アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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時間は飛んで、当落発表です。


Episode09 審判ノ刻、来タレリ

 

 

 

「チケットを寄越せ……!」

 

 

 

 冒頭から新しい特殊タグ要素マシマシなドスの聞いた声で脅されているが、意外なことに相手は月村である。

 

「恭也、お前の彼女が暴走してるんだけど」

 

 普段の余裕のある姉御肌な一面は影を潜め、目が血走っていて完全に狩人のそれだった。いくら今日が感謝祭ライブチケットの当落発表の日だとはいえ、情緒不安定すぎやしないか。

 

「安心しろ、害はない」

 

 しかし恭也にしては珍しいやや突き放すような言動から見ると、それほど深刻な問題でもなさそうだった。

 

「何度も言ってるけど、俺の身内チケットはなのはちゃんと美由希ちゃんに上げちゃってるから、もう無理なんだって」

 

「あら、鷹富士さんにはあげたって話を聞いたわよ?」

 

「いや、あれは特別措置というか、不穏分子をあらかじめ手の届く範囲内に置いて管理しようという危険物的な処理であって、依怙贔屓とかそういう意味では……」

 

「本人が『いやぁ良太郎君からチケットを貰っちゃいましたよぉ……チラッチラッ』とか自慢してる以上、そんなの関係ないのよおおおぉぉぉ……!」

 

 どうやらこれが情緒不安定の理由らしい。茄子の奴、普段は物欲薄くて人に自慢するとかしない癖にこういうときに限って煽る辺り、本当にいい性格をしてやがる。

 

 久しぶりに月村邸でのお茶会に招かれたと思ったら、こういう意図もあったのかとこっそりため息を吐きながら紅茶を一口。

 

「あははっ! 忍がこんなことになるなんて珍しー!」

 

 そんな月村を見ながら、ケラケラと笑う金髪赤目の少女が一人。今日初めて月村から紹介された彼女の知り合いのお嬢様だという、黒埼(くろさき)ちとせちゃんである。

 

「いやー流石『周藤良太郎』だねぇ。人の心を惑わすのはお手の物って? 吸血鬼の私より、そーいう才能バッチリだね」

 

「へ? 吸血鬼?」

 

「そーそー。実は私、忍と一緒で吸血鬼の末裔なんだ」

 

 なんか知り合いを巻き込む形で蘭子ちゃん並の厨二設定を披露された。なるほど、彼女はこういうキャラか……。

 

「何を言っているのかしらちとせちゃんそんなわけないでしょ変なことを言うもんじゃないわよ」

 

「月村、手ぇ震えてるぞ」

 

 今の発言のどこに動揺する要素があったのだろうか。年下の女の子の冗談を笑って受け流す余裕すらないのかコイツは。

 

「それにしても、『周藤良太郎』が出演するライブかぁ……千夜ちゃんは興味あったりする?」

 

「あるはずありません」

 

 ちとせちゃんが背後に向かってそう尋ねると、側でずっと控えていた彼女の従者である黒髪紫目な白雪(しらゆき)千夜(ちよ)ちゃんはスッパリとそう断言した。

 

「大体なにがアイドルですか。他人のためにヘラヘラと笑顔を振りまく意味が分かりません」

 

「笑顔を振りまくとか、俺の場合は物理的に無理なんだけど」

 

 千夜ちゃんは千夜ちゃんで無表情なことが多いので少々親近感が湧いているが、彼女の場合は軽蔑とか侮蔑の表情を浮かべることが出来るので完全に上位互換である。

 

「そもそも――」

 

「えーでも私も『周藤良太郎』のライブ、参加してみたかったなー」

 

「――今すぐチケットを寄越しなさい」

 

「ちとせちゃん、お宅の従者さんの目が怖いんだけど」

 

「可愛いでしょ?」

 

「可愛いけども」

 

 ちとせちゃんの一言にすぐ様反応する辺り、この子従者云々以上にお嬢様のこと大好きすぎやしないだろうか。

 

 ニコニコと笑うちとせちゃんも可愛いなぁなどと思っていると、ちとせちゃんは「それにしてもアイドルかー」と言って足を組んだ。

 

「実は私も、アイドルにならないかーとか言われてるんだよねぇ」

 

 なんと、既にスカウト済みだった。

 

「なんかこう、熊みたいにおっきくて怖い顔の男の人から『……アイドルに、興味はありませんか?』って言葉少なに名刺を渡されて」

 

「心当たりがありすぎる」

 

 つい先日、シンデレラプロジェクト二期生のメンバーと対面したときにも思ったんだけど……少々武内さんは変化球に手を出しすぎではないだろうか。もしやそういう性癖?

