アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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詰め込んだ結果、いつもよりちょっと多くなったゾ……。


Lesson181 I waver, laugh or yawn 5

 

 

 

 その日の予定を終えて私は一人帰路に着きながら、少し物思いに耽る。

 

「………………」

 

 最近、あまりみくちゃんと上手くいっていない気がした。いや、今まで頻繁に起こしていた軽いいざこざというか、喧嘩みたいなものが減ったので、客観的に言えば上手くいっているのかもしれない。

 

 でも、なんていうか……それは、今までよりもお互いに対して一歩を踏み出せていないような気がするのだ。確かにお互いの意見をぶつけ合って、周りから『解散芸』とまで呼ばれるぐらいことあるごとに「解散だ!」と言い合っている自覚はあるが、それはそれで私たちの『絶対に妥協しない』というユニットの方向性なのだ。

 

 それが最近では、お互いがお互いに気を遣いすぎている。……いや、ここだけ切り取れば凄いいいことだし、寧ろ今まで何やってたんだと言われること請け合いなのだが……私たちらしくないのは間違いない。

 

 原因があるとすれば、きっと……。

 

「よお、今帰りか?」

 

「……え?」

 

 俯きぎみに事務所の敷地から出ると、その直後に声をかけられた。

 

 顔を上げるとそこにいたのはなつきちで、ガードレールにもたれかかりながら立っていた。その向こう側には彼女のバイクもあった。

 

「なつきち……」

 

「なぁ、暇ならちょっと付き合えよ」

 

 そう言いながら、彼女はヘルメットを掲げた。それはなつきちがいつも被っているものではなく、多分私が被る用のもの。

 

 ……もしかして、私が来るまで待ってた……?

 

「……うん」

 

 少しだけ迷ったが、断る理由も無かったので私は頷き、なつきちからヘルメットを受け取った。

 

 

 

 

 

 

「わー……! きれー……!」

 

 バイクに二人乗りという初めての体験をしつつ、なつきちに連れてこられたのは、夕方の海浜公園。夕日に煌めく海面がとても綺麗だった。

 

「だろ? 気晴らししたくなると、時々来るんだ」

 

「へぇ……って、気晴らし? なんか嫌なことでもあったの?」

 

 えっと隣のなつきちの顔を覗き込むが、彼女は「いや……ちょっとな」と詳しいことは話してくれなかった。

 

「ギター弾いてるか? だりー」

 

「うんっ! 最近はよく弾いてる! CDの真似とかしてみるんだけど、難しくて……」

 

「そりゃいきなり上手くはならねぇだろ。……まぁ、練習初めて二ヶ月でいい音出すスゲェ奴もいたけどさ」

 

「えっ!? 二ヶ月で!?」

 

「あぁ。少なくとも、今のだりーよりはいい音出してたぜ。しかもそれが本職じゃねぇってのに、大勢の人の前で恥ずかしくない演奏をしたんだぜ?」

 

 ホントにスゲェよあの人、と手放しに褒めるなつきちの姿に少々嫉妬してしまうが、果たしてなつきちにそこまで言わせる人っていうのはどんな人なんだろうか。

 

 なつきちの知り合いで、ギターが本職じゃない人……ってことは、アイドル?

 

(うーん、凄いアイドルもいるんだなぁ……)

 

 

 

 

 

 

「……へっきしっ!」

 

「ん? どうした周藤、風邪か?」

 

「いや、なんか久しぶりにアイドルとして褒められたような気がして……」

 

「私と阿良々木君のデートの邪魔をするに飽き足らず、そんな妄言まで吐けるなんて相変わらずの能天気具合ね。流石、こんな阿良々木君みたいな人間とオトモダチをやっているだけのことがあるわ」

 

「久しぶりに会ったけど戦場ヶ原(せんじょうがはら)さん辛辣ぅ!」

 

「っていうか、さりげなく僕まで貶めなかったか!?」

 

 

 

 

 

 

「でも、私だって絶対上達するし!」

 

 確かにその人は凄いけど、別に上達が早いからって関係ない! 私だってちょっとずつ上達してるんだ!

