アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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クライマックス感が溢れる三話目。


Lesson227 Happily ever after 3

 

 

 

「さて、そろそろ開演の時間が近づいてきたわけなんだが……」

 

「良太郎さん、まだでしょうか……」

 

 チラリと時計を覗き込むと、既に開演三十分前。そろそろ余裕を持って中に入るとは言いづらい時間になってきたが、まだ良太郎が帰ってきていなかった。

 

「先に中に入っちゃう?」

 

「いや、中に入ってからだと合流が難しいでしょうし……」

 

「おーっす。お待たせー」

 

 佐久間は元より、所や北沢もやや心配し始めたところで良太郎の奴が戻って来た。

 

「お帰りなさぁい、良太郎さぁん!」

 

「結構時間かかりましたね」

 

「用事はもう終わったんですか?」

 

「あぁ。ちゃんと()()()()()()()()()から、大丈夫」

 

「………………」

 

 終わらせてきた、ねぇ。

 

(……気にすることでもねぇか)

 

 なんとなくではあるが、これは悪い意味じゃないだろう。もしそうだったとしたら、素直に話すことなくもっと悪ふざけしながら誤魔化したはずだ。自分からは散々迷惑をかける癖に、自分側の迷惑は決して他人と関わらせようとしない。こいつはそういう面倒くさい奴だ。

 

 だからこうして素直に話したということは、それは本当にもう終わったことなのだろう。

 

「それじゃあ入ろうか。ほら志保ちゃん、はぐれるといけないから手を……もうまゆちゃんと繋いでるから繋げなくなったね、ゴメン」

 

「うふふっ。さぁ行きましょう、良太郎さぁん」

 

「……いやなんというか、まゆさんの行動が早すぎて突っ込みどころを何ヶ所か逃がしてしまったような感覚に……」

 

「リョータローさんが絡むとまゆの行動がハヤイナー」

 

 本当に異次元じみた動きで驚くタイミングすら逃してしまった。せめて行間ぐらい挟め。

 

「さて……全員、眼鏡はしっかりかけたか!」

 

「はいっ!」

 

「……効果を知っていても、シュールな光景ですよね」

 

 良太郎の問いかけに元気よく返事をする佐久間。そんな二人を見ながらポツリと北沢が呟いた。

 

 そりゃ、五人揃って似たような眼鏡かけて並んでればな。良太郎がわざとらしく眼鏡をクイッとやって、それを佐久間と所が真似している。まぁ、目立つ。

 

「ほれ、さっさと入るぞ」

 

「「「おー!」」」

 

「お静かに」

 

 

 

 

 

 

「いつか痛い目にあわせてやる……」

 

「り、凛ちゃんがなんか怖いです……!」

 

 しぶりんが堕ちてしまったがいつものことなのでスルーしよう。しまむーが怯えているが、実害は良太郎さん以外にはないはずだ。

 

 さて、良太郎さんからもたらされた二人ほどの黒歴史写真によって(二人以外の)緊張がほぐれたところで、いよいよ本番が近づいてきていた。壁に設置されたモニターには、照明が暗くなりテンションのボルテージが上がり始めている会場が映し出されていた。

 

 そして開演前の諸注意が終わり……『シンデレラの舞踏会』の幕が上がる。

 

 

 

 ――お願い、シンデレラ。

 

 

 

 スポットライトに照らされてメインステージ立つのは、楓さんや幸子ちゃんたち346のアイドル部門を代表する顔である『シンデレラガールズ』と呼ばれるアイドルたち。ユニットではなく選抜されたメンバーで構成された彼女たちは、346プロのアイドルを語る上で欠かすことが出来ない存在だ。

 

 そんな彼女たちが『シンデレラの舞踏会』の開幕を告げる様子を見つつ……私たちシンデレラプロジェクトのメンバーはプロデューサーの元に集合していた。

 

「皆さん。シンデレラプロジェクトのステージは十八時からとなります。それまでは、各々のスケジュールで動いてください」

 

『はいっ!』

 

 プロデューサーの言う通り、しばらくはそれぞれがそれぞれのステージの手伝いやパフォーマンスをする予定になっている。何せステージは大小合わせて何個もあるんだから、それぞれ全部でファンにみんなを楽しませるのが……この『シンデレラの舞踏会』なんだから!

