アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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初登場のあの子とか再登場のあの子とか、まさかのあの子とか!


Lesson232 新時代、到来 4

 

 

 

 というわけで。

 

「やってきたぜ! 765プロライブ劇場!」

 

 麗華と話をした翌日、早速俺は765プロライブ劇場へとやって来た。

 

「最後に来たのは……確か、真ちゃんと雪歩ちゃんに案内してもらったときだったかな」

 

 それ以来一度も訪れていなかったため、今回が初めての劇場訪問になる。

 

 ちなみに記憶力に自信があるというわけではないので、流石にいつのことだったかまでは覚えていない。みんなは是非自力でどのシーンだったか探してみよう!

 

「……意外と人が多いな」

 

 捉え方によっては失礼な言い方になってしまったが、思っていた以上に劇場には人が集まっていた。

 

 日曜日なのだから当たり前と言えば当たり前だ。しかし、春香ちゃんたちオールスター組が出演することは滅多になく、今日も彼女たちは出演しない。それでもこれだけ人が集まっているということは、既にシアター組の子たちにも固定ファンが付き始めている……ということだろうか。

 

「それにしても」

 

 他の人たちと同じように開場時間を待ちつつ、人が大勢いるところを避けて劇場前の広場の片隅でパンフレットを広げる。パンフレットには所属している劇場のアイドルの簡単なプロフィールが掲載されていた。

 

 そこには杏奈ちゃんたち元バックダンサー組の他にも、以前事務員として紹介されたこのみさんや元子役の桃子ちゃんパイセンの他、何人か見たことある顔がチラホラ。相変わらずの顔見知り率の高さに我ながら驚くのだが……。

 

「まさか千鶴がアイドルになってるとはなぁ……」

 

 一番驚いたのは、恭也以上に幼馴染としての付き合いが長い千鶴がいたことだった。

 

 二階堂精肉店の長女であり、凛ちゃんに並ぶ商店街の二大看板娘でもある二階堂千鶴。アイドルとしては申し分ない器量を持っている彼女ではあるが、まさかアイドルになっているとは思いもしなかった。

 

「そんな素振りあったっけ……?」

 

 ここ最近での千鶴との会話を思い出してみるが、それらしきことを匂わす発言はしていなかったと思う。彼女の性格的に『アイドルになったことを知られるのが恥ずかしかった』という理由もないだろうから……恐らく『アイドルになったことを黙っておいて驚かせたかった』という理由だと推測する。それならばその思惑は成功だ。正直かなり驚いた。

 

「ふむふむ……『心はセレブにゴージャスに! 劇場の頼れるお姉さん!』……ねぇ」

 

 それが千鶴の紹介キャッチコピーらしい。どうやらあのなんちゃってお嬢様口調はそのままで、しかしその口調からお嬢様キャラに流されるということもなく、お姉さんキャラを通しているようだ。つまり素の千鶴ってことだな。

 

 ……知り合いがいつの間にかアイドルになってたことがあるのは、まぁそれなりに経験のあることだ。友紀や茄子もそうだし、奏やなのはちゃんも知ったのはアイドルになってからだった。それが寂しいことだとは思わない。

 

 

 

 けれど()()()()()()()を理解してしまった以上、少しばかり変な勘ぐりをしてしまう自分がいた。

 

 

 

「……あ、あれ!? ももも、もしかしてそこにいらっしゃるのはリョーさん!?」

 

「……ん?」

 

 思考が我ながら似合わないシリアスなものになりつつあったが、そんな声に意識が現実に戻ってくる。

 

 パンフレットに落としていた視線を持ち上げると、長い茶髪を可愛らしいツインテールに結んだ少女がこちらを見ながら驚愕の表情を浮かべていた。その後ろには「そのお兄サン、ダーレ?」「知り合いなの?」と二人の少女がこちらを様子を窺っている。

 

「やぁ、亜利沙ちゃん。久しぶりだね」

 

「あ、その……お、お久しぶりです」

 

 ツインテールの少女ことアイドルヲタ仲間である松田亜利沙ちゃんは、やや視線を宙に泳がせながらペコリと頭を下げた。

 

「……ここにいらっしゃるということは、もうお気づきになられてしまったのですね……」

 

「まぁね。遅ればせながら()()()()()()()()おめでとう」

 

 彼女もまた、いつの間にかアイドルになっていた俺の知り合いの一人だった。色々な意味でアイドルに多大なる興味を示していた彼女がアイドルになること自体は不思議なことではないが、彼女はそれ以上にファンとしてアイドルたちを追いかけ続けるタイプだと思っていたから驚いている。俺の目もまだまだだなー。

