アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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※良太郎は次回カッコイイことを言わないといけないので、主人公ぢからを溜めるためにお休みです。


Lesson175 The world which can't say to want 3

 

 

 

『わーっ!』

 

 つい先日から私たちシンデレラプロジェクトの拠点となった資料室に、みんなの声が響き渡る。

 

 それは、今しがたプロデューサーから告げられた「代替イベント『シンデレラの舞踏会』の企画案が美城常務を通った」という報告に対する歓声だった。

 

「いつ!? 開催日は!?」

 

「今期末です。それまでの期限付きですが、ある程度はこちら主導で企画を進めることが出来ます」

 

「『舞踏会』を成功させたら、プロジェクトを存続できるってことだよね?」

 

「はい」

 

 未央と私の問いかけに対するプロデューサーの答えに、プロジェクトのみんなに希望の光が見えた気がした。

 

(……ありがと、良太郎さん)

 

 勿論、プロデューサーが考え付いた代替案そのものが良かったというのもあるだろうが、その窓口を少しでも広げてくれたのは良太郎さんだ。だから一人小さく心の中で、普段は少々アレだけどなんだかんだ言って頼りになるお兄ちゃんにお礼の言葉を呟くのだった。

 

 ……内心での独り言とはいえ、だいぶ恥ずかしいことを言った自覚はある。

 

「やった!」

 

「これでみんな一緒にいられるね!」

 

 喜色満面に喜ぶみりあと莉嘉だが、その横に座る美波の表情は険しいままだった。

 

「……でもそれは、舞踏会が成功したら……っていう話ですよね?」

 

「……はい」

 

 プロデューサーが頷くと、先ほどまで明るかった部屋の空気が少しだけ暗くなる。

 

 成功すればプロジェクト存続。つまり、当たり前の話ではあるのだが、成功しなかったら、そのときは……。

 

「……だったらみんなで!」

 

 そんなとき、一番最初に声を出したのは、やっぱり未央だった。

 

「だからこそみんなで、力を合わせて、『舞踏会』を成功させよう!」

 

 

 

「……だよね! 逆転のチャンスだよ! みくたちの力を見せつけてやるにゃ!」

 

「天から追われた者たちよ……今こそ反旗を翻すとき!」

 

「おぉ……! ロックっぽくなってきた!」

 

「よかったぁ……」

 

「ワクワクするにぃ!」

 

「どうなるかと思ったよ……」

 

「新しい目標、出来ました」

 

 

 

 未央の言葉に、プロジェクトのみんなの顔に希望が戻った。

 

 こういうことを自然と出来る辺り、流石私たちニュージェネレーションズのリーダーである。

 

「なんか大変そうだけど……」

 

 そんな杏の言葉にも、未央は「大丈夫!」と言い切った。

 

「私たちは私たちのやり方で……笑顔でいこう!」

 

「……うん」

 

「はいっ!」

 

 私と卯月も、それに頷く。

 

 例え美城常務が何かをしてこようとも……例え美城常務のやり方も間違っていなかったとしても……それでも、私たちには私たちの決めたやり方と、進んでいきたい道がある。

 

 ならば、それを譲る道理もないし負けるつもりもない。

 

「それじゃあみんな、改めて! 『シンデレラの舞踏会』……絶対に成功させるぞー!」

 

『おー!』

 

 

 

 

 

 

「『舞踏会』に向けて、プロジェクト全体が力を付けていかなければなりません」

 

 今後の方針を決めるためのミーティングで、『シンデレラの舞踏会』と書かれたホワイトボードの前に立つPチャンに全員の視線が向けられる。

 

「外部にアピール出来るよう、より皆さんの個性に特化した企画を考案中です」

 

 そんなPチャンの言葉に思わず右手を挙げる。

 

「だったら、みくたちからも企画を提案してもいいの?」

 

「勿論です。一緒に考えましょう」

 

「わぁ……!」

 

 つまり自分がアイドルとしてやりたい企画を通すことが出来るかもしれないということで……!

 

「ふふっ……!」

 

 プロジェクト存続の危機がかかっているということは重々承知しているにも関わらず、思わず笑みが零れてしまうのはしょうがないことだった。

 

 

 

「……いや、だからって『猫200匹ライブ』は無いと思う……」

 

「なんでにゃ!?」

 

 ミーティングが終わり、次の収録までの時間潰しとして資料室で企画案を考えていたところ、李衣菜ちゃんからダメ出しをされてしまった。

 

「もうちょっと現実的に考えなよ」

 

「ダー。猫アレルギーの人、来れません」

 

「アーニャちゃん、多分そこじゃないと思うんだけど……いや、それはそれで確かに問題だけど」

 

 若干ズレた見解を述べたアーニャちゃんは美波ちゃんに任せておくことにして。

 

「そのくらいキュートさをアップしたいってこと!」

 

「猫の数=キュートさなの……?」

 

 可愛いものが沢山いればそれだけキュートなのは当たり前にゃ!

