アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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実はこの子も関係者チケットを貰っていたというお話。


Episode11 審判ノ刻、来タレリ 3

 

 

 

「えっ!? 関係者チケット持ってるの!?」

 

 

 

「んー……?」

 

 とときら学園の収録の休憩中、パイプ椅子に座ってジュースを飲んでいるとそんな声が聞こえてきたので、視線をそちらに向ける。杏たちから少し離れたところに共演者であるちびっこたちが集まっており、その中心にいるのは着ぐるみアイドルこと市原仁奈ちゃんだった。

 

「はいでごぜーます!」

 

「なんでなんでー!?」

 

「誰から貰ったのー!?」

 

 ニパーッと無垢な笑みを浮かべる仁奈ちゃんに、みりあちゃんや薫ちゃんが詰め寄っている。

 

「美優おねーさんでごぜーます! お泊りに行ったときにくれたでごぜーますよ!」

 

 美優おねーさんというと……多分、123プロ所属の三船美優さんのことだろう。一体どういう繋がりなのかは知らないが、どうやら仁奈ちゃんとプライベートで仲が良いらしい。しかも感謝祭ライブのチケットを渡すほどなのだから、相当親密な間柄のようだ。

 

「いいないいな~!」

 

「私も行きたいよ~!」

 

 小学生だったらここで「ちょーだい!」と無茶を言う場面だが、346でアイドルをしている子たちはみんないい子なので、そんなことを言う子は一人も――。

 

 

 

「いいなー! 私にちょーだい!」

 

「ちょっ、友紀はん!? 何してはるん!?」

 

「いくらなんでも子ども相手に恥ずかしいことしないでくださいよ!?」

 

「だってー! 茄子が散々自慢してくるんだもん! 私だって行きたいー!」

 

「せめて今日の当落発表まで大人しくしててください!」

 

「ごめんなーこっちのことは気にせんとってー!」

 

 

 

 ――……なにやら今回のとときら学園のゲストに来ていた大きな子どもが、年下の女の子に諫められていたけど、見なかったことにしよう。

 

 そもそも仁奈ちゃんの持っているチケットは、関係者チケットは関係者チケットでもその意味合いが違う。何せ所属アイドルが直々に渡した、言うならば身内チケット。それを他人に譲渡したところで入れるはずがないのだ。

 

「やーっぱり、みんな行きたいんだねぇ」

 

「そーいうきらりも、行きたいんでしょ?」

 

「もっちろん!」

 

 隣に座って一緒に休憩していたきらりが力強く頷いた。

 

「杏ちゃんは違うの?」

 

「あー……うん」

 

 正直に言うと、杏はそこまで興味ない。だからチケットの応募すらしていなかった。

 

 日本一の人気を誇るトップアイドル『周藤良太郎』ではあるが、杏のようにそこまで興味を持っていない人だって勿論存在する。『周藤良太郎』の熱狂的なファンを『りょーいん患者』と呼ぶのに対して『抗体持ち』なんて呼ばれていたりする。

 

「えー!? 勿体ない!」

 

 応募をしていないことを素直に伝えると、きらりは驚愕して杏の肩を掴んできた。

 

「折角なんだから、応募すればよかったのにぃ!」

 

「いや、確かに123プロのアイドルはみんな凄いとは思うけど……だからって、それを理由にしてまでライブに行くと思う? 杏だよ?」

 

「すっごい説得力だにぃ……」

 

 という理由で、杏は今回の一件に関してはなんの興味も持っていないのでした、まる!

