アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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前回、プロローグがもうちょっと続くと言ったな?

……あれは嘘だ(ウワアアアァァァ…


Episode05 『しんでれら』へようこそ

 

 

 

 果たしてどれだけの人物が覚えているのか分からないが、俺こと周藤良太郎は既に成人済みである。

 

 ゆえに飲酒が可能で、お酒の席に呼ばれることも増えた。しかし別段『お酒が好き』というわけではなく、前世からずっと『お酒を飲むことが好き』なので、ベロベロに酔っぱらうまで飲むことはない。しかもどうやら体質的にお酒に強いらしく、まだ一度も完全に酔ったことはなかった。

 

 ……という話を以前冬馬にしたら、返って来た言葉は「そりゃお前は常に酔っぱらってるようなもんだからな」という大変失礼なもので、思わずコブラツイストを極めてしまった。

 

 さて、冒頭からこんな話題を出すぐらいなのだから、お察しの通り、今回はお酒にまつわるお話……なのだが、これはどちらかというと()()()()()()()()なのではないだろうか……と思ってしまうのは、きっと仕方がないことだろう。

 

 はぁ……と嘆息しつつ、左隣を見る。

 

 

 

「……りょうたろうさん、なにしてるんですか? グラスがあいてますよ」

 

「あーはいはい、ごめんごめん」

 

 キッと目尻を上げてキツい視線を向けつつ、しかし赤らんだ頬と座った目から酔っていることがハッキリと見て取れる()()()()()。普段の彼女からは想像できない足を投げ出した座り方をしており、暑いからと言って美波ちゃん自らの手で太ももまでロングスカートがたくし上げられていた。

 

 そしてそんな自分の状況を意に介さず俺に対して日本酒を注ぐように要求してくる姿は、本当に普段の美波ちゃんからは考えられないような酔いどれ姿である。

 

 美波ちゃんのグラスに日本酒を注いでいると、右隣からクイクイと服の裾を引っ張られた。

 

 

 

「なによー……みなみちゃんにはついで、わたしにはつげないってのー!?」

 

「あーはいはい、そっちにもつぐから」

 

 こちらも同じくキツい視線と赤らんだ頬と座った目の()()()()()。彼女もパンツ姿とはいえ普段ならば絶対にしないであろう胡坐をかいており、上着を一枚脱いでブラウスのボタンを上から二つ外している状況。涼しげではあるが、見ていると体温が上がりそうなものがチラチラと視界に入ってくる。

 

 彼女もまた自分のグラスに日本酒を注ぐように要求してくる、完膚なきまでに酔いどれ姿である。

 

 そんな二人にお酌をしつつ、思わずため息が零れる。

 

 いや、美女二人に挟まれてお酒が飲めるんだから、文句を言ったらバチが当たることぐらい俺にだって分かる。両隣りで普段は真面目な女性がお酒に酔って少々乱れているのだから、傍から見れば大変役得な状況なのは一目瞭然である。

 

 ……ただなぁ……もうちょっとこう、色気というか……いや、着崩れてるから色気はあるんだけど……そうじゃなくて……。

 

「りょうたろうさん!」

 

「りょうたろう!」

 

「はいはい」

 

 

 

 さて。

 

(……どうしてこうなった)

 

 そろそろここまでの経緯を説明するための過去回想に入ることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 世間に感謝祭ライブ開催の告知をしてから早くも一ヶ月が経った。当初の混乱は落ち着いたものの、未だに様々な人から「開催日時はいつなのか」「チケットの公募はいつなのか」というのを尋ねられている。

 

 勿論ある程度は考えているものの、流石に社外秘。「もうちょっと待っててくださいねー」とはぐらかすのもそろそろ面倒くさくなってきた今日この頃である。

 

 さて、以前の話し合いの中で話題に上がった新曲だが、既に完成しており俺たちの手元に届いていた。兄貴が言っていたように九人全員による全体曲であり、俺にとっては大人数で歌う初めての曲なのだが……そこに一つだけ問題があった。

 

 それは()()()()()()()()()()()()()()()()()ということだ。

 

 ありがたいことに、俺を含め123プロダクションに所属するのは全員引く手数多(あまた)の大人気アイドルばかりだ。スケジュールは基本的に埋まっており、全員が揃う時間なんていうのは滅多にない。会議やミーティングをするぐらいならばまだしも、全員で曲の振り付けを合わせる時間は取れそうにない。

 

