アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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やや駆け足気味ながらも、四話に収まるかどうかが怪しくなってきた第三話。


Lesson214 Is the moon out yet? 3

 

 

 

 速水奏という尊い犠牲はあったものの、無事に良太郎さんから渡されたアイドル虎の巻(見えていた地雷)を処理した私たちプロジェクトクローネのメンバー。困難を乗り越えた私たちは、更なる結束力を身に着けて本番へと挑む……!

 

 ちなみに、後半はちゃんとした一言アドバイスになっていた。

 

(……どうして凛は……こうなっちまったんだ……!?)

 

(……もう、手遅れなんだね……)

 

 何故か奈緒と加蓮が悲壮に満ち溢れた表情をしていることはさておき、本番直前ということで今回の秋フェス出演者が舞台裏に揃っていた。

 

「「……えへへ」」

 

「ん?」

 

 当然私たちクローネだけでなくシンデレラプロジェクトのメンバーも集まっているのだが、何故か美波とみくは笑顔だった。普段の彼女たちからは考えられないぐらいの上機嫌で、それでいていつも以上に気合が入っている様子にはてと首を傾げる。

 

「……ねぇ、未央。美波とみく、何かあったの?」

 

 今回は出演者としてではなく裏方として参加する未央にそれを尋ねてみる。いつものステージ衣装ではなくスタッフの上着を羽織った未央は「あぁ、あれね!」と笑顔で頷いた。

 

「ほら、しぶりんが渡してきた良太郎さんからの手紙あったじゃん?」

 

「あぁ、あのアイドル虎の巻(不幸の手紙)ね」

 

「ん? なんか変なルビが……まぁいいや」

 

「あの二人が今回の被害者なの?」

 

 まさか余りにも酷い仕打ちを受けて精神に異常が……という私の危惧は、ニコニコと笑う未央によって否定された。

 

「それがさぁ聞いてよ! 私もちょっと身構えてたんだけど、開けてみたら入ってたのが私たちと良太郎さんが一緒に撮った写真が入っててさ、そこに全員分の個別メッセージが書いてあったの!」

 

「それは……」

 

 個別のメッセージは、一応私たちも同じだ。問題はそこではなく。

 

「……それだけ?」

 

「それだけ。今回は変なこととか何も書いてなかったよ」

 

「………………」

 

 チラリと美波とみくを見る。

 

「ふふっ、良太郎さんに期待されてるんだから、頑張らなくちゃね! みくちゃん!」

 

「勿論にゃ! 美波ちゃん!」

 

 いい笑顔でお互いに頑張ろうと気合を入れている美波とみく。彼女たちだけでなく、シンデレラプロジェクトのメンバー全員がやる気に満ち溢れていた。みりあや莉嘉といった元々良太郎さんに懐いていた面々は元より、なんとあの杏まで「しょうがないなぁ……」みたいな雰囲気を醸し出しているのだ。

 

「もしかして、そっちは違ったの?」

 

「……こ」

 

「こ?」

 

「この扱いの差はなんだあああぁぁぁ!?」

 

「うわぁ!? しぶりんがご乱心だ!?」

 

 あれか!? 妹分と後輩がいるこっちにはいつも通りにネタ振って、自分を慕ってくれている美波とみくの方は甘やかすってことか!? あぁん!?

 

「私だってたまにはネタとかオチとか一切抜きで甘やかされたいんだよコンチクショー!」

 

「ステイ! しぶりんステイ! 割とマズいこと口走ってるよ!? 後で思い出して苦しむ前に落ち着いて!?」

 

 

 

 

 

 

「……何処かで誰かに怒られてるような気がする」

 

「ん? 何か言ったかね?」

 

「あ、いえ」

 

 まぁ多分凛ちゃんか奏のどちらかだろう。シンデレラプロジェクトの方に渡すように頼んだ封筒にはネタが思い付かなくて何も仕込んでないから、そっちじゃないだろうし。それならば問題ないだろう。

 

「そういえば、周藤君の前評判を聞いていなかったね」

 

「俺の……ですか?」

 

「あぁ。勿論、私も今日出演するアイドルは全員素晴らしいと思うが、周藤良太郎目線からはどうかな、と思ってね」

 

 どうだい? と尋ねてくる今西さん。

 

「そうですね……前評判というほどのものはないですけど、とりあえずシンデレラプロジェクトのメンバーは特に心配していません。彼女たちならばきっと美城さんの予想をしっかりと超えてきますよ」

 

「………………」

 

