アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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合言葉は『良太郎ざまぁ』


Episode07 『しんでれら』へようこそ 3

 

 

 

「お代わり」

 

「アッ、ハイ」

 

 完全に目が据わった美波ちゃんのグラスに日本酒を注ぐ。ほんのりと赤く染まった肌がとても色っぽく見えるのだが、今はそれを目の保養と言って楽しむ余裕を持ち合わせていなかった。

 

 

 

 さて、いきなり場面が飛んだので『あれ? もしかして一話抜けた?』と前ページに戻ろうとしている諸兄が画面の前にいるだろうが、これは間違いなくEpisode07だから安心してほしい。

 

 うん、ご覧の通り、あっという間に美波ちゃんが()()()()()()しまったのだ。

 

(もしかして練習って……)

 

 どうやら美波ちゃんの言っていた練習というのは、お酒の付き合い方という意味ではなく『酔わないペースでお酒を飲む』練習だったようだ。

 

 これじゃあ練習の成果が出てないじゃないか! と言いたくなったが、どう考えてもお酌をしてくれる美波ちゃんに俺が返杯をしてしまったのが原因である。こういう事態を防ぐために、瑞樹さんたちと練習をしていたんじゃないのか……。

 

(まぁ、紛いなりにも()()()()()()()から勧められたお酒なんだからもうちょっとぐらい……って思っちゃったんでしょうね)

 

 先ほどの遠い目ではなく、なにやら「若いっていいわねー」と言わんばかりの生暖かい目でこちらを見てくる瑞樹さん。そんな目で見る前に、美波ちゃんのお酒の練習を見てあげている人間としてセーブして欲しかった……というのは、流石に責任転換だろうか。

 

 ともあれ、流石にこれ以上美波ちゃんに飲ませるわけにはいかない。彼女の意識がおつまみに気を取られている内に、素早く彼女のグラスをお冷のそれと入れ替える。

 

「うふふっ、りょうたろうさん、あーんしてあげましょーか?」

 

「遠慮しとくよー」

 

 ニマニマと普段の美波ちゃんからは考えられないような笑みを浮かべながら、こちらに向かって玉子焼きを掴んだ箸を向けてきた。これで彼女が素面の状態ならば喜んで口にしていたのだが、今は少々躊躇われる。

 

 とはいえ、彼女のグラスはお冷やに取り替えてあるので、これ以上悪化することはないだろう。

 

 やれやれと自分のグラスに口を付ける。

 

「……あれ」

 

 おかしい。この日本酒、まるで水のように味がない。

 

「うふふふっ……りょうたろうさんも、意外と隙があるんですね」

 

 そう笑いつつ、コクコクと美味しそうにグラスの中身を傾ける美波ちゃん。

 

 ……え、まさか今の一瞬で俺のグラスと入れ換えられた!? そうだよこの子、基本的なスペックは高いんだった! こんなところで発揮しなくてもいいでしょ!

 

「あ、ちゃんと口を付けたところは拭いてあるので安心してくださいね」

 

「うわぁい美波ちゃんがアイドルとして徹底しててお兄さん嬉しいなぁ!」

 

 今欲しいのはそっちの配慮じゃないんだよ!

 

 というか、これは本格的にマズい。美波ちゃんが完全に酔っ払っているのこともそうなのだが、これはこのまま俺がツッコミ役に回らないといけない展開だ。

 

 ……でも、そうだよな。いつもは俺がみんなに迷惑をかけちゃってるし、今回ぐらいはこういう役割に甘んじて――。

 

 

 

 ――なんて言うとでも思ったか!

 

 

 

 この周藤良太郎、その程度で自分のアイデンティティを投げ出すような男ではない! 志希どころか志保ちゃんにまで猫キャラという領分を荒らされて、最近は本気で危機感を覚えているみくちゃんとは違うのだよ、みくちゃんとは!

 

 

 

 

 

 

「にゃっきしっ! ……誰かがみくのことを噂してる……?」

 

「え、今の何? もしかして、クシャミ?」

 

「なんにゃ、なんか文句あるの?」

 

「いや、いくら猫キャラだからって『にゃっきし』はないでしょ『にゃっきし』は」

 

「別にそれぐらいいいでしょ!? キャラがブレブレの李衣菜ちゃんに言われたくないにゃ!」

 

「誰のキャラがブレて……くちっ」

 

「………………」

 

「あれ、私も噂されてるのかな?」

 

「……なんにゃそのロックの欠片もないような可愛いクシャミはあああぁぁぁ!? やっぱりキャラがブレブレにゃあああぁぁぁ!」

 

