アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久々に準オリキャラ(?)登場。


Episode14 リハーサルのお時間です 2

 

 

 

 初ステージを堪能したところで、リハーサルの準備をするために一度更衣室に引っ込む。

 

「そーいえば、今日はアイツらはこねーんだよな?」

 

 リハーサル用のジャージに着替えていると、冬馬からそんなことを尋ねられた。

 

「ん? 誰?」

 

「ゲスト出演の」

 

「あぁ、旭さんとアカリ?」

 

「別次元の話やめろ」

 

 最初から世界観を統一しておけば『アイ転バース』という名で色々と派生しやすかったものの……。

 

「そーじゃなくて、東豪寺の三人だよ」

 

「あぁ、麗華たちか」

 

「ダメだよ良太郎君、そこはちゃんと『りんちゃんたち』って言ってあげないと」

 

「なんで?」

 

 北斗さんの謎指摘はともかく、今日のリハーサルに魔王エンジェルは不参加である。

 

「アイツらもアイツらで忙しいからなぁ」

 

 流石に事務所が違うと予定も合わせづらい。恐らく俺たち全員と通しで合わせられるタイミングは本番直前まで存在しないだろう。

 

「ダメだよ良太郎君、忙しくても夜に少しぐらいりんちゃんのために時間を作ってあげないと」

 

「だからなんで?」

 

 さっきから北斗さんの謎指摘がよく分からない。冬馬に視線を向けてみるがこいつもよく分かっていなさそうに肩を竦めた。次に翔太に視線を向けると、何故かこっちには馬鹿にされたような目で見られた。解せぬ。

 

「はぁ……良太郎君のこれも、まだ先が長そうだね」

 

「こっち関係は冬馬君と揃って残念なんだもんねー」

 

「本当にどういうこと?」

 

「なんかついでに俺までディスられてねーかオイ」

 

 そんなことを話しながら、男四人でぐだぐだと着替えを済ませるのだった。

 

 

 

「私、今回の演出家の方は初めてです……」

 

「そうでしたっけ?」

 

 着替えを終えてステージに向かう途中で同じく着替えを終えた女子組と合流したのだが、その際に美優さんがそんなことを呟いた。それに対して「あー私も初めてー」と志希が挙手をする。

 

「私は……以前、恵美さんとまゆさんと一緒のステージに立たせていただいたときに、一度」

 

「アタシとまゆも、お仕事させてもらったのって最近になってからだよねー?」

 

「はい。まだまゆたちは、そのレベルじゃなかったですから」

 

 元祖三人娘も、数えるぐらいしか仕事をしたことがないらしい。

 

「俺はデビューしてすぐの頃からずっとお世話になってるからなぁ」

 

「寧ろあの人、『俺は周藤良太郎と共に成長してきた』ってあっちこっちで吹聴してるぞ」

 

「えっ」

 

 冬馬から教わったそれは流石に俺も知らなった。

 

 まぁ確かに今でこそ業界でかなりの大物演出家として名を馳せているが、俺がデビューしたばかりの頃はあの人もまだ売れる前だったんだよな。そういう意味ならば、俺と一緒に成長してきたっていう言葉もあながち間違いではないと思う。

 

「あの人を演出に迎えることが出来るっていうことが、アイドルの中では一種のステータス扱いになってるからね」

 

「俺たちも961にいた頃じゃ無理で、こっちに移籍してようやく演出を引き受けてくれたんだったな」

 

「ふーん」

 

 翔太と北斗さんの言っていることは知っていた。しかし、昔なじみの演出家という認識の方が強い俺にとってはイマイチピンと来なかった。

 

「良太郎さんは実感湧かないかもしれないですけど、凄い人なんですよ。……アレ以外は」

 

「まゆも初めてお仕事させてもらった時は緊張しちゃいましたよ。……アレは流石にないですけど」

 

「俺たちも世話になってるからな。……アレだけは慣れないけど」

 

 どうにも()()が不評のようである。俺としては、あれはあれで大変個性的で面白いと思うんだけどなぁ。

 

 そんなことを話している内に、再び九人のアイドル組がステージの舞台裏に戻って来た。既に俺たち全員分の名前が割り振られたマイクが用意されており、それぞれのマイクを取ってステージの上へ。

 

