「リョータローさんっ!? 千早さんが結婚するってネットニュースにっ!?」
「何だってっ!? ……って、アレ? なんか……いつもより胸が大きいような……?」
※ゼノグラシア版千早の中の人こと清水香里さん、ご結婚おめでとうございます。
「『シンデレラの舞踏会』を成功させるには、皆さんがステップアップすると同時に、知名度も上げなければなりません……そこで」
『……『とときら学園』……?』
それはいつものシンデレラプロジェクトでのミーティングの最中、プロデューサーが机の上に置いた一部の企画書だった。
「学校の教室という設定のバラエティー番組です」
「えっ!? それじゃあ、アタシたちテレビに出れるの!?」
驚く莉嘉の問いかけに、プロデューサーは「はい」と頷いた。
「週一のレギュラー番組です」
『おぉ……!』
レギュラー番組という言葉に、プロジェクトメンバー全員が沸き立った。
まさかいきなりテレビ出演が決まっただけでなく、それが週一のレギュラー番組というのだから驚くのも無理はない。かくいう私も、普通に驚いている。
「……でも、今の会社の状況でバラエティー番組の企画を通すの、大変だったんじゃないですか?」
美波のその問いかけに対し、プロデューサーはいつもより表情を柔らかくして微笑んだ。
「……歌やダンスだけでなく、アイドルの個性を出せるバラエティー番組も大事だと思ったので」
「そうにゃ! やっぱりキャラ作りは大事にゃ! ねっ、菜々ちゃん!」
「だ、だからですね、みくちゃん? ナナのこれはキャラ作りしているわけじゃないと何度も……」
「うんうん! 歌やダンスだけじゃなくて、たまにはバラエティーってのもまたロック! だよね、なつきち!?」
「あーそうだな、だりーがそうならそうなんだろうな」
それぞれみくと李衣菜に話を振られ、菜々は苦笑しつつその言葉を否定し、夏樹さんはギターの弦を弄りながら話半分に聞き流していた。
今ではすっかりシンデレラプロジェクトの一員としてこの資料室に入り浸ることが多いこの二人。それぞれみくと李衣菜の二人が目標にしたり憧れにしたりしている二人なので、最近ではアスタリスクのやる気が目に見えて上昇していた。
菜々と夏樹さんも何だかんだいって二人いる場面が多く、結果この四人が一緒にいることが多かった。
李衣菜は夏樹さんともユニットを組みたいと思っているらしいし、こうなったらいっそ菜々さんも巻き込んで四人でユニットを組んでみてもいいんじゃないだろうか……という旨の話をニュージェネ内で話していたら、たまたまそれを耳にしていたらしいプロデューサーが足早にデスクへと向かっていった。
……え、もしかしたら本当に実現しちゃうとか言わないよね……?
閑話休題。
「諸星さんには、十時愛梨さんと一緒に先生役として司会進行を」
「うんっ!」
「赤城さんと城ヶ崎さんには、生徒役として出てもらいます」
「「はいっ!」」
プロデューサーの言葉に元気よく挨拶をする三人。どうやら今回の番組企画は、凸レーションの三人が参加することになるようだ。
「にょわー! かわうぃー子が一杯だにぃ!」
机の上に置かれていた資料を捲っていたきらりがそんな感嘆の声を上げる。
気になったので数人で後ろから手元の資料を覗き込むと、そこには今回の番組企画に参加する予定のアイドルたちが顔写真付きで載っていた。
どうやらそのページは生徒役として参加するアイドルたちのプロフィールを簡単にまとめたものらしく、みりあと莉嘉は勿論、これまた最近この資料室によく顔を出す仁奈も載っている。他にも八人のアイドルが生徒役として参加するらしい。
「この企画の為に各部署にお願いして集まっていただいたキッズアイドルの皆さんです」
年齢を見ると、下は九歳で上は十二歳。莉嘉を除いた全員が小学生という、まさしく年少組と言って過言でない面々だった。
「……今の状況をよく思っていないのは、私たちだけではありません。気持ちを同じくする、他の部署とも連携していくことが、必要だと考えてのことです」
「この企画で成果を出せれば、『シンデレラの舞踏会』への大きな一歩となるはずです」
「……くぅ~! そう聞くとなんか燃えてきたー!」
「って、未央が出るわけじゃないでしょ」
