アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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本番直前の緊迫した舞台裏。……緊迫?


Episode21 恵美とまゆの舞台裏リポート!

 

 

 

「恵美ちゃあああぁぁぁん! 良太郎さんがいないんですうううぅぅぅ!」

 

 

 

 最後のリハーサルを終え、各自の調整時間。シャワーで軽く汗を流して戻ってきたアタシの元へ涙目のまゆがダバダバと走ってきた。レモンの蜂蜜漬けが入っていると思われるタッパーを手にしているところを見ると、リョータローさんに食べてもらうために持ってきたのだろう。

 

「リョータローさん? アタシはシャワー浴びてたから分かんないな……スタッフさーん」

 

 近くにいたスタッフさんに尋ねてみると、なんでも冬馬さんを伴って散歩に行ってしまったとのこと。しかも会場内ではなく、既にファンのみんなが集まっている会場の外へと出ていったらしい。

 

「このタイミングで散歩って、相変わらずだなー」

 

 リハーサルのときもそうだったが、これだけ大きなライブの直前だというのに良くも悪くも緊張感が見えなかった。というか、今まで一緒に仕事をさせてもらってリョータローさんが緊張している姿を見たことがない。

 

「どうしてそこでまゆを連れて行ってくれなかったんですかー!?」

 

 多分ストッパーとして力不足だったからじゃないだろうか。そもそもリョータローさんを止めることが出来る人物が果たして何人いることやら……少なくとも、所属アイドルの中で考えると冬馬さんか志保の二択だ。

 

 落ち込みながらも「恵美ちゃん食べます……?」とタッパーの蓋を開けて差し出して来たので、ありがたくまゆのお手製レモンの蜂蜜漬けをいただく。

 

「二人とも、ここにいたの」

 

「あっ、留美さん、お疲れ様です」

 

「お疲れ様ですぅ」

 

 レモンの蜂蜜漬けを食べていると留美さんがやって来た。なにやら私たち二人を探していたような口ぶりだけど、何かあったのだろか。

 

 

 

「今から二人に頼みたいお仕事があるの」

 

「「……え? 今から?」」

 

 

 

 

 

 

「「舞台裏のリポートをしてほしい?」」

 

「えぇ」

 

 ハンディカメラを手渡しながら、留美さんはそんなことをアタシとまゆに頼んできた。

 

「今回のライブは後日BDでの発売を予定しているのだけど、二人にはそのBDの特典として収録する映像を撮ってきてほしいの」

 

「特典映像!」

 

 確かに一般の人ならば入ることが出来ない舞台裏の様子ならば、特典映像としては十分すぎるほど価値があるものだろう。

 

「私と他のスタッフやカメラマンも一緒に同行して、撮影している貴女たちの様子を撮影しながら撮っちゃダメなものの指示を出すけど、基本的に貴女たちの自由に撮影していいわ」

 

「そ、それはつまり……良太郎さんのプライベートな姿をカメラに収めていいという事務所側からのゴーサインと捉えてよろしいんですね!?」

 

「「よろしくないよろしくない」」

 

 曲解にもほどがある。

 

「ま、まぁ貴女が良太郎君のプライベートな姿を自分の心の内に留めておかずに世間一般に公表したいというのであれば、社長に掛け合ってみてもいいけど」

 

「アイドルのプライベートを公表するとは何事ですかっ!」

 

「「どの口が」」

 

 まゆの熱い手のひら返しはともかく、アタシたちは本番直前の舞台裏のリポートをすることになったのだった。

 

 

 

「……よし、まゆはオッケー?」

 

「おっけーですよぉ」

 

 シャワーを浴びた直後だったので、まゆと二人でメイクを整える。

 

 服は舞台裏感を出したいということで、ステージ衣装や私服ではなく123プロのTシャツとハーフパンツという地味なもの。ただしちゃんと着ているまゆとは違い、アタシは袖と裾を結んで少々露出を増やしている。まゆからは「はしたない」みたいなことを度々言われてきたが、これはこれで『アタシらしさ』なのでそろそろ認めてもらいたいところである。

