アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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良太郎がプライベートな知り合いと会話をするとこうなる。


Lesson255 お母さんとは呼ばないで! 2

 

 

 

「……とまぁ、そういう経緯で未来ちゃんと静香ちゃんの二人と知り合いになったわけだ」

 

 以上、ページとページの間で終わった『俺が劇場アイドルと仲良くなった経緯の説明』でしたとさ。静香ちゃんの病室へ行くまでの間だから、サクッと済ませておかねば。

 

「……やっぱり、そうだったんですのね」

 

 あれ、反応が薄いな。

 

「もしかして知ってた?」

 

「琴葉から『亜利沙の知り合いで「遊び人のリョーさん」を名乗る怪しい人物がいた』という話を聞いていたので、もしかしたらとは思っていましたわ」

 

 周囲に対する注意喚起なんだろうけど、本当に不審者として定着する前にそろそろ琴葉ちゃんの誤解を解いておいた方がいいような気がする。

 

「でも確信したのは昨日。ステージに上る直前に知り合いから的確なアドバイスが来たと、未来がメッセージを見せてくれましたわ。……きっと貴方ならばそういうことをするのではないかと、思ったんですの」

 

「……まぁ、なんとなく嫌な予感がしたから、念のためにって思っただけだよ」

 

「ふふっ、照れてるんですの?」

 

「照れてねーよ」

 

 俺を照れさせたら大したもんですよ。とは言いつつ、千鶴は訳知り顔でクスクスと笑っているのを見ると本当に気恥ずかしい気分になってくる。ちげーし本当に照れてねーし。

 

「話は一期生の子たちから聞いていますわ。以前のアリーナライブのときも、他事務所だというのに貴方も裏で色々と頑張っていたのでしょう?」

 

「いや、それはウチの事務所のアイドルもお世話になったから、その縁で……」

 

「あら、理由はそれだけですの?」

 

「……まぁ、そう言い切れないこともないけど……」

 

「相変わらずちゃんと他の誰かのために頑張れているんですのね、良太郎。偉いですわよ」

 

 ヤメロヤメロ、頭撫でようとするな。

 

「自分がしてきたことをひけらかさないのは美徳ですが、謙遜のし過ぎもよくありませんわ。全く、普段からそうならばもっと見直して差し上げてもいいのに……」

 

「千鶴、さっきから気になってたんだけどブラ紐見えてる」

 

「ホンットそういうところですわあああぁぁぁ!」

 

 

 

 千鶴の見事なアッパーカットにより顎を撃ち抜かれ、騒いでいたところを看護師さんに注意されたところで閑話休題。

 

「ってて……そーゆー千鶴こそ、話は未来ちゃんや美奈子ちゃんたちから聞いてるぜ、おかーさん?」

 

「……だからその呼び方は止めなさい」

 

「自然とその呼び方が定着してる以上、これはもう言い逃れのしようもないだろ。いい加減諦めろって」

 

「同年代の子たちにお母さん呼ばわりされることを受け入れられるわけないでしょう!?」

 

「大声出すとまた怒られるぞ」

 

 どうやら千鶴は未だに『お母さん』と呼ばれることを受け入れられていないようだ。商店街では自分が『二階堂精肉店の看板娘』の他に『二代目若奥様』と呼ばれていることは知らないのだろうか。

 

「別に老けてるとかそーゆーことじゃなくて、純粋に千鶴が大人の女性として認識されてるってことなんだから、褒め言葉として受け取っておけよ」

 

「……最近、静香を含め中学生よりも下の子たちが特に頑張っていますの」

 

 いきなりどうした。

 

「一応扱いとしてはわたくしも彼女たちと同期になるのですが、そんな子たちが頑張っている姿を見ていると……」

 

「見ていると?」

 

「……こう……何かをしてあげたくなるというか……胸がキュンとするというか……」

 

「もう諦めろって」

 

 母性が溢れ出ちゃってるじゃん。

 

「そう……これは可愛がっているだけ……決して彼女たちの母親になりたいなんて、そんな欲望は存在しませんわ……」

 

 落ち着け千鶴。お前はツッコミ役としてもうちょっとまともな感じでいてくれ。

 

「その庇護欲を拗らせて変な男に捕まらないようにしろよ。……と言っても、お前はそーゆー紐になりそうな男は甘やかすんじゃなくて尻を蹴り飛ばすタイプだろうけど」

 