 

「李衣菜は何か考えてるの?」

 

 そんな凛ちゃんの問いかけに対し、李衣菜ちゃんは「勿論っ!」と胸を張った。

 

「ロック色を強めて、より尖ったファン層にアピールをっ!」

 

「そーいうのはギターを弾けるようになってから言うにゃ!」

 

 ぐぬぬっ……! とお互いに睨みあうみくと李衣菜ちゃんの静かな争いは、Pチャンが番組収録のためにみくたちを呼びに来るまで続けられたのだった。

 

 

 

「えっと、確かマッスルキャッスルの収録だっけ……他の出演者は……」

 

「っ! 安部菜々ちゃんにゃっ!」

 

 

 

 

 

 

 マッスルキャッスルこと『筋肉でドン! Muscle Castle!!』は、初回こそ周藤良太郎という他事務所の人間を特別ゲストに迎えたものの、基本的には346プロダクションのアイドルたちのバラエティー番組である。数人のアイドルたちが主に体力勝負のミニゲームに挑んで得点を競うのだが……。

 

「これはバラエティーにしてはレベルが高すぎないかにゃ……!?」

 

 流石にずぶの素人がボルダリングで五メートル以上の壁を昇るのは無理がありすぎるんじゃないかにゃー!? もうちょっとこう、普通は登りやすいように取っ手とか金具とか付いてるものじゃないかにゃ!? なんで石タイプの持つところしかないにゃ!?

 

『一歩リードはあやめ選手! 流石忍ドル! 本領発揮かー!?』

 

『みくちゃんと菜々ちゃんは仲良く蝉状態ですねぇ』

 

 壁にしがみつくのが精いっぱいなみくと菜々ちゃんを他所に、隣では浜口(はまぐち)あやめちゃんが「ニンッ! ニンッ!」という独特な掛け声とともにスイスイと壁を昇っていた。確かに忍者アイドル略して忍ドルを自称しているだけあって軽い身のこなしだった。

 

『えーっとぉ、資料によるとあやめちゃんは、最近街中で本物の忍者に出会ってからアイドルのレッスンと同じぐらい忍者の修行に励んでいるそうでぇす』

 

『え、本物の忍者ってどういうこと!?』

 

 司会である愛梨ちゃんと瑞樹さんのそんなやり取りも聞こえてくるが、そちらを気にしている様子も無かった。

 

「ちょっとみくちゃーん! 猫なら木登り得意でしょー?」

 

「これは木じゃなくて壁なのにゃー!?」

 

「世界には崖のほんのわずかなでっぱりに足を乗せて登っていく猫がいるらしいから行けるってー!」

 

「それは山羊にゃあああぁぁぁ!?」

 

 下から聞こえてくる李衣菜ちゃんの応援の(煽ってくる)言葉に律儀にツッコミを入れてしまう。自分に流れる大阪の血が憎い。

 

「うにゃあああぁぁぁ猫チャンパワー全開にゃあああぁぁぁ!」

 

『おおっと!? ここで猫キャラの意地を見せるか!?』

 

「みくまっしぐらにゃー!」

 

「みくちゃーん! その台詞、スポンサー的には大丈夫かなー?」

 

「李衣菜ちゃんは応援する気無いなら口を閉じるにゃあああぁぁぁ!」

 

 しかしいい具合に李衣菜ちゃんに対してイラッとしたパワーが活力剤になったらしく、自分でも驚くほどグイグイと壁を昇ることが出来た。

 

『皆さーん、壁を昇るのは()易するでしょうけど、頑張ってくださいねー』

 

 今日の王様ゲストの楓さんの言葉に一瞬力が抜けそうになるが、このまま行けばあやめちゃんも抜いてみくが一位にゃ!

