アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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王様の戯れ……おや?


Episode38 Like a storm!? 2

 

 

 

(ベタだなぁ……)

 

 有名なSF映画のBGMであるところの『帝○のマーチ』と共に姿を現した周藤良太郎さんの姿を見た瞬間、杏の胸中に浮かんだのはそんな言葉だった。いやまぁ、このシチュエーションがこんなにも合うアイドルがどれだけいるのかという話であるが。それこそ、かの有名な『日高舞』ぐらいじゃないだろうか。

 

 そんなベタなシチュエーションで登場した良太郎さん。最初のブロックで『Dangerous DEAD LiON』を披露した際に脱ぎ捨てたマントを再び身に纏っていて、足を組みながらテンプレートな玉座に腰かけている。手すりに肘を置いて頬杖をついている様は、まさしく『王様』。……何処かで見たことある気がしたけど、これ『Muscle Castle』だ。

 

「きゃあああぁぁぁ!」

 

「良太郎さあああぁぁぁん!」

 

「リョウ君カッコいいよー!」

 

 観客たちはそんな王様ムーブをする良太郎さんに盛り上がっているし、杏の前の三人も例に漏れず盛り上がっていた。

 

「きゃあああぁぁぁ!」

 

 そして杏の後ろからは同じような美波ちゃんの声も聞こえてきている。彼女も最初の頃と比べると随分と丸くなったものである。良太郎さんにあまりいい顔をしてなかった頃が嘘のようである。いや、美波ちゃんは元々……。

 

『おい良太郎、これは一体何の茶番――』

 

 

 

『無礼者! こちらにおわすお方をどなたと心得る!』

 

 

 

『――お、おう』

 

 呆れ顔の天ヶ瀬さんが良太郎さんに話しかけた瞬間、良太郎さんの隣に従者よろしく控えていた佐久間さんがクワッと目を見開きながら一喝した。普段の天ヶ瀬さんならばきっと言い返している場面だとは思うが、あまりにも意表を突かれたらしく困惑していた。

 

『恐れ多くも日本のアイドルの頂点に立たれる覇王! 周藤良太郎様にあらせられるぞ!』

 

 何か佐久間さんが格さんみたいなことを言い出した。

 

『皆のもの、頭が高い……控えおろう!』

 

『いえ、まゆさん……いきなりそんなこと言われましても――』

 

 

 

 ははあああぁぁぁ!!!

 

 

 

 恐らく今後の人生でも約五万人の人間による一斉の『ははぁ』を見る機会はないと思う。勿論杏はやってないから会場の様子がよく分かるんだけど、随分と異様な光景が広がっていた。すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。

 

 そしてチラホラと見える杏と同じように頭を下げていない観客。流石にアレルギー持ちは会場にいないだろうし、きっと抗体持ちだろう。

 

『……そうですよね、皆さんならやりますよね……』

 

 これにはステージ上の北沢さんも思わず呆れたように溜息。天ヶ瀬さんも同じような表情で、他のメンバーは曖昧な笑みを浮かべているだけだった。

 

『………………』

 

 そして良太郎さんも王様のように厳かに右手を挙げる。多分『面を上げよ』的な意味なんだと思うんだけど、勿論頭を下げている観客たちには見えていない。

 

『……面を上げよ』

 

 なんとなくこの微妙に締まらない感が『周藤良太郎』というよりは良太郎さんって感じだった。

 

『……それで? これは一体なんの――』

 

『無礼者! 口を慎みなさい!』

 

『――話が進まねぇ……』

 

 天ヶ瀬さんが言葉を発しようとするたびに遮る佐久間さん。こちらはこちらで王様の忠臣ムーブなのだろうが、普段からの天ヶ瀬さんへの当たりの強さが見え隠れしている。

 

『王よ』

 

 すると伊集院さんが胸に手を当てながら片膝を突いた。

 

『卑賎なる我々に、どうか王の意向をお聞かせ願えないだろうか』

 

