アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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感謝祭ライブ最終話、開幕。


Episode61 Grand finale!!

 

 

 

「………………」

 

「良太郎君も目が覚めたのかい?」

 

「ん、北斗さん」

 

 喉が渇いたので給湯室で水を飲んでいると、北斗さんが入ってきた。大きめに開いたワイシャツの胸元が男の俺から見ても大変セクシーで、これが俺に足りていない大人のミリキ(双海姉妹的表現)かと一人で感心してしまった。

 

「いやぁ、俺も久しぶりに結構飲んじゃったよ」

 

 俺と同じように冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出してコップに注ぐ北斗さん。「明日が怖いね」と苦笑しているものの、きっと平気な気がする。寧ろ冬馬や美優さん辺りが酷いことになってそうで、それはそれでその様子をSNSに上げたら面白そうだ。

 

「チラッと覗いたけど、未だにSNSじゃ大騒ぎが続いてるね」

 

「自分たちのことではありますが、正直『でしょうね』っていう感想しか湧きませんね」

 

 コップをシンクに入れながらポケットからスマホを取り出す。SNSアプリを起動してサーッと様子を眺めるが、深夜の二時も過ぎているというのにタイムラインがあり得ないぐらい活発に流れまくっていた。内容は勿論、先ほど終わったばかりの俺たちのライブについてのことばかり。

 

 「凄かった」「感動した」「これでこの先100年は生きていけるが、しかしライブが終わってしまった以上何を目標に100年生きていけばいいのか分からない」などといったファンたちの感想や、「オンユアマークのサビでりょーくん腕振り上げてたじゃん? あのとき完全に私と目ぇ合ってたから」「妄想乙、私と合ってたから」「恵美ちゃんが俺を見て笑ってた……」「志希ちゃんのウィンクは俺のもの」などといった現地勢の報告や、「志保ちゃんにラストキスを歌わせた運営は神」「JANGOという神による神セトリ」といったライブそのものに対する評価など。

 

 さらには現地やLVに参加した絵師による報告レポ漫画や、ファンたちによる打ち上げの様子を映した写真や、「俺はDay2参加だから、楽しみだなぁ」という現実逃避や、中にはライブ終わりに「この余韻を君と二人で永遠に分かち合いたい」というプロポーズをして見事成功したというおめでたいカップルの話まで、本当に深夜なのかと疑ってしまうぐらい盛り上がっていた。

 

 とりあえずカップルのSNSにはお祝いのコメントを送っておいた。引用もしてやろう。精々世界中の人間に祝福されるがよい。

 

「しばらくはこの騒ぎが続きそうだね」

 

「反響が大きいことはありがたいことですけど……はぁ、こっちもか……」

 

 騒ぎの中には知り合いのアイドルも含まれており、彼女たちのSNSを覗いてみると「喉が痛い」やら「腕が痛い」やら「現実に帰りたくない」といった呟きがチラホラ。今度はお前らが夢見せる番なんだよ気合い入れろやオラァン!?

 

「現実に帰りたくない気持ちは分かるよ。……ステージに立ってる側の俺ですら、既にあのステージに戻りたくなってるんだから」

 

 それは北斗さんにしては珍しい言葉だった。俺もその言葉には同意したいところではあるが。

 

「ダメですよ北斗さん。ちゃんと()()()()()()じゃないですか」

 

「……あぁ、そうだね」

 

 俺たちが今後もアイドルとしてみんなの前に立つ以上――。

 

 

 

 ――絶対に、ライブは終わらせなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!

 

 

 

『みんなー! アンコールありがとなー!』

 

 マイク越しの声よりもさらに大きな歓声に負けないように、俺もマイクを使いつつ声を張り上げる。他のみんなも「ありがとー!」「サンキュー!」とお礼を言いながら観客に向かって手を振っている。既に感極まってグスグス言っている恵美ちゃんを除き、全員がやり切った笑みを浮かべていた。

 

 一通り手を振りつつ、全員でメインステージに集まる。これから最後の演者挨拶だ。

 

『ほら恵美ちゃん、もうちょっとだけ頑張りましょぉ?』

 

『ま゛ゆ゛ぅぅぅっ……!』

 

 恵美ちゃんだけが涙で前が見えていないので、まゆちゃんに介護されながらゆっくりと花道を歩いてきた。その様子をステージのアイドル含め、会場の全員で微笑ましく見守る。

 

『みんなー、アンコール曲のコールで大分声上げてたから、喉大変でしょー?』

 