 

 しかしそんなとき、下から菜々ちゃんのパートナー役の裕子ちゃんの声が聞こえてきた。

 

「むむっ! このままではいけません! サイキックぅ~エナジー注入!」

 

「エナジー受信! いっきまーす!」

 

『ミンミンミンッ! ミンミンミンッ! ウーサミンッ!』

 

 途端にスタジオの観覧席から聞こえてきた『ウサミンコール』は、菜々ちゃんの代名詞とも呼べるものだった。そのウサミンコールを受け、先ほどのまでの停滞ぶりが嘘のようにグイグイと追い上げてくる菜々ちゃん。ゴールまであと少しだったみくやあやめちゃんにあっという間に追いつくと、タッチの差で逆転を許してしまうのだった。

 

『ゴールっ! 一着は僅差で安部菜々ちゃん!』

 

『二位はあやめちゃん、三位はみくちゃんでしたぁ。みんなぁ、お疲れ様ぁ』

 

「はぁ……はぁ……」

 

 負けてしまって悔しい気持ちは確かにあった。でもそれ以上に、今のみくの中で一番大きな感情は『凄い!』という感嘆だった。

 

 観客や会場全体が菜々ちゃんのことを『ウサミン』という一つのキャラクターとして認識しているからこそ起こりうるこの一体感。

 

「くぅ~……これにゃ! これこそがみくの目指すべきアイドルとしての『キャラクター』にゃ!」

 

「えっ?」

 

「やっぱり菜々ちゃんはみくのライバル……いや、目標にゃ!」

 

「え、えぇ!?」

 

 みくもいつか、菜々ちゃんみたいなアイドルに……!

 

 それは、『周藤良太郎』とは全く別の意味での憧れるアイドルの姿だった。

 

 

 

 

 

 

「……私が、目標……ですか」

 

 今日の仕事を終え、いつもの帰りの電車の中。吊革に掴まり、ドアのガラスに映る自分の姿を見つめながら、今日のマッスルキャッスルの撮影での出来事を思い返す。

 

 346プロのアイドル部門の中で比較的新しい部署である『シンデレラプロジェクト』。そこに所属する前川みくちゃん。以前、事務所内でストライキをするという驚きの行動をした彼女だが、最近では多田李衣菜ちゃんとユニットを組んで正式にビューしたと聞いた。

 

 『早くデビューしたいから』という理由でストライキをした彼女だったので、正式にデビューが出来て良かったとナナも一安心したのですが……。

 

 

 

 ――菜々ちゃんはみくのライバル……いや、目標にゃ!

 

 

 

(……は、初めて言われました、そんなこと……)

 

 確かに、彼女は猫キャラアイドルを目指しているらしいので、ある意味では私と同じ方向性のアイドルなのかもしれない。

 

 それでも、まさか自分がアイドルとしての目標となる日が来るとは……。

 

 考えたことが全くないわけじゃない。アイドルを目指す以上、誰かに憧れられるのを期待するのはしょうがないことだ。

 

 でも実際にこうしてそんな存在になると、なんともむず痒かった。

 

 しかしそれ以上に……もっともっと、頑張ろうと、そんな気持ちになれた。

 

「……よーし! 明日もウサミンパワーで、頑張っちゃいますよー!」

 

 ……思わず電車内で叫んでしまい、注目を浴びてしまうぐらいにはテンションが上がってしまった。

 

 

 

 でも、そんな心地よい気分には、長く浸ることは出来なかった。

 

 

 




・だいぶ恥ずかしいことを言った自覚はある。
書けば書くほど凛ちゃんを妹扱いしたくなる不思議。

・「これはバラエティーにしてはレベルが高すぎないかにゃ……!?」
アニメ見返してみたけど、これ普通にアイドルがバラエティーでやるレベルじゃないと思った。しかも命綱無し。

・浜口あやめ
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
アイエエエ(ry 忍者なアイドルを目指す15歳。
実はアニメのこのシーンが声付き第一声だったりする。

・最近街中で本物の忍者に出会って
とある事務所のとあるアイドルのとあるマネージャーが忍者だとかじゃないとか。

・みくまっしぐら
『カルカン、ねこまっしぐら』

・今日の王様ゲストの楓さん
一升瓶片手に登場して川島さんに怒られるなんて一幕があったりなかったり。

・「サイキックぅ~エナジー注入!」
サンキューユッコ!(4thSSA初日並感)

・『ミンミンミンッ! ミンミンミンッ! ウーサミンッ!』
作者も最初は勘違いしてたけど『ミミミン! ミミミン!』は間違いなんすね。



 主人公不在なつなぎ回。今回英気を養った分、主人公っぽい仕事をしてもらおうと思います(主人公らしい言動をするとは言っていない)



『どうでもいい小話』

 デレステ二周年おめでとう! 二年前に遡るとちゃんとリリース時にコメントを残してあったりする。

 しかしミリシタとエムステがまだリリースして間もないときに色々とぶっこんでくるちひろさんはやっぱりちひろさんやでぇ……。



『どうでもよくない小話』

 デレステイベントSR復刻うううぅぅぅ! 約二年の時を経て楓さんが手に入るうううぅぅぅ! 高垣艦隊が組めるうううぅぅぅ!

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