 同じようにスッと膝を突いて頭を下げる御手洗さんと所さん。この辺りはノリが良いメンバーが真っ先に動き、それに続く形で他のメンバーも困惑しつつ膝を突いた。天ヶ瀬さんと北沢さんが最後まで渋っていったが、所さんに『時間押してるから』と言われて嫌々頭を下げていた。

 

 そしてセンターステージ上のアイドル全員が頭を下げ、ついでに一部の観客たちも再び頭を下げるという異様な光景第二弾が眼下に広がる中、ゆっくりと良太郎さんが口を開いた。

 

 

 

『……この王様ムーブ、そろそろやめていい?』

 

 

 

『『『だあああぁぁぁ!?』』』

 

 天ヶ瀬さん・御手洗さん・所さんの三人が盛大にずっこけた。正直杏も力が抜けて椅子から滑り落ちそうになったし、実際に滑り落ちている観客も何人かいるようである。

 

『ここまで乗ってやったんだから、最後まで貫き通せよ!』

 

『いや、口数少なくなるからテンポ悪くなるんだよ』

 

 良太郎さんは『はーい終了ー!』とパンパンと手を叩くと、ずっこけていたメンバーも苦笑しつつ立ち上がった。ほとんどの観客は少々面食らっているかもしれないが、普段の良太郎さんを知っている面々からしてみたら謎の安心感を覚えてしまった。

 

『まゆちゃんも付き合ってくれてありがとうね』

 

『いえいえ。あれ一度やってみたかったんですよぉ。控えおろうって』

 

 先ほどとはうって変わってほにゃりとした笑みになる佐久間さん。多分彼女のテンションが上がっているのは、良太郎さんの従者という役柄を演じることが出来たからというのもあるだろう。……従者というか崇拝者に近い気もするけど。

 

『はぁ……今の茶番でも十分タイムロスしてるんだから、さっさと進めろ』

 

 杏も天ヶ瀬さんと同意見だった。

 

『まゆちゃん、説明よろしく!』

 

『はぁい! 皆さんには今から「ミニゲーム」をしていただきまぁす』

 

 良太郎さんがパチンと指を鳴らすと、佐久間さんは右手を掲げながらそう告げた。

 

『ミニゲーム?』

 

『はぁい! いくつかのミニゲームで皆さんに勝敗を争っていただき、()()()()()()()()()()方には罰ゲームを受けていただきまぁす!』

 

『うげ……』

 

 ますます『Muscle Castle』染みてきた。

 

『さぁ、罰ゲームが嫌なら他者を蹴落とし勝ち上がれ! 俺たちは同じ事務所の仲間だが、今この瞬間は敵同士となるのだ!』

 

 やめると言いつつ堂の入った王様ムーブである。どちらかというと『他人のデスゲームを眺めて楽しんでいる権力者』ムーブと言った方が近いかもしれない。

 

『っていうか、そのミニゲーム、リョータロー君はやらないの?』

 

『俺はホラ、王様ポジションだから』

 

『なにそれずっこい!』

 

『横暴だー!』

 

『あ~聞こえんな!』

 

 御手洗さんと一ノ瀬さんの抗議の声も何処吹く風で聞き流す良太郎さん。しかしそんな余裕の態度も、気不味そうな佐久間さんの一言によって崩れ去る羽目になる。

 

『え、えっと……それがですね……』

 

『ん?』

 

 

 

『……良太郎さんは、最後の一人の方と争っていただくことになるそうです』

 

 

 

『……え!?』

 

 今の驚きの声の高さから察するに、どうやら良太郎さんも知らなかったらしい。

 

『それで俺が負けた場合はどうなるの?』

 

『……罰ゲームです』

 

『逆シード!?』

 

『ごめんなさい! 社長から「黙っているように」と頼まれていまして……!』

 

『あんにゃろう……』

 

 まさかの忠臣からの裏切りである。これには天ヶ瀬さんもニッコリ。寧ろ良太郎さんを指差しながら『ざwまwぁw』と爆笑していた。

 

「まゆちゃんでも、良太郎さんを騙すようなことするんだ……」

 

 後ろの席の天海さんが驚いているように、どうやらこれはかなり珍しいことらしかった。

 

『はぁ……決まったものは仕方ない』

 