 

「えっと……録画開始のボタンはこれね」

 

 撮影係というかカメラを持つ係は基本的にアタシ。しかしこのままではアタシはカメラには映らなくなってしまうので、タイミングを見て交代することになった。

 

「まずはオープニングを撮るんだけど……」

 

 このままだと画面にはまゆしか映らない。それでもいいのだろうけど、折角ピーチフィズとしてリポートをしていくのだからオープニングぐらい二人一緒に映りたい。かといってカメラマンさんに引きの絵を撮ってもらうのもなんだか面白くない。

 

「うーんと……それじゃあ、こーしよっか!」

 

「きゃっ」

 

 普段スマホで自撮りをするときのようにまゆに抱き着き、斜め上から自分たちにカメラのレンズを向ける。液晶をグルッと回してアタシたちの方へ向けているので、満面の笑みのアタシと驚くまゆの表情がしっかりと確認できた。

 

「よし、これなら二人一緒に映る! まゆ、このまま始めるよー?」

 

「うふふっ、はぁい!」

 

 

 

 

 

 

「――はっ!? 今、なにやら見逃してはいけないものを見逃したような気がする!」

 

「いきなりどうした」

 

「具体的に言うと女の子二人が抱き合ってて、胸がムギュッと……!」

 

「お前のそのテレパシーみたいな第六感、もうちょっと他に有効活用出来んのか」

 

 

 

 

 

 

「それじゃあ、録画スタート!」

 

 恵美ちゃんの掛け声と共にハンディカメラのランプが付き、録画が開始される。

 

「カメラの前のみんなー! ピーチフィズの所恵美でーす!」

 

「同じく佐久間まゆでぇす」

 

 カメラに向かって二人で挨拶をする。スマホで自撮りをするときのように体を密着させながら顔を寄せているので、恵美ちゃんの息が耳元にかかって少々くすぐったかった。

 

「BD、買ってくれてありがとうねー! アタシたちのライブ、凄かったっしょ!?」

 

「と言っても、実際にはまだこれからなんですけどねぇ」

 

「あははっ! まだ本番前だもんねぇ」

 

 ライブ開始まで、まだ五時間以上ある。しかしこの映像を実際に見る人たちにとって、感謝祭ライブは既に過去のものになっているというのが、少しだけ不思議な感じがした。

 

「今回、このBDをお買い上げいただいた皆さんへの特典として、私たちピーチフィズの二人が感謝祭ライブの舞台裏を紹介したいと思いまぁす」

 

「多分みんなには『アイドルのライブの裏側』ってのは馴染みが無いだろうから、今回はこの恵美センセーとまゆセンセーの二人が、優しく教えてア・ゲ・ル……なんっちってー!」

 

「あら、恵美ちゃんいつにも増してセクシーな感じが」

 

 ウインクと共に投げキッスをする恵美ちゃん。事務所内の女性陣ではセクシーなグラビアなどの仕事が一番多い彼女ではあるが、今のは少しだけ大人路線なセクシーさで新鮮だった。

 

 ちなみにではあるが、普段の服装で言えば恵美ちゃんに続いて志希ちゃんの肌の露出が多かったりする。これは普段から彼女が衣服に関して少し無頓着なことも関係しているのだろうが……事務所のシャワー上がりにワイシャツ一枚でうろついているのを見付けてしまったときは思わず悲鳴を上げてしまった。男性陣が誰もいない状況だったから良かったものの、流石に肝が冷えたのを覚えている。

 

「まぁ実はこれ、前に事務所のレッスンルームで美優さんがやってた『セクシーな大人の仕草』の練習の真似なんだけどね」

 

「やめてあげましょうよぉ!?」

 

