきっかけというのは、実は明確には存在しない。しいて言うならば、123プロの中で一番彼女が俺に近かったからだろう。

 

 物理的な距離で言えばまゆちゃんの方が近いことが多かったが、恵美は俺と()()()()が近かった。

 

 俺は事務所の他の人間を一歩引いた位置で見ていることが多いのだが、気が付けば彼女が隣に立っていることが多かった。みんなをまとめるリーダーシップを発揮する場面もあるが、彼女の本質もまた、一歩引いたところでみんなを見ることだった。

 

 ステージに立てば前に出るアイドルにも関わらず、基本的に一歩引いた場所にいる俺たちはいつも肩を並べていた。

 

 だから……という接続詞が正しいのかどうかは分からないが、俺は気が付けば彼女のことを目で追っていた。それは後輩の成長を見守るためのものではなく、大乳の女の子の無防備な姿を堪能するためのものでもなく、所恵美という少女が気になってしまっていた。

 

 そして、ようやく気付いたのだ。

 

 ――俺は所恵美という少女が好きなのだ、と……。

 

 

 

 

 

 

 抱き合っていた場所から離れたとはいえ、恵美が水着美少女だということには変わりないので注目の視線はそれほど減らなかった。

 

「んー、なんかすっごい見られてる気がするけど……何処か変だったかなー?」

 

 そう言いながら自身の恰好を見直す恵美。今日の水着は彼女の瞳と同じ水色のビキニ(ワイヤーバンドゥという種類らしい)で、肌色の面積は比較的多め。今はポニーテールにしてあるが、腰まで伸びる艶のある茶髪。張りのあるバスト、引き締まったウエスト、そして丸みを帯びたヒップは、思わず「なーいすっ! ないすっ! ないすばでぃー!」と歌ってしまいたくなるぐらい素晴らしい。

 

 総括すると。

 

「いや、恵美が可愛いからだよ」

 

 本当にこれしかなかった。

 

 しかし恵美はそんな俺の言葉に「アハハッ」と笑いながらパタパタと手を振った。

 

「もう怒ってないからそんなにヨイショしなくていいってばー。アタシなんかよりもっと可愛い女の子なんて沢山いるってー」

 

「いやいや……」

 

 本当に恵美のこの自己評価の低さはなんなのだろうか。アイドルをやっているというのに……いや、別にアイドル=可愛いとかそういうことを言うつもりはないが(事実みんな可愛いが)、それでも恵美は『他のみんなの方が自分より可愛い』と思っている節が強い。

 

 彼女自身の性格的なものもあるんだろうけど……告白は俺からだったわけだし、一応周藤良太郎の心を射止めたってことで少しぐらい改善してくれても……。

 

 って、あれ? これもしかして俺の責任でもある? 恵美と恋人になっても結構フラフラと他の女の子見てるから? 低い自己評価を更に下げさせてる?

 

「あ、リョータロー! アレやろアレ! ウォータースライダー!」

 

「あぁ、うん……」

 

 ……まぁ、そうだよなぁ……こんなに可愛くて性格良くて、ついでに俺好みのプロポーションをしている女の子が俺の彼女になってくれたんだから、そろそろ落ち着かなきゃ不誠実ってもんだよなぁ……。

 

 しっかりと俺の腕を抱きしめる恵美に引かれ、ウォータースライダーの入口へと足を向けた。

 

 

 

 ウォータースライダーというのは何処のプールでも人気で、分かっていたことではあるが長い待ち時間があった。ウォータースライダーの構造上、その待ち時間を階段で過ごすことになるのだが、目のやり場に困ること困ること。

 

 一応女性と階段を昇る際のマナーとして俺が下になるように並んでいるのだが……。

 

「それでねー、莉嘉ちゃんに教えてもらったんだけどー、実は美嘉って――」

 

 最近写真撮影の現場であった出来事を楽しそうに話してくれる恵美。当然俺が見上げる形になるのだが、彼女の顔を見ようとすると自然に彼女の胸が視界に入ってくる。下から見上げる彼女の大乳はより一層大きく魅力的に見えた。

 

「っと、ゴメン、列動いてたね」

 

