新年早々趣味に走ります。
それは、あり得るかもしれない可能性の話。
目を開けると、そこには乳があった。
「……んん?」
比喩表現とかそういうのじゃなくて、本当に眠りから覚めると目の前にはTシャツに包まれた大乳があったのだ。
「……ふむ」
「んっ」
とりあえず一揉みしつつ、果たしてこれは誰のものだろうかと考える。申し訳ないが、この大きさは美嘉ではない。昔から大分逆サバを読んでいる彼女であるが、それでもまだこのサイズには至っていない。
「……むむ」
「んんっ」
もう一揉み。大きさ的には加蓮や唯の可能性もあるのだが、流石にここまで大きくない。加えて彼女たちの胸はもう少し張りがあるが、この胸は突きたての餅のようなやわっこさだ。よって彼女たちのものでもない。
(……まぁいいか)
「ひゃっ」
なんで朝からこんなに頭を使わなければいけないんだと思い至り、そもそも誰の胸でもそれほど関係なかったという結論に達し、そのまま目の前の膨らみへと顔を埋めた。顔面でその柔らかさを堪能しつつ二度寝を敢行するのだった。
「えっ……寝た? また寝ちゃった? 待って待って待ってマジ? 周藤良太郎がボクの胸に顔を埋めて寝てるんだけどこれマジうわちょっと髪、髪が、え、男の人なのにいい匂いする凄いアイドル凄いヤバいヤバいちょっと興奮してくる恋人が甘えてくるとか何このシチュエーション現実凄すぎるマジでこんな美味しい思いタダでしていいの料金発生しないとか価格破壊どころじゃないよというか恋人って恋人って恋人ってヤバいやっぱりまだ現実味湧かないだって恋人だよボクに恋人だよしかもあの周藤良太郎が朝ベッドの中で甘えてくるんだよなんだよオタクたちの夢小説かよしかも触ってたよ揉んでたよボクの乳ヤバいちょっと興奮するんだけど……し、シていいのかな……す、スるよ!? ボクだってそーいう欲求ぐらいあるんだからね!?」
「二人ともー! 美嘉がちょっと早いけどお昼作ってるからそろそろ起きてー……ってあああぁぁぁ!?」
「ちょっと加蓮ー、何を大きな声出して……ってあああぁぁぁ!?」
「全く、油断も隙もあったもんじゃないんだから」
「だから言ったじゃん、二人きりにするとりあむが何しでかすか分からないって」
「不可抗力だよぉ!? 二人だって同じシチュエーションになったらワンチャン考えるでしょ!?」
「「ソンナワケナイジャン」」
「片言ぉ!」
時の総理大臣『杉崎鍵』が一夫多妻制を導入した世界に転生して早何年経っただろうか。最初の頃は戸惑いもあったものの、これだけ長く生活していれば価値観も変わってしまい、今では恋人が複数人いることになんの違和感も覚えなくなってしまった。
しかしそれでも、こうして自分のことを愛してくれる恋人たちがいるという幸福そのものは、何度噛みしめてもいいものである。
そんな恋人たちのやり取りを炬燵に入りながら微笑ましく見つつ、俺は「くわぁ」と欠伸を噛み殺した。
「ねーねー、お腹空いたから先にご飯にしないー?」
「もー! もとはと言えば良太郎も……って、アレ?」
「良太郎クン、なんかお疲れ?」
「か、顔色悪くない!? ももももしかしてボクのせい!? ボクの駄肉のせいで気分悪くなった!?」
「「その発言にこっちの気分が悪い!」」
「あいたぁ!?」
心配そうに顔を覗き込んできた加蓮と美嘉だったが、りあむが余計な一言を発したせいで表情を怒り変えて彼女の乳を両側からバチーンッと叩いた。二人とも大きいことには変わりないが……まぁ、流石に拓海ちゃんレベルと比べればねぇ。
「んー、まぁ疲れてると言えば疲れてるな……年末からずっと忙しかったし」
「良太郎、ずーっと働きっぱなしだったもんね」
「ボクですら引っ張りだこだったんだから、良太郎君はそれ以上だよね……」
「最後のオフっていつだっけ?」
「……クリスマス前? いや、その頃から年末ライブに向けての準備とか色々あったから……あぁ、十一月か」
「一ヶ月以上かぁ……」
「トップアイドルとしては稀によくあるのかもしれないけど、実際に目の当たりにするとなかなかだね……」
「話を聞いてるだけでやみそう……」
そんなやり取りをしつつも俺の要望を聞き入れてくれた彼女たちは、すぐさま昼食(俺にとってはほぼ朝食)の準備に取り掛かってくれた。簡単なパスタとサラダではあるものの、ずっとパーティーの豪華な料理(忙しくてまともに食べれなかった)か仕出し弁当(同じく忙しくてまともに食べれなかった)ばかりだったので、逆にこういう方が嬉しかった。
「「「いただきます」」」
「いただきます……って、えっ!?」
「どーした、りあむ」
「フォークなかった?」
「お箸の方が良かった?」
「あるよ! ボクのフォークはちゃんとあるし、お箸もいらないよ! そうじゃなくて、どうして二人とも良太郎君の両隣に座ってるのさぁ!?」
りあむが炬燵の対面に入っているのに対し、加蓮と美嘉は俺の両隣に入っていた。正直狭くて腕も動かしづらいが、そもそも腕は彼女たちに抱き着かれているので動かすどころの話じゃなかった。