 

「ちーちゃんも一緒にスカウトされたんだよねー?」

 

「お嬢様も『ちーちゃん』ですが」

 

 そして当然の如く、千夜ちゃんの方も同時スカウト済だった。

 

 ……しかし『笑顔』を信条としている武内さんがスカウトしたってところを考えると、やっぱり普段は仏頂面で「お嬢様のこと以外はどうでもいい」みたいな態度を取っている千夜ちゃんも笑えば可愛いのだろう。

 

「ねぇ千夜ちゃん、ちょっと笑ってみて?」

 

「は?」

 

 気の弱い人だったら思わず泣いて謝ってしまいそうになるぐらいの威圧が籠った「は?」だったが、残念ながらそーいうのには慣れっこの俺にダメージは無かった。

 

「流石、高校の頃に陰で『被虐趣味もないくせに無駄に打たれ強いバカ』と称されていただけのことはあるな」

 

「オイ誰だそれ言ってた奴」

 

 バカって言った奴の方がバカなんだぞバーカ!

 

「ふぅ……取り乱して悪かったわね、周藤君」

 

 紅茶を飲むことでようやく落ち着いたらしい月村が、いつもの調子を取り戻しながら謝罪してきた。

 

「こっちこそ悪いな。多分倍率はいつも通り『頭がおかしい』ことになってると思うが、頑張って自力で引き当ててくれ」

 

 一応ライブビューイングも全国で行う予定なので、もし現地参戦が叶わなかった場合はそちらに来てもらえるとありがたい。

 

 そしてこちらはまだ非公開情報になるのだが、感謝祭ライブの数ヶ月後には俺たちの舞台挨拶付の振り返り公演を予定していたりする。何せ一日しか行わない本当に特別な公演なので、少しでも多くの人に見てもらうための特別措置である。

 

「えぇ……そうよ、自分で当てれれば問題ないのよ。大丈夫、きっと私なら……」

 

「あっ、そうだ忍、ちょっと輸血パック分けてもらっていーい?」

 

「荳?菴謎ス輔r險?縺」縺ヲ繧九?縺九@繧峨■縺ィ縺帙■繧?s」

 

「おい、お前の彼女、今度は文字化けしたぞ」

 

「きっと出力をミスったんだろう」

 

 何か致命的な欠陥でも起きたのかと思ったが、恭也がシレッとしているところを見ると本当に問題はなさそうである。

 

 どうやら月村は吸血鬼ネタでいじられるのが苦手らしい……きっと昔、そういう系統のホラー映画でも見てトラウマにでもなったのだろう。

 

(……それにしても)

 

 月村でこのレベルだとすると……はてさて、俺のファンを公言してくれている他の子たちは今頃どうなっていることやら。

 

 

 

 

 

 

「ただいま戻りましたー……え」

 

「……えっと」

 

 千早ちゃんと二人での仕事を終えて事務所に戻ってくると、そこには異様な光景が広がっていた。

 

「えっと、律子さん、これは……」

 

「ほっときなさい」

 

 状況の説明を事務机で仕事をしていた律子さんに求めたのだが、そうキッパリと言い返されてしまった。横に座る小鳥さんも苦笑いだった。

 

「あの、律子? 流石に『事務所の真ん中で美希と真美が姿勢よく正座をしながら瞑目している』状況を放っておくのは難しいんだけど……」

 

 なんというか、二人の周りだけ空気が違った。どうしてアイドルの事務所で、こんな『寄らば切る』みたいな殺伐とした雰囲気になってしまっているのだろうか。

 

「……って、そっか」

 

 美希と真美に共通点を考えたところで、それに思い至った。というか、私自身今日を心待ちにしていたので忘れようにもなかった。

 

「二人は感謝祭ライブの当落発表の時間を待ってるんだね」

 

 かくいう私も、それを心待ちにしている一人だった。だから落ち着いた状況でそのときを待つつもりで、こうして千早ちゃんと共に一度事務所に戻って来たのだ。

 

「噂だと、今回は特に倍率が酷いことになるんじゃないかって言われてたわね」

 

 鞄を下ろしてソファーに座りながら、スマホを取り出す千早ちゃん。私も彼女の隣に腰を下ろして自分のスマホを取り出す。

 

