アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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久々に四話で収まらなかったゾ。


Lesson244 足の踏み出し方 4

 

 

 

 さて、時間を今日のお昼まで戻すことにしよう。

 

 

 

『良太郎、動画を撮影しましょう!』

 

 

 

「なんて?」

 

 りんの愛妻弁当に舌鼓を打っている最中にかかってきた珍しい相手からの電話に出ると、予想外すぎる第一声に思わず呆気に取られてしまった。

 

『ん? 電波が悪かったかしら? あのね、私と一緒に動画を撮影して欲しくて……』

 

「今聞きたいのは内容ではなく、そこに至るまでの経緯なんですが……」

 

『えっとね、今朝いつもみたいになのはたちと朝ご飯を食べてたらね……』

 

「そういうことでもなく」

 

 あっれー? フィアッセさんってこんなにアレな感じだったっけー?

 

 これは長くなりそうだと、廊下の壁に背中を預ける。

 

『今、歌って踊る動画をネットに公開するのが流行ってるじゃない? ほら、学校のアイドルの』

 

「スクールアイドルですね」

 

 春先から一気に流行したスクールアイドル。テレビでの活動を主体としているアイドル(おれたち)とは違い、彼ら彼女らの主な活動場所は動画サイト。なにせ自分たちで撮影してアップロードするだけで世界中の人たちに見てもらえるのだから、お手軽さが違う。

 

『前になのはも動画を公開したことがあるっていうから、私もちょっとやってみたくて』

 

「なのはちゃんが? ……あー」

 

 そういえばまだなのはちゃんがアイドルになる直前に、俺がダンス指導して『メイド小学生が踊ってみた』動画をアップしたことがあったなぁ……。

 

 勿論アイドルデビューした現在では削除済みだが、色々と勿体ないのでなのはちゃんが所属している310プロの社長さんに元データを渡してある。なかなか話が分かるお方だったので、いずれ美味しいタイミングで改めて公開してくれることだろう。

 

『それで折角だから私一人だけじゃなくて、ゲストも呼んで一緒にやろうかなって思って』

 

「そのゲストとして俺に白羽の矢が立った、ということですか」

 

『あともう一人いるから、良太郎も一緒に歌おう!』

 

「それは構いませんけど、そのもう一人というのは?」

 

 話の流れからすると、なのはちゃんかな……という俺の予想は、テンションアゲアゲでウッキウキな声色のフィアッセさんによって否定されることとなる。

 

『如月千早! 前からずっと一緒に歌いたかったの!』

 

「なるほど……なるほど?」

 

 クリステラソングスクールに紹介したりと色々と仲良くしていることは知っているが、そうか、千早ちゃんか……。

 

 つまり『フィアッセ・クリステラ』『如月千早』『周藤良太郎』の歌ってみた動画を撮影するわけだ。

 

(なにそれ怖い)

 

 オイオイ普通にステージにしようと思ったら億単位の金が動くぞ……億は億でも円じゃなくてドルだけどなHAHAHA!

 

「喜んで参加させてもらいますね」

 

 そんな面白そうなことにこの周藤良太郎が乗らないわけないでしょう!

 

『ありがとう! それで、その撮影のための練習をするつもりなんだけど……』

 

 

 

 

 

 

 『光の歌姫』フィアッセ・クリステラとの共演。それは私、如月千早という一人の歌手の悲願の一つと言っても過言ではないだろう。

 

 かつて彼女の母親が経営する『クリステラソングスクール』でレッスンを受けたこともあったが、そのときもタイミングが合わずそれは叶わなかった。

 

 それがついに実現したのだ。

 

「……ふぅ」

 

 一通りの歌い合わせを終え、一息つく。これが練習だということを理解していても、心の底から湧き上がる高揚を抑えるので必死だった。

 

「ふふ、流石『蒼の歌姫』と『王様』ね。あっという間に殆ど出来上がっちゃうんだから」

 

 スクールの生徒でもこうはいかないわよ? と微笑むフィアッセさん。

 