「りあむちゃんはさっきまで良太郎クンとイイコトしてたでしょ?」
「だから今度は私たちの番。はい良太郎、あーん」
「あーん」
自分でフォークは持てなかったが、代わりに左に座る加蓮がパスタを口元に運んでくれたのでありがたくそれを頂戴する。
「良太郎クン、こっちもあーん」
「あーん」
今度は反対側の美嘉からサラダを食べさせてもらう。
「うぅ……いいなぁ、ボクもそーいうリア充イベントやりたかった……」
「りあむにも食べさせて欲しいなー」
「えっ」
あーんと口を開けて催促をする。
「え、えっと」
ずっと口を開けたままでいるのが辛いし、両隣の二人も空気を読んで待っていてくれているのだから出来れば早くしてもらいたい。
「……あ、あーん」
「あーん」
対面から腕を伸ばしたりあむにパスタを食べさせてもらう。うんうん、恋人からのあーんは疲労回復の効果がある。
「……やっぱり疲れてるよね、良太郎クン」
「うん、いつもと比べて元気なさそうな感じ」
「どっちかというと、くたびれたって感じかなぁ」
別に体力的には問題ないんだけど、なんとなくやる気が湧かない感じだ。
しかし今日は待ちに待った恋人たちとのオフ。それを一日家でダラダラして過ごすというのも勿体ない。
「予定通り、唯が帰って来たら遊園地に――」
「話は聞かせてもらったよー!」
「――っと、お帰り唯。早朝の収録お疲れ様」
「ただいまー! りょーちゃんとのオフが楽しみだったからソッコーで終わらせてきたよー!」
俺が起きる前から既に仕事へと出ていた四人目の恋人である唯が、ババーンと勢いよくリビングへと入ってきた。
「お帰り、唯」
「お、おかえりなさい、唯ちゃん」
「お帰り。お昼まだだったら、今から用意するけど?」
「んーん、食べてきたからダイジョーブ!」
美嘉の申し出に「ありがとー!」と言いつつ断った唯は「寒かったー!」と言いつつコートとマフラーを脱ぎ捨てながら炬燵へと入ってきた。我が家のママである美嘉が「ちょっと、ちゃんと片付けなさい」と注意をするが、唯はおろか美嘉すら炬燵から出なかった。寒い上に食事中だからね。
「それで、りょーちゃんが疲れてるって話だよね?」
「まぁ、概ね間違ってないけど」
「それなら! 今日は一日りょーちゃんを
「「「「甘やかす?」」」」
「そー! いつものお礼を兼ねて、ゆいたちでりょーちゃんを全力で癒すの!」
それは若干申し訳ないと思いつつも魅力的な提案ではあるのだが。
「具体的には何をするの?」
「うんとねー……」
顎に人差し指を当てながら思案顔になる唯。その間も俺は両脇の加蓮と美嘉にパスタを食べさせてもらっていたのだが。
「大丈夫? おっぱい揉む?」
「ぶっ」
自分の大乳を下から持ち上げながら小首を傾げた唯に、思わず吹き出してしまった。口の中のパスタは当然正面に座るりあむへと降りかかる。
「ス、スマンりあむ」
「だ、大丈夫……寧ろありがとう!」
逆にお礼を言われたが、気持ちは分かる。
「というか唯、そんな言葉どこで覚えてきた……?」
「りょーちゃん、この間SNSでそーいう画像見てたじゃん」
「良太郎?」
「良太郎クン?」
「良太郎君?」
「絵師さんが書いたイラストぐらい自由に見させてくれよぉ!」
これは恋人がいても別腹どころの話じゃないぞ。
「でもまぁ、唯の言いたいことは分かったよ」
「つまりこう言うことだよね?」と言いながらフォークを置いた加蓮は、体を捻って俺に向けると両手を広げた。
「良太郎、おいで?」
「………………」
無言のまま加蓮の胸へポフリと顔を落とすと、後頭部にそっと手が添えられた。
「ふふっ、いい子いい子」
「………………」
そのまま優しく頭を撫でられると、なんかもういろんなものがどうでもよくなってくるようなきぶんになってきた。
「顔は見えないけど、すっごいリラックスして地の文がひらがなになってる」
「な、なんかさっきのボクも同じことしてるはずなのに、この反応の違いは一体……!?」
「……つ、次、アタシ!」
かんしんしたようなゆいのこえと、くやしそうなりあむのこえにつづき、おなじくくやしそうなみかのこえがしたかとおもうと、からだをうしろにひっぱられた。
「……いつもありがとう、良太郎クン。これぐらいしか出来ないけど……」
こんどはみかのひざまくらだった。あぁ、あたまをなでられながらしたからのぞくみかのだいちちははくりょくまんてんだなぁ……。
「……にししっ、えいっ!」
「きゃっ」
「ムグッ!?」
いきなり視界と呼吸が塞がれた。
「ちょっ、唯っ!? 重いから寄りかからないでよ!?」
「りょーちゃん、おっぱい大好きだからこれぐらいしてあげた方が喜ぶかなーって」
「ムグーッ!? ムグーッ!?」
「ホラ喜んでるよ」
「いやどー見ても苦しがってるよ!? 窒息寸前だよ!? ある意味男の人にとっては夢のような死が迫ってるよ!? 周藤良太郎という人類の財産が絶滅危惧だよ!?」
本編で欲しいぐらいキレのいいツッコミはいいから早く助けてくれぇ!?