『その、勿論まゆもミニゲームには参加しますので……』

 

『大丈夫』

 

 良太郎さんは『気にしてないよ』とヒラヒラ手を振り、足を組みかえながら『それに』と言って再び王様ムーブをしつつ頬杖を突いた。

 

 

 

()()()()()()()の話だろ?』

 

 

 

『……っ!』

 

 そのたった一言で、会場全体が息を飲んだのを感じた。

 

 これまでで一番王様っぽい……というより彼の二つ名である『覇王』らしい言動だった。そのたった一言の中に『絶対に負けない』という、これまでアイドルの頂点に立ち続けている『正真正銘のトップアイドル』としての絶対の自信に満ち溢れていた。

 

『はい! それじゃあ始めていこうか! ……進行は予定通りまゆちゃん?』

 

 ――いえ、ここからは私がさせていただきます。

 

 良太郎さんの疑問に応えたのは、天からの声だった。ステージ上にいるアイドルではなく、そして開演前の諸注意でも聞いた声に会場がざわつく。

 

 ――皆さん、改めて自己紹介させていただきます。

 

 ――123プロダクションプロデューサーの和久井留美と申します。

 

 どうやらアイドルではないスタッフが進行するようだ。

 

 ――それでは『ミニゲーム』の説明をさせていただきますので、皆さんメインステージへとお集まりください。

 

 和久井さんの言葉に、センターステージにいたアイドルたちが花道を通ってメインステージに集まる。その間に良太郎さんが座っていた玉座が撤収され、約五分天下は幕を閉じた。

 

『ざまぁ』

 

『自分だけ楽しようとした罰だよ』

 

『うっせぇ』

 

 良太郎さんの腕を軽く小突く天ヶ瀬さんと御手洗さん。少々男子高校生のような子どもっぽいやり取りに、会場のお姉様方が色めきだった。

 

『私たちは一体何をさせられるんでしょうか……』

 

『でも、これでこのミニコーナーと罰ゲームはちゃんと社長や留美さんの審査を通ったということですから、よっぽど酷いことではないということが保証されました』

 

『そーそー! こーいうのは開き直って楽しんだ方がいいってー!』

 

 不安がり若干顔色が悪い美優さんの背中に軽く手を添える志保ちゃんと肩をポンポンと叩く恵美ちゃん。こちらはこちらで女性陣の絡みに会場が湧き上がる。

 

 ――さて、皆さん集まりましたね?

 

『はーいセンセー! 集まりましたー!』

 

 代表して良太郎さんがそう応えると、天の声さんはコホンと咳ばらいを一つ。

 

 

 

 ――アイドルの諸君! ニューヨークへ行きたいかー!

 

 

 

『アンタまでボケたら収拾つかねぇんだよおおおぉぉぉ!?』

 

 冬馬さんの全力のツッコミと共に、波乱のミニゲームコーナーが幕を開けたのだった。

 

 

 




・かの有名な『日高舞』ぐらいじゃないだろうか。
番外編ではこのBGMでラジオに突入してたりする。

・『無礼者! こちらにおわすお方をどなたと心得る!』
感想だとジオウムーブを期待されていたけど、王道を行く水戸黄門ムーブ。

・約五万人の人間による一斉の『ははぁ』
我々は約五万人による正拳突きは見ているはず。

・すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
AA略

・……従者というか崇拝者に近い気もするけど。
杏は確信に迫る。

・『まゆちゃん、説明よろしく!』
「シズ! 説明よろしく!」

・『逆シード!?』
良太郎の戯れ? 残念! そうはいかないんだなぁ!(ゲス顔)

・ニューヨークへ行きたいかー!
たぶん世代的に留美さんも直撃はしてないと思う。



 というわけで定番のミニゲームタイムです。そして一人王様ムーブで高みの見物をしようとしていた良太郎も、同じ土俵どころか不利な状況に陥る羽目に。

 さぁ、ゲーム開始!



『どうでもいい小話』

 ついにバンドリに手を出した作者。アニメ全話および劇場版視聴完了。

 ……ロゼとかRASとか出したいなぁ……(私欲による願望)

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