アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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……特訓と言いつつ特訓してねぇなぁ!


Lesson272 灼熱の特訓! の巻 2

 

 

 

「突然ですが、ラジオネーム『恋するウサギちゃん』もとい匿名希望の方からのお便り」

 

『本当に突然ですわね』

 

「『最近のアイ転は電話でのシーンが多いですね』……とのことです」

 

 ちゃうねんて。今までは気軽に会える子たちが主要人物だったから直接会話が出来てたけど、今はまだ未来ちゃんたちに俺が『周藤良太郎』だと明かしてないから、気軽に会うことが出来へんねん。そうなると電話かメッセージアプリかでのやり取りが増えるねん。

 

 しかしこのお便りの言うこともご尤もである。

 

「というわけで今回はただの電話ではなく、ビデオ通話でお送りしております」

 

『これも電話には変わりありませんわ』

 

 結局文字だけだし、何も変わらないけどな!

 

 

 

 そんなわけでロケバスの中からスマホを使って、765プロの事務所にいる千鶴とビデオ通話をしていた。

 

『全く、いきなり連絡をしてきたかと思えば……』

 

 画面の向こうでやれやれと首を振る千鶴。

 

『あれ? 千鶴さん、良太郎さんと通話中?』

 

「あ、春香ちゃんヤッホー」

 

 たまたま千鶴の後ろを通りがかったらしい春香ちゃんが、ひょっこりと顔を出した。

 

『お久しぶりです、良太郎さん!』

 

「本当に久しぶりだね。アレ? リボン切った?」

 

『切りませんよ!? なんですかその「髪切った?」みたいなノリは!?』

 

『私もそろそろ切った方がいいと言っているんですけど……』

 

『千早ちゃん!?』

 

 姿は見えないが、画面外には千早ちゃんもいるらしい。昔はただひたすら歌うことしか考えていなかった歌唱ジャンキーが見る影もなかった。お兄さんは嬉しいよ。

 

『それで? 今日は一体なんの用件ですの?』

 

「ちょっと千鶴の顔が見たくなってな」

 

『キモ』

 

「マジトーンヤメロォ!」

 

 冗談だって分かってても女性からそーいうこと言われるのホントにキツいんだからな!? シンプルな罵倒が一番傷付くんだからな!?

 

『さっさと用件を言いなさい。わたくしだって暇じゃありませんのよ』

 

『アレ? 千鶴さん、今日この後の予定ってありましたっけ?』

 

『………………』

 

「背後からバッサリ切られてて草」

 

『春香さん、後でちょっとだけお話がありますの。よろしくて?』

 

『えぇ!?』

 

 まぁ暇じゃないのは俺も同じなので、そろそろ本題に入ろう。

 

「とはいえそこまで真面目な話でもないんだけどな。この前、未来ちゃんが『静香ちゃんが合宿に行く』っていう旨の話をチラっとしてたから」

 

『あぁ、そのことですの。それだったらお二人の方が詳しいですわね』

 

 千鶴が首を竦めながらそう言うと、画面から千鶴がフェードアウトして代わりに春香ちゃんがフェードインしてきた。どうやらスマホを渡したらしい。

 

『そうですよ。今シアター組の一部の子たちは夏の346プロのイベントに参加するために、あの民宿で合宿中なんです』

 

「やっぱりあそこなのか」

 

 以前に765プロがアリーナライブのための合宿をした民宿『わかさ』。今回の静香ちゃんたちもそこで合宿をしているらしい。

 

『凄いですよね「わかさ」さん。良太郎さんもご存じでしょうけど、346プロの子たちも合宿に使ってましたもんね』

 

 そう、あの民宿は凛ちゃんたちシンデレラプロジェクトのメンバーも合宿に利用したちう話を聞いたから、今回もそうなのではと思って……って、え?

 

「なんで春香ちゃんがそれを知ってるの?」

 

『ふふっ、実は私と千早ちゃん、その346プロの子たちが合宿してるところに顔を出したことあるんです』

 

 どういうこと?