 

「……ありがとうございます。すみません、ご報告が遅れてしまって……」

 

 シュンと顔を俯かせる亜利沙ちゃん。普段のライブ現地でのハイテンションとのギャップが大きくて、申し訳ないがそんな姿がとても可愛らしかった。

 

「その辺りの事情は俺も理解があるから気にしてないよ。亜利沙ちゃんは、今日出演するんだよね?」

 

「は、はいっ! まだまだ未熟なありさではリョーさんに満足していただけるようなパフォーマンスは出来ないかもしれませんが……一生懸命頑張ります!」

 

「期待させてもらうよ。頑張ってね、亜利沙ちゃん」

 

「はいっ!」

 

 満面の笑みを浮かべながらフンスッと拳を握る亜利沙ちゃん。

 

「それで、後ろの二人も劇場の子だね?」

 

 亜利沙ちゃんの後ろの二人へと視線を向ける。長い若葉色の髪の少女と、同じぐらい髪が長い茶髪の少女。若葉色の子は興味深そうにこちらの顔を覗き込んでいて人懐っこい雰囲気で、一方で茶髪の子はこちらに対する警戒心が見え隠れてしていた。

 

「うん! 島原(しまばら)エレナだよー!」

 

「……田中(たなか)琴葉(ことは)です」

 

「よろしく。俺は……そうだね、遊び人のリョーさんとでも名乗っておこうかな」

 

 自分で名乗っておきながら、脳裏に知り合いのお巡りさんの顔が浮かぶ名前だった。

 

「よろしくネ、リョーサン!」

 

「………………」

 

 フレンドリーに握手を求めてくるエレナちゃんに対して、琴葉ちゃんからの警戒心が一段階上がったのを感じた。

 

「大丈夫ですよ琴葉ちゃん! リョーさんは亜利沙が尊敬するアイドルファンの鑑です!」

 

「貧乏旗本の三男坊で、今は越後のちりめん問屋で働いております」

 

「ややこしいからせめて設定は一つに絞り込んでください……」

 

「なんだかエミリーが喜びそうだネ!」

 

「……少々癖が強いことは、その、ありさも認めざるを得ませんが……」

 

 頭が痛そうにこめかみを人差し指で抑える琴葉ちゃんと、視線をツイッと逸らす亜利沙ちゃん。そんな二人とは対照的にエレナちゃんはニコニコと笑顔だった。可愛い。

 

「っと、亜利沙、そろそろ準備に戻らないと間に合わないわよ」

 

「ハッ、そうでした!? そ、それではリョーさん! 今日は楽しんでいってください!」

 

「ワタシも頑張るから、応援してネー!」

 

「うん、三人とも応援してるよー」

 

 バタバタと去っていく三人の背中に手を振って見送る。

 

「……さて、そろそろ開場かな?」

 

 開幕までにはまだまだ時間があるが、それでも中に入れるようになったのであれば中で物販やポスターなどを見ながら待つことにしよう。

 

 あわよくば新しいアイドルファン仲間を増やせるかもしれない。そんな期待を抱きつつ、パンフレットを畳んでショルダーバックの中へとしまった。

 

 

 

(……アレ? さっきのって、三つとも『主人公が身分を偽って庶民と関わる』作品……ぐ、偶然、よね?)

 

 

 

 

 

 

「「「遅くなりましたー!」」」

 

「本当に遅いですわよ! 早く支度なさい!」

 

 少しコンビニに用事があるからと言って外へ出ていた亜利沙・琴葉・エレナの三人がバタバタと戻って来た。開演の時間が迫っているというのに、一体何処で油を売っていたのやら。

 

「軽食も用意しておいてあげますから、ちゃんと手を洗ってくるんですのよ」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「わーい! ありがとー千鶴ママー!」

 

「だからママはお止めなさい!」

 

 キャーキャー言いながら更衣室へと走っていく三人の背中を見送りつつ「全く……」と思わずため息を吐いてしまった。

 

「全く……何度言っても聞かないんですから……」

 

「いやぁ……ママでしょ」

 

「ママですね……」

 

「ちょっとぉ!?」

 

 同年代のアイドル仲間でもある友人までもそんなことを言い出し始めた。

 

「このみさんはともかく、風花も一緒になってなんですの!? 同い年捕まえてママとはどういう了見ですの!?」

 

