アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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おっと、来週はもう5th宮城公演の発売日か……予約せねば(ステマ)


Lesson203 Please get into pairs 5

 

 

 

「さて、これで全員揃ったね」

 

 初対面となる橘さんとの挨拶を終えたところで、改めて集まってもらう。今日レッスンするのはリップスの五人を除いた七人。全員ではないが、それでも一番最初だから少しそれっぽいことを言っておくことにしよう。

 

「いいかい、人と言う字は……」

 

「良太郎さん、それ本当に今このタイミングで言う一番最初の挨拶でいいの?」

 

「うん、俺も『なんかちげーな』って思った」

 

 テイク2。

 

「まぁそうだね……俺はアイドルとしては誰にも負けない自信があるけど、指導者としてはそれほど優秀じゃないということはまず分かってもらいたい」

 

 何人かが驚いたように少し目を見開いたが、特に誰も何も言わなかった。

 

「一応勉強はしたんだけど、それでも本職の人と比べると付け焼刃だ。細かいところの指導はこの事務所のトレーナーさんに任せることになる」

 

 765プロのときも、バックダンサー組のときも、そうだった。ある一定のレベルにまでならシゴくことが出来るが、それ以上のレベルに引き上げるすべなんて持ち合わせていない。

 

 だから、俺は俺にしか出来ないことをする。

 

「……今日から始めるレッスンで、みんなに本当に伝えたいことは技術じゃなくて、()()()()だからこそ教えることが出来るコツみたいなもので――」

 

 

 

 ――()が見ている世界の一端だ。

 

 

 

『……っ』

 

「全部理解しろとは言わないし、されたらされたでちょっと怖いけど……それでも感じ取ってみせろ。取り込んでみせろ。盗んでみせろ。それがお前たちにとって()()()()()()()()()()()

 

 みんなの表情がやや緊張に引き締まったような気がした。こういうとき、無表情だと怖い感じになっちゃうんだよなぁ、おーヤダヤダ。

 

「……さて、真面目なお話はここまでにして、そろそろ始めよっか」

 

 空気を変えるようにパンパンッと手を叩くと、みんな少しだけ気を緩めたように息を吐いていた。

 

「本当は準備運動も済ませておいてもらった方が時間短縮になったんだけど、まぁ今回はしょうがないか」

 

 というわけで、準備運動から始めていこう。

 

 

 

 ……しかし、俺はここでまた一つ言わなければけないことがある。それは、人によってはとても厳しい言葉で……きっと心に傷を負うことも、心の傷を抉ることにもなるかもしれない。かつてこの言葉に心を折られた人を、俺は何人も見てきた。幸い、俺自身はそれと縁のない人生を送ってくることが出来たが……きっと道を踏み外していたら、そうなってしまったのだろう。彼らの嘆きが、今も俺の脳裏に焼き付いて離れない。

 

 それでも俺は言わなければならない。彼女たちが今からのレッスンをやり抜くために……引いては今後もアイドルとして活動していくために。

 

 ならば俺は心を鬼にしよう。意を決し、俺はそれを彼女たちに……告げた。

 

 

 

「はい、準備運動するから二人組作ってー」

 

 

 

 

 

 

「はぁ……尊い」

 

 なんか加蓮が腐女子みたいなことを言い出した。

 

「いやだって、見た? あの良太郎さんの超真剣な顔……」

 

「ただ無表情なだけじゃ」

 

「それにあの自分がトップアイドルだと信じて揺るがない言葉……あれこそまさに『周藤良太郎』って感じ……もうこれだけで当分生きていける」

 

「加蓮ってこんなキャラだったっけ……?」

 

「いや、アタシもこんな加蓮は初めて見た……」

 

 奈緒に尋ねるが、彼女も意外そうなものを見る目で首を横に振った。というか微妙に引いていた。

 

 ……いやまぁ、確かにちょっと真面目でカッコ良かったけど、普段の姿を知っている身としては「一体心の中ではどんな余計なことを考えているやら」と疑ってしまう。これはこれで良太郎さんに毒されているような気もするけど、どちらかというとこれは良太郎さん側の責任だ。

 

(とか言いつつ、凛の口元も微妙にニヤついてることは黙っててやるか……)

 

 それはさておき、レッスン前の準備運動だ。曰く「高町家で散々(無駄に)戦闘技術まで叩き込まれた身としては唐突に全力で動くことぐらいは出来る」らしい良太郎さんは別として、一般人な私たちにとって激しい運動をする前に準備運動は欠かせない。