 

『実はですね……』

 

 

 

 

 

 

 ついに今日から本格的な合宿が始まる。昨日の夕飯は美味しい海と山の幸に舌鼓を打たせてもらったが、私たちがここに来た理由はレベルアップのためなんだ。

 

 だからこれからは、ただひたすら歌とダンスに集中する。それ以外にうつつを抜かす余裕なんて、今の私にはどこにも存在しないのだから。

 

「あっ! 見て見て静香ちゃん! 天海春香ちゃんたちのサイン!」

 

「えっ」

 

 ……ま、まぁまだ練習が始まる前だから……それに先輩のサインをしっかりと拝見しておくっていうことも、悪くはないから……うん……。

 

 今回の合宿の練習で使わせてもらう、民宿の敷地内にある体育館のような運動場。入ってすぐのところに、サイン色紙が三枚飾ってあった。翼が「こっちこっち!」と興奮気味に指さすそちらへ視線を向けると、そこには確かに春香さんたちのサインが飾ってあった。

 

「おぉ、すげぇなコレ。オールスター組全員のサイン色紙じゃん」

 

「これは二年前の合宿のときに皆さんが書いてた奴だね」

 

 驚いた様子でヒュゥッと口笛を吹くジュリアさんに、百合子さんが「懐かしいなぁ」と微笑んでいた。

 

「百合子さんと星梨花さんたちのお名前が無いようですが?」

 

「この頃はまだ私たちは、ただのアイドル候補生でしたから……」

 

 瑞希さんの疑問に応えたのは星梨花さんだった。そうか……このときはまだ、養成所の候補生なんだっけ。

 

「そしてその隣が……うっわ~! こっちもすっごいお宝!」

 

 そう言って大げさに「どっひゃ~!」とリアクションをする茜さんだけど、そのリアクションの大きさ自体は決して大げさなものではなかった。

 

 なにせ隣のサイン色紙には、あの『周藤良太郎』と『天ヶ瀬冬馬』のサインが書かれているのだから。

 

「あのときは、まだ本格的なデビュー前だった123プロの所恵美さんと佐久間まゆさんがこちらのバックダンサーとして参加してましたから、その関係で良太郎さんと冬馬さんも私たちにレッスンをしてくれたんです」

 

「なにそれすっごい! ……いやホントに凄いね!?」

 

「あんま下世話な話はしたくねぇけど、コレ一枚でどんだけの価値があるんだろーな……」

 

 茜さんとジュリアさんが冷汗を流している。いやホント、この一枚だけで車が買えるんじゃないだろうか……。

 

 ちなみにそんな色紙を前にして翼はスンッとしていた。本当に周藤良太郎のことが嫌いなのねこの子……。

 

「あの頃はまだ志保ちゃんもいて……ふふっ、私たちの中での一番の出世頭だね」

 

「流石ですよね、志保さん」

 

 こちらも少しだけ聞いたことがあったけど、123プロの北沢志保さんも元々は星梨花さんたちと同じ養成所の同期だったらしい。ホントに凄いなぁ……いや勿論今の星梨花さんたちも十分凄いんだけど。

 

「そしてその隣が……み、346プロのシンデレラプロジェクトのサイン!?」

 

「しかも全員揃ってる! えっ、この人たちもここで合宿したの!?」

 

 その隣の色紙を見て、今度は紬さんと紗代子さんが驚きの声を上げた。

 

 シンデレラプロジェクト。それは今の346プロダクションを牽引していると言っても過言ではない人気アイドルプロジェクトの名前だ。今はプロジェクト二期生が活動をしているが、このサインは一期生の人たちのものだった。

 

「もしかして、ここってアイドルの合宿の聖地だったりするんですか……?」

 

「さ、流石にそれはないんじゃ……」

 

 思わず口にしてしまった疑問は苦笑する星梨花さんによって否定されてしまったが、これだけ人気アイドルのサイン色紙が並べられているところを見ると、どうしてもそんな風に考えてしまう。

 

「つまりそんなところで合宿する私たちも、凄いアイドルになっちゃったりするんじゃないかな?」

 