「だって千鶴ちゃん、とても親身になって劇場のみんなのお世話を焼いてるじゃないですか。時に厳しくしたり、時に甘やかしたり」

 

「そ、それは……お世話ではなく、ただのお節介ですわ。甘やかしているのも、ただ当たりの強いことばかりを言って諍いを起こしたくないだけです」

 

「完璧にママね」

 

「これ以上ないぐらいママですね」

 

「だからぁ!」

 

 人の話を聞こうとしない二人に対する苛立ちがフツフツと湧き上がり――。

 

 

 

「着替え終わったヨー! 千鶴ママー!」

 

「ごはんー!? 何用意してくれたんだママー!?」

 

「千鶴ママー、私の髪飾り知らなーい?」

 

 

 

「……手を洗ってらっしゃい、エレナ。軽食はウチの家から持ってきたコロッケですわ、(たまき)。貴女の髪飾りなら先ほど休憩室に置いてあるのを見ましたわ、海美」

 

 

 

「やっぱりママね」

 

「紛れもなくママですね」

 

 

 

 

 

 

「俺の幼馴染が何処かでバブみを発しているような気がする」

 

「……何か言った?」

 

「いや別に。いつもの電波を受信しただけだからお気になさらず」

 

「いきなり電波とか訳の分からないことを言い出した相手に気にせずにいろと……?」

 

 早速仲良くなったアイドルファンの女の子と共に着席する。たまたま席が隣同士になったという理由で知り合ったのだが、若いながらアイドルに対して中々造詣が深い女の子である。流石に亜利沙ちゃんには及ばないが……まぁ、彼女は特例中の特例だから一緒にする方が可哀そうだろう。

 

「えっと、千鶴の出番は……おっとオープニングの後のトップバッターか」

 

 セトリ順的にもお姉さんポジションとは随分と信頼されているな、俺の幼馴染は。

 

「……ホントーにアンタ、千鶴ちゃんの幼馴染なの?」

 

「あれ、信じられてない?」

 

「『遊び人』を名乗ってアイドルの幼馴染を自称する相手を信用する要素があるとでも?」

 

「俺なら距離を置くかな」

 

「席離れてもらっていい?」

 

「仲良くしようぜ()()()()()

 

 この子も反応が楽しいなぁ。

 

 そんな会話をしていると、会場の照明が薄暗くなり始めた。

 

「……っと、始まるみたいだね」

 

「大人しくしてなさいよ?」

 

「曲によっては了承しかねるかな」

 

 ペンライトとサイリウムの準備が出来ていることを再確認する。

 

 

 

 ……さぁ、待ちに待ったライブの始まりだ。

 

 

 

 観客たちの期待を受け、今、劇場の幕が上がる。

 

 

 

 

 

 

 ――ようこそ、765プロライブ劇場へ!!

 

 

 




・どのシーンだったか探してみよう!
ヒント:「ヘーイッ!」

・転生特典の正体
第六章の良太郎の最大の特徴は『自分の正体を理解してしまった』ということ。
『知った』ではなく『理解した』というところがポイント。

・亜利沙ちゃん
ついに本編での本格登場です。
外伝で大分荒ぶっていましたが、全てなかったことになっています()

・島原エレナ
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
ブラジル生まれのラテン系少女な17歳。
ミリオン勢唯一の外人キャラ。……いや、あの金髪の子は大和撫子だから。
……あれ、もしかしてヘレンさんと関係あるのでは……?

・田中琴葉
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
ザ「委員長タイプ」な真面目系少女な18歳。
本来はエレナと共に恵美とのユニットが有名ですが、この作品では恵美が別事務所なので……。
この二人との絡みは何処かで書いてあげたい。

・遊び人のリョーさん
・貧乏旗本の三男坊
・越後のちりめん問屋
上から『遠山の金さん』『暴れん坊将軍』『水戸黄門』。

・千鶴ママ
早くもキャラ付けが決まった瞬間である。

・このみ
・風花
・海美
三人とも再登場キャラなので、詳細はそちらへ(丸投げ)

・環
本格登場のときに解説しますね(丸投げパート2)

・ニコちゃん
彼女は一体ダレナンダー?



 というわけで、良太郎が劇場のライブに初参加したところでようやく第六章本格スタートとなります! 未だにメインキャラとなる『あの子』が登場していませんが……じ、次回には出るから(震え声)

 ミリオンライブ編(兼、微ラブライブ編)張り切っていきましょー!

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