アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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感謝祭開幕!!!


Episode29 Like a flame!!

 

 

 

 それは一瞬の出来事だった。

 

 開演の宣言によって高まったボルテージが、メインステージのスクリーンにシルエットが映し出された瞬間、一瞬にして静まり返ったのだ。

 

 順番に浮かび上がっていくシルエットは、ちゃんと誰が誰なのかしっかりと分かった。

 

 

 

 右膝を軽く曲げ、左手を顔のすぐ横で広げている三船美優。

 

 左足を後ろに曲げて左手を腰に当て、右手の人差し指を立てている一ノ瀬志希。

 

 右を向き、少し背を逸らしながらこちらへと頭を向ける北沢志保。

 

 両膝を軽く曲げ、左手で頬に軽く触れている佐久間まゆ。

 

 右手の親指を自分に向け、左腕を後ろに伸ばした所恵美。

 

 右手をポケットに仕舞い、左手を真っ直ぐこちらに突き出している伊集院北斗。

 

 左手を腰に当て、右手で横ピースをする御手洗翔太。

 

 左手をガッツポーズにして右腕を真っ直ぐ前に伸ばした天ヶ瀬冬馬。

 

 

 

 そして、ただ右手を頭上に掲げて人差し指を真っ直ぐ上に伸ばしている……周藤良太郎。

 

 

 

 123プロダクションに所属しているアイドルが全員、そこに並び立っていた。

 

 再び湧き上がる会場。良太郎さんの黄色、冬馬さんの赤、まゆちゃんのピンク、恵美ちゃんの黒……それぞれのイメージカラーのサイリウムによって会場全体が染め上げられ、思い思いに声にならない声を上げていた。

 

 それは一部例外を除いて関係者席でも同じだった。私の横の美希と真美は、それはもう割れんばかりの黄色い声を上げている。……しかしそんな二人を笑えないぐらい、私も非常にテンションが上がっていた。

 

 徐々に大きくなっていくBGMに会場のボルテージはさらに上がり、彼らのシルエットが映し出されたスクリーンが上へと持ち上がり始めたことで最高潮に達し――。

 

「……え」

 

 

 

 ――その向こう側に誰も立っていないことに気付き、会場の熱気は一気に困惑へと変わった。

 

 

 

「あ、あれ……?」

 

「いない……?」

 

 スクリーンは完全に上がり切ったが、やはりそこには誰一人立っていなかったのだ。

 

 いつの間にかBGMも止まっており、ざわざわと困惑した雰囲気が広がっていく。

 

 良太郎さんたちのことだから、これも演出の一つなのだろうけど……それでも「何かしらのトラブルが?」という不安が頭を過る。

 

 そんな時だった。バンッという音と共にバックステージにスポットライトが当てられた。全員の視線がそちらに向かい、バックステージより前にいてメインステージを向いていた観客たちも、周りに釣られて振り返る。

 

 そして全員の視線をしっかりとバックステージに集め――。

 

 

 

『いえーいっ!』

 

 

 

 ――三つのポップアップから、三人の女性が飛び出した。

 

 

 

『一ノ瀬志希だよ~! みんなービックリしたー?』

 

『北沢志保。……今日は全力を出させていただきます』

 

『み、三船美優です。よ、よろしくお願いします……!』

 

 

 

 メインステージにいなかったアイドルたちが突然現れ、一度は下がったボルテージが先ほど以上に跳ね上がった。

 

「しきにゃあああぁぁぁん!」「私の匂い嗅いでえええぇぇぇ! 今日は気合い入れてきたからあああぁぁぁ!」「志保ちゃあああぁぁぁん!」「釣り目可愛いよおおおぉぉぉ!」「み、美優さあああぁぁぁん!」「今日もお美しいいいぃぃぃ!」

 

 歓声を上げる観客たちに向かって手を振る三人。志希ちゃんはいつものニコニコとした笑顔で、志保ちゃんはややすまし顔。美優さんも笑顔だが、やや緊張しているのがここからでも見て取れた。

 

「おかあさん! おねえちゃん! おねえちゃん!」

 

 視界の端に、隣の母親の服を引っ張る男の子の姿が目に入った。関係者席に招待された志保ちゃんの弟君で、姉である志保ちゃんの登場に目を輝かせていた。

 

 十分に手を振った後、三人は「「「せーのっ」」」とセンターステージを指さした。するとセンターステージにバンッとスポットライトが当たり、観客たちも「まさか……!」とそちらに視線を向ける。