「えっと……噂だと、200倍以上だっけ?」

 

 なにせドームツアーや二日以上の公演というわけではなく()()()()の感謝祭ライブ。いくらドームでのライブとはいえ、圧倒的に需要と供給が釣り合っていないのだ。

 

「いつも以上に多くの会場でライブビューイングをするとは言ってたけど……やっぱり現地に来たい人の方が多いだろうからなー」

 

「あ、響ちゃん。いたんだ」

 

「いたぞ」

 

 コトリと私と千早ちゃんの前にお茶を置いてくれた。どうやら私たちが帰って来たことに気付いて淹れてきてくれたようだ。一言「ありがとう」と言ってからありがたくいただく。

 

「今日はどこの現場に行ってもみーんなそわそわしてたぞ」

 

「それだけ感謝祭ライブを楽しみにしてた人が多いってことなんだろうね」

 

 響ちゃんの言うように、今日は一日そこら中でその話題ばかりを耳にしていた。数歩歩けば感謝祭ライブの当落の話題が耳に入るので、耳にタコが出来るを通り越してそれを聞くこと自体が当たり前のような状態になってしまっていた。

 

「まぁ、あぁやってチケットに命を懸けてる人も少なくないんだろうな」

 

「命って……」

 

 自分の分のお茶を啜りながら横目で美希と真美を見る響ちゃんに、思わず苦笑してしまう。

 

 

 

「さっき『現地に行けないぐらいなら切腹する』って言ってたぞ」

 

「やっぱり()()って見間違いじゃなかったんだね!?」

 

 

 

 彼女たちの目の前にスマホと一緒に置かれてある二本のカッターナイフがあまりにも怖すぎて思わず見なかったことにしていたが、まさか本当にそういう意味だったとは知りたくなかった。

 

「響ちゃんはなにノンキにお茶を飲んでるのさ!?」

 

「いや、だって二人とも『介錯はいらない』って言うから」

 

「誰もその心配とかしてないから!」

 

「春香、任せて。確か最期の食事として湯漬けを用意すればいいのよね?」

 

「やめて!? 千早ちゃんまで乗っかったらいよいよ収拾つかなくなる!」

 

 律子さんと小鳥さんが一切こちらに関わろうとしなかった意味が分かってしまったが、分かったところでどうにかなる話でもなかった。

 

 え、流石に違うよね!? ここまでフラグ立てたんだから、これは逆に美希も真美も当選する流れだよね!? 私、事務所で流血沙汰とか嫌だからね!?

 

 

 




・新しい特殊タグ
なんか他作者様の作品を読んでいていきなり文字が動き出してビックリしたから使いたくなった。

・黒埼ちとせ
・白雪千夜
『アイドルマスターシンデレラガールズ スターライトステージ』に登場するキャラ。
金髪赤目吸血鬼系お嬢様な19歳と、毒舌無表情系従者な17歳。二人ともキュート。
6thで情報公開された七人の新アイドルの内の二人で、最初からプロデューサーに鼓膜が実装されている状態で登場した。
ハーメルン最速登場を狙ってみたが、5日経ってるので流石に無理かな。

・吸血鬼
らしい。まさかのお嬢様キャラ以外で忍と共通点があるとは。

・舞台挨拶付の振り返り公演
諸事情により6thメラド両日の振り返りは見に行けなかった……。

・文字化け
文字化け変換サイトというところで変換してみた。
一応「一体何を言っているのかしらちとせちゃん」と言っている。

・「ここまでフラグ立てたんだから」
目逸らし。



 というわけで、ついにチケット当落発表の日を迎えました。

 そして登場人物たちの当落結果は既に決まっております。これはツイッター上にて、作者が診断メーカーで作った『123プロ感謝祭ライブ当落発表』という診断を用いて決めました。一般公開しておりますので、もしよかったら皆さんも試してみてください。

『#123プロ感謝祭ライブ当落発表』で検索!

 ……まぁ、結果はアレだったんですけどね(目逸らし)



『どうでもいい小話』

 デレステにて

 大 槻 唯 & 速 水 奏 同 時 限 定 ガ チ ャ 開 催

 なんとも恐ろしいガチャでしたが、なんとか無事に二人ともお迎えしました。

 あれですね、逆に二人とも担当だと天井に行くまでにもう片方が出るから効率がいいですよね(白目)

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