「疲れどころか生命が吹き飛ぶところだった……」
城ヶ崎美嘉の胸に埋もれて窒息とか、ファンが聞いたら助走をつけて殴り飛ばされるような幸福であることには間違いないが、愛する女性たちやファンを悲しませてまで手に入れたいものではない。
「りょーちゃんゴメンね……」
珍しくシュンとしている唯。美嘉や加蓮に怒られたのが効いているようだ。その美嘉と加蓮は食器を洗いに行き、りあむは部屋へ着替えに行ったため、今度は唯と二人きりになり並んで炬燵に入っている。
「確かに苦しかったけど、俺を労おうと思ってくれたんだろ? ありがとう、唯」
「……えへへ」
頭を撫でると、唯は照れくさそうに笑った。
「……よし、それじゃあ次は唯の番だな」
「え?」
「まだ唯には甘やかしてもらってないからな」
こうなったら俺も覚悟を決めてトコトン甘やかされる覚悟を決めたぞ。
唯の返事を待たずに、彼女の胸へと顔を埋める。
「……むふふー、りょーちゃんってば甘えんぼさんなんだからー」
それには「唯が言い出したことだろう」と言い返したいところではあったが、実際に今日の俺はすっかり甘やかされる気分なので甘んじて受け入れよう。
「……それじゃあ、そんな甘えんぼさんなりょーちゃんには――」
「ん?」
何やらゴソゴソと動き出した唯。顔を上げると、何故か彼女は自身の背中に手を伸ばしていて――。
「――もっといいもの、あげるね」
「………………」
毎年恒例の夢オチである。
ここまで来ると、逆に次はどんな夢を見るのか楽しみになってきた。
「……よし、二度寝だ」
今年もよろしくお願いします。
・周藤良太郎(2X)
お正月恒例の一夫多妻時空(夢オチ)に慣れ始めたトップアイドル。
りあむたちの時系列をまだはっきりさせていないので、今回の年齢は不詳。
そして過去最多となるりあむ・加蓮・美嘉・唯の四人と恋仲に。
人選? 趣味+りあむが書きやすかったから。
・夢見りあむ(2X)
良太郎の恋仲その1。ポジション的には次女。
恋仲になれた瞬間、確実に吐いたと思われる。
まさかの人選と思われるだろうが、作者もそう思っている。
いや、先週まで色々書いてたら思いの他書きやすくて気に入っちゃって……。
・北条加蓮(2X)
良太郎の恋仲その2。ポジション的には長女。
かなり熱狂的なりょーいん患者だったが、恋仲になれたことにより一番距離が縮まった。
・城ヶ崎美嘉(2X)
良太郎の恋仲その3。ポジション的には母親。
告白する場面でテンパって余計なこと言って顔を真っ赤にして……というループが容易に想像できる。
……あ、ご結婚おめでとうございます。(中の人)
・大槻唯(2X)
良太郎の恋仲その4。ポジション的には三女。
ケロッとした表情で告白した後で真っ赤になってへたり込むという妄想。
・一夫多妻制
・杉崎鍵
毎度お馴染み※番外編17参照
・四人のバストサイズ
りあむ(95)>唯(84)>加蓮(83)>美嘉(80)
……どう考えても脳内でバグが発生する大きさ順である。
・「大丈夫? おっぱい揉む?」
男 の 夢
・何故か彼女は自身の背中に手を伸ばしていて――。
わっふるわっふる。
新年恒例の一夫多妻恋仲○○特別編。完全に作者の趣味に走ったメンツ&シチュエーションでお送りしました。
次回からは本編に戻り、いよいよ感謝祭ライブ編の最終幕へと突入していきます。
最後までどうぞお付き合いください。
『どうでもいい小話』
りっか様&れいちゃま&じゅりさん&あやっぺ&るるきゃん&のじょさん、ご結婚おめでとうございます!
なんというか情報量が多い年末年始だったなぁ……。