アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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前話までは序章。今回から本格始動!


Lesson233 夢が溢れる場所

 

 

 

 

 私には『夢』がある。

 

 

 

 ――分かった。それほど言うなら仕方ない。

 

 

 

 本気で挑み(かなえ)たい『夢』がある。

 

 

 

 ――ただし、条件がある。

 

 

 

 その『夢』を叶えるための時間が。

 

 

 

 ――今のうちに、楽しんで()()()おきなさい。

 

 

 

 私には、残されていない。

 

 

 

 

 

 

「……え? 今日のレッスンは休み?」

 

 放課後、私のスマホにかかってきたのはプロデューサーからのそんな受け入れ難い内容の連絡だった。

 

「もうステージまで時間がないんですよ? それなのにレッスン無しなんてどういうことなんですか?」

 

 プロデューサーに問い詰めるが、返ってきた言葉は『静香は詰め込みすぎだから少し休んだ方がいい』という納得できないものだった。

 

「……もういいです。私はこちらで自主練します」

 

 プロデューサーは未だに何か言っていたが、構わずそのまま通話を終了する。

 

「……はぁ」

 

 スマホを鞄に仕舞いながら、思わずため息を吐いてしまった。

 

 今の私に必要なのは休息などではなく、ただひたすらに練習だ。私は、自分が優秀ではないということを理解している。だからこそ人一倍練習しなければいけないというのに、一体プロデューサーは何を考えているのだろうか。

 

 プロデューサーへの愚痴を胸の内に抑え込み、自主練出来そうな場所を求めて校内を歩き回る。出来れば人目に付かない場所が良い。

 

 だが生徒が大勢残っている校内で、そんな場所を簡単に見付けることが出来るはずもなかった。教室も運動場も音楽室も多目的室も、全てダメ。

 

(……そういえば)

 

 ウチの中学校は珍しく屋上が解放されている。しかし屋上は運動部から出る洗濯物を干す場所として使用されているため、そこで部活動をする生徒はいない。

 

「………………」

 

 そこがダメだったら諦めて校外で探そう。そんなことを考えながら、私は屋上へと続く階段を昇り始めた。

 

 

 

 

 

 

「……ふんふふふーん!」

 

 イヤホンから流れてくる曲に合わせて鼻歌を歌いながタオルを物干し竿に干していく。今日はとてもいい天気だから、きっとすぐに乾くはずだ。

 

「うーん、なんかいい気分~!」

 

 快晴の空の下、心地よい風が吹く中で洗濯物を干していると、なんだかすっごい青春している気分になってくる。雑用が多い私だけど、こうしてみんなの役に立っていると考えるとそれはそれで誇らしい。それに洗濯物がキレイになるとそれだけで無条件に気分がいいしね! ……うちでのお手伝いはイマイチ気が乗らないのは、なんでだろなー?

 

 パンパンと生物部の白衣の襟を伸ばしながらハンガーにかけ、それも物干し竿にぶら下げていると、ふと視界の端で何かが動いた。それは風でなびいたシーツだった。恐らく保健室のベッドのものだと思われるそれは、ヒラヒラとまるで()のように動いていた。

 

(……幕かぁ)

 

 ヒラリと幕が上がり、ステージへ駆け上がる。そんな妄想が頭を過ったのは、きっと今もこうしてイヤホンで曲を聞いているから。なんてことのない日常風景に曲が流れていると、まるで映画のワンシーンのように思えてしまった。

 

 歌手、ダンサー、女優。自分が誰なのか、そんな具体的なことは考えない。

 

 再び風が吹き、フワリと(シーツ)が上がる。

 

 そのまま一歩前に踏み出して、私は高らかに――。

 

 

 

 ――そこには、女の子がいた。

 

 

 

「……ふぇ?」

 

 シーツの向こう側。私しかいないと思っていた屋上で、黒髪の綺麗な女の子が踊っていた。私と同じようにイヤホンを耳に付けて何か曲を聞きながら、ブレザーを脱いでブラウスの袖を捲り上げている。よく見ると額からは汗が流れているから、きっと私が気付かなかっただけで長い間踊っていたのだろう。

 

 

 

「……かっ、カッコいい!」

 

 

 

 そんな女の子の姿を見て……私は思わず叫んでしまった。

 

「っ!? えっ!?」

 