 チラリと美城さんを見ると、彼女は目を瞑り足を組んだまま微動だにしなかった。

 

「……それじゃあ、『Project:Krone』は……どうだい?」

 

「……正直に言うと、俺が今回の定例ライブで一番気になるのが彼女たちですよ」

 

「………………」

 

 視界の端の美城さんの指先がピクリと動いた。

 

「おや、どうしてだい? 彼女たちには君も関わっているのだろう?」

 

 周藤良太郎が関わったから……という枕詞はそれほど好きではないが、確かに彼女たちは俺も面倒を見てしっかりと傍で見てきた。

 

 彼女たちは美城さんが自信を持っているだけのことはあり、そのレベルは高い。一度通しで見せてもらった全体曲も、シンデレラプロジェクトの『GOIN'!!!』にだって負けていないだろう。

 

 メディアへの露出もしっかりと行っており、今回のライブの目玉は彼女たちクローネのメンバーと言ってもいいだろう。

 

 そう、彼女たちは美城さんが見染めた()()()

 

 故に、一つだけ懸念事項が残ってしまった。

 

 

 

「流石346プロの定例ライブ。……ホント広いですよねぇ、ここ」

 

 

 

 

 

 

「先輩方に続いて、我々の出番となります」

 

 何やら凄く怒っていたしぶりんも気になったが、とりあえずシンデレラプロジェクトの出番が近付いてきたのでそちらに集まることにする。

 

 今回は前回の夏の定例ライブのときとは少しだけメンバーが違い、しぶりんとアーニャんが抜けた代わりにウサミンとなつきとうめちゃんの三人が加わったメンバーだ。

 

「沢山のお客さんが、皆さんの出番を心待ちにしています」

 

「……このステージで、冬の舞踏会が出来るかどうかが決まるんだよね」

 

 プロデューサーの言葉を聞き、ポツリと呟くみくにゃん。それを聞き、みんなの表情が少しだけ強張った。

 

「……そのことは、一旦忘れてください」

 

 しかし、そのプロデューサーの言葉に驚き、みんなは顔を上げた。

 

「会場のお客さんと一緒に……笑顔で、楽しんでください」

 

『……はいっ!』

 

 そうだ、まずアイドルである私たちが笑顔じゃないと……ファンのみんなも、笑顔になれないもんね。

 

「まぁ今回の私たちは裏方だけど……バッチリサポートしちゃうから、何でも言ってね! 雑用でも何でもしちゃうよ!」

 

「あ、それじゃあ杏の代わりに出てもらっていい?」

 

「「なんでやねん!」」

 

 ビシッと智絵里ちゃんとかな子ちゃんのツッコミが杏ちゃんに決まり、笑いに包まれるメンバーのみんな。うん、みんなリラックス出来てる!

 

「あはは、ちょっと私に杏ちゃんの代わりは出来ないかなー?」

 

「いやいや、私の衣装を未央ちゃんが着たらきっとパツパツになるだろうから、良太郎さん喜ぶと思うよ?」

 

「その発言の中に私が乗り気になる要素一切ないよ!?」

 

「……え、えっと、杏ちゃん。本当に無理だって言うんなら、私が……ほ、ほら、私ソロ曲しかないし」

 

「み、みくもやぶさかじゃ……」

 

「みなみんとみくにゃんが杏ちゃんの衣装着たら、それはある意味犯罪だからね!?」

 

 絶対にR指定が入ると確信できた。

 

 というか、こういうツッコミはしぶりんの役目でしょ!? カムバックしぶりん!

 

 

 

「……そ、それじゃあ、いつものアレやっとこうか!」

 

「う、うん!」

 

 場が落ち着いたところで、メンバー全員で手を繋ぎ円陣を組む。勿論私としまむーも一緒。

 

「……コホン」

 

 先ほどまでずっと笑顔だったみなみんが、小さく咳ばらいをしてから気を引き締める。

 

「シンデレラプロジェクト~! ……ファイトー!」

 

 

 

『オーッ!』

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ……いいじゃないか」

 

 トップバッターを務める愛梨ちゃんたちのステージが終わると、今度はシンデレラプロジェクトのみんなのステージが始まった。蘭子ちゃんwith小梅ちゃん、美波ちゃん、凸レーション、アスタリスクwithなつななと、みんな夏フェスのときと比べるとだいぶレベルアップしているように見えた。

 

「どのユニットも、個性が際立っているねぇ……それぞれの良さが、よく出ている」

 

 そんな彼女たちのステージに、今西さんも感心した様子だった。

 

