アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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(作者の)癒しとなる恋仲○○シリーズです。


番外編44 もし○○と恋仲だったら 16

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「納得がいきません」

 

 楽しいデートが始まったばかりだというのに、俺の恋人は何故か憤っていた。

 

 チラリと横目で確認すると、助手席に座る志保は窓枠に頬杖をついてそっぽを向いていた。十六歳になり早くも美希ちゃんに迫るナイスぼでーとなった彼女は、胸がシートベルトによって大変素晴らしいことになっていた。運転中故、それに見とれているわけにはいかないが……運転していなくても、たぶん今はマズいだろう。

 

「納得がいきません」

 

「二回目」

 

 俺が反応しなかったため、志保は同じセリフを繰り返した。

 

「いや、そうは言われても」

 

 彼女が怒っている……というか不機嫌な理由は分かっている。

 

 

 

「どうして、りっくんは私よりも貴方との別れを惜しんだんですかっ……!?」

 

 

 

 それはつい先ほどのことだった。

 

 志保を迎えに彼女の家まで行ったのだが、そのとき見送りに出てきた弟の陸君(りっくん)と顔を合わせた。既に何度も顔を合わせ、なんだったら何度も遊んだ仲である彼にも挨拶をし、志保のお母さんにも「門限までには連れて帰ります」と約束して「さぁ行こうか」となった矢先だった。

 

 

 

 ――良太郎さん、もう行っちゃうんですか……?

 

 

 

 寂しそうなりっくんの表情に志保が思わず「今日は予定を変更して私の家にしましょう」と言い出したが、お母さんの後押しもあり何とか出発に漕ぎつけることが出来た。

 

「納得がいきません」

 

「三回目」

 

 先ほどからイライラと足を組み替えているが、ミニスカートから覗く黒タイツの太ももに視線を取られそうになるから止めてほしい。

 

「えっと、一応お兄さん、ちびっこに大人気なんだけど」

 

 これでも()()の覆面ライダーである。りっくんも昔から覆面ライダーを見てくれていたらしく、初めは『お姉ちゃんが連れてきたよく分からない男の人』という対応だったが、俺が『覆面ライダー天馬』だと知った途端に光の速さで懐いてくれた。最近では志保抜きでりっくんと二人で遊ぶことがあるぐらいだ。

 

「………………」

 

 しかし弟大好き(ブラコン)気味な志保にはそれが不服だったのようだ。ふてくされる志保も可愛いが、折角のデートなのだからもう少し笑顔を見せてもらいたかった。

 

「……将来の義弟と仲良くするぐらい、勘弁してくれって」

 

「………………え」

 

 赤信号で車を停めたのでしっかりと志保の方を向くと、彼女は呆けた表情でこちらを見ていた。その表情自体も珍しいが、それが徐々に赤く染まっていくのだから尚珍しい。

 

「どうかした?」

 

「あ、いや、その……」

 

 とぼけたふりして尋ねてみると、志保は聞き間違いだったかと顔を前に戻した。

 

「志保との子どもが生まれたときのための予行演習……って言っても、今のりっくんぐらいになるには最低でも七年かかるわけか」

 

「こどもっ!?」

 

 信号が青になって車を進めてしまったので今の志保がどんな表情をしているのかは見えないが、きっと顔を真っ赤にしていることだろう。

 

「せ、セクハラですよっ!? わ、私何歳だと思ってるんですかっ!? 最低でも七年ってなんですか!? すぐに産ませるつもりですか!? きょ、今日はなんの用意もしてきてないんですよ!?」

 

「志保ゴメン、謝るからちょっと落ち着こうか」

 

 思わずハンドルから手を放して今すぐ志保を抱きしめたくなってしまうので、それ以上可愛いことを言わないでほしい。いやそんな話題を振った俺にも原因はあるだろうが。

 

 そもそも俺は二十一で彼女は十六。母親から認められているからいいものの、下手をすれば青少年保護法でしょっ引かれそうだ。そんな彼女と今後の人生を歩いていく覚悟なんて……いやまぁ、最初から出来てるけど。

 

「……コホン。今のことはすぐに忘れるように」

 

「はーい」

 

 勿論忘れるわけがない。

 

