アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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あれ、なんか良太郎が真面目……?

※感想欄のことに関して、あとがきで触れます。


Episode24 恵美とまゆの舞台裏リポート! 4

 

 

 

「えっと……」

 

「何、この状況」

 

 りんとともみの困惑した声が両脇から聞こえてくる。

 

 良太郎たち123プロの感謝祭ライブにゲスト出演するために会場入りしたのだが、スタッフたちが総出でドタバタと走り回っているこの状況が全く理解出来なかった。

 

 本番直前に何かトラブルでも起きたのだろうかと思ったが……先ほどからちらほらと聞こえてくる「何処に行った!?」「向こうにはいません!」という声で、これが深刻なものではなくコメディ的なアレだと理解した。

 

「ちょっとそこのスタッフ」

 

 とりあえず近くにいたスタッフを捕まえて事情を説明させる。

 

「……はぁ、公演の円盤の特典映像を撮影していたら」

 

「そのカメラをリョウが持っていってしまったと……」

 

 状況は理解出来たが、したくなかったというのが本音である。

 

「全く、そんなくだらないことで大騒ぎするなんて……」

 

「リョウらしいといえばリョウらしいけどね」

 

 呆れたため息しかでか出てこなかったが、何が面白いのかともみは薄く微笑んでいた。

 

「何言ってるのさ麗華! くだらなくなんかないよ!」

 

 しかし、何故かりんは一人だけ憤っていた。いや、どちらかというと興奮していたと言った方が適切かもしれない。とにかく、どうやら「くだらない」という私の言葉を否定したいようだった。

 

「ちょっとそこのスタッフ!」

 

 そして先ほどの私のように近くにいたスタッフを呼び止めるりん。りんの気迫と語気の強さに、スタッフはビクリと体を震わせながら足を止めた。

 

「聞きたいことがあるんだけど!」

 

「は、はい!」

 

「BDの発売っていつ!? その映像特典っていうのは初回生産版にしかつかないタイプ!?」

 

 まぁ、そんな気はしてた。

 

 しかしどうやらそのスタッフも詳細は知らされていなかったらしい。

 

「くっ……これはりょーくんか幸太郎さんに直接聞くしかないのか……!」

 

「ねぇ、りん。それって本当に今じゃなきゃダメ?」

 

 そろそろこの辺りのやり取りを終えて打ち合わせに行きたいんだけど。

 

 

 

 ――良太郎さんいましたー!

 

 

 

 いっそのことりんをともみに任せて一人で打ち合わせをしてこようかと考えていると、そんな声が聞こえてきた。どうやら無駄にハイスペックな能力を駆使して逃げ回っていた良太郎が、いよいよお縄につくときが来たようである。

 

「アタシたちも行くよ!」

 

「えっ」

 

「なんか面白そうだし」

 

「えっ!?」

 

 りんに手を引かれた上にともみに背中を押され、私は返答をする暇なく良太郎が見つかったという声がした方へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 どうやらリョウはスタッフがいなくなった隙に、大胆にもステージのど真ん中を陣取ったらしい。一番人目につくところへ敢えて姿を表して意表をつこうとしたようだ。

 

 ステージの下、リョウから見えない場所にはスタッフだけでなくアイドルまでもが集合していた。

 

「ん、アンタら来てたのか」

 

「来てたのよ」

 

「……だからって、なんでこっちにまで来てるんだ?」

 

「知らないわよ……」

 

 はぁっ……と麗華がため息を吐くと、ジュピターの天ヶ瀬冬馬から同病相憐れむような目を向けられていた。多分同病というか同類というか、同じ穴の狢。

 

「しっ、お二人とも静かに。良太郎さんに気付かれます」

 

 そんな私たちに振り返った北沢志保が人差し指を立てる。基本的にリョウに振り回される側のアイドルである彼女だが、何やら今の状況をノリノリで楽しんでいるようにも見えた。

 

「あぁはいはい、悪かったわよ」

 

「でも大丈夫、こっちは風下」

 

「室内に風上も風下もねーよ」

 

「ともみ、そもそも良太郎が匂いで気付けるという前提で話すのをやめなさい」

 

 多分一瞬でも(出来そう)と考えてしまったらしい麗華が頭をブンブンと振った。

 

「……あれ、そういえば佐久間まゆがいないね」

 

 良太郎関連の出来事なら真っ先に反応するであろうアイドルがいないことに気付く。

 

「あ、まゆだったら念願だったリョータローさんへのあーんが意図せずして叶ったことによる許容量オーバーで寝込んでます」

 

「本番直前に何やってるのよ……」

 

「本当よ。それぐらいで情けないわね」

 

「りん、違う、そうじゃない」

 