「それを『光の歌姫』の貴女に言われてしまうと、とても申し訳ない気持ちが……」

 

 本来『歌姫』とは彼女と彼女の母親を指す二つ名だった。それを私が名乗ることになってしまい大変恐縮してしまう。

 

「そうじゃなくて、千早ちゃんがそう呼ばれるだけの存在になったってことだよ」

 

 変装用の鼻眼鏡を付けた良太郎さんはそう言うが、そもそも『歌姫』という二つ名が付く原因になったのはこの人だったような……。

 

「しかし、英語と日本語で同時に歌うとは」

 

 ピコピコと付け髭を動かしながら良太郎さんは「面白いこと考えましたね」と譜面を軽く手の甲で叩く。

 

 今回、フィアッセさんが私たちと歌おうと用意した曲は、世界的に有名な『童謡』であった。その主旋律を私とフィアッセさんがそれぞれ日本語と英語で歌い、良太郎さんが副旋律を歌う形になっている。

 

「ごめんね、良太郎。私から誘ったのにサポート役任せちゃって」

 

「いやいや、フィアッセさんと千早ちゃん相手だったら流石に俺も霞んじゃうから、これぐらいでちょうどいいですよ」

 

 良太郎さんはそう言うものの、よくよく考えてみると『周藤良太郎』をバックに歌うという随分と贅沢なことをしているものだ。美希と真美辺りに知られたら、怒られるか羨ましがられるか。

 

「それにしても、こういう言い方もよくないとは分かっていますが……本当にここでよかったんでしょうか?」

 

「言いたいことは分かるけど、逆にこういうところにこの三人が揃ってるなんて誰も思わないじゃない?」

 

「それは……言われてみればそうですね」

 

 鼻眼鏡の縁が虹色に光り出した良太郎さんの言葉に同意する。

 

 今回、私たちはいつも765プロが使わせていただいているレッスンスタジオで練習をすることにした。ここは普通に一般の人も利用できるようなスタジオで、そこに『フィアッセ・クリステラ』と『周藤良太郎』が揃っているとは誰も思わない。

 

「私、こういうスタジオで歌うの初めてだからちょっとだけワクワクしてるの。それに秘密の特訓ってドキドキしない?」

 

 そう言いながらキョロキョロとスタジオを見渡すフィアッセさんが、少しだけ年下の女性に見えてしまって思わずクスリと笑ってしまった。

 

「さて、ちょっと一息入れましょうか?」

 

「そうですね。それじゃあ私が飲み物でも――」

 

 

 

「……いい加減に誰かツッコまんかぁぁぁい!」

 

 

 

 ――突然、良太郎さんが鼻眼鏡を床に叩きつけた。

 

「あれ、取っちゃうの? 素敵なアクセサリーだったのに」

 

「良太郎さんならそういう変装もするのかなと思ってましたが、違いましたか?」

 

「そんなわけあるかい! チクショウ、最近自分でも大人しいような気がしたからここら辺で本来の役割(ボケやく)に戻ろうとした矢先にこれだよ!」

 

「良太郎さんはいつも騒がしいと思いますが」

 

「ねぇねぇ良太郎、次は私がそれ付けてみてもいい?」

 

「そうだね人選ミスだね! 天然相手にボケようと思った俺が間違ってたよ!」

 

 良太郎さんが一体何に憤っているのか分からないが、それでも失礼なことを言われたということだけは分かった。

 

「はぁ……まぁいいや。休憩だね? 俺が飲み物買ってくるよ」

 

 無表情のまま何かを諦めた雰囲気になった良太郎さんが、自分の荷物の中から財布を取り出したので慌てて止める。

 

「良太郎さんにそんなことさせるわけには……」

 

「前にも教えたでしょ? こういう好意は喜んで受け取ればいいの。何がいい?」

 

「……お水で」

 

「ありがとう良太郎。私も同じのをお願いしようかな」

 

「了解」

 

 

 

 

 

 

 ……とまぁそんなことがあって、変装を解いたまま飲み物を買いに行って戻って来たら、何故か俺たちのレッスンルームに未来ちゃんと静香ちゃんがいたわけである。

 