 

「……何か、他に一言言ってあげたらどうだい?」

 

「は、はぁ……」

 

 私たちの様子を見に来てくれた今西部長さんからの言葉に、プロデューサーは首に手をやりながら私たちの方をチラリと見た。そして私たちの視線に気づいた彼は「皆さん、今日の舞踏会は……」とまで言ってから、首を横に振った。

 

「……私は」

 

 そしてプロデューサーは、言葉を紡ぎ始めた。

 

「アイドルにとって、笑顔が大切なものだと考えていました。……今でも、考えています」

 

 決して饒舌ではない。少しずつ、ゆっくりと言葉を選ぶように……それでいてその口調はハッキリとしていた。

 

「しかし、これは必要なものだという意味ではなく、()()()()()ための鍵となるものです」

 

 その代名詞が一体誰を指す言葉なのか、プロデューサーは明言しなかった。

 

 きっとそれが誰なのか、今までの私だったら分からなかったと思う。でも今なら分かる。

 

 私たちはまだまだ駆け出しで、追い付けないアイドルなんて数えるのが億劫になるぐらいいる。

 

 

 

 でも、アイドルにとって……いつだって目の前に立っているのは、()だから。

 

 

 

「……それを言葉にしなかったせいで、皆さんには大変なご迷惑をかけてしまったことを、深く反省しています。本当に申し訳ありませんでした」

 

 皆さんに、と言いつつも、プロデューサーはしまむーに向かって真っ直ぐと頭を下げた。

 

「そんな、プロデューサーさん、私は……!」

 

「卯月」

 

 きっとしまむーは「私は気にしていない」みたいなことを言おうとしたのだろう。しかしそれをしぶりんが肩を掴んで止めた。

 

 確かに済んだことだし、終わったことだ。しまむーが気にしていないのも本当だろう。しかしそれは紛れもない事実なのだから……傷付いた人がいて、傷つけられた人がいたことをなかったことにしちゃいけないんだ。

 

「……ですが、それを伝えてしまうと……それぞれの輝きを目指す皆さんに対する余計な重しになってしまうと、考えてしまったのです。だから、言うことが出来ませんでした」

 

 「全ては私の浅はかな判断による配慮不足です」と謝るプロデューサー。

 

 しかし、私もようやく分かった。

 

 プロデューサーは……彼は――。

 

 

 

 ――私たちを本気で『周藤良太郎を越えるアイドル』にしてくれようとしていたんだ。

 

 

 

 私たちはそんなこと知らなかった。それは勿論プロデューサーが何も言ってくれなかったことも原因だけど、それでも私たちはどこかでそれを諦めていた。……違う、諦める以前の話で、そんなこと考えたこともなかった。登山を始めたばかりの人が、エベレストを登ることなんて考えないように……それは余りにも果てしなさ過ぎた。

 

 だから以前の私たちならば……それを聞かされたとしても、その思いに応えることは出来なかっただろう。

 

 でも、今はきっと違う。

 

 プロデューサーは、私たちを見付けてくれた。私たちを選んでくれた。私たちを信じてくれた。

 

 なら……今度は私たちが、プロデューサーの思いに応える番だ。

 

「……任せて、プロデューサー」

 

「渋谷さん……」

 

 しぶりんの声にプロデューサーが顔を上げる。

 

「まだ実感が湧かないし……本当に越えれるかどうか分かんない。寧ろ辿り着けるかどうかすら分からないぐらい、遠いところだけど」

 

「私たちは、諦めません!」

 

「立ち止まることもあるかもしれません」

 

「な、泣いちゃうこともあるかもしれません」

 

「……たまには休みたいけどー」

 

「でも、みくたちは!」

 

「一人じゃないから!」

 

「ダー。仲間が、います」

 

「そしてプロデューサーさんもいます」

 

「ぜぇ~ったいにぃ!」

 

「「大丈夫だよー!」」

 

 しまむーが、かな子ちんが、ちえりんが、杏ちゃんが、みくにゃんが、りーなちゃんが、アーニャ、みなみんが、きらりんが、そして莉嘉ちゃんとみりあちゃんが。

 

 思っていることは、みんな一緒だった。

 

「皆さん……」

 

「私たちはアンタを信じてる。だから、アンタもこれまでみたいに信じてよ――」

 

 

 

 ――アンタは、私たちのプロデューサーなんでしょ?