 

「で、この間のライブみたいなカッコイイステージを、いつか私もやるんだ!」

 

 そう、つい先日のなつきちのライブのような、カッコイイステージを。

 

 そんな私の宣言に、一瞬だけ呆けた様子を見せたなつきちだったが、すぐに表情を崩してフッと笑った。

 

「……カッコイイ、か。……やっぱロックはカッコよくなきゃだよな」

 

「うん! そうだよ!」

 

「だりーと話してっと、なんかホッとするな」

 

 なつきちのその言葉が少し嬉しくて、私も気持ちが明るくなり――。

 

「お前もウチのメンバーに入ればいいのに」

 

「……え?」

 

 ――何故か、なつきちのその言葉が胸に引っかかった。

 

「って無理か。お前には別のユニットがあるんだしな」

 

「……うん」

 

 そうだ、私にはアスタリスクがあって……でも……。

 

「……そろそろ暗くなるし、帰ろうぜ。家まで送る」

 

 なつきちにポンッと肩を叩かれて顔を上げるが……何故か、なつきちの顔を見ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

「――なちゃん。……李衣菜ちゃん?」

 

「……え?」

 

 名前を呼ばれ、振り返る。そこにはステージ衣装を身に纏い、気合十分といった様子のみくちゃんがこちらを見ていた。

 

「今日のライブ、最高に盛り上げるにゃ!」

 

「……う、うん」

 

 なつきちとドライブをした次の日である今日は、みくちゃんと共にライブのお仕事だ。

 

 勿論私も、みくちゃんと色違いの衣装を着て既に準備は万端。ストレッチをしながら自分たちの出番を待っていたのだが……少しだけ、ボーッとしてしまっていた。

 

(ダメダメ、集中しないと……)

 

 みくちゃんだってこんなにやる気満々なんだ。私だって、頑張らないと!

 

 

 

『みんなー! 元気ー!?』

 

『今日も行っくよー!』

 

『『ΦωΦver!!』』

 

 定刻となり、私とみくちゃんはステージに立つ。小さいステージとはいえ、客席は満員で、ピンクと青のサイリウムに彩られていた。初めてステージに立ったときとは違い、今ではちゃんと『私とみくちゃんの歌』を聞きに来てくれているお客さんが沢山いるという事実に嬉しくなる。

 

(そうだ、やっぱり私は――)

 

 

 

 ドンッ

 

 

 

(――え?)

 

 曲もサビに入り、私とみくちゃんの動きが激しくなった直後、横から何かがぶつかる衝撃に身体がよろめいた。全く予期していなかった出来事に反応できず、そのままステージの上で転んでしまった。

 

(まずっ……!?)

 

 サーッと血の気が引く音がした気がした。一体何が起きたのかは分からないが、このままじゃ私のせいでステージが台無しになってしまう。とりあえずみくちゃんが歌ってくれているはずだから、すぐに私も……。

 

 しかしそこまで考えて、歌声が何も聞こえなくなっていることに気が付いた。聞こえるのはオーバーのインストと観客のどよめきだけ。

 

 そこで私はようやく気が付いたのだ。

 

 私がぶつかったのが一体何だったのか……いや、一体誰だったのか。

 

 

 

 私と同じようにステージに倒れるみくちゃんが、そこにいた。

 

 

 

 

 

 

「本当にゴメンッ!」

 

 ライブ自体は、その後すぐに立ち上がって曲を続けることが出来た。観客は少しだけ戸惑った様子を見せていたが、すぐに元の盛り上がりに戻ってくれた。だから全体的に観れば盛り上がって成功。あとは二人で要反省……なのだが。

 

「みくのせいで、ライブが台無しにゃ……!」

 

 ライブ終了後、楽屋に戻るなり、みくちゃんは私に向かって深々と頭を下げた。

 

「いいよ別に、大したことなかったんだし……」

 

「よくない……良いライブにしようって思ったのに、みくのミスにゃ……」

 

「いいって。お互いの不注意ってことにして、今後の改善すべき課題に……」

 