「はぁ!? なんでクシャミ一つでそこまで文句言われるのさ!?」

 

 

 

「あ、あの、夏樹ちゃん……あれ止めなくてもいいんですかね……?」

 

「ほっとけよ、菜々。あれはあいつらなりのコミュニケーションだって」

 

 

 

 

 

 

 とりあえずこのままだと美波ちゃんのペースに飲まれちゃうから、なんとか俺のペースに引き込んで……。

 

「日本酒とも~焼酎とも~ハイボールとも~わからなくて~! 空いたグラス、あなたの酌で、欲しがるの!」

 

 まさかの自分のデビュー曲『ヴィーナスシンドローム』のセルフ替歌を、スプーン片手に熱唱する美波ちゃんの姿がそこにあった。

 

 ダメだ、こんな愉快すぎる状態の美波ちゃんに勝てる気がしない。

 

 というか、そろそろこれは強制ストップをかけた方がいいだろう。後は瑞樹さんに任せて……あれ、瑞樹さんどこだ?

 

 

 

「あら、冬馬君はカルーアミルク?」

 

「うぐっ……すんません、その、あんまり日本酒とか飲まなくて……」

 

「それなら、飲みやすいのがありますよ? 私のオススメです」

 

 

 

 冬馬アアアァァァ!!?? 貴様、なにをお姉様二人と楽しく酒飲んでんだゴラアアアァァァ!!?? 楓さんにお酌されるとか、本気で羨ましいんだよおおおぉぉぉ!! チクショウ! テメェなんて感想欄で読者の人たちに呪われちまえばいいんだバアアアァァァカ!!

 

「なんでかえでさんたちを見てるんですか……りょうたろうさんは、私だけを見ててください」

 

 クイクイッと力なく美波ちゃんが俺の服の裾を引っ張ってくる。先ほどまでとは打って変わって弱々しい雰囲気の彼女に、冬馬への怒りで沸いた頭が一瞬で冷えていくのを感じて……。

 

「私……この、自家製ジャーマンポテトが食べたいです」

 

「店員さぁぁぁん! 自家製ジャーマンポテトお願いしまぁぁぁす!」

 

 そろそろギブアップしたい。

 

 

 

 

 

 

「くっくっくっ……良太郎があんなに翻弄されてるのを見るのは久しぶりだな」

 

 幸太郎さんがグラスを傾けながら楽しそうに笑う。良太郎君とよく似た顔のその笑顔に、きっと彼が笑うとこんな感じなんだろうなぁ……と思ってしまった。

 

「そろそろ助け舟を出してあげた方がいいんじゃ……」

 

「大丈夫ですよ、赤羽根さん。あれだけ酔った女性を相手に良太郎君も変なことはしないでしょうし、あれはあれでいいお灸です」

 

 少々不憫に感じたのだが、123プロ社長秘書兼プロデューサーの和久井さんはそう言い切った。どうやら彼女も良太郎君に苦労をかけされられている側の人間として、色々と思うところがあったようだ。

 

「それに、良太郎君もだいぶ諦めモードに入ったみたいですから……これ以上ひどくなることはないんじゃないですか……?」

 

 三船さんの言う通り、良太郎君は既に諦めた様子で甲斐甲斐しく新田さんの世話を焼いていた。

 

 トラブルメーカー……というか場を引っ掻き回すようなことが多い良太郎君だが、意外なことにその本質は春香たちのことを気にかけてくれたように()()()()()。そして普段のふざけたような態度も反応してくれる相手にしかしない辺り、意外なことに()()()()()()

 

 以上のことから考えると、今のお酒に酔った新田さんと一対一になっている今の状況ならば、良太郎君は普段あまり見せない『大人』の一面を見せてくれることだろう。

 

「まぁ、それだと面白くないんで、そろそろ次の燃料を投下するんですけどね」

 

「「「「幸太郎さん!?」」」」

 

「おっ、何をするつもりだね?」

 

 ニヤリと悪い笑顔を浮かべた幸太郎さん。楽しそうにしている社長を除き、そのテーブルについていた全員が『一体何をするつもりなのか』と不安になる。

 

「……律子ちゃん、良太郎が呼んでるよ」

 

「……ふぇ?」

 

 幸太郎さんの言葉に顔を上げた律子。実は律子もお酒に強くなく、先ほどから既にフラフラの状態になっている。

 

「りょうたろうがですかー?」

 

「うん。ホラ、今は新田さんと二人きりでお酒飲んでるみたいだから、変なことしないように見張ってないと」

 

「……わかりましたー」

 