「話を戻すんだけどさ」

 

「……忘れるようにって言ったばかりなんですけど」

 

「そっちじゃなくて、りっくんのこと」

 

 予行演習はともかく、義弟として仲良くなりたいのは本音だ。でもそれは()()の話。

 

「俺の勘違いかもしれないんだけどさ……りっくんは、父親の姿を俺に重ねてるんじゃないかな」

 

「………………」

 

 北沢家には父親がいない。

 

 それを自分から詮索したわけではない。志保がウチの事務所に所属することになった際に、彼女が未成年である以上確認しないといけないことの一つが保護者の存在。彼女自身隠すこともしなかったので、父親が数年前に事故で亡くなっていることはすぐに知ることになった。

 

 きっとりっくんの短い人生の中で一番親しい男性というのが俺なのだろう。父親というには流石に若すぎるが……幼い彼からしてみれば十分『大人の男性』の範囲だと思う。

 

「……そう、かもしれませんね」

 

 少しだけ寂しそうに呟く志保。

 

 ただ、それはりっくんに限った話ではない。

 

 

 

 ――志保は、貴方に父親の姿を重ねてるのかもしれません。

 

 

 

 それは、他ならぬ志保の母親から言われたことだった。

 

 父親が鬼籍に入り、働く母親の代わりに家事と弟の世話をするようになった志保。母親に心配をかけさせないため、そして弟を不安にさせないため、誰かに()()()ということをしなくなった彼女にとって、きっと俺は唯一甘えられる存在。そう言われた。

 

 父親代わりというには流石に俺じゃ役者不足だろうが……まぁ、前世を加算した精神年齢的に言えば、余裕で志保の両親よりも年上だろうしなぁ。

 

「私もお母さんも、りっくんには寂しい思いをさせないように頑張ったつもりです。でも、きっとあの子は見たこともない父親に憧れていたのかもしれません」

 

 「……だから」と志保は再びそっぽを向いた。

 

「……貴方が家族になってくれると……その、りっくんは凄く喜ぶと思います」

 

 チラリと見えた志保の耳は再び真っ赤に染まっていた。

 

「……それはどういう意味なのかなー? お兄さん分からないなー」

 

「なっ……!?」

 

 そんな恥ずかしがる志保が可愛くて、少しだけ意地悪がしたくなった。基本的に『あまり人に懐かない黒猫』である志保だが、こういうときは年相応の表情を見せてくれる。それが堪らなく可愛いのだ。

 

 ……こういう反応を見せてくれるようになったのは、彼女と恋人同士になってからだった。恋人になる以前だったら「はぁ? 何を寝ぼけたことを言ってるんですか?」と冷たい目で見られるのはまだマシで、最悪無視だ。

 

 それが今ではこの美少女っぷりである。今はまだお互いにアイドルとしての活動があるため公には出来ないが、このナイスばでーの美少女が俺の恋人なのだと声を大にして言いたい。もっとも、アイドル以前に年齢的な問題の方が公に出来ない一因だったりする。

 

(……あれ?)

 

 大体こういうとき、志保は先ほどのように「バカなことを言わないでください」みたいなリアクションをしてくれるのだが、何故か何も言ってこなかった。

 

「? ……っ」

 

 一体どうしたのかチラリと視線を向けると、予想外の光景に思わず息を飲んでしまった。

 

「……えっと……その……」

 

 顔を赤くしたまま俯いた志保が、モジモジと指を弄んでいた。時たまこちらを見てくるのだが、すぐに視線を外されてしまう。

 

 彼女と出会って三年ほどになるが、志保のそんな姿は初めて見た。あまりの可愛さに思わず眩暈がする。運転中になんて危険な真似を……!