「……そうですわ、()()で思い出しましたわ」

 

「ん?」

 

 

 

「商店街で噂になってますわよ、『周藤良太郎の恋人』の話」

 

 

 

「……え、噂になってるの?」

 

 俺とりんの関係は一部の人間にしか知られていない事柄である。周藤家や123の人間は当然だが、プライベートでは高町家や渋谷家、業界では765プロの人ぐらいにしか知らない。それとなく恋人の存在を仄めかしてそろそろ身を固めようとしている雰囲気は醸し出しているつもりだが、それでも恋人の噂が流れるほどではないと思ったんだが……。

 

「……貴方のお母様、と言えば分かりますか?」

 

 あっ(察し)

 

「お母様の名誉のために言っておきますが、直接恋人がいるという話はしていませんわ。ですが――」

 

 

 

 ――えっとねー、リョウ君がねー。

 

 ――えへへ、まだ内緒なんだけどー。

 

 ――家族が増えるのって、嬉しいよねー。

 

 

 

「――と喜色満面に話していれば、察する人もいますわ」

 

「母さんぇ……」

 

 なにやってんだよマイリトルマミー!? そういうところも可愛いなぁ!(ヤケクソ)

 

「安心なさい。商店街で『絶対にこの噂を商店街の外に出さない』という取り決めになりましたわ」

 

「今度商店街の方に何かお礼をせねば……」

 

 何か催し事的なイベントがあれば教えてほしい。ステージでもゲスト出演でもMCのお仕事でも喜んで引き受けるから。

 

「俺の近所の自治会といい、結構俺ってば周りの人たちに支えられてるんだなぁって実感するよ……」

 

 それを実感するタイミングが恋人の存在の隠蔽だというのが若干アレだが。

 

「それで? どうなんですの? ついに身を固める覚悟を決めたんですの?」

 

 隣を歩く千鶴がグイグイと体を寄せてくる。こうやって恋愛事情に興味深々なところは女の子というよりは近所のおばちゃん的な雰囲気を感じてしまう。

 

「……まぁ、別に千鶴にだったら教えてもいいけどさ」

 

「あら、珍しく観念が早いんですのね」

 

「病室、ここだろ?」

 

 チョイチョイと目の前を指差す病室の番号は、先ほど静香ちゃんが入院している病室だと聞いていたものだった。

 

「その話はまた後でな」

 

「時間ありますの?」

 

「そんなに長くはならんよ」

 

 正確には『いくら千鶴といえど長くなるほど話してやるわけにはいかない』んだけど。

 

「仕方ありませんわね、今のところはそれで勘弁しておいて差し上げますわ」

 

「なんで俺が譲歩されてる側なの?」

 

 さて、幼馴染同士の気兼ねのない軽快なトークはここまで。

 

「……あら、変装を解きませんの?」

 

「一応『周藤良太郎』との面識はあるけど、いきなりお見舞いに来るのは流石に理由がなさすぎるだろ」

 

 それならば未来ちゃんから話を聞いて、知り合いの千鶴のお見舞いに便乗したということにした方がいいと思ったのだ。

 

「というわけで千鶴も『遊び人のリョーさん』と知り合いだったっていう設定でよろしく」

 

「設定も何も知り合いであることは間違いないじゃないですの。別にいいですけど」

 

「キャー! チヅルサンハナシガワカルイイオンナー!」

 

「裏声キモいですわよ」

 

「コッチミテー! コロッケアゲテー!」

 

「いつでも揚げたてを貴方の食卓に! 二階堂精肉店のコロッケをよろしくお願いいたしますわ!」

 

 いかん、終わらせたはずの軽快なトークが続いてしまった。

 

 これ以上は本当に遅くなってしまうので、俺は眼鏡をかけ直してから病室のドアをノックした。

 

 

 

 

 

 コンコン。

 

 個室のベッドのテーブルに教科書とノートを広げて明日の授業の予習をしていると、ドアがノックされた。先ほど千鶴さんが見舞いに来てくれるという連絡を貰ったので、恐らく彼女だろう。

 

「はい、どうぞ」

 

「失礼しますわ。静香、お加減はどうですの?」

 

「千鶴さん、ありがとうございます。すっかり良くなりました」

 

 ドアを開けて入って来たのは予想通り千鶴さんだった。しかしそんな彼女の後ろに、全く予想していない人物がいた。

 

「やぁ静香ちゃん、こんにちは」

 

