※若干時系列無視。
※いつも以上にメタネタ多め。
「長く苦しい戦いだった……」
いやホント。テレビの収録があんなに長く感じたのはいつぶりだろうか……。
あの後、765プロのみんなとの撮影は無事に終了。本当に、かろうじて無事に、だが。
ある程度最初からそうなると分かっていれば対抗できるというりっちゃんの案は一応正しかったらしく、何人かが撮影の最中ずっとそわそわとしていたが、それだけで撮影中止になるような大きなハプニングは無かった。
小さなハプニングとしては、カメラが止まっているところで真美が抱き着いてきたのを避けたり、真ちゃんが全力で正拳突きを繰り出して来たのを避けたぐらいだ。……前者はともかく、後者は本気で避けた。それはもう鋭く風切り音が聞こえてくるぐらいの熟練の拳だったので、アレを喰らっていたら半日は目を覚まさなかっただろう……。
ただ一つだけ収穫があった。それは楽屋で抱き着かれたときに分かった美希ちゃんの胸の成長具合でも、休憩中にお茶を飲んでいたところに後ろからふっと耳元に息を吹きかけてきたときに背中に当たっていたあずささんの胸の柔らかさでもない。ズバリ
どうやらこの薬は志希が語っていたように『異性に好かれるフェロモンを発する』ため、そのフェロモン以上に好きな人がいる場合は効果が薄いのだ。
つまり俗にいう
それが分かったのは、撮影スタッフの女性たちと接したときだ。一部の人にはバッチリ効果が出ていたのだが、既婚者あるいは交際相手がいる人、さらにはちょっと気になっている人がいるレベルの人にも効果が薄かったのである。あくまで薄いだけなので全く効果がないわけではなさそうだが、それが分かっただけでも大収穫である。
「うわすげぇご都合主義」とか言うなよ! こっちは必死なんだよ!
ただそう仮定した場合、ちょっとだけ気になる点がいくつか……。
一つ。まゆちゃんに薬の効果が無かったのは、俺以外に気になる人がいたからということになるのだが……いや、正直あそこまで懐かれている子だったので、地味にショック。もう少し俺から距離を離した方がいいのだろうか……。
「今なんだか、すっごいまゆのこと誤解された気がするんですけどぉ!?」
「……ごめんまゆ、アタシたち今それどころじゃないから……」
「……しにたい……」
もう一つは、春香ちゃんだ。
というのも、なんと春香ちゃんには惚れ薬の効果が出ていなかったのである。
――え、えっと……確かにちょっとドキドキはするんですけど……。
――その、今すぐ抱き付きたくなるような感じは全く……。
とのことだ。確かに、他のみんなと比べても目の色が違う。勿論物理的な意味ではなく、なんかこう、獲物を狙う目的な意味だ。
しかしそうなると、春香ちゃんには意中の相手がいるということになるのだが……えっ!? 誰だ!? まさか赤羽根さんとか!? それか俺の知らない人!? すげぇ気になる!
「ぶえっくしょい!」
「うわ、とーま君おっきなクシャミ」
「誰かに噂でもされたかい?」
俺自身はアイドルの恋愛厳禁と言うつもりはないし、何より春香ちゃんが決めた相手ならば当然俺も応援してあげたい。彼女だってアイドルとしては良き妹分の一人なのだ。
……まぁ、ちょいとばかり面接はさせてもらうかもしれないが……なに、アイドルと恋愛するための根性を見せてもらうだけさ、ははっ。
「っ!? こ、今度は寒気が……!?」
「クシャミと寒気って、風邪じゃん」
「季節の変わり目だし、気を付けろよ」
さて、そんな貴重な情報を得ることが出来た撮影現場を後にし、やって来たのは……いや、やって来てしまったのは346プロの事務所である。
今日はここで美城常務が立ち上げたプロジェクトの子たちのレッスンを見てあげる約束をしていた。志希を預かってもらっているので、そのお礼として何回か行っているのだ。
まぁ状況が状況なので中止にしたいところではあるのだが……前回諸事情により中止にしてしまったので、流石に二度目は心苦しい。
先程の一件である程度はなんとかなることが分かったし、きっと大丈夫だろう。
「って言った舌の根も乾かぬ内にこれだもんなぁ……」
「ん? 良太郎さん、どうかしたの?」
俺の左腕には、普段と同じようにクールな表情を浮かべつつもどこか上機嫌な凛ちゃんがくっついていた。
「凛さんや、少し離れませんかね?」
「ヤダ」
俺の提案はにべもなく断られ、より一層腕を抱き締められてしまった。
なんでこんな即堕ち二コマどころか一コマ目で既に堕ちてる状況になっているのかというと……。
まず少しでも事務所内でのアイドルエンカウント率を減らすために、りっちゃんに送った内容に先ほど得た新情報を付け足したメールを346の知り合いに送った。すなわち、友紀・茄子・凛ちゃんである。
これで周囲に注意喚起をしてもらおうと思っていたのだが……凛ちゃんが『注意してれば効き目ないんでしょ? なら、私が一緒に付いて事情を知らない人たちへの注意をするよ』と申し出てきたのだ。
初めはりっちゃんのこともあったから難しいと思ったのだが、凛ちゃんがやけに自信満々だったのでその提案を承認した。
……その結果がコレだよ! バッチリ効いてるじゃん! なんでなんの根拠もなく自信満々だったのさ!
