アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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予定通り、リハーサル編をお送りします。


Episode13 リハーサルのお時間です

 

 

 

「……くわぁ……」

 

 鳴き声とかそーいうのではなく、欠伸である。朝が眠いのは万人共通であり、それはトップアイドルになったからといって変わるものではない。……別に、昨日少々ゲームに熱中しすぎて就寝時間が遅くなったことは関係ない。

 

 しかし二度寝するほど堕落した性格ではないので、気合いを入れて起きる。収録やステージといった仕事があるわけではないが……俺は今日の仕事を楽しみにしていたのだ。

 

 少しだけウキウキしつつ、寝間着から着替えを終え、洗面所で顔を洗ってからリビングへ。

 

「おはよーリョウ君!」

 

「おはよう母さん」

 

 今日も元気なリトルマミーに挨拶をし、軽くお父祭壇に手を合わせてからテーブルに着く。

 

 相変わらず単身赴任中の父上様であるが、流石に今回の感謝祭ライブの際には休みを作って帰ってくることを約束してくれた。俺の関係者チケットはなのはちゃんと美由希ちゃんに上げてしまっているので、二人は兄貴の関係者チケットで入ってもらうことになる。

 

 ちなみに兄貴の嫁という名のもう一人の家族である早苗ねーちゃんの分のチケットがないが、彼女は留美さんのチケットで入ることになっている。そしてもう一枚のチケットで友人を呼ぶらしいが……まぁ、流石にプライベートなことを探るつもりはない。

 

 ついでなので、他のみんなの関係者チケットの行方にも触れておこう。恵美ちゃんとまゆちゃんはそれぞれ両親を、志保ちゃんは母親と弟に渡したそうだ。志希も両親にチケットを送ったらしいのだが、用事により来ることが出来るか怪しいとのことだった。

 

 そして美優さんは今も交流がある仁奈ちゃんに二枚ともチケットを渡し……なんともう一枚が杏ちゃんの手に渡ったという話を聞いた。一体どんな理由があったのか、全く想像がつかないが……面倒くさそうにしつつも面倒見がいい杏ちゃんが、仁奈ちゃんに引っ張られて会場にやってくる姿が容易に想像できた。

 

 最後にジュピターの三人は……。

 

「おーいリョウ、自分の分は自分で持ってきなさーい」

 

「はーい」

 

 早苗ねーちゃんに呼ばれてキッチンのカウンターごしに朝食のプレートを受け取る。

 

 さて、今日の予定をしっかりとこなすために、まずはお母様とお義姉様が作ってくれた朝食でエネルギー補給をすることにしよう。

 

 

 

 ――ふわぁ……おはよーございまーす……。

 

 ――あぁ、おはよう志希。

 

 

 

 廊下の方からそんな声が聞こえてきた。相変わらずウチに泊まることが多い志希と、兄貴の声――。

 

 

 

 ――……って、なんて格好してるんだお前は!?

 

 ――ふぇ?

 

 

 

 ――その瞬間、俺は疾走(はし)りだした。

 

 高町家で鍛えられた身体能力を総動員し、リビングから廊下へ飛び出す。

 

 今の兄貴の焦った声……間違いない、寝起きの志希が無防備な格好で歩き回っている! きっと裸ワイシャツに違いない!

 

 急げ良太郎! この先に夢にまで見たラッキースケベな光景が待っていると信じて……!

 

 

 

 間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

「……んで? アイツは朝からどーしたんだ?」

 

 朝、先に会場入りしていた良太郎の奴がパイプ椅子に座りながら不機嫌なオーラを醸し出していた。無表情のくせにあぁやって周りを威圧する辺り本当に厄介な奴である。

 

 俺の問いかけに、翔太は「詳しくは分からないんだけど」と肩を竦めた。

 

「さっき『どーして兄貴は出くわせたラキスケが俺にはないんだ……』とかどーとか言ってたよ」

 

 意味はよく分からないが、とりあえず下らないことだということは分かったので無視することにしよう。きっとその内、佐久間辺りがやってきて適当に良太郎の機嫌を直すはずだ。

 

「おはようございまぁす……え、良太郎さん、どうかしたんですか!?」

 

 などと考えている間に、本当に佐久間がやって来て不機嫌な良太郎に気付いた。

 

