アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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トップバッターは……この二人だ!


Episode30 Like a flame!! 2

 

 

 

(はぁ……! はぁ……!)

 

 荒い息をマイクが拾わないように、出来るだけ小さく……それでいて大きく呼吸をする。始まったばかりの一曲目を終えたばかりだというのに、既に私の息は上がってしまっていた。それは肉体的な疲労が原因ではなく……高揚と興奮。

 

 大きなステージというものは経験済みだった。けれど、このドームという会場は文字通り桁違いだった。

 

 メインステージから見ると、そこはまさしく光の海。三階まであるスタンド席全てが観客で埋まり、そのほとんどがサイリウムを振っているその様は……会場全てが光り輝いているように見えた。

 

 ……ここに立っているのは私だけの力じゃないことは、分かっている。恵美さんとまゆさん、ジュピターのお三方、そして良太郎さんといった先輩方の力が大きいことぐらい理解している。それでも……今こうしてドームという大舞台にアイドル『北沢志保』が立っているという事実に、私は内心で感動に打ち震えていた。

 

 私はついに、アイドルとして一つの到達点に辿り着いたのだ。

 

 

 

『……ついに来たぞ、感謝祭ライブだ!』

 

 

 

(っ……!)

 

 一曲目の興奮冷めやらぬ観客たちをさらに湧き上がらせる良太郎さんの声に、今からMCパートということを思い出してハッとなった。感動に浸るのは後回しだ。

 

『出演する側の俺が言うのもなんだけど……随分とまた、豪華なメンバーだよね』

 

『確かにー』

 

 北斗さんと翔太さんのやり取りに、会場が『ふーっ!』と盛り上がる。

 

『リョータローさんが他のアイドルと一緒のステージに立たないことは有名だけどー、ジュピターの皆さんも、割とそうですよねー?』

 

『俺たちは……まぁ、な』

 

『色々あったからね』

 

『うん、色々あったからね』

 

 恵美さんの問いかけに、三人揃って明後日の方向に視線を向けるジュピター。冒頭からぶち込まれたブラックジョークに会場が笑いに包まれるが……今思い返してみると、その色々あった大元である黒井社長が観に来ている状態でこれはどうなのだろか……。

 

 っと、次は私と美優さんがまゆさんから話を振られる番だ。

 

『志保ちゃんと美優さんは、ドームでのライブは初めてなんですよねぇ?』

 

『は、はい……』

 

『はい、初めてです』

 

 美優さんと二人で頷くと、会場からは「待ってたよー!」という声を皮切りにして拍手が巻き起こった。台本には当然なかったが、美優さんと一緒に「ありがとうございます」と頭を下げる。

 

『そんなドームライブ初体験な二人がいる中、申し訳ないことに今日は俺も一切自重する気はないということをお伝えしておこう』

 

 そんな良太郎さんの宣言に、再び沸き立つ観客たち。

 

『そして自重はしないけど休息はちゃんとする。大事、休息。無理、絶対ダメ』

 

 そう言いながら良太郎さんはいつの間にかステージの隅に用意されている水が入ったペットボトルの蓋を開けていた。まだ一曲しか披露していないものの、確かに観客席でも何人かが飲み物を飲んでいる姿が見えた。

 

『開演前の諸注意にもありましたが、今日の公演に休憩はございません』

 

『全員、ちゃんと適度に休憩してよー!』

 

『皆さんが体調を悪くされては、私たちも心が痛みます』

 

 美優さんの『休憩なし』宣言辺りで歓声が上がりつつも、恵美さんとまゆさんの呼びかけにはしっかりと『はーい!』という返事が返ってきた。

 

『特に今日はなんか熱いからな』

 

『いや、それはお前がそんな大層なマントを着てるからだろ』

 

『やっぱり?』

 

『やっぱりもなにも、さっきからお前が何か行動するたびにジャラジャラジャラジャラ煩いんだよ』

 

『それは俺も思ってた』

 

