アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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()()()彼女は、そこにいたのか?


Lesson208 I've got a feeling

 

 

 

「ワン! ツー! スリー! フォー! ……よしそこまで!」

 

「はぁ……はぁ……」

 

「少し休憩にしよう。水分はちゃんと補給しておけよ、大槻」

 

「は、は~い……」

 

 

 

「……はぁ」

 

 

 

「……『LiPPS』……かぁ」

 

 

 

 

 

 

「……よし、出来た」

 

 仕事と仕事の合間の空き時間。チェーン店のコーヒーショップの二階席を陣取って書いていたレポートがようやく仕上がった。相変わらずアイドルとして(一応)多忙な生活を送っているので、大学の単位が足りなさ過ぎてヤバく、教授の温情によりレポート提出さえすれば下駄を履かせてくれることになっていた。ほら、日本の大学は『入学し難し出易し』って言うし……。

 

 ……しかし自分で書いておいてなんだが、本当に『トップアイドルの観点から考えるアイドル業界の進退』という内容でよかったのだろうか……いや、教授から指示されたから書いたんだけどさ。完全に私利私欲だろコレ……それで単位を貰える身としては文句はないが。

 

「しかし、これ本当に大学入った意味あったのか……」

 

 思わずそんなことを独り言ちてしまった。

 

 確か二年前(だいいちわ)ぐらいだと『社会人として大学ぐらいは出ておかないと』みたいなことを言ったような気もするが、自分の知り合いのアイドルは意外と大学に行ってなかった。例えば冬馬は高校を卒業と同時に123プロに就職という形になったし、765プロでも大学に行ったのは春香ちゃんだけで、千早ちゃん・響ちゃん・真ちゃん・雪歩ちゃんも765プロに就職してしまった。

 

 自分や魔王エンジェルの三人は大学に入学したものの、出席日数は全員足りていない。麗華なんかは成績でカバー出来るかもしれないが、俺を含め他三人の頭はお世辞にも優秀とは呼べないのだ。

 

 いやホント、もうちょっとトップアイドル『周藤良太郎』の仕事量を考えてから決めるべきだった……。

 

 もっとも今更そんなことを考えていてもしょうがないと、頭を切り替える。

 

「それにしても、二年……二年か」

 

 先ほどチラリと触れたが、俺が彼女たち765プロの面々と初めて顔を合わせてから二年だ。あの頃はまだ高校二年生だった春香ちゃんが今は華の女子大生で、未だに幼さが残るやよいちゃんがなんと女子高生である。初めて彼女のブレザー姿を見たときは、何故か父性が刺激されて泣きそうになったのを覚えている。

 

 そして中三だった美希ちゃんも高校二年に……なったのだが、彼女の場合は昔から年齢不相応な魅力的な体型をしていたので、寧ろようやく年齢が肉体に追いついたといった感じである。……いや、それでもまだ歳不相応だった。

 

 身体つきという話になると、やはり矢面になるのは年少組である。未だに順調な発育を見せる美希ちゃんを筆頭に、やよいちゃんや双海姉妹もだいぶ身長が伸びてきていた。双子に至ってはついにりっちゃんの背を追い抜いてしまった。伊織ちゃんは……まぁ、うん。

 

 そして勿論、年齢や身体的特徴だけではない。この二年の間に、彼女たちのアイドルとしての立場も――。

 

 

 

「この『LiPPS』ってユニット、いいよね……」

 

「いい……」

 

 

 

(……おや)

 

 そんな気になる会話が聞こえてきたため、思考を一時中断する。まるで知り合いの交番のお巡りさんが話していた『プロ同士、多くを語らない』みたいなやり取りだった。

 

 俺の二つ隣に座る二人の男性の会話らしく、少し気になったので残ったアイスコーヒーをストローで吸い上げながらそのまま聞き耳を立てる。どうやら話題は気になるアイドルについてらしい。最近リップスの面倒を見てあげた身としては、ファンからの評価は少々興味があった。

 

 

 

「色物が揃っている346プロから、あんなにオシャレなユニットがデビューするとは思わなかったよ」

 

「王道とはまた違うけど、765プロの『フェアリー』に近い雰囲気を感じるよな」

 

 

 

 765プロの『フェアリー』は美希ちゃん・貴音ちゃん・響ちゃんの三人ユニットだ。確かに雰囲気だけで考えると、リップスに一番近いのはフェアリーかもしれない。

 