 

 

 

『やっほー!』

 

 

 

 今度は二人の女性が、センターステージのポップアップから飛び出した。

 

 

 

『アナタのお好みは、弾けるように刺激的なアタシかな?』

 

『それとも、蕩けるように甘ーい私かしら?』

 

『所恵美とっ』

 

『佐久間まゆ』

 

『『今夜は「Peach Fizz」に酔わせてア・ゲ・ル』』

 

 

 

「きゃあああぁぁぁ!」「うおおおぉぉぉ!」「まゆすき」「めぐみいいいぃぃぃ!」「二人に酔わせてえええぇぇぇ!」「りょーくんと一緒のライブ出来てよかったねえええぇぇぇ!」「俺とあふたーすくーるぱーりーたいむしてくれえええぇぇぇ!」

 

 仲良さげに腕を組みながら周りに手を振る恵美ちゃんとまゆちゃん。123プロにおいてはジュピターに次いで三番目の人気ユニットの登場に、ただでさえ高いボルテージがさらに上がっていく。

 

 観客をさらに盛り上げた二人は「「せーのっ!」」と声を揃えてからメインステージを指さした。

 

 

 

『『『We are 「Jupiter」!』』』

 

 

 

 メインステージのポップアップから飛び出して来た三人の男性に、先ほど以上に黄色い歓声が会場内に響き渡る。

 

 

 

『御手洗翔太! 今日は君たち以上に、僕も楽しませてもらうよ!』

 

『伊集院北斗。さぁ、今日も可愛い声を聞かせておくれ……子猫ちゃんたち』

 

『天ヶ瀬冬馬! 相手が誰であろうと……今日のテッペンは俺だ!』

 

 

 

「冬馬あああぁぁぁ!」「北斗様あああぁぁぁ!」「翔太きゅうううぅぅぅん!」「お前なら勝てるって信じてるぞおおおぉぉぉ!」「私にもチャオしてえええぇぇぇ!」「俺の弟になってくれえええぇぇぇ!」

 

 先ほどよりもさらに盛り上がりを見せる観客たち。それはかつて961プロにいたときの彼らを軽く凌駕し、今や『周藤良太郎の後を継ぐ男性アイドル』とも称されるトップアイドルグループ。以前の彼らのことを知っている身としては……ちょっとだけ、歓声よりも先に涙が出そうになってしまった。

 

 観客へのアピールを終えたジュピターが揃ってセンターステージを指さした。流石に三度目ともなると、観客も「次はこっちか!」と直ぐ様そちらへと体を向ける。

 

 ……きっと観客は既に慣れていたのだろう。残るアイドルは一人で、『彼』がそこからポップアップでせり上がってくる姿を予測した。そしてそれは間違いではなく、ピーチフィズの二人が両脇に引いたセンターステージにスポットライトが当たり、ポップアップから右手を頭上に掲げた『彼』が現れた。

 

 ついに姿を表した『彼』の姿に、上がりきっていたはずのボルテージがまだ上がっていく。始まって数分にして最大級と思われる盛り上がりを見せる会場は――。

 

 

 

『聞け』

 

 

 

 ――次の瞬間、静寂に変わった。

 

 

 

 金の鎖で装飾された漆黒の外套を身にまとった姿の『彼』は、たった一言であれだけ盛り上がっていた会場を()()()()()のだ。

 

 確かに、ライブ会場を静まり返らせるほどの雰囲気というものは存在するし、そういう場面を私も何度も見てきた。765プロで言うならば、千早ちゃんや美希が出演するときにそういう場合が多い。

 

 しかし『彼』は一言で、たった一言でこのドーム内に集まった五万人以上の観客たちを一斉に黙らせてしまったのだ。

 

 この現象は『彼』のライブでは多々起こることのあるらしく、ファンの間では『王の御前』と呼ばれている。それを知っているファンはわざと口を閉ざすこともあるようだが……それでもあの空気を震わすほどの熱気を一瞬で鎮めてしまうのは、『彼』のもたらす威圧感故か。

 

 これがきっと……『周藤良太郎』というアイドルの本気。

 

 

 

『諸君。この周藤良太郎が宣言しよう』

 

 

 

 静寂に包まれる会場へ向けてそう告げた良太郎さんが、掲げていた右手を振り下ろした。

 

 

 

『……さぁ、祭りの幕開けだ! 準備はいいか!?』

 

 

 