 全く……と呆れた様子のりんは、意外なことに熱狂的なりょーいん患者である佐久間まゆとそれほど仲が悪くない。確かに顔を合わせれば笑顔で威嚇し合うような間柄ではあるが、それでも一応お互いに『アイドル』としても『周藤良太郎のファン』としても認め合っているらしい。

 

「……さて、そろそろ行くぞ」

 

 天ヶ瀬冬馬がそう呟くと、その場にいたスタッフ一同が気を引き締めるような雰囲気になった。どうやらここから一気に距離を詰めてリョウを制圧するつもりらしい。

 

「アイドルに対して『制圧』という言葉を使う場面に初めて遭遇したわ」

 

「奇遇だな、俺も初めて使う」

 

 そう言いつつ、何故か陣頭指揮を執っているらしい天ヶ瀬冬馬が指を順番に折ってカウントダウンを始める。

 

 親指が折れ、小指が折れ、薬指が折れ、中指が折れ、最後に残った人差し指をリョウの方へと向けたその瞬間――。

 

 

 

『……この映像を見ているであろう、アイドルを志している諸君へ』

 

 

 

 ――そんなリョウの声が、聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

『この映像をみんなが見ているころにはきっと、俺は……まぁ、いつもと変わらぬアイドルとしての人生を送っていると思う』

 

 言葉の内容はいつものような冗談めいたものだったが……その声色は悔しいことにアタシも滅多に聞いたことがないとても優しい声で、思わずときめいてしまった。

 

『でも俺は直接みんなに向かってこういうことを言うような人間じゃないから、せめてメッセージという形で残させてもらおうと思う。まさか映像特典にこんなのが入ってるとは、誰にも想像出来ないだろう』

 

 しかし、続けられたりょーくんの言葉に、私はその先を一言一句聞き逃すまいと姿勢を正す。見ると、その場にいた全員がそのままの姿勢で固まっていた。

 

『さて、多分最初の方に恵美ちゃんたちが撮ってるだろうけど、俺はこのメインステージからの光景を今一度みんなに見てもらいたい。……そしてこれが、君たちがやがて辿り着く光景だと言うことを、知ってもらいたいんだ』

 

 姿は見えないが、りょーくんの『よっこいしょ』という言葉が聞こえてきた。多分ステージの上に腰を下ろしたんだと思う。

 

『広いだろ、ここ。初めてここに立ったときからずーっと、俺もそう思い続けてる。その広いステージに、俺はずっと一人で立ってたんだ。……そんで最近になって、よーやく気付いたんだ』

 

 

 

 ――あぁ、このステージに一人で立つのは、寂しいな……って。

 

 

 

「っ……!」

 

 それは意外な言葉だった。意外すぎる言葉だった。

 

 『周藤良太郎』は孤高のアイドルだ。常にアイドルたちの頂点に君臨し続け、バックダンサーすら立たせずに一人でステージに立ち続けた。他のアイドルとのステージに立つことも、以前コラボした『Jupiter』を除いて存在しない。……昔からずっと一緒だったアタシたち『魔王エンジェル』ですら、一緒のステージに立ったことはなかったのだ。

 

 そんな『周藤良太郎』が()()()と言ったのだ。その言葉に衝撃を受けたのはアタシだけじゃなく、その場にいたアイドルもスタッフも全員が驚き、言葉を失っていた。

 

『きっと「意外」だとか「イメージ違う」とか「失望しましたみくにゃんのファンやめます」とか色々言われてるんだろうなぁ』

 

 でも結構自分でもビックリしてるんだよ、とりょーくんは続ける。

 

『きっかけはきっと、ジュピターの三人とのコラボ。そして今回のライブで、みんなと一緒にレッスンして、立ち位置やフォーメーションの確認して……そういうのが、すげぇ楽しかったんだよ。人には『仲間たちと一緒に立つステージ』の重要性をうたっておきながら、俺自身がそれに気づいてなかったっていう間抜けな話』

 

 

 

 ――765や346みたいに、みんなでステージに立つのが俺の憧れだったんだ。

 

 ――だから感謝祭ライブでみんなと一緒のステージに立つことが決まって、嬉しかった。

 

 

 

 以前、アタシたちに出演依頼をしにきたときも、りょーくんはそう言っていた。

 

 『楽しい』という感情は聞いていた。しかし『寂しい』という感情は初耳だった。

 

 そもそもりょーくんは何故一人で立ち続けていたのだろうか。そのパフォーマンスが一人に特化したものだったから? そのレベルにバックダンサーすらついてこれなかったから?