 

 

「歌も上手いし、ビジュアルのクオリティも高い」

 

「同期のアイドルたちの中だと、間違いなく頭一つ出てるよね」

 

 

 

 その意見には俺も同意しよう。ビジュアル面は五人とも間違いなく美人だ。歌に関しても、どうやら俺が歌ってあげた彼女たちの歌を元に練習したらしく、短期間でだいぶ上達していたのを覚えている。

 

 ただ問題は一部のメンバーは口を開くと色々と残念だということ。その辺りはまだまだファンには伝わっていないようだが、歌番組やラジオ出演などでトークをする必要がある場面に直面したとき、果たして視聴者はどのような反応をするのかが大変楽しみである。恐らく美嘉ちゃんに対する同情の目が一番増えることだろう。

 

 

 

「で? お前は誰推しよ」

 

「それが決まんないんだよ……みんな可愛いからさぁ……」

 

「わかるマン」

 

「やっぱり美嘉ちゃんのカリスマが!」

 

「いやいやフレちゃんのフリーダムさも!」

 

「志希ちゃんの気まぐれ猫加減も!」

 

「周子ちゃんの気だるい感じも!」

 

「僕は神山(かみやま)満月(まんげつ)ちゃん!」

 

「奏ちゃんにキスされたい!」

 

「「……今の誰だ!?」」

 

 

 

 本当に誰だ。あと、その名前の呼び方は神山(こうやま)満月(みつき)ちゃんだと思うぞ。

 

 さて、そろそろ俺も行くとしよう。まだ少しだけ時間があるから、その辺を適当にブラついて――。

 

 

 

「……あ、そうだ、その『LiPPS』なんだけど、なんかこんな噂を聞いたんだけどさ」

 

 

 

 ――と思ったら、何やら関心を引く話題になったため、浮かしかけた腰を再び下ろす。

 

 リップスの噂……? 俺は聞いたことないんだけどな。

 

 

 

「何々? 周藤良太郎がプロデュースしてるとかいうやつ?」

 

「いや、それは本当にただの噂だろ。なんで123プロの周藤良太郎がわざわざ346プロのアイドルをプロデュースしてるんだよ」

 

「だよなー」

 

 

 

 ……その情報は一体何処から漏れたのだろうか……いや、あくまでも噂らしいし、微妙に信じられてないみたいだから問題ないだろう。

 

 

 

「俺が聞いたのは、メンバーに関する噂だよ」

 

「城ヶ崎美嘉はスリーサイズを逆サバ読んでるとか、速水奏はクソ映画好きとか、フレデリカは微妙にダンスがダサいとか、塩見周子は絶賛家出中とか、一ノ瀬志希はヤバい薬作ってるとか……?」

 

「そういうメジャーな噂じゃなくて」

 

 

 

 え、メジャーな噂って何? 既に定着してる噂があるってこと? しかも微妙に何個か当たってるのがある辺り、何とも言えない。

 

 

 

「『LiPPS』のメンバーには――補欠がいるんだってよ」

 

 

 

 ……なぬ?

 

 

 

 

 

 

「補欠……?」

 

「そうそう」

 

「そーいう噂」

 

 加蓮と奈緒とのレッスンを終えてロッカーで着替えをしている最中、話題になったのは346プロに関する噂だった。これだけ大きな事務所で所属アイドルも大勢いるので、噂話というのはネタに事欠かなかった。

 

 ――鷹富士茄子と握手をするとその日一日幸運が続く。

 

 ――高森藍子と会話をしていると時の流れが半分以下になる。

 

 ――遊佐こずえは人間と精霊のハーフである。

 

 ――イヴ・サンタクロースは本物のサンタクロースである。

 

 ……まぁ、内容は噂話というより都市伝説みたいなものばかりだが。本物のサンタが日本の芸能事務所でアイドルをやっているわけないだろうに。

 

 ちなみにこの事務所の人間でないにも関わらず『最近周藤良太郎を頻繁に見かけるのは、123が346をM&Aしようとしている』という噂も流れているらしい。出来て二年も経っていない事務所が古くから続いている老舗芸能事務所をM&Aとか、立場が逆じゃないかというツッコミもあるが、一瞬だけ「あの常務ならあるいは……?」と思ってしまった私はきっと疲れている。

 

