アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ライブ中のアイドルの裏側事情。


Episode31 Like a flame!! 3

 

 

 

「始まったよー!」

 

「始まりましたー!」

 

 『アフタースクールパーリータイム』を披露している恵美ちゃんと志希をステージに残し、俺たちはステージ裏へと戻ってきた。ヘッドセットマイクとイヤホンモニターを外してスタッフに返していると、翔太とまゆちゃんがカメラに向かって満面の笑みと共にピースサインをしていた。

 

「俺も俺もー!」

 

 二人に続いて俺も「始まったぜ」とピースサインをカメラに向ける。さらにそれを見ていた他のメンバーも「……始まったぞ」「始まったよ」「始まりました」「は、始まりました……」と順番にカメラに映っていく。

 

 恵美ちゃんと志希以外の全員が映り終え、ここからしばらくは慌ただしく動くことになる。ライブが始まってしまった以上、多少の休憩は挟みつつも基本的にステージはノンストップだ。

 

「僕たちはこのまま準備に入るよ」

 

「頑張ってきまぁす!」

 

「うん、期待してるよ」

 

 次は翔太の『BACK FLIP☆EMOTION』、まゆちゃんの『エヴリデイドリーム』と続くので、待機を始める二人とハイタッチをする。

 

 このブロックはその後、志保ちゃんの『ライアールージュ』、俺の『Dangerous DEAD LiON』と続くので、俺もこのまま休憩ではなく準備に入る。とはいえ今更振り付けや歌詞の確認をすることもないので、パイプ椅子に座ってメイクさんにファンデーションを軽く塗り直してもらいながら、モニターで会場を見守ることにする。

 

 メインステージからセンターステージへの花道を歩きながら歌う恵美ちゃんと志希。とても新鮮な組み合わせによる曲の披露に、観客たちは我を忘れて歓声を上げている様子も見て取れた。

 

 今回のライブではこのように、()()()()()()()()()()という演出が多々存在する。何せ123プロは基本的に個人やユニット単位で活動しているため、その他のメンバーと共に曲を披露する機会がほぼなかった。つまりユニット曲はあってもそれ以外のメンバーとの曲がない。しかし折角の事務所の感謝祭ライブなのだから、普段はお目にかかれない組み合わせによるステージを観客は見てみたいだろう。という意見に対して全員が『やってみたい!』と声を揃えたのだ。

 

「でも、ちょっとだけ意外でした」

 

「何が?」

 

 俺の後ろで歌詞とステップの確認をしていた志保ちゃんがポツリと呟いたので、一体何のことを言っているのかと聞き返す。

 

「志希さんです。確か、ご自身でこの曲を歌いたいと申告されたんでしたよね?」

 

「あー……らしいね」

 

 こういう誰が誰の曲を歌うのかというものを含めたセットリストを考えたのは演出家(JANGO先生)だが、それは勿論俺たちの要望も考慮した上で構成されている。

 

 その打ち合わせの段階で、なんと志希自らが「恵美ちゃんと一緒に『アフタースクールパーリータイム』を歌ってみたい」とJANGO先生に申し出たらしいのだ。

 

「確かにそうだね」

 

 そもそもアイツが自分からそういう要望を口にすること自体が珍しい上に、その曲が普段志希が歌う曲のイメージとはかけ離れた恵美ちゃんの『アフタースクールパーリータイム』なのだから、志保ちゃんの感想にも頷ける。

 

「これはあくまでも俺の予想なんだけどさ」

 

「はい」

 

「……羨ましかったんじゃないかな?」

 

「……はい?」

 

 恵美ちゃんの『アフタースクールパーリータイム』が羨ましかったという意味ではなく、()()()()()()()()()()()が羨ましかったのではないか、という意味だ。

 

 昔の志希は『自分の興味が湧いたもの以外は一切関心を示さない』人間だった。しかしアイドルという彼女自身でも全てを把握しきることが出来ない不確定要素の塊と出会い、俺の後を追って海外から日本へと戻ってきた。

 