 ビクリと肩を跳ね上げされた女の子が動きを止める。慌てた様子でイヤホンを外し、キョロキョロと周りを見回し、そしてすぐに私と目が合った。

 

「み、見て……!?」

 

 カァッと顔が赤くなっていく女の子。そんな女の子に、私は手にしていたタオルを投げるように物干し竿にかけてから駆け寄った。

 

「今のなになに!? もしかしてダンス部!? カッコいい! 私もやってみたい! 入部したいかも!!」

 

「ち、違います! 私はダンス部じゃ……!」

 

「え、違うの? それじゃあアレだ、ポンポンの! ポンポン部!?」

 

「それを言うならチアリーダー! 違うけど!」

 

 違うらしい。他にダンスをする部活ってあったっけ……?

 

「というか、どうしてこんな屋上で踊ってたの?」

 

「あ、貴女こそこんなところで何やってるのよ!」

 

「洗濯だけど」

 

「……そ、そうね!」

 

 

 

「私、二年A組の春日(かすが)未来(みらい)! よろしくね!」

 

「……二年B組の最上(もがみ)静香(しずか)よ」

 

 

 

 

 

 

 誰もいないと高を括ってダンスの自主練をしていたら、バッチリ同級生に見られてしまった。正直顔から火が出るぐらい恥ずかしい。

 

 いや、これでも曲がりなりにもアイドルなのだからダンスを見られたぐらいで恥ずかしがっている場合ではないのだが……ステージ以外で、しかも制服のまま踊っているところを見られるのは妙に恥ずかしかった。

 

 そんな気恥ずかしさから話題を逸らすために「そういう春日さんは何の部活に入っているの?」と質問を投げかけたのだが。

 

「……は? テニス部と陸上部とソフトボール部を兼部?」

 

「あと生物部もだよ!」

 

 そんなふざけたような答えが返って来た。

 

「いやぁ、部活沢山だと洗濯物も多くてさー」

 

 エヘヘと何故か照れ笑いをする春日さん。なるほど、それで合点がいった。

 

「だから二年だっていうのに洗濯(こんなこと)やってるのね……」

 

 本来ならば洗濯といった雑用は新入部員である一年の仕事のはずだ。四つも掛け持ちしているせいでまともに活動に参加させてもらえないのだろう。

 

「あれ? もしかして私、呆れられてる?」

 

「あのね、春日さん。同じ二年として言わせてもらうけど、中学生活はたった三年しかない貴重な時間なのよ!? 光陰矢の如し! 常に目標を持って過ごさなきゃダメなの!」

 

 同級生に対して説教じみた言い方になってしまったが、きっとこれは()()()()に対しての言葉でもあった。

 

 三年というのは、本当にあっという間なのだ。

 

「えへへ、色々やってみたら一番やりたいことが決まるかなって思ったんだけど、どれも楽しくて気付いたら一年経っちゃったんだ」

 

「……呆れた。楽しいって、それだけで?」

 

「うん! テニス部も陸上部もソフトボール部も生物部も楽しいんだ!」

 

 ……洗濯をしながら、随分と幸せそうな顔をする子である。

 

「そういう静香ちゃんは、ダンス部楽しい?」

 

「……だからダンス部じゃないって……」

 

 ……楽しい、か。

 

 

 

 ――今のうちに、楽しんで遊んでおきなさい。

 

 

 

 私は、楽しんでいるだけじゃ、ダメなんだ。

 

「っと」

 

 不意に強い風が吹いた。干してある洗濯物が飛んでいくなんてことはなかったが、それでもシーツやタオルは大きくはためいていた。

 

「……さっきもね、風が吹いたときに洗濯物がパッと開いてね、それがまるでステージの幕みたいで私ワクワクしちゃったんだ!」

 

「………………」

 

 そんなことを楽しそうに語る春日さんの笑顔が、とても眩しくて。それはきっと、ステージの上に立っている私よりも眩しかった。

 

「……春日さん。私――」

 

 

 

 ――アイドルになりたいの。

 

 

 

「……え」

 

「春日さんに偉そうなことを言っておいて、自分だけ黙ってるのは卑怯だと思うから」

 

 違う。本当はそうじゃない。目の前の眩しい光から目を閉じようとしているだけだ。

 

「まだ駆け出しだし、歌もダンスもまだまだ未熟」

 