「おはよう、まゆちゃん。……いや、何でもないよ。ただ、この世界はいつだってこんなはずじゃないことばっかりだった……それを噛み締めてただけだよ」

 

 きっと何処かのアニメならば名言として扱われてもおかしくないようなことを言っていたが、先ほど『ラキスケ』発言を知っている以上、その内容が恐ろしく薄っぺらいことが丸分かりである。

 

 

 

 さて、今日の予定は間近に迫った感謝祭ライブのリハーサルである。ありがたいことに全員引っ張りだこの人気アイドルだらけの123プロの面々が一堂に会する貴重な日だ。

 

 そして、全員が会場となるドームのステージへと初めて足を踏み入れる日でもあった。

 

「よーし、全員揃ったな」

 

 会場となるドームの会議室に集合した俺たちが揃ったことを確認した社長に視線が集まる。

 

「……えっと、何かあったんですか」

 

「聞かないでくれ……」

 

 何故か社長の左頬にまるで漫画のようにきれいな椛マークがついていた。明らかにビンタされた跡である。多分良太郎のラキスケ発言と関係のあることだろうが、たぶんそっとしておいてあげた方がいいことだろうとその場にいた全員が理解した。

 

「それじゃあ、ステージに移動するぞ。ついにお披露目だ」

 

「ステージは写メってもいいですかー?」

 

「いいけど、SNSに上げる前にちゃんと俺か留美のチェックを受けるように」

 

「はーい! まゆ、一緒に撮ろっ!」

 

「はぁい」

 

「あっ、勿論志保と志希と美優さんも……って志希いないよ!?」

 

「最近大人しいと思ったらすぐコレだ!?」

 

 社長の一声で一ノ瀬捜索シフト、通称『オペレーション:チェシャ猫』がスタッフたちへ伝達される。俺たち含めてスタッフたちも慣れたもので、各出入り口の封鎖と隠れられそうな場所の捜索が効率よく同時に進行していく。

 

 このように度々失踪する一ノ瀬の捜索をついにシステム化した社長。……素直に凄いとは思うんだが、何故か才能の無駄遣いという感想が頭を離れなかった。こういう少しズレたところに全力投球する辺り、本当に良太郎の兄貴なんだなぁと思う。

 

 

 

「捕まった……」

 

「手間かけさせるんじゃないっつーの」

 

 というわけでものの十分ほどで捕まった一ノ瀬の首根っこを良太郎が引き摺りながら、俺たちアイドル九人は社長と和久井さんに連れられてステージへとやってきた。

 

「うわぁ……!」

 

「広いですねぇ……」

 

 所が目を輝かせ、佐久間がポツリとそんな言葉を漏らす。

 

 今回のステージはメイン・センター・バックの三つに分かれており、それらを真ん中に走る花道が繋いでいた。

 

「当り前ですけど、アリーナよりも広いですね……」

 

「キャパが違うからねー」

 

「今回は五万人以上入るらしいよ」

 

 やや緊張した面持ちの北沢の呟きに翔太と北斗が答える。

 

「……ここ一杯に、お客さんが入るんですよね……」

 

「美優、大丈夫?」

 

「は、はい……」

 

 観客で埋め尽くされた光景を想像したらしい三船さんが顔を青ざめていて和久井さんに心配されていた。一応一度はアリーナでのライブを経験させてあげることが出来たが、それでもまだ三船さんにはこのレベルは少々辛いのだろう。

 

「お前はどうだ?」

 

「んー? 緊張してるよーすっごいしてるよー」

 

「ホントかよ……」

 

 一方で未だに良太郎に首根っこを掴まれたままの一ノ瀬は飄々としたものである。こちらはこちらで順応するのが早そうだ。

 

「ちょっと失礼しまーす!」

 

「恵美ちゃん?」

 

 突然そんなことを言ってステージの前の方へと駆け出した所。佐久間が首を傾げる中、所は大きく右腕を振りかぶって……会場の一番後ろを指さした。

 

 

 

「後ろの方まで、ちゃーんと見えてるからねー!」

 

 

 

 広くガランとした会場に、所の声が響き渡った。

 

「……ふふ、恵美ちゃんったら……」

 

 クスクスと佐久間が笑う。

 

