それはとある日のこと、美城さんから突然「時間を作れないか」と持ち掛けられた。恐らく志希を含めた美城さんのプロジェクトの話なのだろうが、生憎その日は結構忙しかった。
いや、既に何回も言っているように基本『周藤良太郎』というのは多忙なのだ。番組収録、レコーディング、雑誌の撮影、スタミナ消費、宝物庫周回、イベントの囲み取材や雑誌に寄せるコラム記事の作成なんてのも。
そんなわけでその日の俺の自由に出来る時間は移動時間ぐらいだったのだが……。
「何か飲むかね?」
「あ、じゃあ水で……」
そこには、リムジンの後部座席で美城さんと向かい合わせに座る俺の姿が!
まさか冗談で言った「車を出していただけるのであれば、そこで時間を作れますよー」という言葉を真面目に捉えられた挙句、リムジンで送迎される羽目になるとは思わなんだ。
初めて乗るというわけでもないが慣れるほど乗る機会は無かったリムジンに揺られつつ、美城さんが備え付けられた冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのペットボトルを受け取ると、それと一緒に何やら企画書のような紙の束を手渡された。
「これは?」
「私が進めるプロジェクトの企画書だ。一ノ瀬志希も参加してもらう予定なので、君にも目を通しておいてもらいたくてな」
普通こういうの社外秘なんじゃないかなーと思いつつ、ペットボトルの水を飲みつつ企画書に目を通す。
「『
「あぁ。流石は既に海外をも視野に入れていると噂で、つい先日も世界各国の名だたるアイドルたちに宣戦布告をしてきたばかりの周藤良太郎、見事な発音だ。英語だけではなく、ドイツ語の発音も完璧とは恐れ入るぞ」
「まさかそこを持ち上げられるとは思わなかったゾ……」
よいしょのレベルがまゆちゃんと同レベルだった。ホントこの人、いつもキリッとしているくせして根っこの部分が熱狂的な
ちなみにドイツ語は月村から教えてもらった。理数系の成績は割と残念だった俺だが、どうやら言語的な分野では意外な才能を発揮するらしい。このままグロンギ語やヒュムノス語辺りも是非習得したいところだ。
それはさておき『Project:Krone』……イチイチ発音するのも面倒くさいからクローネでいいや。英語とドイツ語が交ざってる辺り割と香ばしいネーミングだよなぁと思いつつも、成程
「我が346プロダクションのアイドル部門の全部署から私自らが選出したアイドルたちで構成された、会社のイメージ戦略の中核を成す企画だ」
パラリと紙を捲ると、そこにはクローネに所属するアイドルが顔写真付きで載っていた。
『一ノ瀬志希』は最初から分かっていたとし、『速水奏』『塩見周子』『宮本フレデリカ』の三人もつい先日本人たちから話を聞いていたので知っていた。
「……え、美嘉ちゃん……?」
しかし、そこに予想していなかった名前を見つけて驚いてしまった。
「彼女にはクローネの中心となるユニットのメンバーとしてオファーを出していて、つい先日、了承の返事を貰ったのだ。……もっとも『ユニットに入ったとしても、私は私らしさを貫く』と啖呵を切られてしまったがな」
「へぇ」
正直意外だが、その言葉を聞いて納得した。あまり美城さんに対していい感情を持って無さそうな美嘉ちゃんだったが、きっと何か思うところがあったのだろう。
「彼女を含め速水奏、塩見周子、宮本フレデリカ、そして一ノ瀬志希を加えた五人が、クローネを代表するアイドルユニット――」
――『
「……へぇ」
それは、その、なんというか……曲者(マイルド表現)が揃ってるなぁ。
いや、美嘉ちゃんや志希は言わずもがな、美城さんが直々に選抜した速水やフレちゃんや周子ちゃんなのだから、アイドルの素質としては高いメンバーが揃っているだろうし、ビジュアル面で見ても相当レベルが高い。ならばアイドルユニットとしてはこれ以上ない素晴らしいものが出来るのだろうという、半ば確信めいた予感があった。
ただ些か各々の個性が強すぎるような気もする。志希とフレちゃんはかなりフリーダムな性格をしているし、周子ちゃんは速水と同じく傍観するタイプ。となると必然的に、一番常識人な美嘉ちゃんが苦労するポジションになるわけだが……面白そうだからいいか。
さらにパラリと紙を捲る。勿論クローネのメンバーはリップスの彼女たちだけではなく、他にも何人かいるようだ。
えっと、