 曲と振り付けを完璧に仕上げることだけならば俺一人でも出来るし、他のみんなにも出来るだろう。しかしパート分けやフォーメーションなどはそうもいかない。

 

 ……昔、春香ちゃんたち765プロのみんながなっていた状況に、今更俺たちがなるとはなぁ……それだけ、俺たち123に事務所単位での活動がなかったということだ。

 

 いずれにせよ、ちゃんと全員揃って練習する時間はしっかりと確保しなければならない。

 

 

 

「だから合宿しようって俺は言ったのに」

 

「その時間すら捻出できないからこういうことになってるんだろーが」

 

 123プロのレッスン室。俺と冬馬はタオルで汗を拭いながらスポーツドリンクで喉を潤す。

 

 全員での練習は難しいので、こうして時間があるやつらだけが集まって練習をしている。まぁ今日は俺と冬馬での合わせる練習というか――。

 

 

 

「美優さん、大丈夫ですかー?」

 

「は、はい……なんとか……」

 

 

 

 ――どちらかというと、美優さんの練習である。

 

 美優さんは123プロのアイドルの中では最年長であるものの、アイドル歴的には志希よりも新人である。123プロにはいなかった大人の女性の魅力と予想以上の歌唱力であっという間に人気アイドルに名を連ねるにまで成長した彼女であるが、如何せん経験が足りていない。

 

 運動神経が悪いわけでもないのだが、残念ながら基礎トレーニングによる体力作りを重点に置いているウチのアイドルにしてはまだまだ体力不足だ。現に今も俺と冬馬がまだまだ体力的余裕を感じている一方で、美優さんは床にへたり込んでしまっている。

 

「まぁ、倒れ伏してないだけマシという見方もあるけど」

 

「……お前がレッスンを見ると、基本的に死屍累々とした状況になるからな」

 

「またまたそんな」

 

 だが思い返してみると、俺が他のアイドルとレッスンをするシーンでは大体そんな感じだった。具体的にはLesson27とかLesson96とかLesson203辺り。

 

(……しかし)

 

「はぁ……はぁ……んっ、はぁ……」

 

 床に女の子座りをして水を飲んでいる息の荒い美優さんがエロい。年齢的にはそれほど変わらないはずなのに、留美さんや早苗ねぇちゃんには何故かない大人の色気である。ムッツリな冬馬がチラチラと見るぐらいなのだから、間違っていないはずだ。

 

「っと、もうこんな時間か……」

 

 壁掛けの時計に視線を向けると、既に時刻は午後七時を回っていた。夕方の仕事を終えてからのレッスンだったため、それなりの時間になってしまった。

 

「美優さん、そろそろ上がりましょうか」

 

「は、はい……」

 

 美優さんに手を貸して立ち上がらせると、ガチャリとレッスン室のドアが開いた。

 

「お疲れー。……三人とも、上がりか?」

 

 そこから顔を覗かせたのは兄貴だった。

 

「あぁ」

 

「おっ、丁度良かった」

 

「何かあったんすか?」

 

 冬馬が尋ねると、兄貴はニヤリと笑った。

 

 

 

「今から飲みに行くぞ!」

 

 

 

「「「……はい?」」」

 

 

 

 

 

 

「たまにはこういうのもいいなって思ったんだよ」

 

「なるほどね」

 

 今日事務所にいたのは俺と冬馬と美優さん、そして兄貴と留美さんの123プロの成人メンバーが北斗さんを除いて揃っていた。なので要するに『仕事終わりに飲みに行こうぜ!』ということだ

 

「一応北斗君にも連絡したんだけど、向こうは向こうで現場のみんなと食事会があるらしくてな。『俺のことは気にせず、楽しんできてください』って」

 

 というわけで事務所を後にした俺たちは、タクシー二台に分乗して居酒屋へと向かっているのだった。車は事務所に置いてくることになったが……まぁ、明日はタクシーで移動すればいいか。

 

「で? どこに向かってるんだよ」

 

「最近たまたま見つけた居酒屋でな。個室もある落ち着いた雰囲気の隠れ家的な店なんだ」

 

「へぇ」

 

 それは芸能人(アイドル)の身としてはありがたい店である。帽子と眼鏡の認識阻害があるとはいえ、食事のときぐらいもう少し気楽な格好になりたいものだ。

 

 やがてタクシーは赤ちょうちんが表に出た一軒の居酒屋の前に停まった。

 

 

 

「へぇ……『しんでれら』ねぇ」

 

 

 

