アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

230 / 556
まえがきショート劇場~良太郎&志保~

「『名探偵ナンナン』より『金魚鉢少女の事件簿』の方が語感的に好きなんだよね」
「そんなまだ番外編にすら出演していないアイドルの話題を振られましても……」


Lesson188 My existence value 2

 

 

 

「――とまぁ、そんな理由があって、俺は他事務所のアイドルながらこっちの事務所に自由に出入りすることが出来る立場になりましたとさ」

 

 ほらコレと美城さんから貰った『例の許可証』を三人に見せると、フレちゃんは「おぉー!」と物珍しそうに感嘆の声を上げ、逆に速水と周子ちゃんはあからさまにドン引いていた。

 

「……ト、トップアイドルって凄いんだね」

 

「いや、これは多分『周藤良太郎』が無茶苦茶なだけよ……」

 

 まぁ、否定はしないさ。

 

「それにしても、その志希って子もあたしたちのプロジェクトメンバーになるってことかー」

 

 チーズケーキをパクッと食べながらポツリと呟く周子ちゃん、その隣でニコニコとイチゴのパフェに舌鼓を打つフレちゃん、奏はパンケーキ。いやぁ、女の子が美味しそうに甘いものを食べてる姿ってのもいいなぁ。いっぱい食べる君が好き。

 

「そーなるね。そんでこっちに事務所のアイドルを預かってもらう以上、俺も少しはそっちのプロジェクトの面倒を見るつもりだよ」

 

「……えっ」

 

「ということは……」

 

「お前たち三人のレッスンも見ることになるかもしれないな」

 

「マジですか!?」

 

「………………」

 

 驚愕する周子ちゃんと絶句する奏ちゃん。

 

「ワォ! 『周藤良太郎』にレッスンを見てもらえるとか、もしかしてアタシたち凄いコトになってるんじゃない!?」

 

 フレちゃんもこれにはそのマイペース加減がブれずとも驚いていた。

 

「こっちの事務所に顔を出すようになってからは、元々そうするつもりだったし。勿論お前たちだけじゃないけどね」

 

「……あぁ、その例のプロジェクトの子たちね?」

 

「そういうこと」

 

 今までは軽くアドバイスをしたり相談に乗ったりするだけだったが、美城さんのプロジェクトのメンバーのレッスンを見るというのであれば、なんとなく彼女たちだけなのは不公平なような気がしたのだ。いや、今更不公平も何もあったものじゃないが。

 

「でも、貴方も曲がりなりにもトップアイドルでしょう? 正直こうしてノンビリお茶をしている時間ですら何であるのか疑問に思うぐらいなんだけど」

 

「そこは流してもらいたい」

 

 だからスケジュールの詰め方にコツがあるって前から言ってるだろ!

 

「お前たちもそうだけど、凛ちゃんたち……シンデレラプロジェクトのみんなも、まだまだよちよち歩きの駆け出しアイドルだ。もうちょっとぐらいお節介焼いても罰は当たらないだろ」

 

 最初の頃は、まだ自分がアイドルをやるのに手いっぱいだった。

 

 トップアイドルと呼ばれるようになってからは、みんなの期待に応えることで精いっぱいだった。

 

 そうして心に余裕が出来始めたときに、俺は冬馬たちや春香ちゃんたちに出会って()()()()()()()()()()()()()()()()ことの嬉しさを知った。

 

 アイドルの王様だからだけじゃなくて、俺自身が彼女たちの成長を望んでいる。

 

 この業界に生きるアイドル全員とは流石に言えないが……それでも、こうして知り合って仲良くなったアイドルぐらいは、その成長を間近で見たいのだ。

 

「……ふふっ」

 

 突然、速水がクスクスと笑い始めた。たまに年下だということを忘れそうになるぐらい大人びた雰囲気を醸し出す速水だが、それでもその笑い方は心底楽しそうな少女のそれだった。

 

「トップアイドルの『周藤良太郎』だって言うからちょっと身構えてたのに……何だ、結局いつもの貴方と変わらないのね」

 

「ブレないことに定評があるからな、俺は。今だって真面目なこと言いながら意識はさっきお前たちの後ろを通って行った色気が溢れんばかりのお姉さま二人組に向いてたし。今の誰?」

 

「えっとー、高橋(たかはし)礼子(れいこ)さんと篠原(しのはら)(れい)さんだねー。二人ともアイドル部門のアイドルだよー」

 

「マジで!? 女優とかじゃなくて!?」

 

 あの二人がフリフリのアイドル衣装着て歌って踊るのか……アリだな!