 あれは……そう、確かこいつらがバックダンサー組として参加した765プロのアリーナライブで、天海がやっていたやつだ。

 

「えへへ~一度やってみたかったんだよね~」

 

「私もやりまーす!」

 

 照れ笑いを浮かべる所に続き、今度は佐久間までもが「見えてますよー!」と声を張り上げる。そんな佐久間の様子を所が笑いながらスマホを使って録画しており、さらにそんな二人の様子をスタッフがカメラで撮影していた。恐らく円盤特典などで使うための撮影だろう。

 

「よーし、それじゃあお兄さんもやっちゃおうかなー!」

 

 そしてそんな二人に触発されたらしく、何故か良太郎がやる気満々に腕をグルグルと回し始めた。

 

 大声出すのに腕回す必要ないだろうとか、そもそも今更なにをやっているんだとか、そんなことを思ったが……良太郎が大きく息を吸い始めたところでハタと気が付いた。

 

「あ、これやべぇやつだ」

 

『え?』

 

 パッと耳を塞ぐと、同じように()()を知っている翔太・北斗・社長・和久井さんも耳を塞ぐ。周りのスタッフたちも耳を抑えたりヘッドセットをしたりと対策をする中、()()を知らない他の五人が困惑している。

 

 そして俺の「お前たちも塞いでおけ」という忠告は――。

 

 

 

「マーリンピックアップまだですかあああぁぁぁ!!??」

 

 

 

 ――アイドルのライブとは全く関係のない欲に塗れた良太郎の叫び声によって掻き消されてしまった。

 

 高町ブートキャンプによって鍛え上げられた肺活量と腹筋から生み出された凄まじい声量は、ビリビリと空気が揺れているような錯覚さえ覚えた。

 

「……ふぅ、スッキリした! いやぁ、こういうだだっ広い空間で大声出してストレス発散出来るのは、アイドルやってる特権だよな!」

 

「ドーム関係者に謝れ」

 

 今すぐコイツからアイドルという肩書を剥奪したい。

 

「あとコイツらにも謝っとけ」

 

 耳を塞ぐのが間に合わず、近距離で良太郎の叫びを聞いてしまい悶える五人の姿がそこにはあった。

 

 一番『周藤良太郎』というアイドルを知っている社長は勿論のこと、この中では次いで付き合いの長い俺たちや留美さんは知っていたので回避出来たが、一度もこれを体験したことなかったらしい五人にそれは無理だったようだ。

 

「おっとこれは失礼。大丈夫?」

 

「な、なんとか~……」

 

「頭がクラクラしますぅ……」

 

「全く、少しは手加減しろ」

 

 良太郎にそう注意しつつ社長が近くにスタッフに視線を向けると、スタッフはグッと親指を立てた。どうやら今のも特典用に録画してあったらしく、しっかりと撮れ高を抑えている辺り「やっぱりスタッフってすげぇな……」と感心してしまった。

 

「……あっ、しまった。特典用に映像を残すんだったら提供以外のゲームの話題はやめるべきだったか……それじゃあ撮り直しのためにもう一回……」

 

 流石にもういいと総出で止めに入った。

 

 

 

 まだリハーサルは始まってすらいなかった……。

 

 

 




・関係者チケットの行方
まぁそれぞれ無難な感じ。
留美さん二枚目とジュピター組はもうちょっとナイショ。

・ラキスケ
※なお遭遇するのは兄貴のみの模様。

・世界はいつだってこんなことじゃないはずことばっかりだ
リリカルなのはより、クロノ君の名言。
この世界だと、多分若き敏腕プロデューサーとかやってると思う。

・椛マーク
下手人は勿論早苗さん。

・『オペレーション:チシャ猫』
そういえばエイプリルフールで本当にチシャ猫役でしたね。

・今回のステージ
お察しの通り、デレマス6thのイメージ。ただしトロッコは無し。

・マーリンピックアップ
バビロニアアニメ放送記念であると信じて……!



 絶妙に今までなかったアイドルっぽいことをするリハーサル編です。主にデレマスライブ円盤の特典である『シンデレラの舞台裏』を参考にしています。



『どうでもいい小話』

 先日はエイプリルフールでしたね。ということで今年のささやかなネタを放り投げておいたので、お暇でしたら活動報告を覗いてみてください。

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