「そうして志希自身もアイドルになって……恵美ちゃんやまゆちゃんたちに出会った」

 

 今まで自分の興味があることしかなかった志希の世界に初めて現れた()()()()()()()。彼女たちの交流は志希にとっては……きっと『刺激的な退屈』だったのだろう。

 

 そんな今までには感じたことのない刺激の中で、少しずつ志希は変わっていった。

 

 大きなきっかけが一体何だったのかまでは分からないが……それでも『アイドル』だけではなく、志希は『女の子』にも憧れるようになった。

 

「……って、俺は考えてる」

 

「……志希さんは元々女性ですが……という意味では、ないですよね」

 

 俺の言いたいことが分かってくれたらしい志保ちゃんは、そう言って納得したように小さく頷いた。

 

『……恵美ちゃん!』

 

『なにー!? 志希!』

 

 ラスサビに入るまでの僅かな間奏で、志希が恵美ちゃんを呼んだ。

 

 

 

『……アイドルって、楽しいね!』

 

 

 

『っ……!』

 

 たった一言ではあるが、無邪気な笑顔と共に放たれた志希のその言葉は、泣き虫な恵美ちゃんの涙腺を崩壊させるには十分すぎる破壊力を有していた。まだライブは始まったばかりだというのにも関わらず、恵美ちゃんの両目からボロボロと大粒の涙が流れ始める。

 

 そんな状態でまともに歌えるはずもないので、涙声になってしまった恵美ちゃんの代わりに志希が歌い始めた。観客の中にも泣き始めた人がいるらしく、コールが若干小さくなった気がするのはおそらく気のせいではないだろう。

 

「志保ちゃんは我慢しなよ?」

 

「泣いてません!」

 

 そう強がりつつも、志保ちゃんの目元には光るものが見えた。実際これは俺でもちょっとだけ危なかった。

 

「『アイドル』っていう特別の中で『女の子』っていう平凡を見出すところが、志希らしいと言えば志希らしいか」

 

 逆に『天才(ギフテッド)』と呼ばれる志希にとっては、それこそが求めていた『特別』なのかもしれない。

 

「でもそれは、良太郎君のおかげでもあるんだろうね」

 

「俺の?」

 

 俺の前のパイプ椅子に座ってモニターを見ていた北斗さんが、優雅な動作で振り返った。

 

「だってそうだろう? 『周藤良太郎』なんていう特別の塊みたいな存在の側にいたからこそ、周りの人間どころか本人でさえ志希ちゃんを特別視しなかったんだから」

 

「あー……小顔効果的な?」

 

「良太郎君、その例えで本当にいいのかい?」

 

 そんなやり取りをしている内に、恵美ちゃんと志希のステージは終わりを迎えようとしていた。最後のワンフレーズを歌い終え、先ほどから感極まりっぱなしの恵美ちゃんはそのまま志希に抱き着こうと腕を広げるが――。

 

 

 

『志希ぃぃぃ! ……ってもういないし!?』

 

 

 

 ――早々にステージ裏へ戻ってしまったらしい志希はそこにいなかった。志希にしては殊勝な態度だと思った矢先にこれであるが、逆に安心感があった。

 

 歓声と笑い声に背にしつつステージを後にする恵美ちゃんの姿を見届けて、モニターから目を外す。

 

「たっだいまー」

 

 しばらくすると、先にステージから降りた志希がモニターのある待機場所に戻ってきた。いつも通りのニヨニヨとした笑みに汗を浮かばせながら……それでいて、とても満足そうだった。

 

「おかえり。一曲目から随分と飛ばしてきたじゃないか」

 

「にゃははー! 流石のシキちゃんも、大舞台の緊張感に当てられちゃったみたい!」

 

 ペロッと舌を出しながら「ガラにもないことしちゃったー」と笑う志希。

 

「志希いいいぃぃぃ!」

 

 志希の後を追う形で恵美ちゃんが戻ってくるが、その顔はモニターで見ていたステージ上よりもさらに涙で崩れていた。激しく動くために汗に強いメイクをしていなければドロドロに溶けてしまっていたことだろう。