「……えっ!?」
先ほどの美嘉ちゃん以上に予想していなかった名前を見つけて驚愕する。というか、その人はそもそもアイドルですらなかった人物だ。
「さ、鷺沢さん……!?」
なんと、以前八神堂にてはやてちゃんから紹介された本好き仲間の鷺沢文香さんである。
「ん? 彼女のことも既に知っていたのか?」
「知っていたというか、なんというか……」
知り合って以来、八神堂で何回か顔を合わせる機会が合ったので少々顔見知りではあるが、それでなお『周藤良太郎』の存在に気付かなかったぐらいアイドルに対して無関心だった彼女が、まさかアイドルになっているとは思いもしなかった。
「そこに載っているのはプロジェクトへの参加が決定しているメンバーだ。その他にも何人か声をかけている。……本来ならば、高垣楓にも参加してもらう予定だったのだがな」
おぉ、楓さんまで。ある意味美城のアイドル部門の顔と言っても過言ではない彼女まで参加するとなると、話題性という意味でも申し分ないぐらいの戦力になるだろう。
ただ、美城さんの言葉から察するにどうやら上手くいかなかったらしい。
「……例のライブの後に、私が直々に勧誘に行ったのだがな――」
――好きな人に意地悪したくなる人って、いるじゃないですか。
――自分を見てもらいたくて、わざと意地悪しちゃう人。
――でも私は……好きな人を甘やかして応援しちゃうタイプなんです。
「――などと訳の分からないことを言われてな……ふ、ふふ」
組んだ手を額に当てながら暗い笑みを浮かべる美城さん。どうやらそれだけその勧誘が本気だったのだろう。
……しかし、楓さんの好きな人か……誰なんだろ、普通に気になるぞ。
「……まぁいい、話を戻そう」
美城さんは顔を上げて、コホンと一つ咳払いをした。
「彼女たちプロジェクトクローネのメンバーは全員、346プロダクションの秋の定例ライブに目玉として登場してもらう」
別の紙の束を差し出されたので受け取ると、そこには『Autumn festival』と書かれていた。346プロダクションの秋の定例ライブ、つまりは夏に行ったサマーフェスに対するオータムフェスなわけだが、346プロを代表するアイドルの共演の場として有名だ。
「……ふむ」
パラリと一枚紙を捲り、そこに書かれたオータムフェスの概要が目が入った。
『今ライブは例外的に、各部署の今期中間発表の成果発表の場を兼ねる』
それはいいのだが、問題……というか気になるのは次の文だ。
『なお特定の部署においては、その成果が評価に値しない場合、部署の存続を見直すこととする』
特定の部署というのは、どう考えてもシンデレラプロジェクトのことだろう。
「周藤君には悪いが、今回の定例ライブを一つの通過点とさせてもらう。ここで成果を出せないようであれば、彼らの『シンデレラの舞踏会』は実現するに値しないと判断する」
「……分かりました」
一応、冬まで待ってもらえるという話だったはずなのだが……シンデレラプロジェクトのみんなは解散を譲歩してもらっている側だ。流石に理不尽とも言えない。
学生に分かりやすく例えるならば、期末考査の結果で部活の存続を決めるからと言って中間考査を受けなくていいというわけではなく、そちらの結果が悪かった場合でも部活の存続を考え直すことになる……といったところか。
「なに、安心してくれたまえ。君との約束がある以上、理不尽な評価はしない。しっかりと客観的な判断を行った上で厳正な評価をしよう。なんなら、君もその場に立ち会うかね?」
「……そこまで言っていただけるのであれば、信じましょう。……まぁこれぐらいの試練は乗り越えてくれると、凛ちゃんたちも信じてますよ」
「……その渋谷凛だが――」
「ん?」
「――彼女もプロジェクトクローネに参加してもらう予定だ」
「………………マジですか?」
「ど、どういうことですか……!?」
その日、突然私とアーニャが呼び出された。呼び出したのは美城常務で、そのことを伝えに来たプロデューサー自身も、どうして呼ばれたのかよく分かっていない様子だった。
呼び出された目的が全く分からず、思わず眉間に皺が寄る。アーニャも不安そうな表情を隠しきれておらず、プロデューサーもそれは同じだった。
そしてやって来た常務の部屋で、私たちは驚くべき言葉を耳にすることとなる。
「わ、私たちが……」
「み、美城常務の企画に参加……!?」