 

「……『高校でも何だかんだいって後輩の面倒をよく見てたものね』みたいに少しは貴方の評価が上がりそうな話をしてあげようと思ったのに……本当に、この人は……!」

 

「……まぁ、どういう人となりなのかは痛いぐらい分かったよ」

 

 速水が目元を右手で抑えて、周子ちゃんがそんな速水の肩にポンと手を置いていた。

 

「高校の後輩に関しては、殆どなりゆきなところも多いけどな。……お前のあの一件も含めて」

 

「っ!?」

 

 ほんの少しの悪戯心でそう言うと、バッと勢いよく顔を上げる速水。その顔にはやや焦りの表情が浮かんでいた。

 

「んー? 奏ちゃん、高校の頃何かあったのー?」

 

「それが聞いてくれよフレちゃん、こいつ高校に入学してしばらくしてさー」

 

「それ以上その件に関して触れるようであれば、差し違える形になったとしても貴方の息の根を止めるわよ……!」

 

「オッケー。分かったからその右手に持ったテーブルナイフ(ティルフィング)を下ろそうか」

 

 言葉のチョイスがガチだった。せめて「貴方を殺して私も死ぬ」ぐらいだったら少しは可愛げがあったのに。

 

 ちなみに何があったのかというと……まぁ、アレは完全に事故みたいなものだ。

 

 今は割と大人しくしているので分かりづらいが、こいつの本性は悪戯好きの小悪魔系女子。ことあるごとに『キス』を迫る振りをして男女ともに翻弄するのがコイツの悪癖というかなんというか……。

 

 それはコイツが入学してほどなくして俺たち上級生の耳にも届くぐらいには有名だった。

 

 そうしてついに出会ってしまったわけなのだ……()()()が……というか――。

 

 

 

 ――()()が。

 

 

 

 もうここまで言えば聡明な諸兄は何が起こったのかご理解いただけるだろう。

 

 武士の情けとして詳細を語ることだけは止めてやるが、要するにいつもの調子で恭也にキスを迫り揶揄っていたところを、既に学園公認で『恭也の嫁』認定されている月村に見つかって……ということだ。

 

 ラブコメ的には恭也が月村にぶっ飛ばされるところだが、非常に残念ながら月村は諸悪の根源が誰なのかを正しく認識しており……後はご想像にお任せしよう。今でも速水は月村を見かけるとビクリと身体を震わせるようになってしまった、とだけ言っておく。

 

「……いい? 絶対に話すんじゃないわよ?」

 

「安心しろ、CVが付いていないキャラは喋ることが出来ない」

 

「どこにも安心できる要素がないじゃない……!?」

 

 基本的に小生意気な後輩に対する絶対的なカードを握っている優越感に浸りながら、俺はコーヒーの最後の一口を飲み干した。

 

 

 

 

 

 

 仕事があると言って行ってしまったニュージェネの三人に、私もここから連れ出すように要請するもすげなく断られ、哀れ杏は嫌な予感しかしないこの状況から逃げることが出来なかった。

 

「……『あんきランキング』?」

 

 それはプロデューサーの口から発せられた新たなお仕事の内容であり、私にとっての死刑宣告でもあった。

 

「わぁ……!」

 

「凄い! 二人のコーナー!?」

 

 だというのに、智絵里ちゃんとかな子ちゃんはまるで自分の新コーナーのことのように嬉しそうな顔を見せた。いいよいいよ、羨ましいなら全然代わるよー。

 

「『とときら学園』の新コーナーです。先日の収録を見た関係者の方が、お二人の……コンビ感がいいと」

 

「えぇ……?」

 

 恐らく、帰ろうとする私を引き留めるきらりという定番のやり取りのことを言っているのだろう。まさか一度しか見ていないハズのそれを気に入られるとは思いもしなかった。くそぅ、それが原因で仕事が増えることになるとは……不覚。

 

「やろうよー! やろうよー!」

 

「やめろぉー」

 

 捕まえておくという名目でいつも私を膝の上に乗せる形で座らせるきらりが身体を揺するので、つられて私の体も左右に揺れる。

 

 ついでに後頭部にフニフニと柔らかいものが当たるが、別に嬉しくもなんともない。一瞬、この体験を文章に書き起こして良太郎さんに提出したらいくらかお小遣いがもらえないかとも思ったが、そんなことに労力を割くこと自体がもう面倒くさかった。

 

「まずは様子見で数回やってみる……というのは、いかがでしょうか」

 

