アイドルの世界に転生したようです。   作:朝霞リョウマ

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ほぼラブライブ&デレマス回。


Lesson288 雨上がりの虹 2

 

 

 

「はふはふ……うまー」

 

 二階堂精肉店でいつもの差し入れ用コロッケを購入し、別に分けてもらったアツアツのコロッケを歩きながら食べる。

 

 むむっ!? 俺より先にコロッケ買ってた恰幅の良いおじさんも食べ歩きしている上に、なんか自販機で缶ビール買って飲んでるぞ!? まだ昼間だっていうのに、年齢的に定年退職してる感じかな? ……ちょっとそそられるけど、まだ仕事が残っているからガマンガマン。

 

 さて、コロッケに舌鼓を打ちながら先ほどのニコちゃんとの会話に想いを馳せる。

 

「年内デビュー、ときたか」

 

 それを早いとは言わない。寧ろスクールアイドルならば少しのんびりとしたスタートかもしれない。

 

 一般的にスクールアイドルのデビューというのは『既存のアイドルの曲の披露』だ。何せ学生である彼女たちには自分たちのオリジナル楽曲を制作するための知識や技能、または資金が存在しない。だからまずは()()()()()()()ことが第一目標となっているため、そのハードルは意外と低い。

 

 そして第二目標が『オリジナル楽曲の作製』となり一気にハードルが高くなる。バカッ……! 刻むだろっ ! 普通もっと…… ! 段階をっ……!  とまぁ憤りたくなるが、残念ながらこれが厳しい現実なのだ。オリジナル楽曲を持っているスクールアイドルと持っていないスクールアイドルには大きな隔たりがある。この辺の格差が少々問題視されていたりもするのだが……まぁ今は置いておこう。

 

 スクールアイドルに関するアレコレならばきっと俺よりもニコちゃんの方が詳しい筈だ。彼女は第一目標までで良しとするような殊勝な性格ではないと思うから、オリジナル楽曲を作成してもらう目途が立っているのか、それとも……。

 

(……()()()()の存在に焦った、か……)

 

 静香ちゃんが特集されていたアイドル誌にも掲載されていたので、きっとニコちゃんの目にも留まっているであろう記事を思い返す。

 

 

 

 ――これぞアイドルの新たなる可能性!

 

 ――その名は『A-RISE(アライズ)』!

 

 

 

 世間が『最上静香』というアイドルに夢中になる中で、彼女たちはひっそりと、それでいて確実にこちらの世界に頭角を現した。

 

 UTX学園所属スクールアイドル『A-RISE』。1054プロダクションと東豪寺麗華というとても大きなバックアップを受けた彼女たちは、スクールアイドルでありながら765シアター劇場にてオリジナル楽曲を披露するという鮮烈なデビューを果たした。

 

 765プロと1054プロの両者の許可を貰って見せてもらったその初ステージの映像は、『周藤良太郎』の目をもってしても唸らざるを得ないものだった。

 

「麗華の奴、大人げないことしやがって……」

 

 アライズの三人を批判するつもりは一切ない。これは紛れもなく彼女たちが自分たちの手で掴んだ揺るぐことのない実力だ。彼女たちを称賛することはあれど非難する道理は何一つとして存在しない。

 

 しかしそんな彼女たちを『スクールアイドル』として活動させるのは正直どうなんだろうと思ったり思わなかったり。

 

 今のところスクールアイドルの活動には小さなライブイベントぐらいしかないものの、今後高校野球における甲子園のような()()()()()()()が行われるようになった場合、アライズの影を踏めるスクールアイドルは現れるのだろか。

 

 ……いやまぁ、本家本元のアイドル業界で散々やらかしてる俺が言うのはアレなことぐらい理解してるけど、それでもそう思ってしまうのだ。

 

 そしてそんなアライズを見て、ニコちゃんは何を感じたのか……。

 

 ニコちゃんは生粋のアイドルオタクゆえに目が肥えている。だからアライズがアイドルとして完成されていると理解しているだろうし、そんな彼女たちと同じ土俵に立つことになるからと言って簡単に諦めるような性格はしていない。まだまだ短い付き合いだがそれぐらいは分かる。

 

 だから『私もすぐにアライズに追いついてやるわ!』なんて感じに燃えていてくれればいいのだが……。

 

「いっそのこと、俺もスクールアイドルのプロデュースでもやってみようかしら」

 