 キランという擬音が聞こえてきそうなぐらいドヤ顔を浮かべる麗花さん。

 

「……するんじゃないかな、じゃないです。なるんです」

 

「おっ、静香ちゃん燃えてる~! マシュマロ焼ける?」

 

「焼けません」

 

「ダメか~」

 

 ……どこからその串に刺さったマシュマロを取り出したかというツッコミはさておき。

 

 ご利益とかそういうのがあるとは、本気で考えていない。けれど、それでも少しだけ期待してしまう自分がいる。

 

 この合宿で……掴んでみせる。

 

 

 

 このサインを書いたアイドルたちのように、高みへの道を。

 

 

 

「……そういえば、こんなお宝を前にして騒がないはずがない人がさっきから静かだね?」

 

 言われてみれば……。

 

 茜さんの言葉に、クルリと後ろを振り返る。

 

 

 

「……っ! ……っ!!」

 

「ツバサ、せめてまばたきぐらいしてくれ」

 

「そうだよ、目が乾いちゃうよ~?」

 

「それもあるけど純粋に恐い。血走った目で網膜にサインを焼き付けようとしている姿が本当に恐い。そんなに必死になるなら、写真を撮ればいいじゃないか」

 

「写真! そういう手があったか! それじゃ英玲奈! ツーショット撮ってツーショット!」

 

「……誰と?」

 

「そんなのサイン色紙様に決まってるじゃん!」

 

「サイン色紙に様付ける人初めて見た~」

 

「三人いるから写真三枚でお願いね! あぁ、髪の毛大丈夫かな~……」

 

「お前は髪の毛よりもその頭の中を心配した方がいいと思うぞ」

 

「あっ、流石にジャージ姿じゃ失礼だから着替えてくるね!」

 

「いい加減にしろっ! この脳内アイドルお花畑!」

 

「ありがとうございます!」

 

「褒めてなぁぁぁい!」

 

 

 

「「………………」」

 

 思わず茜さんと無言で視線を合わせてしまった。何故だろう、基本的に普段はシアター組のトラブルメーカー側の茜さんから同じ空気を感じる。

 

「……茜ちゃんも全力であっち側に戻るから、あとは任せた静香ちゃん!」

 

「逃がしません」

 

 

 

 

 

 

「へー、たまたま仕事で近くに来て顔を出してみたら、ちょうどシンデレラプロジェクトが合宿中だったと」

 

『そうなんです! 凄くないですか!?』

 

「確かに凄い」

 

 『アイドルはアイドルに引き寄せられる』っていうのは俺だけの話かと思ったけど、もしかしてこれはアイドルならば誰にでも当てはまる事柄なのでは? ……いっそのこと、大学の卒業論文コレで書いてみるか?

 

「となると、今度は静香ちゃんたちのところに別のアイドルが顔を出してるかもしれないな」

 

『やだなー良太郎さん、そんな偶然あるわけないじゃないですかー』

 

「だよなーそんな偶然あるわけないよなー」

 

 

 

「『アッハッハッハッハッ!』」

 

 

 

 ……ないよね?

 

 

 




・ラジオネーム『恋するウサギちゃん』
そろそろ通じなくなってくるでしょうが、作者は歌詞全部暗記してる世代なもので……。

・『最近のアイ転は電話でのシーンが多いですね』
まぁそもそもアイ転って会話劇みたいなところあるから……。

・「アレ? リボン切った?」
お昼休みはウキウキウォッチも、もう通じないんだろうなぁ……。

・茜さんから同じ空気を感じる
アイ転ではっちゃけキャラがそのまま通じると思うなよ?(謎脅し)



 こいつら特訓してねぇなぁ! 次回からはちゃんとさせるから!



『どうでもよくない小話』

 6/14は高垣楓さんの誕生日でした! おめでとうございます!

 そんな彼女のお誕生日をお祝いすべく、六年前から『かえでさんといっしょ』という作品を毎月投稿しておりますので、よろしければそちらも……(ダイマ)

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