 スタッフたちによりリハーサルの準備は終わっており、俺たちの到着待ちだったようである。そして俺たちの姿を確認するなり、客席に仮組みされた音響ブースから壮年の男性がマイクを片手に立ち上がった。

 

『はい、それでは全員揃っていただけたということで、リハーサルを始めさせていただきたいと思います。……と、その前に、今回初めてお仕事をさせていただく方もいらっしゃるので、改めてご挨拶をさせていただきたいと思います』

 

 男性は被っていた中折れ帽を軽く持ち上げてこちらに会釈をした。

 

『今回の感謝祭ライブで、企画・演出を担当させていただくJANGO(ジャンゴ)です。よろしくお願いします』

 

 これが初対面になる美優さんと志希は勿論、何度も仕事をしている俺たちも全員で『よろしくお願いしまーす』と返事をする。

 

 彼こそがアイドル『周藤良太郎』のデビュー当初からほとんどのライブの演出を担ってくれた大物演出家だ。数々の斬新な演出を考え出す発想力の他、俺自身からの提案に対しても『周藤良太郎』に全く臆さずに意見をくれる貴重な存在でもある。俺がこの業界で強い信頼を置いている人物の一人と言っても過言ではないだろう。

 

『えー、それで今からリハーサルを始めていくわけなんですが……ちょっとだけ、このおじさんに時間をください』

 

 JANGO先生は帽子を被りなおしながら椅子に座った。

 

『今回のライブの企画・演出として声をかけられたことを、自分は大変光栄に思っています。何度も良太郎君のライブのお手伝いをさせていただいて、最近だとジュピターさんやピーチフィズさんのお手伝いもさせてもらって。そして123プロ初の感謝祭ライブなんていう重要なものが、自分の演出でいいのかって思ったりもしました』

 

 「流石に責任重大すぎて三キロ痩せちゃったよ」という発言に小さく笑いが起こる。

 

『それでも、他ならぬ123プロさんから直々に「お願いします」と言われてしまった以上、自分もそれ相応の覚悟を決めないといけないと思いました。今回のこのライブ、自分の演出家としての人生全てをかけるつもりで挑ませていただきたいと思っています』

 

「先生、重いっす」

 

『普段から軽い君に言われたくないでーす』

 

「軽くねぇよ!?」

 

 人には言えないけど、これでも『死』という人生におけるクライマックスを一度経験してきた身ですよ!?

 

 とまぁこんな感じに気さくに軽口を叩けるぐらいには昔なじみの先生なのだ。

 

『皆さんの全力を引き出せるぐらい、自分も全力以上で取り組ませていただきますので、よろしくお願いします!』

 

 再び立ち上がり、まるで新人のように声を張り上げて頭を下げるJANGO先生。……それだけ本気で、このライブを素晴らしいものにしようと考えてくれているのだろう。

 

「先生、こちらこそよろしくお願いします。勿論、他のスタッフの皆さんも一緒に、最高のライブにしましょう」

 

『よろしくお願いします!』

 

 俺の言葉に合わせてみんなも声を合わせると、会場内はリハーサルすら始まっていないというのにスタッフ一同による拍手が響き渡るのだった。

 

 

 

(((……でもやっぱり、あの()()()()()()()()()()()だけはないなぁ……)))

 

 

 

 

 

 

 JANGO先生と良太郎の軽い挨拶が終わり、ようやくリハーサルスタートだ。ライブの進行に沿って一つずつ確認をしていくので、まずはオープニングからである。

 

 先生は『大まかな段取りは前もって渡してあるから目を通して貰ってると思うけど』という前置きをしてから説明を始めた。

 

『まずメイン(ステージ)のスクリーンに、一人ずつシルエットが浮かび上がります』

 

 そのあとスクリーンがゆっくり開いてそこから登場……と思いきや、そこには誰もいない。

 

『観客の視線がそこに集まってるその瞬間に、まずはバックのポップ(アップ)からケットシーの二人と美優ちゃんが登場します。勿論、ちゃんとSEとライト入れるから気付かれないってことはないはずでーす』

 

 先生の注釈に一ノ瀬が「それなら安心~」とコメントを入れると、スタッフから小さく笑いが聞こえた。

 

『続いてセンターのポップからピーチフィズの二人、メインのポップからジュピターの三人です。皆さん登場時の一言を考えておいて下さいね』

 