「はぁ……」
「どうしたの? 疲れてる? 大丈夫? 膝枕する? 頭なでなでする?」
デレデレだなぁ! わぁい凛ちゃんに男の影がないようで何よりだぁ!
ホント、いつぞやの甘えん坊凛ちゃんを彷彿とさせる……あのときは間違えて飲んだお酒に酔ってたからだけど、もしかしたら凛ちゃんは心の中で誰かに甘えたい欲求でも抱えているのかもしれない。
ともあれ、バッチリと惚れ薬の効果が出てしまっている凛ちゃんなのだが……正直、凛ちゃんで良かったというのが本音である。今まで惚れ薬の影響が出ていた子たちと比べると、女の子というよりは妹という感覚の方が大きいのでそれほど危機感はない。凛ちゃんもくっついてくる以上のことをしてくる様子がないので、このまま放っておいても問題ないだろう。
ついでに凛ちゃんは胸が慎ましやかなので、こうして抱き着かれていてもそれほど……うん。
問題があるとすれば、薬の効き目が無くなった後が怖いことぐらいだが、それはもう今さらである。全部志希の責任ってことにしておこう。
そういうわけで、凛ちゃんを腕にぶら下げたままレッスンルームへと向かう。先ほどから色々と視線を感じるが、既に『渋谷凛は周藤良太郎の妹のような存在』というのは知れ渡っているはずなので大丈夫だ……と自分に言い聞かせる。
さて、このままなんの問題も無くレッスン室まで……。
「あれ、良太郎さんに凛ちゃんだー!」
「な、なんで二人ともくっついてるのっ!?」
……まぁ、そんな簡単にいったら苦労しないよなぁ……。
レッスンルームへと向かう中庭の渡り廊下で出くわしたのは、まるで犬のようにこちらに駆けてくる妹ヶ崎こと莉嘉ちゃん、顔を赤くしながら驚いている姉ヶ崎こと美嘉ちゃん。
そして――
「あら、見せつけてくれるのね」
「リョーくん、凛ちゃん、ぼんじゅ~る!」
――速水奏と宮本フレデリカだった。
「よりにもよって、かなり面倒くさい部類の奴らに見つかった……!」
それはもう思わず口に出てしまうぐらい面倒くさい奴らである。
「随分とご挨拶ね。今日はまだ何もしてないのに」
「つまり普段してる自覚はあるんだな?」
「何のことかしら」
しれっと言いやがって……。
「そーだよーこれまでふざけたことなんてないフレちゃんを捕まえて、面倒くさいなんて失礼しちゃうよープンプン!」
嘘を吐いたことがないっていう嘘みたいなやつですね、分かります。
「というわけでヤッホー! フランス人と日本人のハーフのフレちゃんこと宮本フレデリカでーす! アタシと奏ちゃんはまだ本編には出てないけど、時系列無視の番外編だから先行登場だよー!
「やめろぉ! 俺の領分を荒らすんじゃねぇ!」
だからコイツとは出くわしたくなかったんだよ!
