アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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さぁ新年度です。新たな生活が始まった皆さんに、いつもと変わらぬアイ転をお届け(なお内容はあまり普段通りではない模様)


Lesson197 Ring a bell 3

 

 

 

「………………」

 

 事務所から自宅への道を歩きながら、私の思考はただひたすら同じ場所をグルグルと回っていた。

 

 

 

 ――自分で決めたことなんだ。

 

 ――勿論、ニュージェネの活動も手を抜かないから。

 

 

 

 「もしかして、未央ちゃんも美城常務の企画でソロデビュー!?」というみくの問いかけに首を横に振って否定した未央はそう言い、それをプロデューサーも肯定した。

 

(……私のせいだ)

 

 私が美城常務の企画への参加を仄めかした次の日に、この未央の決断。どう考えても、私がそれを迷っていると言ってしまったことが原因以外に考えられなかった。

 

 私への当てつけ……? それとも、ニュージェネの活動も手を抜かないと言いつつ、愛想を尽かした……? どちらにせよ、どう考えてもこのままでは秋のライブにニュージェネとして参加するのは難しいだろう。

 

 ……私のせいで『new generations』が、バラバラになってしまうかもしれない。

 

 じゃあ、私はどうすればよかったのか。

 

 加蓮と奈緒の話を突っぱねればよかった? そしたら、こんなことにはならなかった? その場合、加蓮と奈緒はデビューすることが出来ないままになるが、私はそれでも良かった?

 

 

 

 分からない。

 

 

 

 既に自分で踏み出した一歩は、その足跡さえも消えてしまった。

 

 

 

「……ただいま」

 

 陰鬱な気分のまま、帰宅する。そのまま店先へ入ると、どうやらお客さんが来ているようで――。

 

「ん、おかえりー」

 

「……え」

 

 ――そこにいたのは、良太郎さんだった。

 

「……良太郎、さん……!?」

 

「はいはい、正真正銘みんなのアイドル周藤良太郎お兄さんだよー」

 

 花を梱包する間お客さんに座ってもらう椅子に座りながら、良太郎さんが私に向かってヒラヒラと手を振っていた。

 

「久しぶりに生花店の方に顔出したくなってね。……別に、凛ちゃんが詳しく話してくれなくて、その後どうなったのか気になったわけじゃナイヨ?」

 

「………………」

 

 そう言う良太郎さんだが、勿論その言葉を額面通りに捉えるのなんて無理だった。これは絶対、私のことが心配になって様子を見に来てくれたんだ。

 

「ホラ、お土産の翠屋のシュークリームもあるから、一緒にどう――」

 

 

 

「……ぐすっ」

 

 

 

「――かなって!? ファッ!? 凛ちゃん!?」

 

 そんな良太郎さん(お兄ちゃん)の優しさに、気付けば視界が滲んでいた。

 

 普段はこんなことぐらいでは何ともないのに、今の私にはもう耐えれなかった。

 

「なになになにっ!? ショートケーキの方が良かった!? それとも……へっ!? 何ですか、おじさんおばさん!? ……いやいや『ぎゅっと抱きしめろ』じゃないよ『空気読んで』でもないよ! そっちが空気読んで! そ、そうだ凛ちゃん! 面白い話をしてあげよう! ついこの間なんだけど、家に帰る途中で水の入った赤い洗面器を頭の上に乗せた男の人とすれ違ってさ! 何でそんなことしてるのかって尋ねたら、その男の人は――!」

 

 

 

 

 

 

「……美味しい?」

 

 そう尋ねると、凛ちゃんはシュークリームに被りつきながら無言のままコクリと頷いた。既に泣き止みはしているものの、目はまだ少し赤かった。ついでに頬も赤いから、多分先ほどのことを恥ずかしがっているのだと思う。

 

 いきなり凛ちゃんがホロホロと泣き始めたので少々混乱したが、多分例の『悩んでいること』が上手く進んでいないのだろう。

 

「……ねぇ、良太郎さん」

 

 モグモグゴクンとしっかりと口の中のものを飲み込んでから、凛ちゃんは口を開いた。

 

「ん?」

 

「あのね――」

 

 それから凛ちゃんは、それまでのことを全て話してくれた。

 