 麗華ほどのプロデュースぢからがあるとは思っていないが、それでもアイツの手がけたアイドル一強という状況というのはなんとなく悔しいというか、それはそれで麗華も不本意だろうし。

 

 

 

「えっ、なに、まさかとは思ってたけど、リョーさんそっち方面の仕事だったの?」

 

 

 

「ん?」

 

 何やら今の独り言を知り合いに聞かれたらしい。さて今回は誰とエンカウントしたのだろうか。

 

「なんだりあむちゃんか」

 

「なんだってなんだよぅ!? こっちは本物のアイドルなんだぞぉ!?」

 

 この世界ではさほど珍しくないものの目を惹くことには変わらないピンク色の頭のアイドルオタク仲間である夢見りあむちゃんだった。相変わらず背はちっこいのにおっぱいはおっきいなぁ。

 

「り、りあむさん、一般の方相手にそんな……!」

 

「また怒られますよ」

 

「別に大丈夫だって~、この人昔なじみの知り合いだし」

 

 そんな彼女と一緒に歩いている二人は……りあむちゃんとユニットを組んでる辻野あかりちゃんと砂塚あきらちゃんだな。

 

「初めまして、リョーって言います。りあむちゃんとは昔からアイドル好き仲間として付き合いがありまして、この度はりあむちゃんと同じユニットを組んでいただきありがとうございます」

 

「リョーさんはぼくのなんなのさ!?」

 

「こ、これはこれはご丁寧に……!」

 

「こちらこそ、ウチのおバカがご迷惑をかけていたようで申し訳ありません」

 

「あかりちゃん!? あきらちゃん!?」

 

 あかりちゃんとあきらちゃんもすっかりりあむちゃんの扱いが分かっている様子である。これはユニットメンバー同士仲が良さそうで何よりだ。

 

「そんなことよりリョーさん! ぼくに何か言うことあるんじゃないかな!?」

 

「はて……?」

 

 腰に手を当てて胸を張って何かを自慢したい様子のりあむちゃん。おっぱいの大きさは変わって無さそうだし……。

 

「……あっ、分かった。アレだね、先月のアレ」

 

「そうそう! それそれ! 分かってんじゃん!」

 

「トロフェスで舞台裏の画像をSNSにあげて『お前らがどうこう言ったところでここにはこれないからなwww敗北者www』っていう煽りからの炎上は最早名人芸で思わず舌を巻いたよ」

 

「そっちじゃなぁぁぁい!?」

 

 流れるように燃えるから思わず感心して『周藤良太郎』としてファボっちゃったよ。その後もう一回激しく燃え上がったのは多分俺のせいじゃない。

 

「それじゃないなら『ユニットとしての初の大きなステージ出演おめでとう』ってことぐらいしかないけど、本当にそれでいいの?」

 

「それしかないの! それだけでいいの!」

 

 それでいいらしい。

 

「ただの面倒くさい炎上系アイドルオタクが、まさか面倒くさい炎上系アイドルになるとは思わなかったよ」

 

「褒められてる気がしない……!」

 

 いやホント。たまにやらかしすぎて同じアイドルオタク仲間の亜利沙ちゃんや結華ちゃんからガチめに怒られていた子が、こうしてちゃんとしたアイドルになるとは流石に思っていなかった。

 

「改めておめでとう、りあむちゃん。少し寂しい気持ちもあるけど、君がアイドルになってくれて本当に嬉しいよ。これからも応援させてもらうね」

 

「えっ。……う、うん……あ、ありがと」

 

 素直に褒めたら褒めたで反応薄いなぁ。

 

(りあむさん、照れてるんご!)

 

(りあむさん、照れてるなぁ)

 

「ところで水着グラビアの予定は? 今年はもうない?」

 

「どうせぼくのおっぱい目当てだと思ったよぉ! このおっぱい星人!」

 

 どうしたどうした褒めるな褒めるな。

 

 ズンズンと肩を怒らせて去っていくりあむちゃんと、その後を追いかけるあかりちゃん。

 

 そしてそんな二人の後に続こうとするあきらちゃんを呼び止めた。

 

「あ、ちょっと待ってもらっていい?」

 

「あ、すみません。両親に『おっぱい星人と話してはいけません』と教育されているもので」

 

「立派なご両親だね」

 

 是非ともその教えを守って生きてもらいたいけど、今回ばかりは目を瞑ってもらいたい。

 

「りあむちゃんの昔なじみとしてデビュー祝いに食事でもって思ったけど、多分誘っても来てくれないよね?」

 