 幸太郎さんにそそのかされ、ヨロヨロと立ち上がって良太郎君と新田さんのテーブルへと向かっていった律子。そんないともたやすく行われるえげつない行為に戦慄してしまう。

 

「さてと……今度はどうなるかなぁ」

 

 そんな様子を眺めて一人楽しそうな幸太郎さんの姿を見て、その場にいた全員が思った。

 

 『あぁ、この人、やっぱり周藤良太郎の兄なんだなぁ』……と。

 

 

 

 

 

 

「コラりょうたろう!」

 

 我ながら柄にもなく甲斐甲斐しく酔っぱらい(美波ちゃん)のお世話をしていると、そんな頼もしい声が聞こえてきた。

 

 キタ! りっちゃんキタ! メイン抑止力キタ! これで勝つる!

 

 ……って、あれ? なんか微妙にりっちゃんの呂律が回っていなかったような……。

 

「なぁにみなみちゃんにばっかりお酌してるのよ……わたしのグラスはどうしたぁ!?」

 

 イヤアアアァァァ!? この子も酔ってるうううぅぅぅ!?

 

 ドッカと勢いよく俺の隣に腰を下ろすりっちゃん。普段ならばいい匂いがしそうなぐらい近いのだが生憎アルコールの匂いしかせず、そして心臓は別の意味でドキドキと早鐘を打っていた。

 

 というかりっちゃん、さっきまで兄貴たちのテーブルで飲んでたはずでは……? という疑問に視線をそちらに向けると、そこには満面の笑みでこちらに向かって手を振る兄貴の姿が。

 

(お前の差し金かあああぁぁぁ!)

 

 あの野郎……そっちがその気ならこっちにだって考えがある。とりあえず早苗ねーちゃんをこっちに呼び出して……。

 

「ちょっとりょうたろうさん、なにスマホなんて取り出してるんですか。今はそういうのなしです」

 

 しかし俺のスマホは美波ちゃんの手によって取り上げられてしまった。いかん、俺も色々と混乱してて隙がいつも以上に大きくなっている……。

 

「………………」

 

 そして取り上げた俺のスマホに視線を落としつつ、何やら考え込む美波ちゃん。

 

「……えいっ」

 

 そんな可愛らしいかけ声と共に俺の腕に抱き着いてきて――。

 

 パシャリ

 

 ――驚き硬直している間に、美波ちゃんは俺のスマホを使って自撮りをしていた。

 

 チラッと見えた画面には俺の腕に抱き着き満面の笑みを浮かべる美波ちゃんと、咄嗟の出来事にも関わらず同じく満面の笑みを浮かべてピースをするりっちゃん、そんな二人に挟まれて相変わらず無表情の俺が写っていた。

 

「えっと……そーしん」

 

「ちょっと美波ちゃん!?」

 

 送信って言った!? 今送信って言ったよね!?

 

「だいじょうぶですよーSNSにあげたとか、そういうのじゃないですから」

 

「そういう問題じゃなくてだね……!?」

 

 一体どこに送信したのかと履歴を見てみると、どうやらメッセージアプリを使って個人に送っただけのようである。

 

 しかしこれは場合によっては本当にシャレにならないことなので、本気で説教をしようと姿勢を正し――。

 

 

 

『朝比奈りん』

 

『星井美希』

 

『渋谷凛』

 

 

 

 ――送信先が視界に入ってしまったことで、思わず机に突っ伏してしまった。

 

 

 

 ……もうやだ、りょーたろーおうちかえる……。

 

 

 




・憧れのアイドルから勧められたお酒
自分も楓さんから勧められたお酒ならば意識がなくなるまで飲むと思う。

・――なんて言うとでも思ったか!
良太郎@反省しない

・ヴィーナスシンドローム 酔っぱらいVer
かの有名な『酔いかぜ』みたいな感じで考えてみた。

・冬馬アアアァァァ!!??
抜け駆け冬馬君にはあとで天罰を用意しておきます。

・自家製ジャーマンポテト
After20の一巻五杯目より。スパークリングワインと一緒にどうぞ。

・空気も読める。
しかし読んだ上で空気を読まないとか、こいつも訳わかんねぇな。

・「そろそろ次の燃料を投下するんですけどね」
(暗黒微笑)

・いともたやすく行われるえげつない行為
D4C



 珍しく良太郎がボコボコにされるの巻(愉悦)

 新鮮な反応をする良太郎は書いてて楽しかった(小並感)

 次回で酒飲み回は終わりの予定です。

 ……ん? バレンタイン? なんのこったよ(すっとぼけ)

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