 美城常務の企画に誘われ、断ろうと思ったこと。しかし加蓮ちゃんと奈緒ちゃんの二人と一緒の企画と聞いて、もしこれを断れば二人のデビューがまた遠のくのではないかと思ったこと。初めは半ば同情的な考えだったのに、実際に二人と歌ってみたことで、本気で二人とユニットを組んでみたいと思ったこと。そしてそれを未央ちゃんと卯月ちゃんに話したところ、未央ちゃんから大きく反対されてしまったこと。

 

 ポツリポツリとであるが、それでもしっかりと全て凛ちゃんは話してくれた。

 

「加蓮と奈緒のユニットに参加するって決めたのは私。良太郎さんに背中を押してもらったけど、それでも一歩を踏み出したのは自分の意思」

 

 でも私は……と凛ちゃんはシュークリームの包み紙をクシャリと握り潰した。

 

「結局、私は一歩も踏み出せてなかった……そのせいで、未央には愛想を尽かされちゃって、ソロ活動を始めるって言われちゃうし……卯月にも迷惑を……」

 

「……ふむ」

 

 その未央ちゃんの愛想を尽かせてソロ活動っていう点に関しては……まぁ、今は置いておこう。今の未央ちゃんの気持ちが分からない以上、それに関して何かを言うことは出来ない。

 

 だから、今の俺にはこれしか聞けない。

 

「……凛ちゃん、()()()()()()()()?」

 

「私は……出来るなら、加蓮や奈緒と一緒に歌ってみたい。でもそれだと、未央や卯月が……」

 

「俺は未央ちゃんや卯月ちゃんの話はしてないよ。勿論、加蓮ちゃんや奈緒ちゃんの話もしてない」

 

 君の話をしているんだ、と凛ちゃんの目を覗きこむ。一瞬目を逸らしかけた凛ちゃんだったが、キッと半ば睨むようにして俺の目を見返してきた。

 

「凛ちゃん、君が踏み出す一歩は未央ちゃんや卯月ちゃん、加蓮ちゃんや奈緒ちゃんのための一歩じゃない。君自身のための一歩だ」

 

 どちらかを選んで後悔するかもしれない、もしかして後悔しないかもしれない。

 

「『コーラの味はコーラ味』、だよ」

 

 凛ちゃんがアイドルの一歩を踏み出そうとしたときにも用いた言葉。その何かは、踏み出した人にしか分からない。俺だって言葉にして伝えることが出来るならそうしたい。けれど出来ない。だから踏み出すんだ。

 

「………………」

 

「もしそれでも不安だって言うんなら……最後の大サービスだ」

 

 ポンッと手を乗せる。幼い日の凛ちゃんにしていたように頭に……ではなく。必死に大きなものを担ごうとしている、その華奢な肩に。

 

「渋谷凛。君が踏み出したその一歩は間違いじゃない。それは周藤良太郎が保証しよう」

 

「あ……」

 

 手助けはしない。だから、今は少しだけ強く背中を押そう。もしかして強く押しすぎて前につんのめってしまうかもしれない。けれど、転んでも立ち上がればいい。その場で蹲ってしまうよりはずっとマシだ。

 

「だから胸を張れ。君が進む道の平穏は約束できないが、その先で()は待っている」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

 私にとって凛ちゃんと未央ちゃん……『new generations』とは、アイドルとしての全てでした。

 

 アイドル養成所でプロデューサーさんにスカウトされ、初めてアイドルとしてステージに立ったあの美嘉さんのステージからずっと、私たちは三人一緒でした。そのときから、私たち三人はアイドルで、その三人の『new generations』が私というアイドルそのもの。

 

 だからこそ、今、私は自分が置かれている状況について何も考えれません。

 

 凛ちゃんが美城常務の企画に参加し、未央ちゃんまでもソロ活動を始めてしまった今の状況を、私は受け入れることが出来ていませんでした。

 

 今こうして事務所からの帰り道を歩いていても、意識は何処か遠い場所。

 

(……もし、このままニュージェネが解散ってことになったら)

 

 二人ともニュージェネを辞めるとは一言も言っていません。けれど、真っ先に頭を過るのはそれでした。

 

 歩道橋の階段を下りながら、そんな最悪の状況を考えてしまいます。

 