「よくないっ!」

 

 みくちゃんの肩に触れようとした手が宙で止まる。顔を上げたみくちゃんは、泣きそうな顔をしていて、しかし泣かないように必死に頑張っている……そんな辛い顔をしていた。

 

「……みくだって分かってるよ。李衣菜ちゃんは本気で、もっと本格的にロックやりたいんだって。だったら、本当はみくなんかより……」

 

「っ!」

 

「でも、だからこそ、みくはもっともっと頑張らなくちゃいけないの。李衣菜ちゃんが迷わないように……このユニットで良かったって思えるように……みくが頑張って最高のユニットにしなくちゃ……」

 

「バカッ! 人の気持ちを勝手に決めないでよ! みくちゃんとユニットを組むのは、私が自分で選んだことなんだから!」

 

 違う、私だってバカだ。なつきちに憧れてばかりで、一緒にユニットを組んでるみくちゃんのことをちゃんと見てなかった。見てなかったから、みくちゃんが不安がってることに気付けなかった。

 

「でも……アスタリスクはロックだけじゃないし……」

 

「いつも言ってるし、みくちゃんだって言ってたじゃん! 『自分のやりたいことを貫くのがロック』で、『自分がロックだと思ったらそれがロック』なんだって! アスタリスクが、私にとってのロックなの!」

 

 肩を掴み、みくちゃんの顔を真っ直ぐに見つめる。不安そうに涙に瞳を揺らすみくちゃんに、私の視界も少し滲んでいた。

 

「……そんな心配させちゃった私の方こそ……ごめん……」

 

「……ううん……ごめんにゃ……」

 

「だから、私の方が悪いから……!」

 

「で、でも、やっぱりみくも……!」

 

「「……わからずや!」」

 

 そこから先は、いつものやり取り。でも今は、いつも以上にそのやり取りが心地よかった。

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「……入らねーのか? 夏樹」

 

「ジュリア……入れるわけねぇって。アタシのせいで、仲違いさせちまったみたいだしな」

 

「別にお前のせいってわけじゃねぇだろ」

 

「……はぁ、ちょっと羨ましいぜ、あの二人が。自分たちで自分たちの音を作ってけるんだからな」

 

「……実は最近、ちょっとだけ、ちょーっとだけ尊敬してる人がいてな」

 

「? なんだよ、いきなり」

 

「その人は、事務所の壁とか性別の壁とか、なんもかんも取っ払って自然にそこにいるんだ。初めはただ自分を曲げないロックな人だなぁって思ってたんだけど、最近そうじゃねぇんだって気付いた。っていうか、その人のライブに初めて行って気付いた」

 

「だから、何を……」

 

 

 

「その人は『俺が世界の中心だ、何か文句あるか?』って歌ってるんだよ」

 

 

 

「……は?」

 

「とんでもねぇだろ? あの人はただ自然に『世界の中心がそこなんだ』って、周りに納得させちまうんだよ」

 

「………………」

 

「周りに認められないことを貫いて黙らせるだけじゃなくて、それこそが『本物』なんだって認めさせる……あたしは、アレが『本物のロック』だって、そう思ってる」

 

「……本物のロック、か」

 

「軽々しく口にすることじゃねぇけどさ……そう思っちまったから、あたしはアイドルとしてでもロックの道を進んでいけるって、そう思ったんだよ」

 

「………………」

 

「なぁ、夏樹――」

 

 

 

 ――お前の世界の中心は何処だ?

 

 

 

 

 

 

「にゃふふ~ん」

 

 色々あったライブの翌日。みくはやや上機嫌で事務所の資料室へと向かっていた。ほんのちょっぴりだけすれ違っちゃった李衣菜ちゃんとも仲直り出来て、今日からまた改めてアスタリスクの快進撃が……!

 

「って、にゃ?」

 

 何やら資料室からギターの音が聞こえてくる。しかもこれは……え、凸レーションの『LET'S GO HAPPY!!』にゃ!?