 同期のみんなと比べても、私のパフォーマンスは見劣りすることは自覚している。

 

「無茶な夢だって分かってる」

 

 簡単になれることだったらそもそも夢になんて見ない。

 

「それでも私は――!」

 

 

 

「あ、アイドルゥゥゥ!?」

 

 

 

「っ!?」

 

「す、すっごーい! アイドルってアイドルでしょ!? そっかー! さっき踊ってたのってアイドルだからなんだ!」

 

 何故か突然テンションが跳ね上がった春日さんが、私の両手を取ってキャッキャとはしゃぎ始める。

 

「踊るだけじゃなくて歌うんだよね!? 歌って踊るんだよね!? すごいすごい!」

 

「ちょ、ちょっと春日さん落ち着いて……」

 

「あっ! そうだサイン貰わなきゃ! えっと、何か書くもの……あ! それじゃあこの白衣にサインを……!」

 

「その白衣貴女のじゃないでしょ!? だから落ち着いてってば!」

 

「『未来ちゃんへ』って書いてね!」

 

「人の話を聞けえええぇぇぇ!」

 

 

 

「全く……」

 

「えへへ……ごめんなさい」

 

 結局自主練は進まずにそのまま帰宅することになったのだが、何故か春日さんまで付いてきた。

 

「部活はいいの?」

 

「私のお仕事はアレで終わりだから大丈夫!」

 

「部活動としては全く大丈夫じゃないわね」

 

 本人が楽しんでいるからとはいえ、本当にそれでいいのだろうか。

 

「それで静香ちゃん、さっきの話なんだけど……」

 

「……はぁぁぁっ」

 

 これ見よがしにため息を吐くが、春日さんには全く通じていなかった。

 

「……はいコレ」

 

 鞄の中に入れっぱなしになっていたチケット。『765プロライブ劇場』の定期公演、私が初めて()()()ステージに立つ公演のチケットを春日さんに渡す。

 

「これ!? これがライブ観れちゃうチケットなんだね!? ありがとう!」

 

 観に行きたいと駄々をこねて煩かったから、仕方がなく渡すことになってしまった。

 

「しかも二枚もある! よっ! 静香ちゃんの太っ腹!」

 

「なんかムカつくからその言い方ヤメテ」

 

 二枚あるのは家族の分として渡されたからだ。けれど、私の両親は()()()()()()。使うアテもなかったから、言い方は悪いが処分の方法としては丁度良かった。

 

「ただし、絶対に学校の子には内緒にしてよ。誘って一緒に来るとかもっての他だからね?」

 

「ねぇねぇサキちゃーん! 週末って予定ってアイタァァァッ!?」

 

 舌の根も乾かぬ内に……というか本当に人の話を全く聞いていないので、思わず通学鞄を春日さんの後頭部目がけてフルスイングしてしまった。

 

 ……やっぱり、早まったかもしれない。

 

 

 




・最上静香
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
ミリオンライブの信号機トリオの青色な14歳。要するに『蒼』担当。
ミリオンライブの顔の一人と言っても過言ではない。
ただし青色の呪いか、地味にポンコツ枠でもあったりする。

・春日未来
『アイドルマスターミリオンライブ』の登場キャラ。
ミリオンライブの信号機トリオの赤色な14歳。
春香卯月と並ぶ正真正銘ミリオンライブの顔。
地味にアイ転では珍しい元気溌剌天然系だったりする。

・テニス部と陸上部とソフトボール部と生物部
今回のストーリーの主軸にしているゲッサン版での設定。多すぎィ!
……アイ転的には各部活に色々なキャラが良そうですねぇ!

・「人の話を聞けえええぇぇぇ!」
良太郎がいないにも関わらず、早速アイ転の洗礼を受ける静香ちゃんの図。

・『765プロライブ劇場』
前話も含めて表記を変更しております。



 ついに登場! ミリオンライブの赤担当と青担当です! 本格的にミリオンライブっぽくなってきましたね!(小並感)

 良太郎が登場しておらず、流れがほぼゲッサン版のままですが、次回からちゃんとアイ転になりますから……!



『どうでもいい小話』

 ついに志保のフィギュアの予約も始まりましたね! これは買わねば!

 ……おっと、ちょっとヴァリサのフィギュアも欲しいぞ……!?
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