 冬馬さんの言葉に同意した良太郎さん。観客に見せるようにわざと鎖を鳴らしながらバサリとマントを翻すと、確かにジャラジャラと鎖が音を立てた。そのワンアクションだけで会場が「おぉっ!」とどよめくのだから、流石は老若男女問わない人気アイドル『周藤良太郎』である。

 

『ちなみにこれ、後でカッコよく脱ぎ捨てる予定だから、お前たち見逃すんじゃないぞ?』

 

『期待してますっ!』

 

『誰よりも真っ先に反応した……』

 

 台本通りの進行とはいえ、この反応の早さはまゆさん自身の素の早さだと思う。

 

『それじゃあ早速ライブを始めていく前に……これだけはやっておこうかな』

 

「……え」

 

 ここまで順調に台本通りの進行だったのだが、突如として良太郎さんが予定になかったことを言い始めた。確かここはこのまま次の曲のフリをするはずだったのだが……。

 

 チラリと横目で恵美さんを見ると、口パクで(リョータローさんらしいよねー)と言いながら苦笑していた。確かに前もって社長や冬馬さんたちから「良太郎はいきなりアドリブ入れてくることもあるから気を付けて」という旨の話を聞いていたが、まさかいきなりそうなるとは思っていなかった。

 

『俺が一目置いてるアイドルのリスペクトなんだけどね』

 

 そう言っておもむろにヘッドセットマイクを外し始めた良太郎さん。多分音響スタッフが焦ってるんだろうなぁと考えていると、良太郎さんはすぅっと息を吸い込んだ。

 

『あっ』

 

 それは一体誰の声を拾ったものなのかは分からないが、それを漏らしたのは間違いなくステージ上にいる私たちの内の誰かだった。以前のリハーサルでの出来事を思い出し、自然と私たちは良太郎さんから距離を取って耳を塞いだ。

 

 

 

「アリーナ席も! スタンド席も!」

 

 

 

「二階席も! 三階席も! そして見切れ席も!」

 

 

 

「何処にいたって見逃してやらねぇからな!」

 

 

 

「全員、気ぃ抜くんじゃねぇぞっ!」

 

 

 

わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 音響機器に頼ることなく自身の声量だけでこのドームという広い空間にその言葉を轟かせた良太郎さんに、観客たちも負けじと大歓声を上げた。

 

『……あっ、ライブビューイング会場だけは勘弁してな。ちょっとトップアイドルになっても千里眼みたいな便利なスキルは貰えなかったから』

 

 再びヘッドセットを付けて発した良太郎さんの言葉は先ほどとは打って変わって軽いもので、歓声はそのまま笑い声に変わった。

 

『そういえば千里眼といえばついに――!』

 

『やめろぉ! いくらお前がそのゲームのプレイヤーだと公言していても、このライブの協賛にその会社はいねぇんだからな!?』

 

『ピックアップは絶対に回すからなあああぁぁぁ!』

 

『やめろっつってんだろぉがよおおおぉぉぉ!?』

 

 折角カッコよく決めたというのに、またしても自ら落としにいくとは……裏で社長に怒られるんだろうなぁ。

 

『はいはーい! リョータロー君のゲーム事情は今日は置いておいて、ライブ始めるよ! お客さんたちだってウズウズしてるんだから!』

 

 翔太さんが『ねー!? みんなー!?』と呼びかけると、観客たちはそれに歓声という形で応えた。

 

『おっと、悪い悪い。それじゃあ……本格的に、祭りを始めていくぞ!』

 

 良太郎さんは高々と掲げた右手を、真っすぐと振り下ろした。

 

 

 

『トップバッターは……お前たちだ!』

 

 

 

 

 

 

「一目置いてるアイドルのリスペクト、だって。誰のことかしらね~?」

 

 私の隣に座るこのみさんがニヤニヤ笑いながら「うりうり~」と肘でツンツンと小突いてくる。

 

「い、いや、その……わ、私のアレも、別のアイドルの真似なので、決して私というわけじゃ……」

 