「あぁ、その通りだ。渋谷凛、君には新たなユニット活動を。そしてアナスタシア、君にはソロで活動してもらおう」
「ま、待ってください! 承服しかねます!」
呆然と常務の言葉を聞いていた私たちに代わり、プロデューサーが声をやや荒げながら常務に詰め寄る。
「今、私たちは冬の舞踏会に向けて活動しているところです! 秋の定期ライブに参加と言われましても、余りにも急です!」
「これは会社の方針だ。納得してもらう必要はない」
「ですが……!」
「それに……君たちが敬愛する周藤良太郎も、このことに関しては納得してくれているぞ」
「なっ……!?」
「えっ……!?」
「リョ、リョータローが……ですか?」
全く予想していなかった名前が常務の口から出てきたため、私たちは全員面喰ってしまった。
「君たちならば『これぐらいの試練を乗り越えてくれると信じている』とも言っていた。……君たちは、彼の期待を裏切るつもりかね?」
「………………」
これには、流石に何も言えなかった。
私たちが良太郎さんと親しいことを知っている以上、すぐに確認が出来てバレるような嘘なんてことは言わないだろう。つまり、良太郎さんは本当にそれを了承したということだ。
「それに渋谷凛、君にはこの企画を気に入ってもらえると思っていたのだがな」
常務はそう言うと、デスクに置いてあったノートパソコンを操作してからクルリとこちらに画面を向けた。
そこには私の宣材写真と……もう二人の写真が映し出されていた。
「か、加蓮……!? な、奈緒も……!?」
「君にはこの二人とユニットを組んでもらう。ユニット名は――」
――『
・スタミナ消費
なおイベント時以外は基本的に溢れている模様。
・宝物庫周回
弓ギルのスキル3とエレちゃんのスキル2をLv10にしたらQP吹き飛んだゾ……。
・『Project:Krone』
アニデレ二期において、シンデレラプロジェクトのライバルポジションとして登場したプロジェクト。美城常務が理想とする幻想的な意味でのアイドルが集められているためか、一部例外を除きクール系が多い。
残念ながら全体曲はないが、作者は劇場版が作成された暁には彼女たちも全体曲を貰えると信じている。
・グロンギ語
・ヒュムノス語
※作者はまだ未習得
・『Lipps』
デレステ初出の美嘉・奏・志希・周子・フレデリカの五人からなる、プロデューサープロデュンヌ問わない大人気ユニット。
コミュでは明言されていないが、ユニットの雰囲気とメンバーから美城常務(ゲームだと専務)が設立に関わっているのではないかと噂されている。
・橘ありす
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。クール。
とにかく名前で呼ばれたくない系のイチゴ好きな12歳。クールタチバナ。
本編アニメでの出番は少なかったが、U149での活躍を期待したい。
・大槻唯
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
超正統派金髪ギャルな17歳。正統派でギャルとはこれ如何に。
今回は名前だけですが、ようやく……よ う や く 登 場! 楓さんに続く作者のデレマス担当アイドルうううぅぅぅ!!
彼女を登場させるためのPK編と言っても過言ではない(真剣)
・鷺沢文香
番外編14以来、リアルタイムで二年四ヶ月ぶりの再登場。長かったぁ……。
・私は……好きな人を甘やかして応援しちゃうタイプ
(意味深)
・『Triad Primus』
凛・奈緒・加蓮の三人組ユニット、りんなおかれん改めトライアドプリムス。
これまたリップスに負けず劣らずの人気ユニット。おかげでつい先日のイベントはボーダーがおかしかった模様……。
というわけで、今回から第五章の本番と言っても過言ではないPK編のスタートになります!
アニメに沿った形でCPの面々も描きつつ、アニメではスポットが殆ど当たらなかったPKの面々とのオリストを中心に書いていきたい!(願望)
何せようやく唯ちゃんが本編で書けるからね!(テンション爆上げ)
『どうでもよくない小話』
完全新作『アイドルマスター シャイニーカラーズ』リリース決定!!
うわぁ新プロダクションだとかアケマスに近いシステムだとかまた登場人物が増えるおだとか、色々言いたいことはありますが一つだけ。
めぐるちゃんがかわいいです。