 

「杏おねーさん、応募してねーでごぜーますか?」

 

「えっ」

 

 いつの間にか仁奈ちゃんが杏の側に近寄って来ていた。何故か驚いたような表情をしている。

 

「あー……うん、応募してない」

 

「だったら丁度良かったでごぜーます!」

 

 ニパーッと再び眩い笑顔を浮かべた仁奈が、何かを取り出そうとポーチの中をゴソゴソとし始めた。

 

 ……なんだろう、すっごく嫌な予感がする。

 

「あった!」

 

 しかしこの嫌な予感を止める方法を思いつくことが出来ず、仁奈は笑顔のままそれを取り出した。

 

 

 

「仁奈と一緒に、感謝祭ライブに行ってくだせー!」

 

 

 

『……えええぇぇぇ!!??』

 

 仁奈の発言を聞いてしまった、その場にいた全員が驚愕の叫びを発した。杏も叫んでこそいないが、あんぐりと大口を開けてアホ面になっているのが自分でも分かった。

 

「……え……な、なにそれ……?」

 

「関係者チケットです! 美優おねーさんが二枚くれやがりました!」

 

 二枚貰ってた! なるほどね! なんか聞いたところによると123プロのアイドルの皆さん、個人的なチケットは二枚ずつ配ってるって話らしいから、美優さんも二枚持っててもおかしくないもんね!

 

 でも、だからってなんで仁奈ちゃんに二枚とも渡すの!? そして仁奈ちゃんもなんでそれを杏に渡そうとするの!? ほら、向こうの子ども組とか、すっごい羨ましそうな目で見てるよ!? あとついでにビールが飲める子どもがユニットメンバー二人に取り押さえられてるよ!?

 

「美優おねーさんは『私は一緒に行ってあげられないから、誰か頼りになるお姉さんと一緒に行ってね』って言われました! だから、前に優しくしてくれた杏おねーさんに一緒に来てほしいでごぜーます!」

 

「いや、それは……」

 

 いやまぁ……確かに、地下資料室時代にソファー貸してあげたことあったけどさ。それぐらいじゃん!? 本編どころか原作ですら描写なくて二次創作レベルの設定持ち出されても! 菜々ちゃんとかかな子ちゃんとか、他にも仁奈ちゃんのお世話してた人はいたはずなのに、なんで杏なの!?

 

「……杏おねーさん、ダメでごぜーますか……?」

 

「うっ……」

 

 杏が渋っていることに気付いた仁奈ちゃんの目が潤む。流石にそんな反応をされてしまっては杏の心も揺らぐ。

 

 ……でもなぁ。

 

「……行ってあげてぇ、杏ちゃん」

 

 ポンッと肩に手を置かれて振り返る。

 

「仁奈ちゃんはきっと、ライブに行くことと同じぐらい()()()()()()()ことも楽しみにしてるんだにぃ」

 

「きらり……」

 

「だから行ってあげて? きらりからも、お願いしまぁす!」

 

 

 

「……あの、凄く目が怖いんだけど」

 

 

 

 表面上はいつもの優しい笑顔なのに、目が笑っていなかった。『目は口程に物を言う』とは言うものの、ここまで露骨に『行ける癖に文句を言うんじゃない』と言っている目はそうそうないだろう。親友の意外な一面を、こんなところで見たくなかった。

 

「はぁ……分かった、杏も一緒に行くよ」

 

「っ! やったー! でごぜーます!」

 

 降参の意味を込めて手を挙げると、仁奈ちゃんはピョンピョンと飛び跳ねて喜んでくれた。これだけ喜んでくれるならば「まぁ行ってもいいか……」という気持ちに少しはなれた。

 

 それにこのチケットは関係者チケットだから席も一般席とは別で、確か入場口も別に用意されているはずだ。それならば、杏の嫌いな人混みも回避できるだろう。

 

「……はぁ」

 

 確かに杏の状況は、全国のりょーいん患者の皆さんからしてみれば夢のようなシチュエーションだろう。自分の欲しいものが何もせずに向こうからやってくるなんて、誰だって憧れるし羨ましがるだろう。

 

 しかし、今の杏にならこの言葉を言う資格があると思う。

 

 

 

「……ドーシテコーナッタ」

 

 

 

 

 

 

「さて、そろそろだな」

 