「って、ん~? おやおや~? 莉嘉ちゃんは一体全体どーしたのかな~?」
「え?」
「……えへへ~」
しまった、フレに気を取られてて莉嘉ちゃんが凛ちゃんとは反対側の腕に抱き着いてきていることに気付かなかった。
「り、莉嘉!? アンタ何やってんの!?」
「えっとねぇ、なんか良太郎さんからいい匂いがするの! なんかこう、胸の奥がポカポカしてきて気持ちいいの!」
突然の妹の行動に真っ赤になりながら叫ぶ美嘉ちゃんに対し、莉嘉ちゃんも頬を赤く染めながらスリスリと俺の腕に頬擦りをしていた。……うん、莉嘉ちゃんも女の子というよりは妹判定だから、それほど危機感はない。
それより問題は、年齢的な意味や普段の行動的な意味で妹判定に出来ない目の前の三人だが……。
「そ、そんな男の人に引っ付いちゃダメ! さっさと離れなさい!」
恰好言動その他諸々からカリスマギャルとして若い女の子から大人気であるが、かなり初心で純情な美嘉ちゃん的には莉嘉ちゃんの行動はアウトだったらしく、彼女を引き離そうとこちらに近付いてきて……。
「わっ!?」
焦っていたのか、自分の足に躓いてつんのめってしまった。
こちらに向かって倒れ込んでくる美嘉ちゃん。いつもだったらセクハラ上等で肩辺りを掴んで止めるのだが、残念ながら現在俺の両腕は上機嫌な莉嘉ちゃんと何故かそんな莉嘉ちゃんを威嚇している凛ちゃんに占領されているため動かすことが出来ない。
「うぷっ!」
結果、美嘉ちゃんは顔面から俺の胸元に倒れ込む形になってしまった。
「……み、美嘉ちゃん」
「………………」
そのまま沈黙して動かなくなった美嘉ちゃん。いや、微妙にプルプル震えているような気も……あと、髪の隙間から見える耳が先ほどよりも真っ赤になって……。
「りょ、良太郎さんっ!」
そしていきなりバッと顔を上げる美嘉ちゃん。
「こここ、子供は何人ぐらいがよろしいでしょうかぁ!?」
グルグルおめめでとんでもないことを叫んでくれた。
「み、美嘉? 貴女何を……?」
「ワォ! 美嘉ちゃん大胆! 流石カリスマギャルだね! 知らないけど!」
珍しく困惑顔を見せる奏と、本当に驚いているのかどうか分からないわざとらしい驚き顔を見せるフレがこちらに近付いてくる。近付いてきてしまう。
「そそそ、その、今すぐって訳にはいかないですけど! 学校卒業したら、その、頑張りますし! お腹が大きくなってもマタニティモデルとして頑張りますし! もし良太郎さんがお望みならば家庭にも入りますし!」
そしてドンドンエスカレートしていく美嘉ちゃん。
アカン、どう考えてもまだ混乱が大きくなる未来しか見えない……!
えぇい! 暗転暗転! 今週はここまで!
次週までにこの場が収まっているといいなぁ!
・心に決めた相手
あ、後付けじゃないよ?(目逸らし)
・「すっごいまゆのこと誤解された気がするんですけどぉ!?」
大丈夫大丈夫、どうせ番外編の中だけだから。
・春香ちゃんには意中の相手
ば、番外編の中だけだから(震え声)
・面接
アイドルたちの恋愛の難易度が二段階上がった瞬間である。
・美城常務が立ち上げたプロジェクト
一体プロジェクト・何ーネなんだ……!?
・なんでなんの根拠もなく自信満々だったのさ!
本人はもう恋愛対象ではなくなったので効果はないと勝手に思い込んでいた模様。
兄のような関係でもバッチリ効くに決まってんだよなぁ……。
・「どうしたの? 疲れてる? 大丈夫?」
「おっぱい揉む?」と言わせなかったのは作者の優しさ()
・いつぞやの甘えん坊凛ちゃん
ツイッターで『#アイ転 甘えるしぶりん』を検索検索ぅ!
・速水奏
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
実は現在時系列の美希と同い年で同じバストサイズのミステリアスキス魔。
Lesson127、168と名前だけの登場だった彼女が本編より早く先行登場!
良太郎に対してどういう立ち位置なのかは、次回で。
……ところで皆さん、SSRは引けましたか……?(小声)
・宮本フレデリカ
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
お気楽ご気楽てきとーフランスハーフガール。実は19歳の短大生。
こちらもLesson168で名前だけ出ていたが先行登場!
この作風でフレちゃん出したら、こういうキャラになるのは必然だった。でも普段とキャラが変わらないようにしか見えない! 不思議!
346編の被害者登場の回でした。みんなの予想を裏切れたと自負している。やっぱり番外編は書きたいキャラ書かないとね!
ちなみに大オチのキャラは別の子にお願いする予定です。盛大に散ってもらうことにしよう……(ゲス顔)
というわけで次回、番外編ようやくラストです!