「これが、シンデレラプロジェクトが掲げる『Power of Smile』かな?」

 

「……確かに、素材としては一定の強度があることを認めましょう」

 

 ですが、と美城さんはステージを見つめたまま首を振った。

 

「それなら猶更、美城の伝統に相応しくプロデュースするべきだと、私は考えます」

 

「……さてと」

 

 チラリと美城さんはこちらに視線を向けたが、俺はそれに気付かないフリをした。

 

 ステージの上では、シンデレラプロジェクトのメンバーが共通衣装に着替えて全体曲の『GOIN'!!!』を披露していた。

 

 ……彼女たちの、初ステージは近い。

 

「………………」

 

 

 

 

 

 

「……はぁ……はぁ……」

 

「お疲れー奏ちゃん」

 

「……ありがとう、周子」

 

 ステージを終えて舞台裏でパイプ椅子に座っていると、周子がスポーツドリンクを持って来てくれた。

 

 お礼を言ってそれを受け取ると、蓋を開けて中身を飲む。緊張と運動で汗として流れた水分が、補充されていくような感覚だった。

 

「どうだった?」

 

「……凄かった……なんて、とても一言で済ませられないわ」

 

 私は元々他のアイドル部門にいて、そちらでの初ステージは経験済みだ。完全に初めての鷺沢さんや橘さんと比べれば、それなりに経験者であると自負している……はずだった。

 

 しかし、今日立ったこのステージは今までのどのステージよりも大きく、そして大勢のファンが目の前を埋め尽くしていた。

 

 ファンの歓声が、振られるサイリウムの光が、彼らの熱気が、全て()()となって襲い掛かってくる……そんな感覚。

 

 ステージに立って初めて気付いたそれは、良太郎先輩の手紙によってそこに立つまで気づかされなかった。本番前に()()()()()に気を取られることで()()()()()()考えないように……というのは、きっと流石に買いかぶりすぎか。

 

 さて、そろそろ次の鷺沢さんのステージだ。彼女はこれが初ステージなので、同じユニットメンバーとして、仲間として、その晴れ舞台をちゃんと観て……。

 

 

 

 ――鷺沢さん!? 鷺沢さん!

 

 

 

「……え」

 

 聞こえてきたそれは、焦る橘さんの声。

 

「え? なになに? 何かあったの?」

 

 困惑する周子を他所に、スポーツドリンクのボトルを椅子に置いて私はその声がした方へと走る。

 

(まさか……!)

 

 嫌な想像が頭を過る。考えたくないそれを必死に振り払うように、鷺沢さんがスタンバイしているであろうステージ脇へと急ぐ。

 

 角を曲がり、そこに辿り着いた私が見たのは……その場に蹲る鷺沢さんと、涙目で立ち尽くす橘さん。

 

 そして――。

 

 

 

「……大丈夫、落ち着いて。ゆっくり深呼吸しようか」

 

 

 

 ――鷺沢さんの傍らに寄り添いながら、顔を覗き込んでいる良太郎先輩だった。

 

 

 

 まだどうなっているのか分からない。鷺沢さんの身に何があったのか、彼女がこの後のステージに立てるかどうかも全く分からない。

 

 けれど、何故か……少しだけホッとしてしまった自分がいた。

 

 

 




・見えていた地雷
・不幸の手紙
※トップアイドルの先輩からのアドバイスが書かれた手紙です。

・CPへのアイドル虎の巻
ネタが思い付かずに普通に書いたら大変喜ばれた図。
本人はそれが分かっていても地雷を踏みに行こうとする厄介な愉快犯なのでタチが悪い。

・しぶりんご乱心
アイ転だとある意味平常運転。

・懸念事項
まぁみんな気付いているだろうけど、詳細は次回。

・デレている(?)美波とみく
デレているわけじゃなくて、珍しく良太郎から真面目なアドバイスをされているので舞い上がっているだけ。彼女たちも後で思い出して恥ずかしくなるやつ。

・ある意味犯罪
どんな感じになるかは【プリティー魔女っ娘?】所恵美を参照。

・ライブの曲順
アニメだとクローネでも奏やアーニャは最初の方に歌ってましたが、少しだけ変更。

・「……大丈夫、落ち着いて。ゆっくり深呼吸しようか」
見てください! 主人公ムーブしてる良太郎です! 希少ですよ!



 良太郎君もボケたりネタに走ったりしなければ実は主人公ムーブ出来るんですよ(なお本人が意図的にしない模様)

 はたして次話に全部収まるのか……無理だろうなぁ。

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