『恵美ちゃんみたいに現在進行形で体から水分が抜け落ちてる人もいるだろうから、今の内にしっかりと水分補給しておけよー? 言っとくけど、これが最後のタイミングだからなー?』

 

『シキちゃんは遠慮せずに飲むからねー』

 

『私もいただきます』

 

 翔太と共に観客へと呼びかけると、志希と志保ちゃんがプロンプター(歌詞を表示する演者用のモニター)付近に置いてあるペットボトルの水を取りに行く。俺も自分のペットボトルを取りに行き、ついでに恵美ちゃんとまゆちゃんのペットボトルも取ってあげることにする。

 

『お待たせしましたぁ』

 

『お待たせしましたー……』

 

『はい、二人ともお疲れ様』

 

 二人を出迎えながらペットボトルを渡す。先ほどまゆちゃんにタオルを持ってきてもらったお返しだ。

 

『ありがとうとございますぅ!』

 

『あ、ありがとうございます』

 

 全く疲れを感じさせない満面の笑みのまゆちゃんと既に泣きつかれている恵美ちゃんにペットボトルを渡し、ようやくアイドル全員がメインステージに集結した。

 

 下手から順番に、美優さん・志希・志保ちゃん・恵美ちゃん・俺・まゆちゃん・翔太・北斗さん・冬馬。

 

 俺たちが並んだことに気付いた観客たちの歓声も、徐々に鳴りを潜めていく。未だに個人個人からの「りょーくぅぅん!」「まゆちゃぁぁぁん!」と言った声は聞こえてくるが、それも手のひらを下に向けるジェスチャーで治まっていった。

 

『……さてと。改めてアンコールありがと。演者全員での「Re:birthday」はどうだったかな?』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!

 

 

 

「サイコーだったあああぁぁぁっ!!!」「いいもん見せてくれてありがとおおおぉぉぉ!!!」「俺の中の新たな扉が開いたあああぁぁぁっ!!!」「伝説だ……これが伝説だあああぁぁぁっ!!!」「我々は歴史の目撃者となったあああぁぁぁっ!!!」

 

 何人かベクトルが別の方向に向ききってしまっている観客がいるようだが、りょーいん患者的に考えたら平常運航だから問題なかった。

 

『きっとここまで歌わなかったことに対して「まさか歌わないんじゃ」って不安に思った人もいるんじゃないかな?』

 

『まぁ「周藤良太郎の原点」ってことは、大きく解釈すれば「123プロの原点」ってことでもあるだろうから、歌わないわけないよねっていうね』

 

 北斗さんと翔太の言葉に「不安だったー!」という声や「歌うって信じてたー!」という声がちらほらと飛び交う。

 

 さて、恵美ちゃんが泣き止み、他のメンバーの水分補給が済んだことを確認する。

 

『……さてと、それじゃあ最後に演者一人ずつみんなに向けての挨拶をするところなんだけど……』

 

 そこで言葉を区切ると、観客たちが一瞬ざわついた。

 

 

 

『……みんなに、悲しいことを伝えないといけない』

 

 

 

 そして俺のその発言に、観客たち全員が一斉に息を飲んだのを感じた。

 

 そう、それはとても悲しい知らせ。俺もこの場でそれを口にしなければいけないことが心苦しくて、しかしその役目を他のメンバーに託すわけにもいかなかった。

 

 これは俺の口から、『周藤良太郎』が自ら告げなければいけない大事なこと。

 

 果たしてみんなは悲しむだろうか、憐れむだろうか。

 

 痛む胸を抑え、意を決して俺は口を開いた。

 

 

 

『……俺の罰ゲームの内容が決定してしまった……!』

 

 

 

 わあああぁぁぁあああぁぁぁっ!!!

 

 おい歓声ヤメロォ! 喜ぶんじゃないよお前ら! お前らが推してるアイドルが罰ゲーム受けるっていうんだから悲しんでくれよ! おいそこぉ! 冬馬はガッツポーズすんな! 志保ちゃんも可愛らしく小さく拳を握らない!

 

『え? そんなのあったっけ?』

 

 志希ぃ! おめぇはおめぇでもうちょっと興味持たんかい!