 年齢的に言えば年上のお姉さんであるがアイドル的には一番後輩の美優さん。そんな彼女の恐らく人に知られたくなかったであろう秘密の特訓が見られていた上に、こうしてBD特典映像という不特定多数の人に見られるであろうところで暴露されてしまったという事実に、流石に同情を禁じ得ない。

 

 一瞬カットにしてあげるべきではと思ったものの、視界の片隅に入っている留美さんがとてもいい笑顔を浮かべていたのでノーカット&収録は確実だった。

 

「このことに関して後でちゃんと本人の話を聞きにいくけど、そこまで映像飛ばしちゃダメだぞー!」

 

 恵美ちゃんの無自覚な熱い死体蹴りが止まらなかった。感謝祭ライブ直前という物理的にも時間的にも精神的にも逃げ場のないこの状況ではあるものの、心の中では美優さんに向かって精一杯「逃げてください!」と忠告を発信するのだった。

 

「それじゃあ早速、感謝祭ライブの舞台裏を巡るツアーを始めて行きたいと思いまーす!」

 

「は、はぁーい!」

 

 最後に二人でピースサインをカメラに向けて編集点を作る。しかし基本的にはカメラは回しっぱなしという方針らしいので、このまま撮影は続けていく。

 

「あっ、御存じの方もいるでしょうが、この人が123プロの美人社長秘書兼プロデューサーの和久井留美さんでーす!」

 

「あっ、コラ」

 

 カメラを下ろした恵美ちゃんは、ニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべて私たちのことを見守っていた留美さんにカメラのレンズを向ける。普段はクールな留美さんもこれには少々慌てた様子だった。

 

 以前アイドルだった765プロの律子さんとは違い、最初から裏方に徹していた留美さんは当然テレビなどの映像メディアに出演したことはない。しかし雑誌のインタビューなどで顔写真が掲載されたことがあるため、恵美ちゃんの言う通り、留美さんのことを知っている人もいるだろう。

 

「折角なんだから、留美さんも映ろーよ! 同じ事務所の仲間なんだからさー!」

 

「私はアイドルじゃないからいいのよ! やめなさいってば!」

 

 近くにいたスタッフさんの影に隠れるようにして逃げる留美さんと、それを笑顔で追いかける恵美ちゃん。感謝祭ライブの特典映像の冒頭がこんなのでいいのかと思いつつも、これはこれで『私たちの123プロらしい』気がしたので、二人の様子を遠目にバッチリと撮影しているカメラマンさんの側へと移動する。

 

「いくら撮っても無駄よ!? ちゃんとここカットするんだからね!?」

 

「ぶーっ、留美さんのケチー!」

 

 渋々といった様子で恵美ちゃんは引き下がったが、多分留美さんの意思に反して事務所の名目上のNo.1(幸太郎さん)実質的なNo.1(良太郎さん)の権限で収録されることは火を見るよりも明らかだった。

 

 

 

「それじゃあ気を取り直してー……感謝祭ライブ舞台裏リポートの旅、出発ー!」

 

「お、おー!」

 

 

 

 

 

 

「……っ!?」

 

「どうしたんですか、美優さん」

 

「し、志保ちゃん……い、いえ……なんだか悪寒がして……」

 

「大丈夫ですか? 少し横になって………………なんでしょう、私も嫌な予感がしてきたんですけど」

 

 

 




・レモンの蜂蜜漬け
なんかスポーツとかするときに食べるといいらしいっすよ(スポーツ弱者の申し訳程度のにわか知識)

・舞台裏のリポート
イメージ的にはデレ4th円盤の特典で飯屋や武内君がやってたアレ。

・見逃してはいけないもの
※各自脳内補完

・留美さんにカメラのレンズを向ける。
(アイドル化フラグでは)ないです。
これ以上裏方減ったら流石の幸太郎でも忙殺されてしまう!



 始まりました、舞台裏編です。こういうノリこそ良太郎が適任だと思ったのですが、事務所の立ち位置的にピーチフィズの二人になりました。

 まぁこんな面白そうなことやってるのに、良太郎が黙ってるわけないんだけどね!

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