 そう言って振り返り階段を昇る恵美。彼女が先に階段を昇る始める関係上、先ほどまで俺が見上げていた位置に今度は彼女のお尻が来るのだ。臀部には胸部ほど関心を寄せていないとはいえ、それでも一般人男性としてそれに視線が吸い寄せられるのは仕方がないのだ。

 

 結果、先ほどの「後でしっかりと見せてあげる」という約束が、彼女の与り知らないところで果たされてしまっていた。

 

 しかし責任転換するつもりはないが、恵美も恵美で少々無防備すぎる。今は後ろが俺だからいいものの、もしどこの誰とも知れない男だったらと考えると……。

 

 恵美ならば分かっているとは思うのだが、一応手でそれとなく隠してはどうかと声をかけようとして――。

 

「………………」

 

 ――彼女の耳が僅かに赤くなっているのに気づいた。

 

 一瞬、まぁ暑いから赤くなってもおかしくないだろうとも思ったが、見ると手も落ち着かない様子で指先を合わせて忙しなかった。

 

 ……あ、これ、俺の視線に気づいてるやつだ。気付いてる上で、あえて隠さずに俺に見せてる奴だ。

 

「………………」

 

 それに気付き、そっと両手で顔を覆う。

 

(俺の恋人が微妙にズレた方向で健気で尊い……!)

 

 本当にこの子だけは絶対に悲しませちゃいけないと心から誓った。

 

 

 

 ウォータースライダー自体は特筆すべきことはなかった。しいて言うならば、俺が後ろから抱きしめる形で滑ることになり腕を回した彼女のお腹がスベスベとしていたという感想が浮かんだぐらいで、着水と同時に彼女の水着が取れるといったラブコメ的ハプニングは発生しなかった。

 

 少々残念な気もしたが、よく考えると自分の恋人のあられもない姿を不特定多数の人間に見られるというのは、特殊な性癖をお持ちの方以外は普通に嫌である。そういうのは家に帰って二人だけの時にするものである。……生まれてこの方一度もしたこと無いけど。

 

 そんなラキスケ系ラブコメ的ハプニングは発生しなかったが……少女漫画系ラブコメ的ハプニングは発生してしまった。

 

「君可愛いねー?」

 

「もしかして一人? それとも友達と一緒?」

 

「あ、あははっ、彼氏と来てまーす……」

 

「えー? それより俺たちと遊ぼうよー」

 

 お手洗いに行って少し離れている間に、恵美が二人の男にナンパされていた。

 

 思わず「今どきこんなナンパをする奴がいるのか……」とか「使い古されたテンプレートなセリフを臆面もなくよく言えるな」とか「恵美をチョイスするとは良い目をしている」と色々な意味で感心してしまった。

 

「ん? この子、アイドルの所恵美に似てね?」

 

 あ、マズイ。身バレする前にさっさと連れ出して……。

 

「まぁいいや、ほら行こうぜ」

 

「きゃっ……!?」

 

 男の一人が恵美の手首を掴み――。

 

 

 

 パシッ

 

「「「……え?」」」

 

 

 

 ――次の瞬間には、俺の手がそれを弾いていた。

 

「リョ、リョータロー!」

 

「ちっ、なんだよコイツ」

 

「コイツが彼氏?」

 

 恵美がホッとした声を出し、男二人が嫌そうな声を出す。

 

「……いやーこれ一回言ってみたかったんだよねーホント機会に恵まれたわーありがたいわー」

 

「おい、何ぶつくさ言ってんだよ」

 

「アイタタター! あーこれ手の骨が折れて――!」

 

 

 

 ――()()恵美に手ぇ出すんじゃねぇよ。

 

 

 

「――ないわー! 全然折れてないわー! いやぁ丈夫な体サイコー!」

 

315(サイコー)といえば『THE iDOLM@STER sideM LIVE ON ST@GE!』は事前登録キャンペーン実施中だわー! これは登録するしかないわー!」

 

「それでは引き続きプールデートをお楽しみください!」

 

 冷や汗を流しつつも爽やかな笑顔で去っていく男二人を「お気遣いどうもー」と見送りつつ(案外上手くいったなー)と内心で呟く。

 