「はい」

 

 いいお返事。

 

「だから今度三人でこのお店に行ってくるといいよ。大将が知り合いで話はしておくから」

 

 先ほどのコロッケを買った際に貰ったレシートの裏に店名と住所を書いてあきらちゃんに渡す。訝し気な顔で一応受け取ってくれたあきらちゃんは、そこに書かれていた店名にギョッと目を見開いた。

 

「ちょっ、コレめっちゃ有名なお寿司屋さんじゃないデスか!? 私たち三人だけで入れるわけないじゃないデスか!?」

 

「大丈夫大丈夫。お店の人には――」

 

 あきらちゃんにだけ見えるように、伊達眼鏡を下げる。

 

「――『周藤良太郎』のツケで、って言えばいいから」

 

「っっっ!!!???」

 

 咄嗟に自分の口を抑えたあきらちゃん。存分に驚いてもらえたようでお兄さんも満足だ。

 

「納得してもらえた?」

 

「……あ、頭は全く理解が追い付いてないデスけど、と、とりあえず分かりました」

 

 本当は二万円ぐらい渡して「これで好きなもの食べてきて」って言いたいところだけど、成人男性が女子中学生にピン札握らせてる絵面が早苗ねーちゃん案件過ぎたのでこういう形にしたのだった。

 

「も、もしかして、りあむさんは知らないんデスか……?」

 

「まだ教えてないからね。いずれは教えてあげるタイミングはあると思うけど」

 

「じゃ、じゃあなんで私にだけ……?」

 

「だってほら、考えてみてよ」

 

 こんな街中でりあむちゃんに「実は俺は『周藤良太郎』なんだよ」なんて告白なんてした日にゃあ……。

 

「うら若き乙女が涙と鼻水と涎を垂れ流しながら五体投地してる姿を晒すことになるよ?」

 

「見るに堪えませんね」

 

 させたくない、というか見たくなかった。

 

「まぁ行きたくなかったら行かなくてもいいよ。その場合は、今度改めて食事に誘わせてもらうから」

 

「……『周藤良太郎』のツケで食事と、『周藤良太郎』と一緒に食事って、どっち選んでも味しなさそうデスね……」

 

 先に行ってしまったあかりちゃんが向こうから「あきらちゃーん!」と大きく手を振っている。そろそろ引き留めるのも限界かな。

 

「りあむちゃんだけじゃなくて、あきらちゃんも頑張ってね」

 

「……あ、ありがとうございます。食事、ありがたく行かせていただきます」

 

 そう言って深々と頭を下げて「失礼します」と言い残してあきらちゃんもりあむちゃんたちの後を追っていった。

 

 りあむちゃんも若干メンタルに難ありな子がだけど、良い子たちとユニット組めたようだ。これなら心配ない……かな?

 

 ……ニコちゃんもユニットメンバーに恵まれれば、きっとアライズにも心折れることはないだろうけど。

 

 

 

(……もしかして)

 

 先ほど店先でニコちゃんと会話をしているときに電柱の影からチラチラとこちらの様子を窺っていた紫髪の女の子が、ニコちゃんのユニットメンバーだったりするのかな?

 

 

 




・コロッケ買ってた恰幅の良いおじさんも食べ歩き
大槻班長をイメージした人が多そうだけど、元ネタは『野武士のグルメ』。
孤独のグルメ系の漫画だけど、お酒を飲む人にはこちらをお勧めしたい。

・『既存のアイドルの曲の披露』
流石にオリジナル楽曲前提だとハードル高すぎるでしょって思った。

・バカッ……! 刻むだろっ ! 普通もっと…… ! 段階をっ……!
前にも使ったけどトネガワのかつ丼ネタ。

・『A-RISE』デビュー
実は既にステージに立ってたんですよ()

・全国規模の大会
第一回開催は二年後だったりする。

・「なんだりあむちゃんか」
ようやくユニ募との邂逅。

・有名なお寿司屋さん
Lesson162でも利用したミーハーな大将がいるお店。

・周藤良太郎バレ
久しぶりの正体バレはあきらちゃんでした。あきらちゃんは今後リョーさんに対するりあむの発言や行動に胃を痛める羽目になります()

・紫髪の女の子
スピリチュアルやね!



 書き上がってからミリマス要素が一切ないことに気が付いたけど、些細な問題ですね()

 次回はちゃんと静香ちゃん視点のお話。

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