アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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総選挙おめでとう記念!


番外編53 もし○○と恋仲だったら 21

 

 

 

 それは、あり得るかもしれない可能性の話。

 

 

 

「………………」

 

 青い空と白い雲、聞こえてくる波の音。南国特有のキツい日差しはビーチパラソルに遮られているのでさほど脅威ではない。気温も高いが、湿度が高くないので日本特有のじめっとした暑さは感じない。ビーチチェアではなくレジャーシートの上に寝転がっているため砂からの熱も相当だが、バスタオルを挟んでいるのでそれほど熱くはなかった。

 

「……はぁ」

 

「ちょっとー」

 

 それはほんのささやかなため息だったにも関わらず、彼女は聞き逃さなかったらしい。

 

「こんなに可愛い水着姿の彼女と一緒に海に来たっていうのに、ため息吐くってどーいうこと?」

 

 ゴロンと首を左に傾けると、レジャーシートに肘を突いてうつ伏せになった彼女が俺の顔を覗き込んでいた。白を基調にした花柄のビキニ姿の彼女は、先ほどまで海に入っていたので髪や二の腕に水滴が付いている。まさしく水も滴るイイ女状態であるが、髪まで濡れている辺り大分はしゃいでいたようだ。

 

「それともー……こーやって私と一緒じゃなきゃ楽しめない、甘えん坊さんなのかな?」

 

 クスクスと揶揄うような笑みを浮かべながら俺の頬を「えいえいっ」と人差し指で突いてくる。

 

「………………」

 

 そんな彼女に向かって俺も左手を伸ばして――。

 

 

 

「てい」

 

 ――胸の谷間に人差し指を突っ込んだ。

 

 

 

「っっっ!!!???」

 

 一瞬で顔が真っ赤になった彼女は、普段は見せないような俊敏な動きで身を仰け反らせた。しかし無理に距離を取ろうとした結果、体勢を崩してそのまま向こう側へとゴロンと倒れてしまった。

 

「……何か言うことない?」

 

 ゆっくりと身体を起こしながら低い声を出す彼女。

 

「柔らかかったぞ」

 

「そうじゃなくて!」

 

 感想を求められたのかと思ったが、違ったらしい。

 

「いきなり何!? あのいい感じの雰囲気で……む、胸、触ってくるとかどういうこと!?」

 

「いや、いい大乳が手を伸ばせば届くところにあったからつい」

 

 レジャーシートに潰されて大変素晴らしいことになっていたので、思わず手が伸びてしまった。

 

「ったく、信じらんない……」

 

()()可愛い彼女だったらこれぐらいの悪戯許してくれると思ったんだよ、ゴメン」

 

「……えっち」

 

 頬を赤く染めたまま、俺の恋人である北条加蓮は『べーっ』と舌を突き出した。

 

 

 

「それで!? こんなに綺麗な海に遊びに来たっていうのに、どーしてため息なんかついてたの!?」

 

 語気を荒げてプリプリと怒っている加蓮だが、現在ビニールシートに体を起こして座った俺の足の間に腰を下ろしていた。先ほどのセクハラのお詫びとして要求されたのだが、果たしてこれが本当にお詫びと成り立っているのかどうか疑問である。しかし本人は抱きしめるように俺の腕を自分の前に持ってきているので、どうやら満足しているようだ。

 

「いや、あまりにもトントン拍子にことが進んだから」

 

 つい先日346プロで行われた『アイドル総選挙』において見事一位に輝き、『シンデレラガール』という称号を手にした加蓮。自分の彼女の活躍を喜ばない恋人がいるはずもなく、俺も加蓮を祝福するために「何かして欲しいことはあるか?」と尋ねたところ、彼女の口から飛び出したのは――。

 

 

 

 ――二人で南国へ旅行に行きたい。

 

 

 

 ――という少々難易度の高いものだった。

 

 この難易度というものは、現在現実世界(がめんのむこう)を騒がせているウイルス騒ぎのことではなく、『周藤良太郎』と『北条加蓮』というトップアイドル二人が時間を合わせて海外旅行へ行くことに対する純粋な難易度のことである。

 

 二人で海外旅行をすること自体に不満はないので、お互いのスケジュールを調整して早くて半年後、最悪一年後ぐらいを目途に計画していけばいいかな……と俺は考えていた。

 