「りょ、リョーさん?」

 

 それは『遊び人のリョーさん』。相変わらずニコリとも笑わないにも関わらず朗らかな声で挨拶をしながら、千鶴さんの後ろからヒラヒラと手を振っていた。

 

「ど、どうしてリョーさんが?」

 

「未来ちゃんから静香ちゃんが入院したって聞いてね。たまたま千鶴が君のお見舞いに行くって聞いたから便乗させてもらったんだよ」

 

 手をプラプラとさせながら「お見舞いの品が何もなくてゴメンね」と謝るリョーさん。いえ、それはお気持ちだけでありがたいので大丈夫ですけど……。

 

「……千鶴さんとも、知り合いだったんですか?」

 

「幼馴染でね。千鶴のお店に足繁く通って色々とサービスしてもらってる仲だよ」

 

「ちょっ、良太郎貴方なにを……!?」

 

「? ……あぁ、千鶴さんの実家の精肉店の常連客ということですか?」

 

「うん、その通り。どうした千鶴、焦った声出して」

 

 とりあえず二人の仲が悪くないということは、勢いよくリョーさんの足を踵で踏み抜いている千鶴さんの姿を見ればなんとなく分かった。

 

「お前ヒールでそれはマズいって……!」

 

「静香、このバカのことは気にしなくて結構です。コレお見舞いの品ですわ」

 

 足を抑えて蹲っているリョーさんの頭にゴチンと拳骨を落としてから千鶴さんが私に手渡して来た袋の中には、リンゴが入っていた。

 

「わっ、ありがとうございます!」

 

「わたくし行きつけの青果店のリンゴですわ。ミツがたっぷり入っていて美味しいんですのよ」

 

「美味しそう……すぐに食べられないのが残念です」

 

「そんなこともあろうかと! すぐに食べられるようにカットしてきて差し上げましたわ!」

 

 そう言って千鶴さんは持っていた手提げ鞄からタッパーを取り出した。

 

「ドラマだとお見舞いに持ってきたリンゴの皮を病室で剥く描写はよくあるけど、普通に考えてナイフ持ち込めるわけないもんな」

 

「コンプラってやつですわね」

 

「現実は無情である」

 

 そんな掛け合いをしながら千鶴さんはタッパーのリンゴを、リョーさんはお手拭きをそれぞれ準備し始めた。本当に仲が良いというか、息が合っているというか。

 

「ちなみにコレ、何処産?」

 

「青森と言っていましたわ。貴方、そういうこだわりありましたっけ?」

 

「いや、最近『山形りんごを食べるんご』っていうフレーズが頭から離れなくてな……」

 

「なんですのそれ」

 

「分からん。とりあえず頭の中をリンゴに直接手足が生えた生き物が歩き回っててな……」

 

「誰かに洗脳か何かされましたの?」

 

「そんなことはないと思うんご」

 

「語尾変わってますわよ!?」

 

「きっと千鶴も山形リンゴを食べたくなるんご」

 

「それ呪いじゃありませんの!?」

 

 とりあえずこの二人に会話をさせているといつまでも続きそうな気がしたので、一先ず私が止めることにしよう。

 

 

 




・良太郎&千鶴のトークショーin病院の廊下
こいつら病院でなにやってんだか。ただ書いてて楽しかった。

・俺を照れさせたら大したもんですよ。
流行ったの15年以上前ってマ? 今の若者は知らんのだろうな……。

・「偉いですわよ」
地味に良太郎をちゃんと褒めるキャラって少ないんだよね。

・戦犯未遂マミー
可愛い娘が増えるからね! 嬉しくなっちゃうのは仕方ないね!

・ナイフ持ち込み
漫画だとナイフで皮剥いてたけど、院内に刃物持ち込みはアウトじゃないかな。

・『山形りんごを食べるんご』
本編だとまだ本人未登場なのに、既に洗脳が始まっている模様。
ネット流行語だしね、仕方ないね。



 ただ千鶴と駄弁るだけの二話目でした。お互いに気兼ねしない相手とのトークは書いてて楽しかった。凛ちゃんに近いものを感じる。



『どうでもいい小話』

 ノ ワ ー ル フ ェ ス 限 定 S S R

〔 深 淵 な る 月 影 〕 高 垣 楓

 天井に頭を打ち付けましたが、大変素晴らしい楓さんをお迎え出来て作者は幸せです。

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