 

「もう! もう! 一曲目からあんなこと言うなんて! 何考えてるのさ!」

 

「にゃはは、ゴメンって! ……でも、ステージの上じゃないと言えそうになかったからさ」

 

「あああぁぁぁもおおおぉぉぉまたそーいうこと言うううぅぅぅ!」

 

 志希にしがみ付くように抱き着きながら「アタシも大好きいいいぃぃぃ!」と号泣する恵美ちゃんの背中を、志希は「別に好きとは一言も言ってなかったけど……まーいっか」と零しながら軽くポンポンと叩く。

 

 そんな彼女たちの様子を、舞台裏カメラマンがしっかりと収めていた。天然で撮れ高を提供する辺り、二人とも根っからのアイドルである。あっ、ちゃんと俺たちは映らないようにしてくださいよ。女の子の友情の間に男が入ると荒れる原因になるから。(個人の感想です)

 

 ちなみに向こうから若干寂しそうなまゆちゃんの「私も混ぜてくださあああぁぁぁい!」という叫び声が聞こえてくるが、残念ながら君は出番が差し迫っているので遠慮してもらいたい。友情の確認はステージを終えてからじっくりとお願いします。

 

 モニターでは翔太のステージが始まっており、先ほどよりも多くの黄色い声がここまで聞こえてくる。

 

「二人とも、ほどほどにしておいてくださいよ」

 

 恵美ちゃんと志希のやり取りを横目で見つつ、さりげなく目元の涙を拭った志保ちゃんは「いってきます」と言って待機しに行ってしまった。

 

「よし……それじゃあ俺も、ちょっと身体ほぐすかな」

 

 既に一曲終えて身体は温まっているが、次に歌う『Dangerous DEAD LiON』(通称:死んだライオン)は俺の曲の中でもかなりダンスが激しいので、万全を期すためには少しでも身体を動かしておいても損はない。

 

「あーあー! これで俺の身体がちょっとぐらい硬かったら、女の子に背中を押してもらうイベントが発生するのになー!」

 

「うるせぇから体動かすなら向こう行け」

 

「ウーッス」

 

 有難い(残念な)ことに高町ブートキャンプによる基礎トレーニングのおかげで180度の開脚前屈が出来てしまうので、柔軟で背中を押してもらう必要がないのだ。

 

 冬馬の正論に対する反論を持ち合わせていなかったので、大人しく身体が動かせる場所へと移動するのだった。

 

 ……その前に。

 

「志希」

 

「んー?」

 

 抱き着かれていることをいいことにコッソリと恵美ちゃんをハスハスしている志希に一言だけ言っておこう。

 

 

 

「この程度で満足したとか言わないよな?」

 

「……言うわけないじゃーん」

 

 

 

 ニヤリと笑う志希。

 

 その笑顔はアイドルというよりは、高みを目指すアスリートのそれに近かった。

 

 

 




・『BACK FLIP☆EMOTION』
翔太のソロ曲。ライブでコールしてぇなぁ……。

・『Dangerous DEAD LiON』
良太郎のオリ曲。死んでも尚脅威を与え続ける百獣の王のような曲(適当)
ライオンは死んでいますが、ライブは盛り上がるので問題ありません(マックスウェル並感)(テテテテテッテッテー)(そしてこの顔である)

・志希ちゃんのアレコレ
アイ転時空の志希にゃんは良太郎という別種のギフテッドの近くにいたため、彼の影響を受けて原作よりも『女の子』してます。まぁ根っこの部分は逆に自重が外れてデンジャラスですが。

・「小顔効果的な?」
大きい人と並ぶことで自分が相対的に小さくなる的な。

・女の子の友情の間に男が入ると荒れる原因
百合の間に入ろうとすると、一部過激派から○○されるので注意。



 恵美の曲にもかかわらずメインが志希にゃんになっていた件について。一応外伝なのにメインキャラを掘り下げるとかどーいうことなんですかねぇ……?

 次回は再び観客席側に視点が戻ります。

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