 しかし、そんな悠長なことを考えていたのは俺だけだったらしく……そのお願いをした時点で加蓮の手回しは終わっていたのだ。

 

 いつの間にか俺と加蓮の三日間のオフが確保されており、旅券とホテルも予約済みだった。なんでも総選挙の結果発表前から加蓮は兄貴や自分の事務所と掛け合ってオフを調整し、さらに俺経由で知り合った月村に海外旅行の手配をお願いしたらしい。

 

 結果発表前からその手回しをしていたことに対して「随分と自信があったんだな?」と尋ねると、加蓮はクスリと笑いながらこう答えた。

 

 

 

 ――ダメだったら慰めてもらう名目だったんだ。

 

 ――でも、私も良太郎の恋人だから。

 

 ――自分に対する自信は、人一倍あるつもりだよ。

 

 

 

「……ホント、加蓮ってばいい女だよな」

 

「い、いきなり何?」

 

 ともあれ、そんな加蓮の手回しによって、あれよあれよという間に気が付けば俺はこうして南国のビーチへとやって来たのだった。それがあまりにもトントン拍子すぎたので、なんというか現実感が湧かなかったのである。

 

 ……「何かして欲しいことはあるか?」と尋ねたにも関わらず、結局俺は何もしてなかったことに関しては、この際置いておこう。

 

「しかし、まさか月村家所有のプライベートビーチとは思わなかった」

 

「それは私も予想外だった……忍さんが『私に任せておいて!』って笑顔で言い切るからいいところなんだろーなーって思ってたんだけど……」

 

「セレブってすげーな」

 

「……一応、良太郎もセレブなんじゃないの? 日本が誇るトップアイドルなんだよね?」

 

「セレブに見えるか?」

 

 フルフルと加蓮の後頭部が横に振られた。

 

 確かに純粋な金額的には日本の長者番付に名前が載りそうなぐらいは稼いでいるが、究極的に庶民感覚が抜けることがない偉大な母上様のおかげか、どこまでいっても『庶民』の枠から外れないのが周藤家の良いところである。

 

「さてと……それじゃあそろそろ遊ぶか」

 

「……本当に疲れてるとかそーいうのだったら、無理しなくてもいいよ?」

 

「大丈夫大丈夫、加蓮の大乳に触ったら元気出てきた」

 

「こらっ!」

 

 再び耳元を赤くしながらベシベシと腕を叩いてくる加蓮と共に立ち上がりながら、彼女の手を引いて波打ち際へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

「ふへー……」

 

 ボフリとベッドに倒れ込む。高級ホテルのスイートルームのベッドというだけあって、かなりフカフカだった。

 

「こら、服に皺が付くぞ」

 

 良太郎の小言が背後から聞こえてきたので、私は仰向けに寝転がると彼に向かって両腕を伸ばした。

 

「なら、良太郎が脱がせて?」

 

「……お望みとあらば」

 

 一瞬だけ躊躇する素振りを見せた良太郎だが、ずっと私の胸に視線が固定されているので断らないことは最初から分かっていた。

 

 ギシリと音を立ててベッドへと上がり、私に覆いかぶさるように腕を付く良太郎。プツリプツリと一つずつ、彼の手によって私の服のボタンが外されていく。元々上二つは外していたので、あっという間に私のシャツのボタンは全て外されてしまった。

 

 そのままシャツが広げられて私の下着が露わになり、良太郎の手が私の下着のフロントホックへと伸ばされ――。

 

 

 

「……ぎぶあっぷ」

 

 

 

 ――結局、私が羞恥に音を上げてしまった。

 

「俺の勝ち。なんで負けたのか、明日まで考えといてください」

 

 私の上から体をどかしながら「そしたら何かが見えてくるはずです」と無表情ながら内心でドヤッてるのが丸わかりの良太郎。私が折れることが最初から分かっていたようで、それが猶更悔しかった。

 

「うぅ……今度こそ良太郎からマウント取れると思ったのに……」

 

 自分から誘惑しておいて自滅するという情けなさから、顔をクッションに埋める。

 

(……()()()と同じホテルだから、少しぐらい進展出来るかなって思ったんだけどなー……)

 

 三年前、私たちが初めてこのホテルを利用したのは、私が『シンデレラガール』になった直後だった。そのときは忍さんに手配してもらったが、今ではこうして自分たちの意志とお金でこの高級ホテルのスイートを利用できるようになった。