 もしそうなった場合、私は――。

 

 

 

 ズルッ

 

 

 

「……え」

 

 

 

 ――あれ、足、空、見え、身体、浮いて――。

 

 

 

 

 

 

「っぶねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 仕事の帰り、何やら見知った人影がトボトボと歩道橋を降りてるの見かけた。というか346プロの島村だった。なんというか、心ここにあらずと言った様子で、見ていて危なっかしい雰囲気を醸し出していた。

 

 これでも一度は面倒を見て、その後も何回か気にかけてやった身だ。なんとなくここで見て見ぬふりというのもアレだったので、声をかけてやることにする。

 

 最近デビューして今が大事なときだっていうのに、一体何を腑抜けているんだと発破をかけようとして――。

 

 ズルッ

 

「っ!?」

 

 ――目の前で、島村が足を踏み外しやがった。

 

 自分でも信じられないぐらい早く身体が反応した。荷物を投げ捨てて一気に駆け寄ると、今まさに宙に浮いた状態の島村の身体をキャッチすることに成功した。所謂お姫様抱っこの状態で、それほど重いとは感じなかった。これは果たしてコイツの体重が軽いのか、はたまた高町ブートキャンプを経て俺の体力が増えたのか。

 

「……はぁぁぁ……!」

 

 そして何とか間に合ったことに安堵し、全力で肺の中の空気を吐き出す。一瞬、力が抜けそうになったが、何とか体勢を保つ。

 

「……あ、あれ? あ、天ヶ瀬さん……?」

 

 腕の中の島村は目をパチクリとさせていた。我に返ってみれば、女性をこんな風に抱き上げたことは人生で初経験だったため、一瞬だけ身体が強張った。しかしそれ以上に、今は大事なことがある。

 

「……ボーッと歩いてんじゃねぇよっ! このアホ!」

 

 

 

「ったく……」

 

「す、すみませんでした……」

 

 一先ず近くの公園のベンチに連行し(勿論すぐに下ろした後、自分で歩かせた)、軽く説教をかます。ボーっとしながら歩かないなんて、アイドルとして以前に小学生で習うようなことだ。

 

「………………」

 

 ベンチに座る島村の表情は、やはり変わらずに暗い。一応冷えるからと買い与えた暖かい紅茶の缶を開けようとせず、ずっと俯いたままだ。これは俺から説教をされたというだけじゃなく、先ほどから悩んでいることの延長線だろう。

 

(……はぁ)

 

 本当は、こういうのは俺の役目じゃない。人付き合いというかコミュニケーション能力が並外れている良太郎や所の管轄だ。

 

 それでも――。

 

「……何か悩んでるなら話せ」

 

「えっ」

 

「いいから話せ。また目の前で転ばれたらたまったもんじゃねぇからな」

 

「で、でも……」

 

「ハ・ナ・セ」

 

「は、はいぃ!」

 

 ――放っておくことが出来なかった。

 

 こんな聞き方しか出来ない自分に、内心で舌打ちしつつ、言葉を選んでしどろもどろに説明し始めた島村の言葉を待つことにした。

 

 

 




・「……ぐすっ」
良太郎の存在のより、ほんの少しだけメンタルが弱い凛ちゃん。逆に、一人で頑張りすぎず人に甘えることが出来るとも言う。

・「いやいや『ぎゅっと抱きしめろ』じゃないよ『空気読んで』でもないよ!」
既に凛ちゃん側の外堀は埋まっている模様。

・赤い洗面器を頭の上に乗せた男の人
三谷作品によく登場する小話。よくオチの前で話が遮られることが多いが、実は本当のオチは――おっと、誰か来たようだ。

・『コーラの味はコーラ味』
はたしてあのクソ映画のこんなセリフを名言のように扱った作品があっただろうか。

・主人公属性持ちの冬馬
やっぱりコイツが主人公でいいのでは(問題発言)



 悩める少女の下に、主人公二人が登場! たまには良太郎にもちゃんと仕事してもらわないと……。

 次回、クローネ編『序章』最終話!



『どうでもいい小話』

 今年もやりました、エイプリルフール一発ネタ。

 活動報告に残ってますので、よろしければどうぞ。

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