 ……こんなに早く正体を明かすつもりはなかったんだけどなー。

 

「ほほほ、本物の周藤良太郎さん……なんですか……!?」

 

「……あー、うん、紛れもなく本物。正真正銘、123プロの周藤良太郎だよ」

 

「凄いよ静香ちゃん本物だよ!」

 

「おおお落ち着きなさい未来! 失礼なこと言わないように!」

 

 うん、女子中学生にワーキャー言われるのは悪くない。アイドル冥利に尽きるってものだ。

 

 というか、アレ? バレてない? いや『周藤良太郎』としてはバレてるけど……。

 

(……あ、そうか、()()()()()()()を見せてなかったな)

 

 これまでの俺のアイドル人生を支えてきた変装による認識阻害は、勿論今でも健在。当然、これまでこの二人と接してきた『遊び人のリョーさん』と、今目の前にいる『周藤良太郎』が同一人物だと認識できていないのだ。

 

「ふふふ、やっぱり私たちのときと比べると反応が違うわね」

 

「やはり知名度と人気では『周藤良太郎』には敵いませんからね」

 

 そう言って微笑むフィアッセさんと千早ちゃん。二人に買ってきた水を渡したいが、今はこの女子中学生たちの相手が先か。

 

「あの、サイン! サインいいですか!」

 

「ちょ、ちょっと未来!」

 

「あー……いいよ。その代わり、今日ここでこうやって三人で集まってたことを秘密にしてもらいたいかな」

 

 疚しいことをしていたわけではないが念のため。逆にこういうことを言うと後ろめたいようにも聞こえてしまうが、未来ちゃんならばこう言っておけばちゃんと守ってくれるだろう。

 

「分かりました! この秘密はお墓まで持っていきます!」

 

 お墓にはもうちょっと大事な思い出とかを持って行った方がいいと思う。

 

「静香ちゃんはどうする?」

 

「えっ!? ……お、お願いしますっ!」

 

 未来ちゃんと静香ちゃんがそれぞれ鞄の中から出したルーズリーフを貰い、サインペンでサラサラとサインをする。ついでに「口止めということならば」と千早ちゃんとフィアッセさんもサインを書きたし、今ここに『周藤良太郎』『如月千早』『フィアッセ・クリステラ』と二度と見ることが出来ないような超希少なサインが完成した。……これだけでも、出すとこに出したらトンデモナイ値段になりそうである。

 

「わー! これも家宝にしますね!」

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 文字通り宝物を見るように目を輝かせながら俺のサインを頭上に掲げる未来ちゃんと、先ほどからずっと恐縮しっぱなしだがそれでも抑えきれぬ喜びに表情を綻ばせる静香ちゃん。二人とも年相応な反応にお兄さんも思わずホッコリ。

 

「えっと、それで、聞きたいことがあるんですけど……」

 

「だから未来!?」

 

 うーん、ここでなお理由を尋ねるところが未来ちゃんっぽいなぁ。

 

(……どうしますか、良太郎さん、フィアッセさん)

 

(結局いつかは公開することだし、何をするかは話していいんじゃないかしら?)

 

(口止めは渡したことだし、その方向で行きますか)

 

 よし、意見は一致した。

 

「未来ちゃん、何が聞きたいのかな?」

 

 

 

「はい! あそこに落ちてる虹色に光ってる鼻眼鏡はなんですか?」

 

「「「そっち!?」」

 

 

 




・『メイド小学生が踊ってみた』動画
Lesson158参照。

・フィアッセ、動画を撮影せんとす
気軽に始めていますが、ガチで億単位案件です。

・虹色に光る鼻眼鏡(髭つき)
雑にボケようとするとこうなるという図。

・身バレセーフ
しばらく『周藤良太郎』と『遊び人のリョーさん』の二束のわらじを履くことに。



 この三人が揃えば、たかが動画でもドル箱ですよ。

 ……ちなみにフィアッセさん、収益化とか知らないらしいっすよ?(火種)

 久々に五話構成で次回に続きまーす。
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