 

『え、えっと……先ほど行われたトークバトルの結果、良太郎君が罰ゲームを受けることになったんでしたよね……?』

 

 志希以外に忘れている人はいないと思いたいが、一応美優さんが全員に向けて説明をしてくれる。いやホント、忘れるなら兄貴に忘れて欲しかったよ。

 

『この罰ゲーム、ウチの社長が決めたんだけど、かなり悩んでたよね』

 

『普通の罰ゲームになりそうな内容って、大体りょーたろー君には効かないもんね』

 

 罰ゲームの定番と言えば絶叫系の乗り物とか激辛料理辺りが候補に挙げられるが、絶叫系も激辛も平気なので俺にとっては罰ゲームにはならないのだ。そもそもその辺りはリアクションを見て楽しむタイプの罰ゲームだというのに、無表情の俺がしても周りが面白くないのでバラエティ的な意味でもNG。

 

『でも本当に何なんだろーね? 社長は「罰ゲームとは受ける本人が本当にイヤがる上で、周りのみんなが楽しめること」ってかなり鬼畜なこと言ってたけど……』

 

『良太郎さん、大丈夫でしょうか……』

 

 まだ内容を聞かせれていない恵美ちゃんが首を傾げ、まゆちゃんが泣きそうな表情で祈ってくれている。

 

 ……いや、かなりコメディ的なノリで発表したんだけど、ぶっちゃけ俺も怖いんだよ。何せあの兄貴が「とっておきだぞ」と満面の笑顔で親指を立てたのだから。

 

『それじゃあ、俺もまだ知らない罰ゲームの内容は……これだ!』

 

 そう言って背後のメインスクリーンを指差す。

 

 そこに表示された、俺の罰ゲームの内容は――。

 

『………………え゛』

 

 

 

 周藤良太郎の初恋について、赤裸々コラム掲載!

 

 

 

 

 

 

 唐突だがハイパー電波タイムである。外伝も最終話に近いということで、今回ばかりは画面の向こうの諸兄に向かって語り掛けさせてもらおう。

 

 さて、ここまで俺のお話を読んできてくれた諸兄の中に()()()()というキーワードでピンと来た人はいるだろうか。覚えていなくても大丈夫、なにせ結構昔の話だ。

 

 流石に自分の口で語るのに抵抗があるため、是非Lesson44辺りを読み返してきてもらいたい。うん、響ちゃんが恋の演技で悩んでる辺りのお話だ。

 

 ……読み返して来た? オッケー?

 

 つまりそういうことだ。

 

『なんでオメェが知ってんだよ兄貴いいいぃぃぃ!!!???』

 

 満を持してこれを罰ゲームとして採用したってことは、絶対知ってるだろ!? 何で知ってるだよ!?

 

 ――天才ですから。

 

『うるせぇよっ!!!』

 

 チクショウ! 外伝補正とギャグ補正が混ざりまくった結果とんでもないことになりやがった!

 

『りょ、良太郎さんの初恋!?』

 

『こ、これは……確かにファンの皆さんは喜びそうですが……』

 

『良太郎君の嫌がり方が半端じゃないね……』

 

 ステージ上でもまゆちゃんが盛大に反応し、美優さんと北斗さんが苦笑しながらチラリと俺に視線を向けてくるが、そんなことを気にしている余裕もなく俺は頭を抱えてその場に蹲る。

 

『んごごごご……マジでやばいって……』

 

『良太郎さんが不幸で!』

 

『飯が美味い!』

 

 楽しそうにハイタッチをしてからスキップで俺の周りをグルグルと回っている二人が、先ほどまで俺の曲を大事に歌ってくれた人と同一人物とは思えなかった。

 

 

 

 ……いや、マジでどうしてこうなった……!?

 

 

 




・SNS
基本的に作者はツイッターしかやってないから主なモデルはツイッター。
現実でも大体こんなノリだと思う。

・罰ゲーム
作者が考えうる中で、良太郎が本気で嫌がりつつ実害は存在しないという悪魔のような罰ゲーム。
なんで兄貴が知ってたのかって? そういうこともあるよ(目逸らし)



 なんかグランドフィナーレとか感動的なサブタイトルで始まったかと思ったら、中身は類を見ないほど混沌としていた。アイ転ではよくあることである。

 というわけで感謝祭ライブ最終話(終わるとは言っていない)です。こっから先は本当に真面目に書きますので、お楽しみに。……いや、別に今回もふざけてたわけじゃないんですけどね?



『どうでもいい小話』

 ツイッターにて『Re:birthday』の歌詞の全文、
 活動報告にて『アイ転におけるクロスオーバー作品の設定』なるものを公開しておりますので、興味がある方は覗いてみてください。

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