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

 

「ん?」

 

 唐突に冬馬から声をかけられた。

 

「なんだ?」

 

「……お前は」

 

「あ、ちょい待ち。……光ちゃーん! カッコいいぞー! 最高にヒーローだぜー!」

 

『ありがとー!』

 

 ステージの上、以前俺の握手会に来てくれていたヒーロー好きの女の子がいつの間にか346のアイドルになっていたので、思わず声援を送る。きっと向こうは俺に気付いていないだろうが、声援に気付いてこちらに向かってブンブンと手を振ってくれた。

 

「で? 何?」

 

「……あぁ。お前は」

 

「あ、もうちょい待って。……たくみんエローい! ついでにチョロそー!」

 

『ゴラアアアァァァ!? どこのどいつだ今チョロそうとか言った奴はあああぁぁぁ!?』

 

『えー。実際たくみん、チョロくない?』

 

 『セクシーギルティ』ではなく『ノーティギャルズ』というユニットとして藤本(ふじもと)里奈(りな)ちゃんとステージに立っていた拓海ちゃんに、素直な感想と共に声援を送る。しかし何故かお気に召さなかったらしく思いっきり怒鳴られた。

 

「折角褒めたのに」

 

「あれを褒め言葉と言い張るお前の根性だけは素直に羨ましい」

 

 いい加減人の話を聞けと小突かれたので、仕方がないから話を聞いてやる。

 

 ちなみに三人娘はサブステージを見に行ったのでここにはいない。なんでもかな子ちゃんを始めとした、本当の意味でのスイーツ系アイドルたちによるお菓子が配られているらしい。俺もそっちに行けばよかったなぁ……。

 

「それで?」

 

「お前、今回の美城常務の一件の原因を知ってるんだろ?」

 

「……なんだ、そんなことか」

 

 一体どんな重要なことかと思えば、全然大したことない話題だった。向こうのステージで雫ちゃんのボタンが弾け飛んだとか、それぐらいのことじゃないと俺は……。

 

「誤魔化すな。話せ」

 

「……だからこんなところで話すことじゃないっていう意味なんだけどなぁ……」

 

 はぁっと溜息を一つ吐いてから、冬馬と共に会場の隅へと移動する。もっと間近でアイドルたちのステージを見ていたかったが、ステージに集中している他のファンの邪魔をするわけにはいかない。

 

「それにしても、どうしてお前がそれをそんなに気にしてんだよ」

 

「……結局、島村のあれは、美城常務の改革も原因だったわけだろ」

 

 ホント、いつの間にコイツは卯月ちゃんに対してこんなに肩入れするようになったんだか……美由希ちゃんと春香ちゃんと星梨花ちゃんにチクってやろうか。

 

 ……しょうがないから、過去回想をしてやろう。

 

 

 

「……事の発端は、俺の春休み……三月だ」

 

 

 




・黒歴史写真
凛:幼き日の良太郎とのお嫁さんごっこ
奏:暗黒スマイルの忍に詰め寄られて涙目

・『周藤良太郎を越えるアイドル』
武内Pが本当にやりたかったこと。
アイドルの個性を大事にし、みんなのやりたいことをちゃんとやらせようとしてくれた彼が、たった一つ自分のためだけにやりたかったこと。
()()が『周藤良太郎を越えるアイドル』を見たかった。

・私たちを見付けてくれた。
・私たちを選んでくれた。
・私たちを信じてくれた。
名古屋二日目は激泣きしました。

・――アンタは、私たちのプロデューサーなんでしょ?
「ふーん、アンタが私のプロデューサー?」

・光ちゃん
アイドルデビュー済み。リアルでも声付いたし、今後の躍進に期待。

・藤本里奈
『アイドルマスターシンデレラガールズ』の登場キャラ。キュート。
ガテン系剃りこみギャルな18歳。
ある意味で美嘉や唯以上のリアルなギャル。でもめっちゃいい子。
デレステで『コンビニ前のゴミを拾う』という噂が流れた際に、実際に彼女のPたちがコンビニでゴミ拾いを始めた話が有名。

・『ノーティギャルズ』
漫画WWGでのユニット。実はこっちの漫画は未履修だったり……。



 武内Pのオリジン的なお話でしたとさ。



 次回、デレマス編最終話。



『どうでもいい小話』

 名古屋二日間お疲れさまでした! 二日目のななみんめっちゃ可愛かった……(アリーナ)

 そして唐突に告知される『新アイドル』七人! ……頑張って登場の機会は作ってあげたい。

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