 用事があるので先に帰るというちとせちゃんと千夜ちゃんを見送ってから腕時計を覗くと、あと十分ほどで当落発表の時間だった。

 

「しかし、この当落発表は大勢の人が見るのだろう? サーバーが落ちたりしないのか?」

 

「勿論、最初から予想されきってたことだから対策はしてあるさ」

 

 他のアイドルのチケットでもそうだが、時間になった途端に大勢の人が結果を見ようとサイトへアクセスするとサーバーに負荷がかかり、最悪落ちることも予想される。というか告知ページですら落ちた実績を加味すると確実に落ちることが予想出来た。

 

「というわけで、兄貴が一時的にサーバー借りたり色々と手回しをしたらしい」

 

 詳細は知らんが、とりあえず重くなることはあれど落ちることはない……とのことだ。

 

「それでも繋がらなかったら、改めてそれぞれ当落発表のメールが届くことになってるが……」

 

「……それを大人しく待つ人が、何人いるだろうな」

 

 時間になった途端にサイトへと入る準備をしている神妙な面持ちの自分の彼女の様子を横目で見つつ、恭也はやれやれと首を振った。

 

「……いよいよだ」

 

 恭也の言葉に再び腕時計を覗けば、残り一分を切っていた。

 

 

 

「さてさて、誰が俺たちのライブに来てくれるのかね?」

 

 

 

 

 

 

「……絶対に、当てるの……!」

 

「待っててね、りょーにぃ……!」

 

「ドキドキしてきたわね、春香」

 

「うん……私はどちらかというと、あの二人が早まったことをしでかさないかでドキドキしてるよ……」

 

 

 

 

 

 

「お願いです神様もう我儘言いませんレッスンもさぼりませんポテトも食べ過ぎません奈緒への悪戯も控えますだからお願いです私を現地に連れて行ってくださいただ一度の奇跡を私にお願いしますお願いします……!」

 

「これだけ鬼気迫ってる加蓮も初めて見たよ」

 

「っていうか、それだけ祈ってるくせにあたしへの悪戯を控えるレベルってのはどういうことなんだよ!?」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「色々なものを通り越して、もはや無表情になってますわ……あの、亜利沙? せめて呼吸ぐらいしませんこと?」

 

 

 

 

 

 

 ――この日の出来事は、『審判の刻』と呼ばれ、後のアイドル史に刻まれることとなる。

 

 

 

 

 

 

あああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!???

 

 

 

 

 

 

 ――その日、日本中が数多の叫び声によって埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

 

「あぁ、残念……私はダメだったみたい。春香は?」

 

「今それどころじゃないから! 千早ちゃんも二人止めるの手伝って!? 早く!!」

 

 

 

 

 

 

「かーみーさーまーがくーれたー」

 

「かれえええぇぇぇん!? 帰ってこおおおぉぉぉい!?」

 

「物語でたまに見る『精神が壊れてしまった人』の目だ……」

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

「ふぅ、やっぱりダメでしたわ……亜利沙はどうでしたの? ……まぁ、そのリアクションからなんとなく想像が………………え、ちょっ、亜利沙!? マジですのっ!?」

 

 

 




・仁奈ちゃんwith関係者チケット
番外編40にて美優さんとの関係が明かされた仁奈ちゃんですが、実は彼女もチケットを貰っていたのでした。

・大きな子ども
茄子の被害者がこんなところにも。

・『抗体持ち』
杏や翼のような良太郎に対してそれほど強い感情を持っていない人たちを指す言葉として、今後使っていく予定です。

・「仁奈と一緒に、ライブに行ってくだせー!」
意外! それは杏! まさかの参戦確定!

・本編どころか原作ですら描写なくて二次創作レベルの設定
番外編だから何してもいいってじっちゃが言ってた。



 というわけで、ついに当落発表。各々の詳細はまた次話になりますが……何やら一人だけ、リアクションの違う人がいますねぇ……?

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