 

「ま、まさか李衣菜ちゃんのギターがここまで上達してたにゃんて……!?」

 

「私がどうかしたの?」

 

「だから……え?」

 

「おはよう、みくちゃん」

 

 振り返ると、そこにはいつものようにギターケースを肩にかけた李衣菜ちゃんの姿があった。

 

「お、おはよう……って、え? じゃあ、誰がギターを弾いてるにゃ……?」

 

「え? ギター?」

 

 二人で資料室の扉を開ける。

 

 

 

「わーっ! 凄いすごーい!」

 

「ねぇねぇ、次はお姉ちゃんの『TOKIMEKIエスカレート』弾いて! アタシ歌うから!」

 

「お、いいぜ」

 

 

 

 そこには、みりあちゃんと莉嘉ちゃんにせがまれながらギターを構える夏樹ちゃんの姿があった。

 

「な、なつきち!?」

 

「よぉ、だりー、みく」

 

 みくたちに気付いて爽やかに笑いながら手を上げる夏樹ちゃん。

 

「ど、どうしてここに……!?」

 

「あぁ。実は今日から、アタシもここで世話になることになってな」

 

「「えぇ!?」」

 

 唐突すぎるその言葉に、驚愕の声が李衣菜ちゃんと重なる。口をあんぐりと開けながら部屋の隅にいたPちゃんに視線を向けると、彼はいつもと変わらぬ表情のままコクリと頷いた。

 

「な、なんで……?」

 

「……ちょっと、世界の中心を探しに、な」

 

「「は?」」

 

 え、何その少年漫画の主人公みたいなセリフは……。

 

「ま、とにかくよろしくな。もしかしたら、だりーとユニット組めるかもしれないし」

 

「えっ……」

 

「……李衣菜ちゃん、今ちょっと嬉しそうな顔しなかったかにゃ?」

 

「………………」

 

 そこは嘘でも否定するところにゃ……!?

 

「……あぁもう、李衣菜ちゃんがその気なら――!」

 

 

 

 ――やっぱり、アスタリスクは解散にゃあああぁぁぁ!!

 

 

 

 

 

 

「やっぱりあの二人はこうでなくちゃ」

 

「ですね」

 

「うんうん。……ところでしぶりん、例のメッセージ、本当に送ってないよね……?」

 

「………………」

 

「送ってないよねっ!?」

 

 

 




・練習初めて二ヶ月でいい音出すスゲェ奴
なつきち初登場の黄色の短編集参照。

・阿良々木君
・戦場ヶ原さん
阿良々木君は名前だけ、ガハラさんも存在だけは仄めかされてたけど、直接登場は両者ともに初。年齢的な部分を考えると、阿良々木君は既にロン毛。
いやぁ、見事な終わる終わる詐欺だったなぁ……。

・『俺が世界の中心だ、何か文句あるか?』
元ネタというか影響元は、ハヤテのカユラ(単行本32巻参照)

・『LET'S GO HAPPY!!』
そういえばまだこの小説だと解説が入ってなかった気がする、凸レーションの楽曲。
ライブだとコールが楽しい曲の一つ。ただデレステだとそのコールが聞けないのが悲しい……。

・『TOKIMEKIエスカレート』
そしてこちらも触れていなかった美嘉の楽曲(一曲目)
こちらもコールが楽しいが、やはりデレステだと……。

・「送ってないよねっ!?」
※送っていません。



 「やった! シンデレラプロジェクト に きむらなつき が くわわったぞ!」

 というわけで、若干のアレンジを入れつつ、なつきちCP入りです。この段階ではまだ『アスタリスクwithなつなな』が結成されていませんので、その辺のエピソードは持ち越しとなります。

 そしてようやくなつきち回終了です。いやぁ長かった(当社比)

 次回は本来の話の流れに戻して、とときら学園&凸レ回、もしくは番外編のどちらかです。さぁてどうするかなー……。



『どうでもいい小話』1
そーいえば、まだエピソードジュピターもエムマスも観てなかったゾ……。

『どうでもいい小話』2
人 理 修 復 完 了 !
これでもう新しいイベントが始まる度に置いてけぼりにされずに済むぞー!

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