 

「んじゃ奈緒、加蓮よろしく」

 

 未だ余韻に浸っている加蓮を奈緒に任せることにする。

 

「文香ー! 一緒にやろー!」

 

「は、はい」

 

 向こうでは唯が文香さんとペアになったようだ。あとはアーニャと橘さん。というか、今回のメンバーは七人なんだから一人余ることになる。

 

「あ、いっけね、奇数だった……凛ちゃーん」

 

「はいはい」

 

 全くしょうがないなぁ……アーニャや橘さんも良太郎さんと一緒にやるのは抵抗があるだろうし、ここは私が良太郎さんと一緒に準備運動をすることにしよう。うん、しょうがないね、私は良太郎さんの妹みたいなもんだし、多少体に触られるぐらいだったら気にしないし、うん。

 

「よろしくお願いします、アリス」

 

「……えっ。あ、あの、私のことは橘と……」

 

「? どうかしましたか、アリス」

 

「……いえ、なんでもないです」

 

 向こうでは残りのアーニャと橘さんがペアを組んでいた。しかし私や良太郎さんのときとは違い、名前で呼ばれることに対して特に言及しなかった。……なんで?

 

「これまでもレッスンを受けてきてるから分かってるだろうけど、ちゃんと体をほぐしておいてねー」

 

 他のみんなも準備運動を始めたようなので、私も良太郎さんに手伝ってもらって準備運動を始めていこう。

 

「それじゃ、背中から押すねー」

 

「あ、良太郎さん、私この下にシャツ着てるから余計な期待はしても無駄だよ」

 

「……ナ、ナンノコトカナー」

 

 ……やっぱり、良太郎さんの考えが先読み出来てしまう自分が何か嫌だ。

 

 

 

 

 

 

「えっ、文香さん、アイドルになったのか!?」

 

「実はそうなんですよー、響さん」

 

 最近忙しくてあまり来れていなかった八神堂に寄ってはやてと立ち話を知っていると、そんな話を聞くことが出来た。

 

「ビックリだぞ……」

 

「私もビックリしましたよ。いきなり『アイドルをやることになりました……』って言われたんですから」

 

 文香さんは自分が八神堂をよく利用するようになってから度々顔を合わせることがあったが……なんというか自分とは真逆の存在。物静かで常に本を読んでいるか本についての話をしているかのどちらかで、とてもじゃないがステージの上に立って歌って踊るイメージが湧かなかった。

 

「346プロにスカウトされたらしいんですけど、そこで良太郎さんに出会って初めてアイドルだって気付いたらしいですわ。あと響さんも」

 

「よーやく気付いてくれたのか……」

 

 別に気付いてほしかったわけじゃないが、それでもほんの少しモヤモヤしたものを感じていた自分としては、少しだけホッとしている。なんとなく、次に顔を合わせたときに謝り倒されそうな気がする。

 

「……って、良太郎さん、346プロにいたのか」

 

「なんでも、文香さんが参加してるプロジェクトに良太郎さんのところの新人さんも参加しとって、その関係らしいです」

 

 要するに自分たちのところに恵美やまゆが来たときみたいなことになってるわけだ。

 

 そういえば前も346プロのアイドルの相談も受けてたっけ……相変わらず、色んなアイドルのために色々やってるなぁ、あの人は。

 

「それで良太郎さんが文香さんたちのレッスンを見ることもあるっちゅー話もしてました」

 

「え゛っ」

 

「えっ、なんですかその反応は」

 

「あ、いや、その……」

 

 良太郎さんとのレッスンは……うん、ためになることは間違いない。間違いないんだけど……。

 

「……文香さんが、()()やるのか……」

 

 思い出すのは自分たちが初めて良太郎さんと一緒にレッスンをしたとき。そしてバックダンサー組のレッスンに少しだけ顔を覗かせたとき。あの死屍累々とした状況。

 

「………………」

 

「響さん!? なんでそんな悲痛な面持ちで手を合わせとるんですか!? え、ホントに何があるんですか!?」

 

 

 

 

 

 

「――おっと、もうこんな時間だ……それじゃあ今日のレッスンはここまでだ。ゴメンね、結局これだけしか出来なくて。本当はもうちょっと色々やりたかったんだけど……まぁ最初はこんなものだよね」