「いやまぁ、それはそうなんだけど……ほら、未央ちゃんの溢れ出る若々しさなら、キッズアイドルに混ざっても違和感なくない?」
「はっ」
「鼻で笑われた!? もうちょっとしっかりとしたツッコミが欲しいんだけど!?」
ともあれ、まだ常務に対して受動的なままだった私たちシンデレラプロジェクトが、ついに能動的に動くときが来たということだ。
「ジュラーユ・ウダーチ、頑張ってください」
「まっかせてー!」
「うんっ!」
「アタシのセクシーな魅力で、お茶の間のみんなをノックアウトしてやるんだから!」
「今こそ! 漆黒の翼をはためかせ、天上の輝きを目指す時!」
『おーっ!』
話している内容はさっぱりなものの最近ではある程度のニュアンスが分かって来た蘭子の言葉に、全員で拳を突き上げるのだった。
「へぇ、346プロのキッズアイドルによるレギュラー番組ねぇ」
「そーなんスよー。ウチのメンバーの
トーク番組に出演するためにやって来たテレビ局の廊下で出くわした
ボサッとした髪に地味な眼鏡をかけ、テレビ局の廊下だというのに上下緑色のジャージに身を包んだ、ハッキリ言って女子力の欠片もなさそうな彼女であるが、なんと彼女も346プロに所属するアイドル。しかもあの川島さんも所属するユニット『ブルーナポレオン』のメンバーなのだ。
「話は変わりますが先生、進捗どうですか?」
「……ふ、冬には間に合うから大丈夫っス」
「あと一ヶ月ないけど」
「現実世界の時系列を持ち出さないで欲しいっス! こっちはまだ九月だからセーフ! これから本気を出せば新刊の一本や二本余裕っスから!」
「そう言いつつ十二月を迎えるんですね、分かります」
「ヤーメーテー!?」
そんな彼女だが、実は自分で漫画も描いたりする根っからのオタク。故に趣味が合い、年齢も同い年ということでこうして割と気兼ねなく話すことが出来るアイドルの一人だったりする。
初めは一応トップアイドルの先輩ということで敬語を使っていた比奈だが、顔を会わせる度にする話題がサブカル関連ばかりなので大分気さくに接してくれるようになった。いや、そりゃ親しさで言えば友紀や茄子に軍配が上がるんだけど……あの二人はこちら側の分類的にはカタギの人間だからね。
ちなみに、彼女に高校時代の学ランリーゼント熱血不良の話をしたら思いの外食い付き、後に彼女のアイドル兼漫画家というトンでも人生の幕開けとなるデビュー作が誕生するのだが……まぁ、数年後のお話である。
「原稿の進み具合の話は置いておいて……私は今から収録前に千枝ちゃんの様子を見に行くつもりなんスけど……良太郎君はどーします?」
「そんな面白そうな話を、俺がスルーするとでも?」
「そーっスよねー」
そんなわけで、俺と比奈は収録前の空き時間を利用して収録を見学にそのスタジオへと向かっていた。
「えっと、『とときら学園』だっけ?」
「そうっス。愛梨ちゃんときらりちゃんの二人が先生役として司会進行をするから、十時ときらりで
何でもこの番組、武内さんが企画を進めたものらしいので、先生役のきらりちゃんの他にもみりあちゃんと莉嘉ちゃん、更には最近資料室でよく見かける仁奈ちゃんも生徒役として参加するらしい。それだけでも十分俺が見に行く理由になる。
それにしても愛梨ちゃんときらりちゃんか……色々な意味でビッグサイズな二人だなぁ。
そして愛梨ちゃんが先生役とかもう色々とアレな想像しか出来ない。
「タイトスカート……ストッキング……ガーターベルト……」
「いや、ここはあえてボディラインを出さないゆったりとした服装っていうのはどうっスかね?」
「なるほど……中学高校の先生ではなく、小学校の新人教師というコンセプトか」
「さっすが、良太郎君は分かってくれるっスね!」
完全に会話のノリが男子高校生のそれだが、逆にこういう与太話に付き合ってくれるアイドルは希少なので嬉しい。冬馬は話が分かる癖に乗っかってこないし。
それじゃあきらりちゃんはどんな格好が似合うのかという話題に発展し、普段通りのファンシーポップ派の比奈と意外なところでパンツスーツ派の俺で白熱した議論を交わしている間に収録スタジオに辿り着いた。