 俺がやったのは、単なる『演技』である。流石に恭也や士郎さんのように気迫だけで人を追っ払うような真似は出来ないが、声色と目線とこの身から溢れている(であろう)アイドルオーラだけである程度それに近いことをやってみたのだ。

 

 ……もっとも、俺が()()()()()のは演技でもなんでもないが。

 

「ゴメン恵美、大丈夫……恵美?」

 

 そう恵美に尋ねると、ギュッと抱き着かれた。もしかして怖かったのだろうかとも思ったが、体は震えていない。

 

 一体どうしたのかと思いつつも、先ほどとは逆に俺が後から彼女の背中に手を回すのだった。

 

 

 

 

 

 

 男の人に声をかけられるのは、別に初めてのことではなかった。アイドルになる前にも何度か声をかけられたことはあったし、あしらうことも出来た。だから別に怖いとかそういうのを思ったことはなかった。

 

 じゃあどうして、今アタシがこうしてリョータローに抱き着いているのか。

 

 

 

(……か、カッコよかった……!)

 

 

 

 ただ単に、まともに顔を見ることが出来ないだけである。

 

 いや、普段からリョータローはカッコいいのだが、今のは本当にカッコよかった。リョータローは女の人の胸を見るときに一番真剣な目をするのだが、そのとき以上に真剣な目をしていたといえばどれだけ真剣な目だったのか分かってもらえると思う。

 

 だから、そこまで私のことを想ってくれているのかと胸がいっぱいになってしまった。

 

(……でも、やっぱりアタシよりいい子がいるはずなのに……どうしてアタシなんかを……)

 

 心の中に浮かんだそんなネガティブな考えを、首を振って霧散させる。

 

 リョータローがアタシを好きと言ってくれた。アタシを恋人にしたいと言ってくれた。

 

 周藤良太郎が所恵美を好きと言ってくれた。

 

 

 

 そして、所恵美も周藤良太郎が大好きなのだ。

 

 

 

 まゆにだって、志保にだって、りんさんにだって美希さんにだって、負けたくない。

 

 だからアタシは()()()()()()なんて言っちゃいけないんだ。

 

 アタシは『周藤良太郎の恋人』であることに胸を張ろう。

 

 それが、自信のないアタシにとって、今一番の自信なのだから。

 

 

 

 

 

 

「……ゴメンね、ありがと。今離れるから……」

 

「もうちょっとだけ。やわっこくて気持ちいい」

 

「……バカ」

 

 

 




・周藤良太郎(20)
(前略)
今回は珍しく恋人に至る理由を記載。隣にいることでじわじわと好きになるとか、ラブコメかよ……(驚愕)

・所恵美(17)
積極的なまゆのことを一歩引いて見ていたら、逆に良太郎の心を射止めてしまった小悪魔系純情ギャル。色々とあったらしいが、とりあえず今でもまゆは親友(意味深)
今回は本編で微妙に取り扱えていない『微妙に自己評価が低い』面を押し出してみた。

・ガーデンオブアヴァロン……!
「星の内海(うちうみ)、物見の(うてな)。楽園の端から君に聞かせよう」

言葉にできない概念(サイキック)
ゆっこ「サイキックとは、言葉にできない概念なんです!」
俺たち「お、おう」

・「なーいすっ! ないすっ! ないすばでぃー!」
「あれは誰だ? 美女だ? ローマだ? 勿論っ! 余だよっ!」

・「『THE iDOLM@STER sideM LIVE ON ST@GE!』は事前登録キャンペーン実施中だわー!」
みんな登録しよう! ……え、自分? 今度するから(目逸らし)



 なんかいつも以上にラブコメ度が高い恋仲○○シリーズ、今回は恵美でした。

 先日の水着SSRで書かざるを得なかった。というか今さらながらプールでのお話を書いたのが初めてという事実に驚愕。そーいややってなかったなぁ……。

 次回は本編に戻りまーす。



『どうでもよくないけど小話』

 5thツアー全行程終了、お疲れ様でした!

 次回6th、単独ドームライブで是非お会いしましょう!

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