 

 ……もしかしたら周りの人間が勝手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と決めつけ、そういう空気になってしまったのかもしれない。確認のしようのないことだから、これはアタシの妄想に過ぎないんだけど。

 

『たぶんこの考え、人によっては「弱くなった」って取られるかもしれない。実際に自分でもそう思ってるし、間違ってない。でも……』

 

 りょーくんの言葉が途切れる。既にこの場にいる全員がりょーくんからカメラを取り上げようなんて考えは微塵もなくて、ただ彼の言葉の続きを待っていた。

 

『……いや、流石にこの辺りは俺の引退会見のときまでとっておこう。当分引退してやる気はねーけどな!』

 

 再びりょーくんの「よっこいしょー!」という声が聞こえてきた。きっと立ち上がったのだろう。

 

『ぐだぐだと自分語りしちゃって悪いね。でも、きっと……このライブが「周藤良太郎」の転機で、ここから先の「周藤良太郎」は弱くなってるかもしれない。それでも、当分は君たちアイドルの卵たちの目標として、ここに立ち続けよう』

 

 アイドルの卵だけではなく、現在活動しているアイドル全員の目標たりえる『トップアイドル』は「だから……」と言葉を続ける。

 

 

 

『早くここまで来いよ、みんな。お前たちが全員トップアイドルになって「周藤良太郎」の隣に並び立つその日まで、俺は図々しくここに居座り続けてやるから』

 

 

 

 

 

 

「りょーくん……」

 

 静まり返っていたステージ下には、いつの間にかすすり泣くような声ばかりが聞こえていた。かくいうアタシもちょっと泣きそうになってる。

 

 りょーくんとの付き合いは大分長いが、それでも彼の『弱さ』に初めて触れ……それが堪らなく嬉しかった。

 

「……ふんっ、随分と尊大な物言いね」

 

「全くだ。人のことを随分と下に見やがって」

 

 そんな中で、麗華と天ヶ瀬冬馬だけがあまりいい顔をしていなかった。この二人は今でもずっと『打倒 周藤良太郎』を掲げ続けているから、今のりょーくんの発言には少しだけ受け入れがたいものなのだろう。

 

 ……それでも話してる最中はちょっとだけしんみりした表情をしていたことを、アタシは見逃していない。

 

 二人は気づいていないかもしれないけど……きっと二人のその『想い』は、りょーくんにとっては一番嬉しいものなんだと思う。

 

 

 

『……さってと、真面目な話も終わったし、そろそろおまけという名のほんへを……』

 

「全員かかれー!」

 

『おおおぉぉぉ!』

 

 

 

 天ヶ瀬冬馬の一言で、男性スタッフ全員が飛び出していった。

 

『おわっ!? えっ、何々!? みんなどこに、や、ヤメローハナセー!』

 

 ステージの上ではきっと警察24時みたいな大捕り物が繰り広げられていることだろう。

 

「……さっさと行くわよ、二人とも」

 

「麗華……?」

 

「あのムカつく上から目線バカの鼻っ柱をへし折ってやらなきゃいけないんだから」

 

「……うん、そうだね」

 

「いひひっ、サイコーなアタシたち、見せてあげないとね!」

 

 待っててね、りょーくん。

 

 

 

 真っ先に君の隣に立つのは……絶対に『魔王エンジェル(アタシたち)』だから。

 

 

 

 

 

 

おまけ『一方その頃の医務室』

 

 

 

「なんか重要な場面に立ち会えなかった気がしますうううぅぅぅ!?」

 

「それだけ叫べればもう大丈夫みたいですね……」

 

「サブタイトルに私の名前があるのに、こんなのってないですよおおおぉぉぉ!? うえええん! りょうたろうさあああぁぁぁん!」

 

 

 




・魔王エンジェル会場入り
(別に忘れてたわけじゃないよ……?)

・「こっちは風下」
「いいか、こっちが風下だ。近づけば分かる」
「どうやってです?匂いを嗅げとでも?」
「ああそうだ!」

・りんとまゆ
実はそんなに仲は悪くない。良きライバル的な。

・『周藤良太郎』の独白
伏線というかなんというか、今回の外伝のオチというか正体というか……。
ネタばらしはこの外伝の最終話でします。
今は良太郎の言動に違和感を覚えてもらえればいいです。

・おまけ『一方その頃の医務室』
まゆ、まさかの良太郎のアレが感染する。



 なんか良太郎が真面目な話をしだしましたが、別に熱があるわけじゃないです()

 上にも書きましたが、今回の外伝全体の『正体』に関する伏線みたいなサムシングです。今はとりあえず「イイハナシダッタノニナー」ぐらいの感覚で大丈夫です。

 次回からは開演直前編です! まだまだヒッパルヨー書きたいこと沢山アルカラネー。



『どうでもいい小話』

 なんか前回までのお話で『もしかして冬馬とまゆがくっつくの?』と危惧されていた方が大勢いたようなので。

 結論として『ないです』と断言します。

 ただ、確かに受け入れがたい展開は各々にあるのでしょうが、「その展開やめて」だの「そうなら読むのやめる」だの言われても「そうですか」としか返せないということをご理解ください。

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