『『『『『『『『ご来場のみなさん……123プロダクションは、いかがですか!』』』』』』』』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 それは爆音と称するしかない怒号に似た歓声だった。

 

「『恩 Your Mark』なのおおおぉぉぉ!」

 

「りょーにぃの曲だあああぁぁぁ!」

 

 大歓声の向こう側に聞こえ始めたBGMに反応した美希と真美が、両手に持ったUO(ウルトラオレンジ)を折った。パキッという音と共にオレンジ色に発光し始めたサイリウムを、リズムに合わせて振り始める二人。あちらこちらで同じように次々にUOが折られ、会場全体がオレンジ色の光に包まれた。そしてイントロに合わせて一斉に「ハイッ! ハイッ!」とコールが響く。

 

 良太郎さんの『恩 Your Mark』は、走り出す前に気合いが空回りしている人の肩の力を抜かせ、それでいて激励する曲だ。全力で走る前のアップのように弾むリズムの曲なのだが、今の会場は既に全力で走り始めている人だらけだった。

 

 しかしそれも無理ないだろう。……ずっとずっと楽しみにしてきたこのライブの一曲目に、こんなに盛り上がる曲を持ってこられてしまったら、今まで楽しみにしてきた思いが自然と歓声になって溢れ出てしまうに決まっている。

 

 本来はしっかりと振り付けのある曲ではあったが、その振り付けは左手とステップだけの簡単なものに変わっている。その代わり、三つのステージやそれぞれを繋ぐ花道などを思い思いにアイドルたちが移動して、挨拶とばかりに観客たちへのファンサービスを振りまいていた。

 

 ギャルピースを決める恵美ちゃんとまゆちゃん。どさくさ紛れに志保ちゃんに抱き着こうとして片手で押し留められる志希ちゃんと、そんな二人を見てクスクスと笑う美優さん。

 

 女性陣の掛け合いは勿論華やかなものだったが、男性陣の掛け合いも中々のものだった。

 

 センターステージからメインステージへ向けて花道を歩く良太郎さん。そして花道からジュピターの三人に向かってクイクイッと人差し指を自分に向けて曲げたのだ。

 

 それは『こっちに来い』というジェスチャーにも見えたが……私の目には『かかってこい』という挑発に見えた。

 

 それに対し、ジュピターの三人は一斉に良太郎さんへ向かって拳を突き出した。北斗さんと翔太君は笑っていて……そして、冬馬さんも笑っていた。良太郎さんへのライバル心を隠そうともせず、先ほども宣戦布告に似た言葉を発した彼が……良太郎さんの挑発に対して、好戦的な笑みで返したのだ。

 

 その彼の笑みに、一瞬だけドキッと心臓が跳ね上がったような気がした。

 

 曲が終盤に差し掛かると、それまでバラバラに動いていたアイドルたちは全員メインステージに集合していた。そして先ほどのシルエットと同じ順番……左から美優さん・志希ちゃん・志保ちゃん・まゆちゃん・良太郎さん・冬馬さん・恵美ちゃん・北斗さん・翔太君の順番に並び――。

 

 

 

『さぁ! 位置につけ!』

 

 

 

 ――恩っ! ユアッ! マークッ!

 

 

 

 まるで訓練されていたかのように最後のコールが綺麗に揃い、そして会場は再びの大歓声に包まれた。

 

 既に全力のコールと興奮で心臓がバクバクと早鐘を打っていた。

 

 そしてこれが、まだ始まったばかりの一曲目だということを思い出して。

 

 

 

 ……これからの期待で、さらに鼓動が早くなっていった。

 

 

 




・アイドルたちのシルエット
良太郎以外はそれぞれ公式絵を基にしたポーズとなっております。探してみよう!

・観客たちの反応
若干俺ら多め。

・『『今夜は「Peach Fizz」に酔わせてア・ゲ・ル』』
ずっと考えてた二人の決め台詞。ようやく使えた……。

・「まゆすき」
まゆすき

・『王の御前』
謎オーラを発することで観客を黙らせる良太郎の必殺技だぞ!
わぁい、まるで転生チート主人公のようだぁ!



 ライブシーン初めてまともに書いた気がする(小並感)(まともに書けているとは言っていない)

 というわけでついに始まった感謝祭ライブ本番! 慣れないライブシーンで皆様のお目汚しが多々あるかと思われますが、どうかお付き合いいただけると幸いです。

 さて開幕曲が終わり、続いてMCパート。その後のトップバッターは……?

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