 赤ちょうちんと暖簾に書かれていたのは、おそらく店名だと思われる『しんでれら』と文字。その言葉で連想したのは童話ではなく、凛ちゃんたちシンデレラプロジェクトの方だった。

 

「なんというか、不思議な感じっすね」

 

「だろう? 居酒屋なのに『しんでれら』。なんというか、絶妙なミスマッチ感が気になって思わず入っちゃったんだよ」

 

 冬馬の感想に、タクシーの支払いを終えた兄貴が応える。

 

 俺たちが乗っていたタクシーから少しだけ遅れて美優さんと留美さんが乗ったタクシーも到着し、そちらも兄貴が支払う。なんでも今日は飲み代から帰りのタクシー代まで全て事務所の経費で出してくれるらしい。

 

「私、こういう居酒屋っていうところ、あまり入ったことなくて……」

 

「私もあまり多くはないですね」

 

 赤ちょうちんを見ながら美優さんは少しだけ腰が引けているような様子で、一方の留美さんはそう言いつつもいつもの凛とした余裕のある様子である。

 

「でも店内は意外と落ち着いた雰囲気だよ」

 

 という兄貴を先頭に暖簾をくぐる。

 

 数人の店員の「いらっしゃいませー」という声が聞こえてきた。チェーン店の居酒屋ならば威勢のいい兄ちゃんたちの大声だが、なんというかそれに比べれば品のある掛け声だった。

 

「何名様でしょうか?」

 

「五人です。個室空いてます?」

 

「はい、どうぞこちらへ」

 

「……ん?」

 

 店員さんの案内で店の奥へ案内される途中、カウンターに何やら見知った三人の後ろ姿を見付けてしまった。

 

 きっと彼女たちもプライベートでこの店に来ていることだろう。しかし個人的には意外すぎるその組み合わせに、思わず声をかけてしまった。

 

 

 

「……楓さんと瑞樹さんと……美波ちゃん?」

 

「「「え?」」」

 

 

 

 カウンター席で振り返った三人は、やはり見間違いではなく346プロの楓さんと瑞樹さんと美波ちゃんだった。

 

「りょ、良太郎さん?」

 

「あら、久しぶりね、良太郎君」

 

「お久しぶりです、良太郎君」

 

「はい、お久しぶりです、瑞樹さん、楓さん」

 

 テレビ局で何回かすれ違うことはあれど、瑞樹さんと一緒に仕事をしたのは結局マッスルキャッスルの一件だけなので本当に久しぶりである。そして楓さんは……確か歌番組で一緒になったっけ?

 

「美波ちゃんも久しぶりだね」

 

「は、はい! お久しぶりです!」

 

「あーあー、いいからいいから」

 

 そしてシンデレラプロジェクトで何度も顔を合わせた美波ちゃん。真面目な彼女はガタッと立ち上がってまでしっかりと頭を下げようとしたので、手で制してそれを留める。

 

「お互いにプライベートなんだから、そういうの無しでいこう」

 

「は、はい」

 

 さて、後ろの兄貴たちは多分美波ちゃんたちとは初対面になるだろうから、ちゃんと紹介した方がいいよな。

 

 というわけで楓さんと瑞樹さんと美波ちゃんの紹介および、彼女たち三人に兄貴たちの紹介をしようとしたそのとき、再び店の入り口が開いた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

「すみませーん、四人なんですけど……え?」

 

「えっ」

 

 

 

 店に入って来たのは、赤羽根さん・小鳥さん・りっちゃん・高木社長の765プロの裏方メンバーだった。

 

 

 

 ……落ち着いた雰囲気の店内だっていうのに、なんだかカオスなことになってきたぞ……。

 

 

 




・酔いどれミナミィ&りっちゃん
明記しませんが、既に二人とも成人済みの時系列です。

・全員で練習する時間がまるで作れない
その作れなさは、765プロ以上である。全員トップアイドルすぎる……。

・俺が他のアイドルとレッスンをするシーン
ただしレッスンシーンが存在するものに限る。
※漏れがあったら教えてください(他力本願)

・居酒屋『しんでれら』
漫画『After20』の主な舞台となっている居酒屋。
声無し大人組もバンバン登場してくれる素晴らしい漫画です(ダイマ)



 「……これやっぱりプロローグ続ける必要ないな!」と唐突に思い立ったので、予定を変更して次のお話になりました。まさか酒飲み回で、まさかの人物の組み合わせです。果たしてどんな絡みが繰り広げられるやら……。

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