「なぁに言ってるのよ! 今やアレはアイドル『天海春香』の代名詞でしょ?」

 

「代名詞とまで言われると、それはそれでちょっと複雑なんですけど……」

 

 私の勘違いや自惚れじゃないのであれば、良太郎さんが発した先ほどのセリフの元になっているのは、私がライブの際のよく口にする『後ろの席まで、ちゃんと見えてるからねー!』というセリフだろう。

 

 これも本当は昔のアイドルの真似だったりするのだけど……今では私の定番のセリフとして世間では定着してしまったらしく、少しだけ申し訳ないような気になってしまう。

 

(一目、置いてる……!)

 

 しかし、今はそれ以上に……良太郎さんに『一目置いてるアイドル』と言われたことが、顔がにやけそうになるぐらい嬉しかった。

 

「「じー……」」

 

 隣から美希と真美の視線が飛んでくるが、それも全然気にならない。……やっぱりちょっと気になるけど、それ以上に嬉しかったのだ。

 

 また一つ、私は『輝きの向こう側』に近付けたような気がしたのだ。

 

『……本格的に、祭りを始めていくぞ!』

 

 そんな良太郎さんの声と歓声にハッとなった。今は喜ぶことよりも、ライブを楽しむ方が先決だ!

 

『トップバッターは……お前たちだ!』

 

 そう言って良太郎さんが掲げていた右腕を振り下ろす。

 

 一瞬の静寂の後にイントロが流れ始め……その数フレーズで誰の何の曲なのかを理解した観客たちは歓声を上げながらペンライトの色を『黒』と『青』に変えた。

 

 

 

『トップバッターはー……! 所恵美とー!』

 

『一ノ瀬志希ちゃんだー!』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!

 

 

 

『『Make me happy! いつだって!』』

 

 

 

「めぐみぃの『アフタースクールパーリータイム』だあああぁぁぁ!」「しかもしきにゃんとのコラボだとおおおぉぉぉ!?」「こいつぁ俺たちを生かして帰す気はねぇなあああぁぁぁ!?」

 

 恵美ちゃんの一つ目のソロ曲であり人気曲でもある『アフタースクールパーリータイム』は、ユニットメンバーであるまゆちゃんと一緒に歌っているところを何度か見たことがあった。しかし、同じ事務所内でもユニット外でのコラボは意外になかったため、今までにはなかった組み合わせに観客たちは一気に盛り上がりを見せた。

 

 他の出演者は裏に下がり、その代わりに良太郎さんの単独ライブでは見ることのないバックダンサーがステージ上に姿を現す。バックダンサーと共に大きく手を振るダンスをしながら、恵美ちゃんと志希ちゃんはとてもいい笑顔を浮かべていた。

 

「なるほど! 今日はこういうサプライズもあるわけね!」

 

 このみさんも両手に持ったペンライトの色を恵美ちゃんの黒と志希ちゃんの赤に変え、コールに合わせながら興奮気味に上下に振っていた。

 

 オープニングを終えた一曲目からこれだけ盛り上がる曲を持ってきたことで、今日のセトリへの期待は否応なしに膨らんでいくのだった。

 

 

 




・ブラックジョーク
なお台本を考えた演出家は黒井社長が来ていることを知らなかった模様。当然である。

・『今日の公演に休憩はございません』
寧ろ最近デレマスの現場しかいない人には休憩がないことがデフォのような気もする。

・千里眼
・ピックアップ
マーリンてめえええぇぇぇ! マジで覚悟してろよおおおぉぉぉ!

・恵美と志希の『アフタースクールパーリータイム』
現実でも二次創作でも、絶対にここ以外では実現しない組み合わせ。
あーあー! 作者に人力ボカロを作る技能と才能があったらなー!



 皆さん気になったであろうトップバッターは恵美と志希でした!

 基本的にセトリは『自分だったら絶対に盛り上がる!』という好みをぶち込んでいくことになりますので、もし好みに合わなくても勘弁してね!

 次回は少々ステージの裏側へ。

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