どうやらスタジオではリハが始まっているらしいので、スタッフさんに『例の許可証』を提示することでこっそりと中に入れてもらうことが出来た。
「それが噂の『周藤良太郎専用関係者立ち入り許可証』っスか……本当に使えるんスね……」
「正直俺も驚いてる」
まさか本当に事務所以外の関係者スペースに入ることが出来るとは……。
流石に収録中のアイドルたちを驚かせるわけにはいかないので、姿が見つからないようにこっそりと物陰からみんなを観察することにした。
そこには制服を身に纏い、先生役の愛梨ちゃんときらりちゃんと共に番組収録に励むキッズアイドルたちの姿があったのだが……。
「……あの、比奈さんや?」
「……なんスか?」
「……みんなはとときら学園の生徒役……なんだよね?」
「……私はそう聞いてたっス」
一度目を閉じ、グニグニと目頭を揉んでから再び目を開ける。
「……
最近落ちてきている俺の視力であるが、それでもキッズアイドルのみんなが水色のチャイルドスモックを着て体育座りをしているのは見間違いではなかったようだ。しかもご丁寧に黄色い通園カバンまで下げている。
「その、大人の事情って奴っスかね……?」
「大人の事情(意味深)にしか見えない……」
いやまぁ、生っすかでスモックを着てイメクラにしか見えなかったあずささんに比べればまだマシなのかもしれないけど……。
もし本当に不健全な理由であるのならば、ちょっとお兄さんも色々と考えないといけないので、明らかに気まずそうに目を逸らし続けているスタッフを捕まえて事情聴取。
そこで聞くことが出来た話をまとめると『この番組に対して予算が多く降りてこず』『全員分の衣装を作る予算が足りず』『仕方がないので以前白紙化した企画の衣装を流用した』とのことだ。
しかも武内さんが現在所用により不在。そちらに話を通さずに現場の判断で変更することになった……と。
「……まぁ、いきなり何の実績もない番組に対して資金が降りないのは当然と言えば当然か……」
とりあえず不健全な理由ではないようなので、この件に関して俺が出る幕はなさそうだ。
ただまぁ、一つ気になる点があるとすれば……。
「じょ、城ヶ崎莉嘉でーす……」
「……ん~もう一回! もっと笑顔で!」
先ほどから引き攣った笑みで何度もリテイクを貰ってしまっている莉嘉ちゃん、だろう。
・『とときら学園』
生っすかに続く劇中番組になるのかと思いきや……どうしてあんなことに……。
・四人でユニットを組んでみてもいいんじゃないだろうか
この世界では、凛ちゃんの発言がきっかけになっております。
・他にも八人のアイドルが生徒役
訓練されたPならば、実はアニメのメンバーから二人追加されていることにお気づきだろう。さーて誰が追加されるのかなー。
・佐々木千枝
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
基本的にパッション色が強い年少組の中で大人しめのクールな11歳。
え? 他にもクールな橘さんがいる? いやだってパッションタチバナだし……。
・荒木比奈
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
実は二十歳組の一人だったりしたオタク系アイドル。
本当はここで登場させるつもりはなかったのだが、良太郎と一緒に行動できそうなアイドルを探した結果抜擢された。
まぁイベントで歌も貰えた記念ということで。
・高校時代の学ランリーゼント熱血不良の話
ダイヤモンドは砕けない。
・スモックの理由
色んなところの考察を参考にさせてもらいました。まぁ性癖じゃないとしたら、これが妥当だろうなぁ。
全く想定していなかったところで比奈てんてーが登場と相成りましたが、これでようやく良太郎のネタのテンションに付いてこれるキャラが参加です。四年経ってようやくとか……。
次回はふつーに続きます。
『どうでもいい小話』1
最近多いですが、限定ちゃんみおお迎え記念短編をツイッターに挙げましたので、よろしければそちらもよろしくお願いします。
『どうでもいい小話』2
ミリマスで正真正銘最後のイベントが始まったみたいですね。
……そっかぁ……みんな、アイドルは仮初の姿だったのかぁ(遠い目)