 

『………………』

 

「でも、これで君たちにも()()がイマイチ欠けているってことが分かった。どーしてもここはみんな欠けがちだよねぇ……やっぱり基本は大事だよ」

 

『………………』

 

「勿論、君たちは大人数でライブをする機会の方が多いだろうから、それなりに休憩時間は取れると思う。でも将来的に一人で単独公演をすることになったら……そうでなくても、もし何らかのトラブルで二・三曲続けてステージに立たなくちゃいけないことになったら。そうなったときのために、今からでもしっかりと体力をつけておくことが大事だよ。うん、基本が一番」

 

『………………』

 

「というわけで、トレーナーさんにもちゃんと言っておくから、みんな体力はもっと付けておこう! しっかりとクールダウンしてから休憩して、午後からのお仕事も頑張ってね。それじゃあゴメン、俺も次の仕事があるから」

 

 お先に失礼するよーと言い残し、良太郎さんはレッスン室を出て行った。

 

『………………』

 

 レッスン室に静寂が漂う。

 

 僅かに首を持ち上げて周りを見渡すと……そこには床に倒れ伏してピクリとも動かないみんなの姿があった。

 

「……誰か、私以外に意識ある人、いる……?」

 

「……動ける人って聞かない辺り、あれだよな……」

 

 反応してくれた奈緒はあるらしい。

 

「……ゆいも一応起きてるよー……」

 

「……だー……」

 

 唯とアーニャも意識があることを確認した。

 

 となると、やはり問題は……。

 

「……か、加蓮……!? しっかりしろ……!」

 

「ふ、文香ー……!?」

 

「アリス……しっかり、してください……!」

 

 やはりこの三人だったか……。良太郎さんもこの三人には少しだけ手を緩めていたような気もするが……文香さんに関しては服の下で揺れてる胸に気を取られて若干それを見誤ってた気がするぞアノヤロウ。

 

 とりあえず体を起こせるようにはなったので、全く反応が無い加蓮と文香さんは奈緒と唯に任せ、仰向けに倒れる最年少の橘さんの下へと向かう。

 

「橘さん、大丈夫……?」

 

「………………」

 

 聞き取ることがかなり困難だったが、とりあえず「大丈夫です」というのだけは聞こえた。どう見ても大丈夫そうではない。

 

「……や、やっぱりすごいです……」

 

「……え?」

 

 聞き取れるようになったかと思ったら、突然そんなことを言い出した橘さん。

 

「あれが、トップアイドルと呼ばれる人なんですね……流石です……」

 

 息も絶え絶えだが、良太郎さんのことを褒めている。どうやらまだ良太郎さんに対する好感度が下がっていないようだった。

 

 ……あれ、そういえば……視線は確かに文香や唯の揺れる胸にロックオンされてたけど、それ以外は別に変な言動はなかった……?

 

 ……ふ、ふふ、いいよ、どうせ良太郎さんと会う機会なんてこれから増えるんだ……これから先、何処かで絶対にボロを出すに決まってるんだから……!

 

(……凛が変な方向で闇堕ちしてる気がする……)

 

 

 

 こうして、私たちプロジェクトクローネの良太郎さんとの初レッスンは、良太郎さんの完全勝利という形で終わった。……レッスンに勝敗がある時点でだいぶアレだけど、もうそれ以外に表現しようが無かった。

 

 ……とりあえず、美嘉さんたちにも忠告しといてあげよう……。

 

 

 




・「人と言う字は……」
片方がもう片方に依存している定期。

・「指導者としてはそれほど優秀じゃない」
アイドルの才能適応外です。

・「はい、準備運動するから二人組作ってー」
サブタイトル回収。

・「はぁ……尊い」
「しんどい」とかもそうだけど「萌え」に代わるいい表現方法だと思う。

・「加蓮ってこんなキャラだったっけ……?」
りょーいん患者進行度B(ツイッター参照)

・名前で呼ばれることに対して特に言及しなかった。
デレステのありすの1コマ劇場①参照。

・「この下にシャツ着てるから余計な期待はしても無駄だよ」
ブラ紐が透けて見える的な。

・八神堂
忘れた人はLesson45を読み返そう! あとついでに番外編14辺りも!



 りょうたろうは そんげんを まもった!

 果たしていつまで続くことやら……。

 さて次回は、待ってた人も多そうなあの五人のお話!

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