 そんな与太話に近い噂話が多い中で、今回加蓮から聞いた噂話はやけにリアリティがあった。

 

「リップスに補欠ねぇ」

 

「ほら、志希ちゃんって元々常務がスカウトしたけど失踪されて、良太郎さんの事務所に所属することになったから偶然こっちに出向することになったって話じゃん?」

 

 その時点で噂話レベルの内容である。

 

「だから常務は、志希ちゃんが抜けても『LiPPS』を結成できるように、メンバーを一人補欠で用意してたんだって」

 

「ふーん……」

 

 そう言われてみると、確かにあってもおかしくはない話だった。聞いたところによると、美嘉も一時期常務の話を受けるか断るかで悩んでいたらしく、もし美嘉が断った場合というのも想定して補欠を確保していても不思議ではなかった。

 

「あ、ちなみに『神谷奈緒は髪の毛のもふもふ具合で明日の天気が分かる』っていう噂も流れてるよ」

 

「流れてるよ、じゃなくて、それ絶対お前が言い出したやつだろ!?」

 

 キャイキャイとじゃれ合う加蓮と奈緒を横目に、私は少しだけ思考を巡らせる。

 

 すなわち、その補欠とは一体誰なのか?

 

 リップスの補欠なのだから、同じくプロジェクトクローネのメンバーの中にいると考えるのが自然だろう。リップスにスカウトするレベルであるならば、例えリップスのメンバーにならなくてもそのままプロジェクトのメンバーとして起用していてもおかしくない。

 

 ……雰囲気的に考えると、橘さんや文香さんは違う気がする。志希の代わりに二人をあのメンバーの中に入れても、やや浮いているような気がした。アーニャも少しだけ違う気がするし、そもそも彼女は最初から美城常務がソロデビューをさせるという前提で、私と一緒にシンデレラプロジェクトから声をかけたはずだ。だから同じように、最初からトライアドプリムスとしてデビューする予定だった私や加蓮や奈緒も違うだろう。

 

 ……と、なると――。

 

「そ、そんなこと言うなら、あたしだって加蓮の噂知ってるんだからな!」

 

「え? 何々、聞きたい!」

 

 ――そこまで考えた思考は、奈緒の興味深い一言に寄って現実に引き戻された。

 

「私の噂か~どうせ昔は身体が弱くて入院しがちだったとかそういう――」

 

「……『昔、入院中にどうしても良太郎さんのサイン会に行きたくて、ダダこねて泣いたことがある』って」

 

「――その話の出所は何処だあああぁぁぁ!?」

 

 余裕綽々だった加蓮の顔があっという間に真っ赤になった。

 

 先ほど以上に騒がしくなった二人を尻目に、私は少しだけ距離を取る。

 

 この後三人でご飯を食べに行く予定だったのだが、もう少し時間がかかりそうだ。

 

 

 




・『入学し難し出易し』
逆に外国の大学は卒業が難しいらしいが、だからといって日本の卒業が簡単なわけでもない。

・「これ本当に大学入った意味あったのか……」
作者「これ本当に大学入れた意味あったのか……」

・765プロでも大学に行ったのは春香ちゃんだけ
独断と偏見。春香は女子大生が似合いそう。

・やよいちゃんがなんと女子高生
今まで全然触れてなかったけど、しぶりんと同学年なんだぜ……?

・『プロ同士、多くを語らない』
「アオ、いいよね……」
「いい……」

・知り合いの交番のお巡りさん
葛飾区亀有公園前交番に勤務中。たぶん早苗ねーちゃんの知り合いでもある。
絶対に良太郎と仲が良いと思うんだ、この人。

・「僕は神山満月ちゃん!」
ほら、タクトも生き返ったんだから、そろそろやっくんも……(白目)

・城ヶ崎美嘉はスリーサイズを逆サバ読んでる
・速水奏はクソ映画好き
・フレデリカは微妙にダンスがダサい
・塩見周子は絶賛家出中
・一ノ瀬志希はヤバい薬作ってる
※あくまでも噂です。

・イヴ・サンタクロース
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。パッション。
家なし服なしなサンタ系19歳。
『本物』のサンタクロース。……この子の登場辺りから、デレマスの世界観が怪しくなってきた気がする……。



 唯ちゃん回なのに唯ちゃんがいない?

 ご安心を。次回から作者が趣味に走ります(断言)

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