「………………」

 

 面倒くさいことには変わらないけど、曲がりなりにもアイドル事務所に所属するアイドルだ。全ての仕事を突っぱねるというのは、将来(いんぜい)的に考えてもあまりよろしくないことは確定的に明らかだった。

 

「……まぁ、それなら」

 

 故に承諾する。

 

「……どうせすぐ終わると思うけど」

 

「うきゃあああぁぁぁ!」

 

 そんな私の負け惜しみのようなセリフも、テンションが上がったきらりの歓声によって掻き消されてしまった。そしてさらにユサユサと揺すられる私の小さな体。やめろよー。

 

「それから、お二人にも」

 

「え?」

 

「私たちにも、あるんですか?」

 

 どうやら智絵里ちゃんとかな子ちゃんにも仕事の話があったらしく、プロデューサーから話を振られた二人はキョトンとしていた。

 

「お二人には『とときら学園』のVTR出演、インタビューの仕事をしてもらいます」

 

「インタビュー……」

 

 インタビューかー……いや、智絵里ちゃんにインタビューはちょっと難しいような気がする。同じプロジェクトのメンバーにすらまだ遠慮する節がある智絵里ちゃんが全く見ず知らずの人に対して話しかける姿が想像できない。智絵里ちゃんほどではないが、かな子ちゃんもそういう仕事はそんなに向いているわけでもない。

 

「……出来るかな……?」

 

「……今のお二人に、必要な仕事だと思います」

 

 私の想像通り、本人自身が一番不安がっていた。

 

 しかし、プロデューサーはそれが智絵里ちゃんにとって必要なことなのだと言い切った。

 

「……分かりました」

 

「……ホントに大丈夫?」

 

 意を決して頷いたかな子ちゃんと智絵里ちゃんに、代わりに私が確認を取る。

 

「うん。みんなも舞踏会に向けて頑張ってるし、私も頑張らなくちゃ!」

 

「私も、人見知りを直して……ちゃんと喋れるようになりたいなって」

 

「……ふーん、二人がやりたいならいいけど」

 

 どうせ私は私の事で手いっぱいだ。気にかけることは出来るけど、二人がやりたいというのであれば私はこれ以上何も言うことはない。

 

「頑張ろうねぇ!」

 

「「うん!」」

 

 きらりの呼びかけに力強く答える二人。

 

 ……まぁ、何事も無ければいいよ。主に杏に。

 

 

 




・『名探偵ナンナン』
・『金魚鉢少女の事件簿』
もちろんTBネタ。
同級生恵美はいいとして……見たかったなぁ……ネコ沢志保……。

・いっぱい食べる君が好き
かな子のかの字も出してないのにかな子を追い浮かべさせるメンタリズム(偽)

・自分以外のアイドルが輝いてくれることの嬉しさを知った。
何気に良太郎が他のアイドルに気をかける理由をちゃんと語ったの初めてな気がする。

・高橋礼子
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
大人の色気漂う妖艶な31歳の、デレマス界最年長の一人。
なんとあのあずささんの中の人ことチアキングをモデルにしたらしいキャラ。となると、CVは……!?

・篠原礼
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
グラマラスな大人の女性な一方で怖がりでなぞなぞ好きな27歳。
なんとバストサイズは雫と拓海に続く三位タイという驚異の胸囲の持ち主。
あぁ^~一緒にお酒を飲んで酔い潰れたいんじゃ^~。

・差し違え
テーブルナイフ(ティルフィング)
同じタイミングで初登場したセリスユリアエフラムの神器強化来たんだから、エイリークのジークリンデ強化はよ!(バンバンッ

・やっちまった奏ちゃん
よりにもよって一番やっちゃいけない相手にやっちゃいけないことをやっちまった奏ちゃんは、哀れ忍さんがトラウマになってしまったとさ(チャンチャン)

・CVが付いていないキャラは喋ることが出来ない
いっそのこと良太郎の声もPPTP方式でいいんじゃないかな。



 というわけで、やっちまった奏ちゃん。寧ろこれだけで済んでよかったというべきか……。ちなみに忍の方も少しやりすぎたと反省して後ろめたい気持ちがあったり。

 しかし一向に良太郎がCI組と関わる気配がないが……(ちゃんと律儀にサブタイトルを訳している人なら気付き始めるはず)



 ……え? R18作品? なんのこったよ(泣)



※『番外編39 新春&四周年特別企画・後』を加筆修正しました。割と重要な情報をぶっこんできたので、よければ読み返していただくと幸いです。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。