「一言か~……アタシとまゆは、いつものアレでもいいのかな?」

 

「アレ、ですねぇ」

 

 アレとは、多分ピーチフィズとして登場する際の前口上のことだろう。

 

 既にお決まりの文句がある所と佐久間はいいが、そういうのが特に決まっていない他のメンバーは「どうしようか」と思案顔である。かくいう俺も、どういうセリフにするか頭を捻る。

 

「俺もアレがあるし、みんな存分に悩んでくれ」

 

『あっ、ちなみに良太郎君の例のアレは全員で使うので、また別のやつを考えておいて下さーい』

 

「たった今アレが使えなくなった件について」

 

 「マジかー」と額に手を当てる良太郎。ここでいう例のアレというのは、『周藤良太郎』おなじみの「周藤良太郎は、いかがですか?」のセリフのことだろう。

 

「俺たち全員でやるんすね」

 

『そう。良太郎君の決め台詞として有名だけど、今回は123プロとして使わせてもらおうと思ってね。勿論、事務所の許可は下りてるよ』

 

『聞いてないぞ兄貴ー!』

 

 この場にいない社長に向けて良太郎がマイクを使って叫ぶ。

 

『話が逸れちゃったから戻すよー。最後、再びセンターに戻って、そこから良太郎君がポップで登場。良太郎君の一言を貰ってから、全員で「123プロは、いかがですか?」』

 

 そこからライブスタート……と。確か一曲目は良太郎の『恩 Your Mark』だったな。

 

 今回のライブ、それぞれの持ち歌をそれぞれが歌うのは勿論だが、全員で歌ったりメンバーをシャッフルしたりもする。なにせ全員曲が新曲しかないのだから、オープニングやアンコールなど、全員で歌う場面ではこういう形にせざるを得ないのだ。

 

 ちなみに新曲は全体曲一つだけじゃない上に、サプライズ用の隠し玉というものも用意している。そのために色々と手回しをしたらしいが……まぁ、確かにアレはファンにとっちゃ堪らないんだろうな。

 

(しっかし)

 

 登場時の演出について先生に意見をする良太郎をチラリと横目で見る。

 

(打ち合わせは本当に真面目なんだよなぁ、コイツ)

 

 普段の言動で騙されるが、周藤良太郎は仕事に対して誰よりも真摯である。以前のコラボ企画のときもそうだったが、こうしてライブの打ち合わせなどをしている際はいつものふざけた態度が完全になりを潜めるのだ。

 

 メリハリがついていると言えば聞こえはいいが……なんというか、釈然としないものを感じてしまうのは、俺がひねくれているからだとは考えたくない。

 

 ただ、北沢が苦虫を噛みしめたような表情で良太郎を見ているところを見ると、少なくともこの複雑な感情を抱いているのは俺一人ではなさそうだった。

 

 

 

(……あれ、北斗クン! 今回のオチは!?)

 

(たまにはこうやって何事もなく次話に続くことだってあるさ、翔太)

 

 

 




・旭さんとアカリ
それぞれ作者の別作品『かえでさんといっしょ』『ころめぐといっしょ』の主人公となっております(ステマ)

・アイ転バース
「オッケー、もう一度だけ説明しよう」

・演出家のJANGO先生
・ハート形のサングラス
元ネタは勿論、アイマス関係のライブではおなじみのあの方。
しかし何故かこちらの世界ではワンピースの『1・2のジャンゴ』の見た目となってしまった。ドーシテコーナッタ。

・ピーチフィズのアレ
決め台詞考えてあったはずなんだけど、読み返してみたらまだ一度も言ってなかったらしい。

・良太郎のアレ
覚えていた人が果たしてどれだけいることやら。

・『恩 Your Mark』
久々に考えた良太郎の楽曲。相変わらずのネーミングセンスである。



(いきなりステージに立ってのリハーサルはしないんじゃないか、というツッコミは無しの方向でお願いします)

 関係者チケットの行方を隠さないといけないから、他の事務所視点書けないのが辛いなー……なんとかならないかなぁ。



『どうでもよくない小話』

 デレ7th開催決定いいいぃぃぃ!

 しかもまた地元愛知だあああぁぁぁ! いやっふうううぅぅぅ!

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