 

「言わないと……分かってもらえませんか……?」

 

「あ、いやー……言ってくれると嬉しいんだけど……その、やっぱり俺から言った方がいいのかなーって思ったり思わなかったり……」

 

 そしてそんな予想外の反応に動揺し、逆に俺がしどろもどろになっていた。

 

「……ぷっ」

 

「え? ……あー」

 

 突然、志保がクスクスと笑い出した。

 

 そこでようやく俺は、志保から揶揄われた(仕返しされた)ことに気が付いた。

 

「……はぁ、参りました」

 

「ふふ、周藤良太郎を騙すことが出来るなんて、私も成長したってことですね」

 

 まぁ今回は惚れた女の子の可愛さに動揺したっていうのもあるが、それを抜きに考えても相当な演技だった。これならば今度のアカデミーの新人女優賞も狙っていけそうだ。

 

 俺から一本取れたことでご機嫌な志保。

 

 元々揶揄った理由は彼女の可愛いところが見たかったからなので、その目的さえ果たされればやり返されること自体に文句はなかった。それぐらいならば甘んじて受け入れよう。

 

「……でも、成長したのは演技だけじゃないんですよ?」

 

「……胸とか?」

 

「今真面目なところなのでもうちょっと真剣にお願いします」

 

「アッハイ」

 

 コホンと咳払いを一つした志保は、二度三度息を吸って呼吸を整えた。

 

 丁度車が赤信号で止まったので志保の方を向くと、彼女は真っ直ぐに俺を見つめて――。

 

 

 

「……好きです、良太郎さん」

 

 

 

 ――とても優しい笑顔で、そう言った。

 

 

 

 

 

 

「……不愛想で生意気だった私が、こうしてアナタへの想いを素直に口にする。……これも、きっと成長ですよね」

 

 

 

 ――だから私は、アナタを許さない……。

 

 

 

 それは二年前に、私が良太郎さんに向けて言ってしまった言葉だ。

 

 まだ雪月花のことで良太郎さんを逆恨みしていたあの頃の自分に、今の私のことを伝えてもきっと信じないだろう。

 

 その一件を和解したことで周藤良太郎への『嫌悪』は、元々抱いていた純粋な『アイドルとしての憧れ』へと戻った。それが同じ事務所に所属する先輩に対する『尊敬』に変わり……今では『恋』だ。それがわずか二年の出来事なのだから、自分の()()()()には思わず呆れてしまいそうになる。

 

 でも……分かってる。私はこの人に()()()()んだって。

 

 お母さんのために。りっくんのために。そして何より自分のために。懸命にアイドルの道をひた走って来た私を、良太郎さんは甘やかしてくれた。

 

 アイドルのこと以外に関する言動は適当で、女性の胸ばかりに視線が泳いで、真面目な場面でも空気を読まない、そんなどうしようもない人ではあるのだけど。……良太郎さんは、まるで()()()()のように私に甘えさせてくれるのだ。

 

 ……勿論、これは良太郎さんにお父さんを重ねているだけで、彼のことをお父さんのように思ったことはない。

 

 だって、これは『家族』に対する想いじゃない。

 

「私はまだ、小娘です。アナタの隣に立てるかどうかも分かりませんが……」

 

 

 

 ――これからも、ずっと一緒にいさせてください。

 

 

 

 『家族になりたい』という想いだ。

 

 

 

「……勿論だよ。ところで、デート始まったばっかりでそんなに飛ばして大丈夫?」

 

「大丈夫です」

 

 

 

 もっともっと、今日は甘えさせてもらいますから。

 

 

 




・周藤良太郎(21)
基本的に変わらないが、初の弟ポジションの陸を志保と同じぐらい可愛がっている。

・北沢志保(16)
かつてはツンデレ然としていたが、良太郎に父性を見出したことで甘え猫になってしまった。とはいえ基本的な態度は変わらない。要するに二人きりでイチャついてる。

・北沢陸
初登場時はまだ情報が少なかったが、漫画『Blooming Clover』にて初のメディア化したため、ようやくキャラ付けが終わり登場となった。
そろそろ本編でも出してあげないと……。

・志保のお父さん
漫画では離婚だったようですが、アイ転ではこういう設定です。

・「今真面目なところなのでもうちょっと真剣にお願いします」
だって二ヶ月近くシリアスだったし……。



 なんかすっごい久しぶりに恋仲○○書いたような気がする……。

 というわけで123三人娘最後の一人、志保の恋仲○○でした。志保に甘えられてぇなぁ(願望)

 そして申し訳ありませんが、諸事情により次回も番外編とさせていただきます。

※ヒント
アイ転更新日:13日
楓一緒更新日:14日
6thメット:10日、11日

 次は……()()()の最後の一人かな?

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