 

 そんな私たちの思い出のホテルとも呼べる場所ならばそろそろ……と思っていたのだが。

 

(……結局私がヘタレちゃうんだもんな……)

 

 昔、どれだけ誘惑してもキス以上のことをしようとしなかった良太郎を『ヘタレ』と称して小馬鹿にしたことがあった。しかしお互いに成人し、両親や事務所にもしっかりと認識された関係になった今、肝心なところで一歩を踏み出せないのは他ならぬ私自身だった。

 

 チラリとクッションから顔をズラして良太郎へと視線を向ける。

 

「……ん?」

 

 隣のベッドに腰を掛けてスマホを操作していた良太郎は、私の視線に気づいて顔を上げた。可愛い彼女がベッドに突っ伏しているというのに何をしているのかという理不尽な苛立ちを込めて良太郎を睨む。

 

「どうしたそんなに睨んで」

 

「良太郎は、その……私と()()()?」

 

「……どストレートだな」

 

 スマホをサイトテーブルに置いた良太郎は立ち上がり、再び私のベッドに腰を下ろした。サラリと髪を撫でられ、そのまま耳元を触ってくるのものだからくすぐったさに身を捩ってしまう。

 

「俺だって別に枯れてるわけじゃない。さっきだって惚れた女があんなことしてくるんだから、お前がギブアップしなかったらきっとそのままだったぞ」

 

 良太郎が口にした「そのまま」という言葉の意味を考えて再び顔が熱くなり……それと同時に罪悪感が胸を刺す。

 

「……ゴメン」

 

「謝るなって」

 

 ギシリとベッドが音を立てる。チラリと横を見ると、良太郎が私の側に体を倒していて顔を覗き込んでいた。ベッドに並んで横になっている状態で、数センチ先に良太郎の顔が迫っていた。

 

「加蓮のペースでいい。お前が俺に身を委ねたいと思ったそのときは――」

 

 

 

 ――忘れられない夜にしてやるから。

 

 

 

「~~~っっっ!」

 

 耳元で囁かれた甘い声に、私は自分自身の限界を感じた。先ほどまでの前言を撤回して今すぐ良太郎の胸に飛び込みたい衝動に身を委ねようと、勢いよく上体を起こして……。

 

 

 

「「……あ」」

 

 

 

 どうやら先ほど良太郎の手が触れていたこと。私がうつ伏せになっていたこと。この二つが組み合わさった結果、ホックが外れて下着が――。

 

 

 

 ――叫ばなかった私を、誰か褒めて。

 

 

 

 

 

 

(……幸せだなぁ、私)

 

 

 

 ずっと昔。病院にお世話になりっぱなしだったあの頃。

 

 まだアイドルになるなんて思ってなかったあの頃。

 

 誰かと結婚するなんて考えもしなかったあの頃。

 

 考えもしなかった幸せが、私の人生を彩っていた。

 

 

 

 願わくばずっと。

 

 この愛する人と共に。

 

 

 




・周藤良太郎(21→24)
加蓮が未成年のときはあくまでも悪戯(※セクハラ)で済ませていたが、成人してからは結構攻め始める。
加蓮が照れていなかったら本当に食べていた(意味深)

・北条加蓮(17→20)
良太郎の本命と9代目シンデレラガールを見事に勝ち取った勝者。
凛に「お義姉ちゃん」と呼ばれる日を待ち望んでいる。実に妹ではないのにも関わらず待ち望んでいる。
しかしそれより先に良太郎と結ばれる方が先である。

・月村家所有のプライベートビーチ
番外編11以来の久しぶりの登場。

・「なんで負けたのか、明日まで考えといてください」
hnd「ほな、いただきます」

・――忘れられない夜にしてやるから。
この辺書いてるとき、はめふら見てたからジオルドにキャラを引っ張られた気がする。
はめふら面白いよ!(ステマ)



 わっふるわっふる。

 というわけで加蓮! 総選挙一位おめでとう! いやホントおめでとう!

 ツイッターで連載してた『34日後にお姫様になる少女』が少しでも力になってたといいんだけどな!(ステマ)

 そして次回からは今度こそ、新章『ミリマス編』に突入です!

 基本は漫画を軸にお話を考えていきますが、様々な差異があるアイ転世界ではどのようなことになるのか……!

 それではまた。

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